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パラミタミツバチ

 人食い虎の恐怖を退けた一行は、やがて開けた場所にやってきた。

「ん? これは?」

 清泉 北都(いずみ・ほくと)は思わず声を上げた。彼の『博識』によってパラミタミツバチの巣がある方向へと進んできたが、ここにきて北都の『超感覚』がハチミツの匂いを嗅ぎ当てたようだ。
 ミツバチの巣が近くなったことに喜びを隠せない北都だが、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は冷静にツッコミをいれる。

「そういえば、北都。お前虫苦手じゃなかったか?」

「え?」

 驚く北都にもかまわず、ソーマはさらに続ける。

「・・・・・・それでも幻の蜂蜜が手に入るなら我慢出来るのか。ま、どちらかというと執事としての使命がそうさせるのかもな。仮面を被って平静を保つのは得意だと、前に言っていたしな」

 そこへ、芦原 郁乃(あはら・いくの)が耳をそばだてた。

「シーッ! 静かに。ほら、羽音が聞こえる。」

 秋月 桃花(あきづき・とうか)も集中した。

「近くにいますね・・・・・・」

 と、弁天屋 菊(べんてんや・きく)が頓狂な声を上げて、人差し指を伸ばした。

「あった。これに間違いない。パラミタミツバチの巣だよ。あたしの特技、地質学を使って、蜂の巣がここだって突き止めたんだよ」

 菊が指差す方向を、生徒たちが一斉に見る。
 そこには確かに、大きな蜂の巣がある。
 その大きさはスズメバチくらい?

 とんでもない!

 巣穴のひとつひとつに人間の身体がすっぽり入ってしまうほど、巨大な巣が、森の中央の巨木にぶら下がっていた。
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は驚愕する。

「いろんな意味で大きすぎない?!」

 上月 凛(こうづき・りん)も、思わずため息。

「あれがパラミタミツバチの巣か。なんと大きい。これだけの大きさならどれだけ蜜があるか・・・・・・できるだけパラミタミツバチを倒したくはないけど、それは今の僕には難しいかな? もっと強くなったら、そういうこともできるようになるといいけどね」

 パートナーのハールイン・ジュナ(はーるいん・じゅな)は、蜂の巣の大きさにすっかり我を忘れている凛を心配して、声をかけた。

「凛、蜂の巣だけでなく、背後から襲撃される可能性もあるから、禁猟区は自分にかけて一行の中心辺りにいるといいですよ」

「そ、そうだな」

 そう話すふたりの間にヌッと現れたのは、黒い熊の着ぐるみを着た酒杜 陽一(さかもり・よういち)だった。

「な、なんですかそれ?」

「見ての通り、熊の着ぐるみだよ。これで蜂の巣を襲うのさ。蜂は、黒い色に反応して攻撃してくるんだ。ハチミツを奪い取る熊の毛が黒いからだそうだよ。これで、ハチたちは俺に群がってくるに違いない! あ、ハチに刺された場合を考えて、毒の中和剤は既にうってあるぜ」

 酒杜 陽一のフル装備に、橘 綾音(たちばな・あやね)は感心した。

「へぇ、酒杜さん、準備万端なんですね。うーん、どうやってミツバチを追い出すかだけど。煙でいぶすのがいいんでしょうけど、ジャタの森が火事になっちゃいそうだし・・・・・・ここは、シンプルに・・・・・・えいっ」

 なんと、橘 綾音(たちばな・あやね)は手に持っていた石を、パラミタミツバチの巣に投げつけたのだ。

 ほぼ同時に、イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)も綾音と同じ行動をとった。

「イングリットに策あるにゃ。この方が手っ取り早いにゃ〜♪ えいっっ」

「ちょ、ちょっと、グリちゃん・・・・・・」

 綾音とイングリットの投げた石は放物線を描き、ミツバチの巣に命中した。

「当たった・・・・・・」

 秋月 葵(あきづき・あおい)は、すわやと身構え、瀬蓮たちをガードすべくスキルを発動した。

 さあ、巣からは怒ったパラミタミツバチのオスが出てきた。
 その大きいこと。体長30cmとは聞いていたが、実際にその大きさを目の当たりにして、生徒たちは動揺した。

 ハチたちのターゲットになったのは、もちろん酒杜 陽一(さかもり・よういち)

「来たぞ! 放てーーーっ」

 陽一に群がった蜂の群れに向けて、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)がサンダーブラストを発射する。森に轟音が鳴り響く。
 その隣では、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)がアリスキッスでSPを補給する。

 しかし、怒り狂うオスバチの群れは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)をメッタ刺しにした。

「ぎゃあああああ。痛い痛い」

 陽一は慌てて熊の着ぐるみを脱ぎ捨て、茂みの中へ逃げ込んだ。
 美由子もすぐ後を追う。

「待っててお兄ちゃん! 今治してあげるからね!!」

 すぐにナーシングをかけたのはいいものの、その後酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は不審な行動に出た。
 なんと、酒杜 陽一(さかもり・よういち)のズボンを脱がそうとしている!?

「そこまでにしておけ!」

 酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)の首筋に白刃を突きつけたのは、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)だった。

「まったく、油断も隙もあったものではないな・・・・・・当然の様にズボンを脱がそうとするでない」

「う゛・・・・・・やはりダメだったか・・・・・・だけど、失敗は成功の元。これからも恐がらずドンドン失敗していこう! 今日から失敗したら、ガッツポーズだっ」

「だ、ダメだこやつ。早く何とかしないと・・・・・・」

 そういっている間にも、オスバチとの戦闘は続いている。
 石を投げた橘 綾音(たちばな・あやね)は、向かってくるハチを一匹一匹、丁寧につぶしている。武器は大振りにせず、コンパクトに振りまわしている。

「このハチ、大きい割に素早いですね」

 万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)は素早く飛び回るミツバチに、炎熱属性の銃弾でスプレーショットを放っている。

「カーマインがあれば毒に耐性もっているから、強気でいけるよだよ」

 清泉 北都(いずみ・ほくと)も、素早く飛び回るハチのうち、視界に入るものを『実力行使』でバタバタ落としていった。
 ときどき、単独で向かってくるハチに対しては蜘蛛糸でバッサリ切断した。

「たとえ森の中の戦闘でも、蜘蛛糸なら邪魔にならないからね。で、無事にハチミツが採れたら、少しだけいただいちゃってもいいかな? うわっ!」

 北都の後方から、オスバチが素早く攻撃を繰り出してきた。
 すかさず、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が『子守唄』を放つ。
 フラフラとオスバチの軌道がゆがんだ。

「北都、今のうちだっ。それ、ナーシング!」
「ありがとう、アルジェント」
「ったく、世話焼けるぜ。お、怪我もしてるじゃないか」
「いや、僕はいいから他の人を先に・・・・・・」
「治してやるから、見せろよ! あ、こんなに傷ついて・・・・・・ヒール!」

 と、別のハチが襲ってきた。

「くっ、子守唄では間に合わねえな。よし、火術で一匹ずつ落としてやる」

 しかし、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が放った火術は、ハチによけられてしまった。勢い余った火の玉は、森を焼き始めた。

「や、ヤバイ」

 燃え上がろうとする木々に氷術を放って消し止めたのは、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)だった。

「そなた、ちょっと張り切りすぎです・・・・・・」

「ありがとう、刹那。いや、ほら、蜂蜜が欲しくてさ・・・・・・あげたい奴が居るんでな」

 消し止めた火からあがる煙が一段落すると、ハチたちは一層数を増して向かってきた。

 二刀流の使い手、真口 悠希(まぐち・ゆき)は、縦横無尽に襲い掛かるハチをバッサバッサと斬っている。しかし、群がり来るハチはなかなか減らない。
 これを見たガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、陽動に出た。

「このままでは真口が危ないですね。さあ、ハチたち、こっちに来なさい」

 ガートルードは、光術でハチを牽制しながら、円を描くような動きをした。自らが囮となってハチを引き寄せているのだ。

「よし、十分集まりましたね。くらえ、必殺、女王の剣!」

 ガートルードと同時に真口 悠希(まぐち・ゆき)も実力行使でまとめ狩りを試みた。
 その光景は、まさに八面六臂という言葉がそのままあらわされたような状態だった。
 女王の剣は、ダンスを踊るかのように弧を描き、的確にハチを落としてゆく。

 十束 千種(とくさ・ちぐさ)は剣の舞いに見とれていた。

「す、すごい! 悠希さん、ハーレックさん、お見事・・・・・・よーしワタシも。みんな、援護頼むね!」

 そういうと、千種は前に出て、ハチたちを誘き出し、ツインスラッシュで迎撃をはじめた。
 ハチが千種めがけて群がってきたところを見計らって、芦原 郁乃(あはら・いくの)蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)のサンダーブラストが見舞う。

「さすが、魔法は効果範囲が広いので助かりますね・・・・・・ん? でも、効果範囲が広いということは・・・・・・きゃあぁぁ

 なんと、マビノギオンのサンダーブラストが、千種にも命中してしまった。

「ごめーん、千種」

 涙を浮かべて視線を送ってくる千種に、郁乃とマビノギオンは手を合わせて謝る。
 やれやれとばかりに、秋月 桃花(あきづき・とうか)が千種へ近寄った。

「魔法でハチの群れを退治するから、怪我の心配は薄いと思っていたんですが・・・・・・まさか千種様がこうなっちゃうとは。はい、ヒール」

「ふう、ありがとう桃花。正直、死ぬかと思いました・・・・・・」


 みんなの奮闘により、オスバチの数は目に見えて減ってきた。
 草刈 子幸(くさかり・さねたか)は、もうひとがんばりと気合を入れる。

「よし、もうすぐ幻の蜂蜜が手に入るであります。では、この液体を使って、と・・・・・・」

 子幸が取り出したのは、液が入った密閉容器だった。

「なに? その液体?」

 芦原 郁乃(あはら・いくの)の疑問に鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)が自信たっぷりに答える。

「オホン、これは酢と砂糖と酒を1:1:3に混ぜた液体じゃけん。これでハチを誘い出すんじゃ。ハチの子もコラーゲンたっぷりなんよのぉ。よし、さっちゃん行くで」

 鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)はそういうと、隠れ身を使って草刈 子幸(くさかり・さねたか)を巣の近くに誘導した。素早い行動のため、超感覚を駆使することも忘れない。

「よし、ここいらでええな。巣に十分近い。わしのほうはいつでも網を投げられるようにしちょるけん。さっちゃんも準備はええな。」

「大丈夫であります!」

 それっとばかり、子幸が誘いの液体を撒く。
 みるみるうちにハチが液体に群がってくる。
 「とりゃっ」という掛け声とともに、鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)がトラッパーと投擲のスキルを使って網を投げかける。

 さすがはスキルの賜物、ハチたちは文字通り一網打尽となった。
 網の中でもがくハチたちを草刈 子幸(くさかり・さねたか)の光条兵器が襲う。

「網は切らずにハチだけを倒すであります。あ、でも、今後もハチミツを作ってもらうため、倒すのはこれだけでありますから・・・・・・」

 生徒たちの奮戦によって、オスバチの姿はあたりからいなくなった。