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ゆきやこんこんはいきんぐ

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ゆきやこんこんはいきんぐ

リアクション

○12月16日
今日でちょうど行程のまんなか。いちにち自由行動です。だれか面白そうなことしてるひと、いないかな。
―――――――――
 部隊の一角にワイワイ集合している連中がいる。
「ヒャッハーッ! 武術部のヤツらは全員こっちの中隊に配属されてるみたいだな―?」
 イルミンスール魔法学校武術部部長、マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)が弾けるように叫ぶ。
「おぉーーーっ!」
 部員たちが応じる。吐く息白い早朝から中隊でいちばん元気な集団かも知れない。
「とりあえずは訓練だぜ! 山ン中来たし気合い入るだろ? 新人部員も増えたことだし、いっちょ張り切っていくぜ! なぁ!」
 マイトが新米部員、赤羽 美央(あかばね・みお)の肩をばぁんと乱暴にたたく。
「は、は、は、はいっ!」
 普段は冷静な美央が珍しくあたふたする。
「よーーしっ。じゃーまず腕立て伏せ一万回からだぜっ!」
「部長〜っ」
 ひょっとこぐちの女の子がハイトに話しかける。
「どーしたメトロ?」
「あたしは温泉掘りに行くじぇ」
 メトロ・ファウジセン(めとろ・ふぁうじせん)はスコップ片手にそう言った。
「温泉かぁ。掘れるのか?」
「掘れるー。ココ火山だもん」
「よっしゃー。全員聞けーっ。俺たち武術部で温泉掘りに行かねえか?」
「おぉーーーっ!」
 再びわき上がる部員たち。だがそこへ、
「ちょーっとまって。あたしを置いてどこへ行くつもり?」
 一同が振り返るとそこには教導団エンジニアの少女が立っていた。
「教導団第四師団温泉開発責任者の、このプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)を差し置いてね」
「左様。温泉の道においてプリモ殿の右に出るものはおるまい」
 側に控えるパートナーの英霊、宇喜多 直家(うきた・なおいえ)が言葉を続ける。
「ヒャッハー! なんかスゲーのが出てきたな」
「えっへん。あたしがいれば完璧だよっ。まあみててね」
 プリモは荷物の中からL字型に折れ曲がった2本の鉄の棒を取り出し、平行に保持したままてくてくと歩いて行く。
 部員もついて行く。
 やがて2本の針金がびよんと開く。
「ここ」
 部員たちがガシガシ掘る。
 出てきたのは登山者が捨てた空き缶だった。
 またてくてく歩く。
 びよんと開く。
「ここ」
 ガシガシ掘る。
 遭難した人の骨だった。
「硫黄の匂いのしないところでいくら掘っても無駄だじぇ」
 メトロの言うとおりである。
 かくしてプリモとメトロと武術部部員たちは山奥まで分け入り、卵の腐ったような匂いのするところまでやってきた。ここでは地熱が高いせいか、雪が溶け、溶岩の岩盤に清流が流れている。
「ここらへんかなー」
 と言うと、メトロは一歩下がっていつの間にか持参したガスマスクを着面する。
 プリモもいつの間にか持参した耐熱防護服とガスマスクを装着し、
「そーそー、掘った瞬間熱水が噴き出したり、硫化水素とかの致死性有毒ガスがでたりするから気をつけてね」
 と、さらっと告げた。
「ひゃっはぁ……きいてねーぜぇ……」
 ――数刻後。
 命がけの武術部員たちの奮闘により、温泉が開発された。
 中隊長はその夜、男女時間分けして入浴を許可した。
 だが温泉に他の角度から命を賭ける男がいた。椿 薫(つばき・かおる)だ。
「敵襲――ッ!」
「キャ――ッ!」
闇夜の温泉に照明弾が打ち上げられ、マグネシウム特有の冷たい光芒が湯船の少女たちと『侵入者』を照らし出す。次の瞬間、そのターゲット周囲にありとあらゆる銃砲が集中射撃される。機銃の曳光弾が十字砲火を描き、榴弾が炸裂する。
 やがて照明弾が地に落ち、闇が再び訪れる。
 だが、ヤツは死ななかった。
「その程度で拙者を仕留められるとは思うなでござるよ。ニンニン」
 薫が流した血は鼻から流した2本の赤い筋だけだった。
―――――――――
今夜は温泉に入れました。とちゅう、へんな人がのぞきに来たみたい。思わず機関銃撃っちゃったけど、だいじょうぶかな。怪我してないといいけど……。


 そのころ。
 シャンバラ教導団校内のラウンジで、備品管理部門担当教官と軍需企業の開発部長が声を潜めながら密談していた。
「しかし、本当によかったんですか? 試作品の実験に生徒たちを使って……」
「問題無い。あの山は比較的安全な山だ。と、言うよりむしろ多少山が荒れた方がお宅さんにとっては好都合なんだろう?」
「……といいますと」
「A中隊に試作品を、B中隊には『本物』と称して従来品をわざと配った。A中隊が哀れにも『事故死』せずに還ってこれれば、新製品のできあがりってわけだ」
「いや、私どもはそこまでは……」
「見え透いた偽善はたくさんだ、死の商人さんよ。俺らは同じ穴の狢なんだよ。その分俺もいい思いをさせてもらってるんだ、違うか?」