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リアクション
ゆる族の秘宝
八坂と傭兵達は数珠繋ぎにされ、墓地から放り出された。しばらくしたら警察が引き取りに来るだろう。
ようやく落ち着いたコタは、墓石の裏にある墓守用の階段を開けて、みんなを伴って下りていく。
その頃、南北の入口から罠を突破してほぼ同時にこの場所に来た者達は、祭壇のある神秘的な雰囲気のホールでぐるりと囲む壁画を見上げていた。
いつ描かれた壁画なのかわからないが、とても簡素な絵柄からかなり昔のものと予想できた。ところが、壁や絵の具にほとんど遜色が見られない。ここに来るまでにあった罠のように魔法がかけられているのだろうか。
守護天使、ヴァルキリー、機晶姫、ゆる族、魔女、シャンバラ人、剣の花嫁、吸血鬼、ドラゴニュート。一際大きく立派に描かれている女王。
パラミタに生きてきた種族が絵巻物のように生き生きと描かれていた。
かつての最盛期の頃のパラミタだろうか。
「もしかして、この壁画が秘宝……?」
誰かが、やや拍子抜けした声を上げた。
シャンバラ王国の再興を夢見る人には目標になる壁画かもしれないが、そうではない人は肩透かしを喰らったようなものだ。
ざわつく中、女王の絵の脇の壁がずらされ、コタ達が入ってきた。
そこにいた人の多さにコタは驚いて思わず後ずさったが、すぐに祭壇へと歩を進めた。
祭壇の真ん中にある鍵の形をしたくぼみに、コタはポシェットから取り出した鍵をはめ込んだ。チカッと光った後に鍵はロックされる。すると、次に壁の絵達がほのかに輝きを発し、ゆらりと動き出した。まるで、壁から抜け出るように。
いや、実際に絵は立体となり、集まった者達の周囲を当たり前のように歩き始めた。
楽しいおしゃべりに興じながら、噂話に盛り上がりながら。
いつの間にかホールではなく澄んだ空気の野外にいた。優しい風が髪を揺らす。
空には自由に飛ぶ有翼種族。大地には平和に生きる地上の種族。
それぞれの種族の世界を、その種族になったかのように錯覚してしまうような立体映像だった。
すべての種族の映像が終わると、それまで息遣いまで感じてしまいそうなほどだった彼らは、静かに壁画へと戻っていった。
世界が元のホールにかえった時、何かが割れるような音が小さく聞こえた。
「ゆる族の秘宝は、この昔の記憶っス。なくなってしまった世界を忘れないように、散ってしまった同胞がいつか戻ってきた時に寂しくないようにと、残されたものっス。……もう、壊れちゃったっスけど」
ええ!?
と、異口同音に上がる声。
先ほどの音は、鍵が割れてしまった音だったようだ。
「パートナーや仲間との強い絆や信頼が証明されないと抜けられない罠を、これだけの人が突破してきたことで、ここ全体の魔法が弱まったっスかねぇ。それとも、寿命かなぁ」
考え込むコタに、何かを決意した顔でクラリッサが言った。
「あなたの役目が終わったのよ。ここに来たみんなの力で、秘宝は秘宝ではなくなって、あなたはもう解放されるの」
やはり、と加わってきた男の声に、いっせいに視線が向く。
墓守用の階段を下りてきたセバスチャンだった。
彼はコタに真っ直ぐに言葉をぶつけた。
「あなたは、高崎竹ですな」
クラリッサは息を飲んだ。
逆にコタは力なく笑った。
「……うん、そう。そうなんだ。思い出したよ。俺は高崎竹だった」
死んだのはゆる族のコタの方。病死だった。
それまで、味方のふりしてコタに取り入りパートナー契約まで結んでいた竹だったが、竹に対し全く疑心を抱かず、死の間際に何度も謝りながら墓守を頼んでいったコタに、その時初めて罪悪感を覚えたのだった。
全部を話して恨み言の一つでも聞ければ良かったのだが、コタはそんな時間もなく亡くなった。
墓守を引き受けたはいいが、このままの姿でいては都合が悪いと、竹はコタにそっくりの着ぐるみを着込み、コタとして生きることにした。
この時、パートナーを失ったことによる後遺症で竹は自分のことをコタだと思い込んだ。
「クラリッサは、知ってたんだね?」
トーヤ・シルバーリーフの問いに、クラリッサは申し訳なさそうに頷いた。
「初めて会った雨の日に。あの時はまだ時々は竹だったから」
そのうち、意識がコタになっていくにつれ墓守代々の墓の前に立つと、竹の意識がひどい苦しみとなって出ようとしていたらしい。
「ダークサンみたいなのはまた出てくるよ。俺はきっとここで許されちゃいけないんだ。組織にこの秘宝の情報を売ったのは鏖殺寺院だ」
「そんな思い詰めることないんじゃないかな?」
俯く竹に陽神 光(ひのかみ・ひかる)が明るく励ます。
「さっき、君が言ったでしょ。ここの罠はパートナーや仲間との強い絆がないと突破できないって。ダークサンだろうが鏖殺寺院だろうがへっちゃらだよ」
きっぱり言い切った光の横では、興味なさそうにメニエス・レイン(めにえす・れいん)が壁画の方を向いて立っている。
改めて周りを見渡したコタは、すっかり力が抜けたように肩を落とした。
「目的は違っても、パートナーや仲間を思う気持ちに違いはなかったってことね。竹、もうこれは脱いで少し休みましょう。それから、何を始めるか決めよう」
クラリッサの言葉に、それがいいよ、と頷く光。
竹の背に回り、クラリッサはファスナーに手をかけた。
みんなが地上へ戻る時、最後まで残っていた時雨塚 亜鷺と蓮池 みとらが壁画の一部を何とかして剥ぎ取って持ち帰ろうとし、目ざとく見つけたアリシア・スタークにガミガミと怒られたのはほんのおまけである。
◆
本当に墓地から人の気配が消えた後、今回の事の顛末を風の噂に聞いた
神和 綺人(かんなぎ・あやと)は一人、墓地を訪れていた。
南北の開かれた入口はそのままに、けれど墓守の入口は閉ざされて。
しかし、この先地下を目指しても何も見つからないだろう。壁画くらいだ。その上、秘宝の寿命が切れた今、その壁画も急速に劣化する可能性がある。
「静かに眠っていたあなた達を、生者達が荒らしてごめんね。せめて、お詫びになればいいんだけど……」
綺人の心からの慰めの込められた鎮魂歌が、シャンバラ大荒野の乾いた風に乗って墓地に流れた。
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担当マスターより
▼担当マスター
冷泉みのり
▼マスターコメント
はじめまして。
当初心者シナリオを担当いたしました冷泉みのりです。
今回はご参加くださりありがとうございます。
初心者の方のご参加ということで、どのようなアクションが来るのかと楽しみとドキドキと混ざった気持ちで待っていましたが、皆さん行動が具体的で私の方が助けられてしまいました。
こちらから言うことは特にない状態です。
なので、今後のことについて少し。
今回は最初のアクション投稿ということで、公式ページなどの投稿アドバイスをじっくり読んでキャラクターの行動を考えたと思うのですが、これからいろいろなシナリオに参加していくうちに慣れてしまい、うっかりダブルアクション……ということが起こりやすくなってしまいます。
そうなると、せっかくあれこれ考えて投稿したアクションがほとんど不採用だった、という不本意な結果になってしまいます。
時には最初の投稿時の慎重さを思い出し、悔いのないアクションを投稿してください。
また、良いアクションが浮かばないなどの時は、交流掲示板などで誰かと交流を持つことでひらめくこともありますし、何気ない雑談での繋がりが一緒に参加したシナリオで思わぬアクションに発展することもあると思います。
思い切って発言してみてください。
それでは、これからの皆さんのご活躍を祈っています。