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狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

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狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

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 ハロウィンから数日が過ぎ、百合園女学院も一応の平穏を取り戻していた。
 正門前にて四天王の強襲を受け、深い傷を負った白百合団員達もほぼ復学し、百合園の生徒達や校長から深い感謝と労いの言葉を受けていた。
 ただ、白百合団の副団長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)だけはまだ、寮の自室で療養生活を送っていた。
「ったく……熱下がっていませんのに、素振りを始めるなんて。治す気あるのかしら?」
 百合園の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は呆れ顔だ。
 見舞いに部屋を訪れた亜璃珠は汗まみれの優子の姿を見た。
 汗をかけば熱は下がるはずだ! などと言い素振りを続けようとする彼女を何とか説き伏せ、寧ろ力ずくで引き摺って寝室まで連れてきたのだ。
「パラ実生はどうした? ヴァイシャリーに被害は出てないか?」
「大人しくしているわ。今のところは。……焦る気持ちもわからなくはないけれど。力だけ強くなっても、パラ実生を纏めることはできないわよ」
「う……」
 横になった状態で、濡れタオルで汗を拭きながら優子はうめき声を上げる。
「その手の知識なら、私の方があるでしょうし、サポートしますから」
「頼む……というか、全て任せたい」
 らしくない弱々しい言葉に、亜璃珠は苦笑する。
 四天王になった……なってしまったことは、優子にとって相当、衝撃的だったらしい。
「そ・れ・か・ら。私がパラ実送り候補になったって話だけど」
 悪戯気にそう言葉をかけると、優子は熱で赤く染まっている顔を亜璃珠に向けた。
 気だるげな彼女の表情を満足げに眺めがなら、亜璃珠は目を細めて微笑む。
「原因は暴力沙汰じゃなくて所謂『えっちなこと』なの」
「……は? 寮に彼氏でも連れ込んだのか?」
「いいえ、公園で可愛い百合園の姉妹とペットとね」
 くすりと笑みを浮かべて、亜璃珠は身を乗り出し優子の枕の隣に手をついた。
「……折角の機会だし、してみましょうか?」
 亜璃珠の巻かれた黒髪が、優子の頬に落ちた――。
「…………………………………」
 優子は目を見開いたまま、絶句した。
 それはもう、信じられないものでも見ているかのように。
 ぷっと、亜璃珠は軽く吹き出した。
「冗談よ。こいうのがどこまで通じるか、試してみたかっただけ。全く通じないようね」
 亜璃珠は無防備な優子の額に手を伸ばして、髪を払うとそっと唇を寄せて口づけた。
「元気付けのアリスキッスよ」
「……」
 優子は軽く眉を寄せた後、苦笑とも言える弱い笑みを見せた。
 それから大きく息をつく。
「亜璃珠、冗談ならいいが、で、キミがどんな趣味を持っていたとしても、まあ……いいとしてだ。ただ、見境なくそういうことをするなよ? 本当にお前がパラ実送りになったら、団も私も困る。それに、素行の面で大きな問題があると、団としての重要な任を任せることが出来ない。団活動時の白百合団は百合園の顔だ」
 苦しげな息の下での言葉に、亜璃珠も軽く息をついた。
「あら、私が必要なら百合園の方が変わってくれてもよろしくってよ?」
 強気な言葉に、今度は優子が軽く吹き出した。
 と、その時。
 コンコン
 部屋のドアが叩かれた。
 起き上がろうとする優子を制して、亜璃珠がドアへと向かった。
「あ、あの副団長のお見舞いに伺いました」
 訪れたのは白百合団の見習いに降格となった神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)セント ジョルジュ(せんと・じょるじゅ)の3人だった。
 亜璃珠に通されて部屋に入り、寝室へ3人が顔を出した時には、優子は半身をベッドから起こしていた。
「ご気分はどうですか? あ、これお見舞いです……」
 有栖は果物が沢山はいった籠を優子に差し出した。
「ありがとう。気を使わせてすまない」
 優子は籠を受け取ると、サイドテーブルの上に置いた。
「先日は、申し訳ありませんでした。命令違反をしてしまって……」
「申し訳ありません」
「すみませんでした」
 有栖、ミルフィ、ジョルジュが頭を深く下げた。
「……結局、戦いで決着をつけることになってしまったしな。キミ達の気持ちもよくわかる」
 優子の静かな言葉に3人は顔を上げた。
「ただ、誰かの命を預かるような戦闘において、指揮官の命令は絶対なんだ。その理由は、パラ実と教導団の戦いからも学べると思う。私が指揮する隊において、私の判断が間違っていると感じた時には、まず私に意見をしてほしい。様々な状況を一番把握しているのは、指揮官である私だからだ。先日のケースのように、指揮官自身が前に出ることは稀なケースだしな」
「はい」
 と、3人は同時に返事をした。
 冷静になった今なら、同じ間違いはしないだろう。
「でも、キミは昔の私に少し似ているよ、神楽坂有栖。そうだね……5年前の私なら、単身河川敷に向かって、『百合園に行くというのなら、私を倒してから行け!』などと、体を張っていたかもしれない。そんな私が今では副団長を任されている。だから白百合団員としての誇りを持ち、友を守りたいという強い意志を持って戦うキミのような子は、団を率いる素質があるのかもしれないと、私は思ってる。期待してるよ、3人共」
 穏やかな優子の言葉に、有栖の体が震えた。
「はい」
 返事をする声も震えてしまったかもしれない。
「あ、あのっ」
 対照的に、ミルフィは嬉しくなって、持って来た土鍋を差し出した。
「わたくし、副団長様の為におかゆを作って持ってきて参りましたの……♪」
 はっ。と有栖は我に返る。
 土鍋を持っていたのは知っていた。だけど中身が入っていることは知らなかった。
「ミ、ミルフィっ!? お、お願いだからそれを副団長に食べさせるのだけはやめて〜っ」
 慌てて止めに入る有栖。
「……どうされたのです? 姫……?」
「ジョルジュ様もミルフィを止めて〜っ。副団長が大変な事になっちゃう〜!」
「えっ……!?」
 何事かさっぱりわからないものの、必死な有栖の様子に、ジョルジュもミルフィを止めようと腕を掴んだ。
「粥だろ? 大変なこともなにもないだろ。亜璃珠のお陰で食欲も出てきたし、果物と一緒に戴くことにするよ」
「はい、副団長様! 蓮華です。お嬢様達の分もちゃんと後で作りますから」
 ミルフィは2人の制止を掻い潜り、優子に土鍋と蓮華を手渡したのだった。

 ――。
 その後、見習いの3人は調理実習の補習を強く命じられた。
 白百合団が、被災地の炊き出しで死者を出すわけにはいかない!! ……と。