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墓地に隠された秘宝

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墓地に隠された秘宝

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戦え! 力尽きても


 広い墓地の北側に現れた、秘宝への通路を駿河 北斗(するが・ほくと)は一直線に駆けていた。
 彼にとって目標は宝を守っているドラゴンだ。秘宝は結果にすぎない。
 北斗の後を追うベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)は、自分の忠告をさっぱり聞かないパートナーにもはや何を言う気も起きない。見捨てたわけではなく、北斗の思う通りにやってみよ、という見守る気持ちになっている。
 むき出しの土壁、何らかの力で発光しているらしい照明。それでも薄暗い通路を走り抜けた先に、木の扉が待っていた。
 植物をモチーフにした繊細な彫刻がなされた扉は、見るからに時代を感じさせた。扉に過ぎないのに風格がある。
 北斗と手を組み、追いついた仲間達も重々しい雰囲気の扉に自然と足が止まる。
「……やるだけやりなさい。……屍は拾ってあげる」
 思いやりなのか見放しているのか判断に困る声をかけられ、北斗は微妙な視線をベルフェンティータに向けたが、おかげで不自然な気負いは抜けた。
「よし、行くぜ!」
 北斗は観音開きの扉を押し開けた。

 広い、というのはわざわざ壁に沿って歩かなくてもわかる。天井が高いことも、見ればわかる。
 ホールの中央にドーンと構えているドラゴンのおかげで。地球人なら「ティラノサウルスだ!」と思ったかもしれない。
 たとえここで引き返しても誰も文句は言わないだろう。
 だが北斗は挑戦的な笑みを浮かべると、ドラゴンの前に躍り出た。
「俺は駿河北斗、最強を目指す魔法剣士だ。ドージェはドラゴンに勝ったことがある。俺もあんたに勝ちてぇ! そのためだけに、ここに来た!」
 名乗りを上げ、両手剣の光条兵器を高く構える。
 ドラゴンは応じるように金色の目を細めた。
 ひるまず突っ込んでいく北斗の姿に、ベルフェンティータは本気で屍を拾う覚悟をしなければならないかもしれないと思った。
 さすがドラゴンの鱗と言うべきか。真っ直ぐ突き出された北斗の剣は、甲高い音と共に弾かれた。
「くっ……」
 反動で手から飛ばされそうになる剣をどうにか堪える。肘のあたりまでしびれが走った。
 北斗の視界の端に、振り上げられた大きく鋭い爪が映った。
 間合いを計り、壁際へ寄り身を伏せてそれをやり過ごす。空を切る音に鳥肌が立つ。
 と、そこに電子音が加わってきた。カルスノウトを掲げたドット君(どっと・くん)だ。
「プルルルルル! (かせいするぞ まほうけんし!)」
 ドット君は懐かしいRPGゲームの『ゆうしゃ』の格好をしていた。会話時は硬い電子音と同時にウィンドウが開いて文字が表示される。
 その名の通り荒いドット絵と文字がひらがなであることから、あまり性能は良くないのではと周囲は不安になってしまった。何より見た目が弱そうだ。
「プルルルルルル……(オレはゆうしゃ「ああああ」! ドラゴンよ! オレとしょうぶしろ!)」
 カルスノウトを振りかざし、走るドット君。
 言いたいことはいろいろあったが、それらを全て飲み込んで北斗もドット君を追った。
 ドラゴンの方が視点が高いので不利なところは多いが、集中力を乱すことはできるはずだ。そうすれば隙もできる。
 奮闘する二人を、ホールを囲む円柱の陰から見守りながら嘉川 炬(かがわ・かがり)はドラゴンの弱点を探していた。
「むむ……見つかる前にドット君がやられそうです」
 セリフ用ウィンドウの枠が黄色になっている。
 北斗の方も擦り傷が増えていっていた。
「鱗の皮膚がダメなら、やはり目……でしょうか。うぅ〜ん」
 十メートルは上にありそうな頭部の目に、どうやって攻撃をしたら良いのか。しかも的は動くのだ。
 炬が目を皿のようにしてドラゴンを凝視していた頃、少し離れたところで並木 浪堵(なみき・ろうど)も頭を悩ませていた。
「怪しい……」
「何がですか?」
 腕組みして考え込む浪堵に、パートナーのメグ・コリンズ(めぐ・こりんず)がアサルトカービンを隙なく構えたまま聞き返した。
「入口を見たな? ドラゴンが入れる大きさだと思うか?」
「……あの木の扉は入れそうもないですね」
 メグの返答に浪堵は満足そうに頷く。
「でも、ドラゴン用の秘密の通路があるのかもしれませんよ」
「……ふむ」
「でも、私は浪堵さんを信じてますから、とことん追求してくださいね」
 浪堵は、ドラゴンは本物ではないと考えていた。幻かゴーレムか、あるいはこのホールに特殊が魔法か仕掛けが施されていて、ドラゴンがいると思えばドラゴンが見えるようになっているとか。
 試しに他のモンスターを想像してみるために目を閉じた時だ。
 メグに鋭く名前を呼ばれて突き飛ばされた。さらに誰かに強く腕を引かれる。
 円柱の後ろだと位置を認識したと同時に、ぶわっと熱気に襲われた。
 噂で聞いていたドラゴンの火炎放射だと、容易に想像ができる。
「危ないところでしたね。大丈夫ですか?」
 優しく聞いてきたのは上品な感じのする西条 詩織(さいじょう・しおり)だった。
 ハッとしてメグを探せば、五メートルほど離れた円柱を楯に炬と身を寄せ合って炎をしのいでいた。
 そのことに安堵して、ようやく浪堵は詩織に礼を言った。
「でも、考え事に熱中しすぎていては危険ですわよ」
 と、言われて浪堵は自分の考えを話した。
 終わる頃にはメグと炬がやって来ていた。
「あっははは、楽しいですね〜。リアルでこんな経験できる日が来るなんて」
「笑い事か? あの棺桶、あんたのパートナーじゃないのか?」
「ドット君、やられちゃったんですか〜? 弱いですね〜」
 あっけらかんとした炬の態度に、ドラゴンのわりと近くで戦闘不能を意味する棺桶表示に変わったドット君に、そっと同情する浪堵だった。
 それから四人は、弱点探しと正体破りのためあらゆる角度からドラゴンを観察することにした。

 火炎放射により軽い火傷を負った岩河 麻紀(いわかわ・まき)は赤くなってヒリヒリする剥き出しの素肌の痛みをあえて無視し、【ドラゴンスレイヤー】チームの態勢を立て直すことを優先した。
「わたくしがドラゴンの注意を引いたところで、広範囲な火炎放射をされてはどうしようもないわね……弱点や幻説の証明がされるまで放っておいてくれるとは思えないし」
「麻紀、どうしますの?」
 パートナーのアディアノ・セレマ(あでぃあの・せれま)がドラゴンを警戒しながら寄ってきた。
 不安そうなアディアノに麻紀は強気な笑顔を見せる。
「大丈夫よ。みんながいるんだから、あんなちょっと大きいくらいの爬虫類なんてチョイチョイよ」
「そうですわねっ」
 勇気付けられたアディアノに明るさが戻った。
「手伝えることがあれば、おっしゃって下さい。考えがあるのでしょう?」
 振り回された丸太のようなドラゴンの尻尾を回避した先にいた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)に問われた麻紀は、頷いて作戦を話した。
 ドラゴンを何とかして壁際に誘導し、サイドを麻紀とアディアノで挟み、正面からの攻撃に北斗達を置く。
「えー、麻紀と一緒がいいですわ」
 唇を尖らせたアディアノだったが、ふと見た麻紀の表情に瞬時にして賛成を示した。
 いつも通りの明るい表情なのに、目だけが氷のようだった。
 方針がまとまったところで麻紀は瞬き一つで氷の視線を消し去り、作戦の実行に移るべくアディアノと遙遠に行くように言い、自らも駆け出した。