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リアクション
「おとし玉デス! メイとおとし玉するのデス!」
両手で紙狼を持ち、楽しそうに宣言するヌイ・トスプ(ぬい・とすぷ)。
今井 卓也(いまい・たくや)が彼女の頭にポンと手をやり、苦笑する。
「ヌイ、お年玉はするものじゃないですよ。お年玉というのは――」
「おとし玉デス!」
紙狼のメイを解き放つヌイ・トスプ。においを嗅ぎながら走りだしたメイに続き、足を速める。
「ヌイ、走らないでください。逸れますよ」
くんかくんかとにおいを嗅ぎながら、メイに続くヌイ・トスプを、今井卓也は必死で追いかける。
「メイ、待つデス!」
メイは急いでいた足を緩め、においを嗅いでいる。
「ヌイも手伝うデス!」
再び、においを嗅ぎまくるヌイ・トスプの様子に苦笑しつつ、今井卓也は周囲を見渡した。
危険を察知するため【超感覚】を使用する。黒い犬耳が彼の黒髪の間からぴょこんと現れる。
と、ヌイ・トスプの朱色の耳がぴくんと動いた。
「いい匂いデス!」
甘い匂いを嗅ぎつけ、ヌイ・トスプが匂いの方向へ駆け出そうとする。慌てて今井卓也は彼女の尾を掴んだ。
「ヌイ、今はお年玉探しに集中しましょう」
「しゅーちゅうデス!」
わかっているのかいないのか、頷いてヌイ・トスプはにおい嗅ぎを再開した。その彼女の目と鼻の先でメイがくるくる回っていた。
「? ここを掘れということでしょうか?」
首を傾げつつ、今井卓也がスコップで土を掘り返す。
出てきた宝箱を、ヌイ・トスプに差し出した。
「これがイルミンスール魔法学校の校長からのお年玉ですよ」
「おとし玉デス!」
ヌイ・トスプは叫んで宝箱を開ける。宝箱の中には、小さなおもちゃの盾が入っていた。
一方、雑草の伸びる湖畔の片隅で遠野 歌菜(とおの・かな)と譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が並んで歩いていた。
「頑張ろうね、大和」
「もちろんです、歌菜」
微笑みあって、それぞれ手に持った紙狼と紙鷹を近付ける。紙鷹の翼が紙狼の頭を撫でると、二匹を光が包んだ。
二匹の周りを周回して消えていく。
「君は空から探してください」
譲葉大和は紙鷹を解き放つ。紙鷹は羽ばたいて上昇していく。
「お願いね、狼さん」
遠野歌菜が地面に下ろすと、紙狼はすぐ駆けだした。
「もう見つけたの!?」
遠野歌菜は楽しそうな笑みを浮かべながら、紙狼を追いかける。
「歌菜……今日もいい笑顔です」
遠野歌菜の様子に頬を緩めながら、譲葉大和は彼女の後を追った。
湖畔に、折り鶴が飛ぶ。
「しっかり飛べているようですね」
「遙遠が綺麗に折ったからです」
折り鶴を見守るのは緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)と紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)。
エリザベート・ワルプルギスに頼み込んで、緋桜遙遠が折った鶴は、風を切って危なげなく進んでいる。
「宝探し、楽しいですね」
朗らかな笑みを浮かべ、紫桜遥遠は折り鶴を見上げた。
「あっちはどうでしょう?」
問いかけると、折り鶴は一声鳴いて首を振った。
「あっちの木の影はどうでしょう?」
つられるように緋桜遙遠も問いかける。帰ってきた返事は同じだった。
「うーん、思ったより難しいですね……」
二人で首を傾げる。示し合わせたかのように、同時に腕を組んだ。そして二人で怪しげな場所はないか、周囲を見渡す。
「あ、あの茂みはどうでしょう?」
「遥遠も怪しいと思います」
二人で顔を見合わせて頷き、折り鶴を見遣る。折り鶴は、二人が示した小さな茂みの傍らに飛び、くるくると円を描いた。
「ここを掘ればいいのですね」
「掘ってみましょう」
ざくざくとスコップで土を掘り返す。数回掘っただけで、宝箱が姿を現した。
「遥遠、さきにどうぞ」
緋桜遙遠は紫桜遥遠に宝を差し出した。
「ありがとうございます」
頭を下げると、紫桜遥遠は宝箱を受け取り、小脇に抱えた。
「? 開けないのですか?」
「もう一つ宝箱が見つかったら、遙遠と一緒に開けたいんです」
「……わかりました。それでは早く誰かと接触して、宝を見つけなければいけませんね」
頷きあった二人は、人探しを始めた。
「また校長が面白い事を始めたみたいだね〜」
緋桜遙遠達のいる場所の対岸で、周囲を見渡すのはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)。
紙豹を、軽やかな足取りで追いかける。紙豹は俊足をいかし、宝箱を探している。
「宝はどこかなぁ」
カレン・クレスティアは楽しそうに、足を進める。
その背後に、忍び寄る影……。
「ターゲット、補足……だな」
茂みの影で【隠れ身】を使用した四条 輪廻(しじょう・りんね)は、ぽつりと呟いた。
その肩には、擬態真っ最中の紙カメレオンが乗っている。
「宝を掘った瞬間が、チャンスだ」
眼鏡を怪しく光らせ、標的の動向を盗み見る。
「そっと……そーっと……」
そんな四条輪廻よりもさらに後ろを、忍び足でついていくアリス・ミゼル(ありす・みぜる)。
携帯電話をぎゅっと握りしめ、発動させている【禁猟区】に危険が近づいていないことを確認する。
「うまくいくといいな……」
願いながら、アリス・ミゼルは四条輪廻を見守った。
「アメリア、どうだ?」
「魔物の気配はないみたいね。宝も……今のところなさそうよ」
高月 芳樹(たかつき・よしき)は、【隠れ身】を使用し紙隼と共に先行しているアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)を見遣る。
「そうか。ちょっと違う方向に進んでみるか?」
「そうね。行こう、紙隼」
肩に乗る紙隼に呼びかけ、アメリア・ストークスが進む。そのすぐ後を高月芳樹が追いかける。
「おー、あいつらが狙い目って感じかな」
にやり、と微笑み【隠れ身】で木陰に隠れたカリート・バルバロッサ(かりーと・ばるばろっさ)が高月芳樹達を見遣った。
「……奪うのか」
無機質な赤い瞳をトレンチコートの間から覗かせたゲーリー・サルヴァトーレ(げーりー・さるう゛ぁとーれ)が呟いた。
「もちろん。一つ目の宝は見つけたしぃ、あとは奪うだけじゃん」
煙草を取り出して火をつけながら、カリート・バルバロッサが標的の監視を続ける。
先ほど、彼の紙トカゲが探し出した宝を、掘り出したばかりだった。
「ゲイル、ちゃんと持ってるよな?」
問うと、ゲーリー・サルヴァトーレは重々しく頷いた。彼は小さな木箱を小脇に抱えている。
「よし、ならいいや。このまま追おうか」
狙った瞬間を待つために、二人と紙ペットはひたすら時を待った。
湖畔の上空には、暗い雲が流れてきていた……。
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