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リアクション
賑やかになり始めた湖畔の上空に、空を飛ぶ影二つ。
紙の鷹と、箒に乗った鷹野 栗(たかの・まろん)だ。
「……魔物はどこでしょう」
紙鷹の行方よりも眼下の湖畔に意識を集中させ、視線を走らせる。
その視界の端に、女性の集団が映った。
「着いたよ、みんなっ!」
「ついたよ、みんなっ!」
「波音ちゃん、ララちゃん、あまりはしゃぎ過ぎないでくださいね」
クラーク 波音(くらーく・はのん)とララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が拳を掲げる姿に、アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)が苦笑した。
「お年玉……皆で得られるといいわね」
「そうだな」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)、カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)が湖を見渡した。
「えぇと、今はここで、湖がですね……」
「宇佐木、それ逆だぜ」
大きなリュックサックを背負い、シャンバラの地図を持った宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)が景色と地図を見比べる。
彼女の様子にセイ・グランドル(せい・ぐらんどる)がため息をついた。
わいわいと騒がしい女性達を、やや高い位置から赤い瞳が見渡す。
「皆、準備は良いかのう?」
アルカリリィ・クリムゾンスピカ(あるかりりぃ・くりむぞんすぴか)が呼びかける。
【湖畔の乙女達】のメンバーは、一斉に彼女に視線を向け、それぞれ頷く。
「では湖畔についたことじゃし、紙ペットを接触させるかのう」
その言葉に応じ、メンバーは紙ペットを解き放つ。
宇都宮祥子の紙燕、アルカリリィ・クリムゾンスピカの紙蝙蝠が遊ぶように宙を舞う。
クラーク波音の紙兎、カリン・シェフィールドの紙虎、宇佐木みらびの紙兎も、戯れる。
「……エリザベートちゃん、嬉しそうでしたねぇ〜」
輪に加わる紙猫の様子を見守りながら、神代 明日香(かみしろ・あすか)が呟いた。
数時間前、イルミンスール魔法学校の校長室を訪ねたときのことが、彼女の脳裏に浮かぶ。
「あなたもお土産を持ってきてくれたですかぁ〜?」
挨拶を交わした後エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は瞳を輝かせて神代明日香を見た。
「もちろんですぅ〜。おやつにどうぞですぅ〜」
差し出したのは、ふわふわのシフォンケーキ。皿に乗せ、生クリームを添えてある。
「おいしそうですぅ〜」
「紅茶もあるですよぅ〜」
メイド服姿の神代明日香は、手際よく紅茶を用意する。エリザベート・ワルプルギスは頷いて、ケーキを一口頬張る。
「うぅ〜ん、幸せですぅ〜」
ケーキの余韻に浸りながら、紅茶を一口すする幼い校長の姿を、神代明日香はにこやかに見守ったのだった。
今はエリザベート・ワルプルギスが作ってくれた紙猫を見守っている。それは【湖畔の乙女達】のメンバーも同じだ。
紙ペット同士が触れ合い、光が溢れた。紙ペット達を包んだその光は大きく広がり、分裂して流れ星のように降り注ぐ。
「すごいねっ!」
ララ・シュピリが瞳を輝かせる。光を浴びた紙ペット達は飛んだり跳ねたりして、宝を探す気に充ち溢れているようだ。
「宝探し、開始じゃ!」
アルカリリィ・クリムゾンスピカの呼び掛けに応じ、メンバーはそれぞれ動き始めた。
「んっふっふ〜、どんどん見つけちゃうよ!」
「あっ、うさぎもご一緒しますっ!」
クラーク波音と宇佐木みらびが共に紙兎を追う。
「宇佐木、荷物は置けよ。転ぶぜ」
胡坐をかき、仏頂面のまま周囲を警戒するセイ・グランドルが注意する。
「はわっ!」
注意むなしく、宇佐木みらびは大きなリュックサックに引っ張られるようにして転んだ。
「大丈夫? 気をつけてね」
優しく微笑みかけた宇都宮祥子は、紙燕を見上げる。紙燕の傍らには紙蝙蝠が飛び、アルカリリィ・クリムゾンスピカも飛んでいた。
魔具の羽根マントを使用し、なるべく湖に寄らないようにしながら飛んでいる。
「波音ちゃん、私は魔物に備えますね」
クラーク波音の背中に告げ、アンナ・アシュボードが周囲に注意を向ける。
「ララは怪しいところ探すね!」
ララ・シュピリはそう言って、メンバーのやや先へと駆け出した。
「さぁて、探すとするか。行くよ!」
連れてきていたパラミタ虎に乗り、カリン・シェフィールドは紙リスをパラミタ虎の頭に置いた。
紙リスは背筋をぴんと伸ばして宝の在り処を探っている。
「こっちはどうだ?」
問いかけてパラミタ虎を走らせる。ペットの狼と毒蛇もそれに続いた。
「危険は……まだないようですぅ〜」
神代明日香は【殺気看破】に何も反応しないことを確かめ、メンバーに続いた。
「あんまり離れるなよ」
セイ・グランドルはどんどん進む女性達を慌てて追いかけた。
「あちらに女の子がたくさん集まっているようですわね」
湖畔にやってきた佐倉 留美(さくら・るみ)は、きらりと黒い瞳を輝かせた。
「留美、わし達は宝探しに来ているということを忘れては駄目じゃ」
紙ドラゴンを金色の頭の上に乗せたラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)が、本題を忘れてしまいそうなパートナーに語りかけた。
「もちろん、わかっていますわ。行きましょう、紙ドラゴン!」
頷いた佐倉留美は、紙ドラゴンに呼びかけて駆けだした。
「きっと、このあたりにありますわ! あっ、それともあそこに……」
木々の隙間、茂み、湖のごく近く。あれこれと思い立っては、紙ドラゴンと一緒に走りだした。
豊かな胸元は弾むように揺れ、マイクロミニのスカートが、動くたびに翻る。
「留美、そんなに激しく動き回ったら、見えてはいけないものまで見えてしまうではないか〜!」
スカートがめくれる寸前、ラムール・エリスティアは駆け寄ってスカートを押さえた。太股のその上が姿を現す寸前だった。
「はぁ……留美、頼むから穿いてくれないかのぅ……」
「ふぅ、動きまわった甲斐がありましたわ。ほら」
ラムール・エリスティアの忠告を無視した佐倉留美は、一点を指差す。
示された先で、紙ドラゴンがくるくると円を描くように飛んでいた。
「ここを掘れということじゃな」
「そうに違いありませんわ」
「留美、その格好で土を掘るのはやめるのじゃ! わしがやる!」
佐倉留美の手に渡ったスコップを慌ててひったくって、ラムール・エリスティアは宝箱を掘り出した。
「開けてみますわ」
佐倉留美が宝箱を開く。そこには……。
「……スカート?」
子供サイズのフリルのスカートが一枚、入っていた。
「静かな湖畔の森の影から♪ お宝あるよと紙ドラ鳴く〜♪キュイ〜♪ キュイ〜♪ キュイッキュイッキュイ〜♪ っと」
歌いながら紙ドラゴンを連れ、湖畔を歩く七枷 陣(ななかせ・じん)。
その背後に、同じく紙ドラゴンを連れた小尾田 真奈(おびた・まな)と仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)が続く。
七枷陣は紙ドラゴンを見つめる。紙ドラゴンは羽ばたいて進むだけで、鳴くこともない。
「そんなすぐに見つかるわけねーよなぁ」
「当たり前だ。目の前に宝箱が散乱していたら催し全否定になるだろう阿呆が」
七枷陣がぽつりと呟いた言葉に、仲瀬磁楠は冷たく指摘した。
「んな事わかってるっつーの! 軽いぼやきにいちいち突っかかんな、氏ね!」
「ハッ、まさか、わかっていたとはな。小僧のような単細胞には、複雑なことは考えられないと思っていたが」
「誰が単細胞だ、誰が!」
「まぁまぁ、ご主人様も磁楠様もそういがみ合わないでください」
にらみ合いを続ける二人に、小尾田真奈が苦笑する。仲瀬磁楠は舌打ちして引き下がった。
「……しかし、手がかりが紙ドラゴンだけでは心許ないな。どれほど時間が掛かるか……」
「見つからないからこその宝探しです。ね、ご主人様?」
「そうそう、その通り」
腕を組んで顔をしかめる仲瀬磁楠に、小尾田真奈が微笑みかけた。七枷陣は激しく首肯する。しかし仲瀬磁楠の表情は変わらずだ。
「だが、早く見つけるに越したことはないだろう」
「焦らずとも、そのうち見つかると思います」
笑顔で言う小尾田真奈と共に、七枷陣が悪戯っぽく笑った。
「焦りすぎだ、磁楠。オレみたいに余裕を持てって」
「お前のどこに余裕があるというのだ? いつも助けを必要とするのは誰だ?」
「いつもじゃない、たまたまだ、たまたま!」
ぎゃあぎゃあと、言い合いが加速する。
「本当に、どうしていつもいつも喧嘩ばかりするのでしょうか、お二人は……」
小尾田真奈は深くため息をついた。
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