リアクション
ハチミツだ!
ハチたちはとりあえずいなくなった・・・・・・ように見える。
万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)は、用心深く巣のそばまで近寄ると、タバコに火をつけ、巣に向かって煙を吐き出した。
「万が一、まだ巣の中にハチがいるかもしれないからな・・・・・・」
ところが、巣の中からはなにもでてこない。
どうやら、ハチはすべて出て行ってしまったようだ。
安全を確認すると、万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)は蜂の巣を取り、中からミツを掻きだした。
「おお、あるぞ。こんなにたくさん! さあみんな、取りにきていいぞ。但し、全部は取るな。少しだけでも残しておけば、またミツバチが巣を作るかもしれないからな」
おおーっという歓声とともに、生徒たちはパラミタミツバチの巣の周りに集まった。
沢渡 真言(さわたり・まこと)は、氷術を使って、採取したハチミツを凍らせている。
「こうすれば、新鮮さが保てるかもしれませんからね」
ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が、隣で微笑む。
「お姉様ならきっと美味しいハチミツを取ってくださると思ってましたわ。紅茶に入れて飲んだら、ラナ様の声も少しはよくなりませんかしら?」
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は自信を持ってティティナに答えた。
「そりゃテキメンに効くと思うよ。なんてったってパラミタミツバチだからねぇ。今回、ワタシのメインターゲットは蜂蜜とロイヤルゼリーです。それに、ミツバチの毒は治療にも使えますからね。空大の施設を借りて成分を調べなくっちゃ」
しかし、佐々木の横では真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が、がっかりした様子でいる。
「あーあ、パラミタミツバチのハチミツってきいたときは、『いける』って思ったんだけど・・・・・・斉民が考えている養蜂が実現すれば、販売ルートを確立と、自社製品の開発なんてことも思ったけど、この大きさではね・・・・・・」
さきほど真名美と派手な痴話喧嘩を繰り広げた熊谷 直実(くまがや・なおざね)は、彼女の言葉を聞いているのか、黙々と巣に向かって作業をしていた。
「パラミタミツバチの巣から蜜蝋を少し採って、持ち帰ろう。これで蜂の巣箱が作れるな。」
芦原 郁乃(あはら・いくの)たちは、瀬蓮とラナを呼んで、一足先にハチミツの試食としゃれこんでいた。
「主も危険地帯に関わらず、豪気な提案するなぁ」
こういう、蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)の突っ込みにも関わらず、郁乃は持ってきたビスケットに蜜をつけて食べていた。
「これおいしいねぇ。絶品よ!」
確かに、パラミタミツバチの蜜は、これまで食べたどのハチミツよりも美味しかった。郁乃は思わず瀬蓮たちと笑いあう。
秋月 桃花(あきづき・とうか)も納得したようにうなずく。
「確かにこれなら、ラナ様ののども良くなるのではないでしょうか? ねえ、千種」
「そうね、お土産に取り分けてから帰りましょう」
・・・・・・ガシャン! ガシャン!
郁乃たちの歓談を中断するように、鎧の音が聞こえる。
蜂の巣のあった木の根元から現れたのは・・・・・・全身を鋼鉄の鎧で覆った騎士であった。
ドロ〜ッ。鎧の隙間からはスライム状の粘液が滴り落ちる。
「リ、リビングメイル!?」
生徒たちは、新たな敵が現れたのかと戦闘態勢に入った。
「フフフ・・・・・・待て待て、慌てるな」
その全身鎧は、兜を外した。
そこに現れるは、蜂蜜まみれの変熊 仮面(へんくま・かめん)!
美しい肌を蜂に刺される訳にはいかない、とのことで、全身鎧マクシミリアンを装備し、完全防備でハチミツを取ってたのだ。
「目的は全身ハチミツパック! ん〜っ、お肌スベスベ〜!!」
生徒たちは呆気に取られている。
さらに変熊 仮面は、まだハチミツを手に入れていない女子生徒に近づくと・・・・・・
「え? ハチミツ取れなかったの? しかたないなぁ・・・・・・俺様の全身パックに使った蜂蜜を半分あげるよ」
「いらないよ! そんなの」
「あたしも要らない!」
片っ端から断られてしまった。
『ふん、でも残りのハチミツは、イオマンテが咥えている蜂の巣の中だからな』
しかし、当の巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)が見当たらない。
天城 一輝(あまぎ・いっき)が、たまたま蜂の巣がある木の根元に歩み寄ると、なにか巨大な茶色の毛玉があった。近寄ると、巨大なお尻のような形だった。
「なんだこれ?」
一輝がその「毛玉」に触った途端・・・・・・
プ・・・・・・
「やだ、何か臭い」
女子生徒たちが鼻をつまむ。
さらに一輝が調べると、毛玉の中には大きなファスナーがある。そっと触ってみた。
ビクンっ!
穴から頭を出し現れたのは、体長18メートルの巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)だった。
イオマンテは、さっきのとは別の蜂の巣を口に咥えていた。
「おならプーさん」
「誰がじゃ!」
しかし、のん気なやり取りをしている場合ではない。
ルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)は、恐怖の声を上げた。
「あ、あんなところにハチの生き残りが・・・・・・ハチ、こ、怖いよね。刺されたらとっても痛そう」
なんと、イオマンテの持っている巣には、まだハチがいたのだ。
しかし、何を思ったか、イオマンテは蜂の巣を咥えたまま、振りまわした。
「ワシのハチミツー!」
一斉に穴から解き放たれるハチの大群!
もちろん、ハチは烈火のごとく怒っている。
「あばばばば! 全部ワシのもんじゃ! お前らになんかやるか!! へへ〜ん。ワシゆる族だから、ハチに刺されても痛くないもんね〜」
せっかく静まったと思ったのに、またこの二人に掻き回された。
天城 一輝(あまぎ・いっき)は、やれやれと思ったが、すぐにブラックコートで気配を消すと、ハチの襲撃をポリカーボネートシールドで凌いだ。手に武器は持たない。
「ハチミツが目的なので、なにもハチを倒す必要はないからな」
空いた右手で小型飛空艇を操縦し、周囲を警戒する。
パートナーのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)も小型飛空艇に同乗、安全ベルトを装着した。
コレットは、「博識」スキルと図書館で借りたパラミタミツバチの生態について書かれた本「理科の教科書」で予習して来たので、蜂の巣のどこに蜜があるか、ちゃんとわかっていた。
「よーし、ハチを眠らせちゃうもんね。子守歌!」
コレットがハチを眠らせている間、一輝は用心して小型飛空艇を上空に避難させた。
「命あっての物種だからな。おっと、今のうちに蜂の巣の位置データを銃型HCに保存して、ラズィーヤさんに報告しないと・・・・・・こうすれば、暫くしてまたハチミツが貯まった頃合に再び採りに行けるからね」
やがて、ハチは大人しくなった。
コレットは飛空艇から降りてくると、ラズィーヤが紹介してくれた養蜂業者に借りた道具を使って、ハチミツを採取しはじめた。
「できるだけ蜂の巣にダメージを与えないようにしないとね。スキル『至れり尽くせり』を使うもん」
※ ※ ※
クラーク 波音(くらーく・はのん)は、考えていた。
「そういえば、グレートキャッツさんたちもパラミタミツバチのハチミツが好物なのよね? 巣の近くにいるみたいだし、もしこの後ハチさんと同時に襲われたら、両方相手にするの大変そうだよね・・・・・・ハチミツは、あたし達も必要だけど、グレートキャッツさんたちにもある程度分けてあげれば、満足して襲ってこなくなるかもっ♪ もし仲良くなれたら嬉しいけど野性だとちょっと難しいかな? てへへっ」
こういうと、波音は瓶に採ったハチミツを近くの茂みに置くべく、歩き出した。
アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)は、後ろから波音を護衛した。
「もし、波音ちゃんが襲われたら雷術を見舞います。ハチを避けて蜜を採るといっても上手くいくとは限りませんし・・・・・・波音ちゃんやララちゃんが避けられそうもなかったら雷術ですね。数が多ければサンダーブラストで・・・・・・」
ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)も波音を思う気持ちは同じだ。
「もし、波音ちゃんやアンナちゃんがどくどくさんになってしまったら、ララが手当てしてあげるよぉ! ナーシングで元気にしてあげるんだもん。んふふ〜。あとは、アリスキッスで元気いっぱいになれるように応援してあげるねぇ♪」
やがて、ハチミツを茂みにおいてきた波音が、遠くから眺めていると、野生の虎が警戒しながらも、ハチミツを舐め始めた。
「静かにね。野生の虎は人間からモノをもらおうとはしないから・・・・・・」
虎にハチミツをこっそりあげようとする波音の優しい気遣いは、うまくいったようだ。
※ ※ ※
弁天屋 菊(べんてんや・きく)は、訝しげにつぶやいた。
「しかし、ラナの声が出なくなったのがヴァイシャリーに招かれた直後くらいからというのが気になる。誰かの陰謀じゃないのかな? だとしたら、今回のハチミツ取りにも妨害が入るかもしれない。帰りも気をつけないとね」
そういってメンバーの動向に注意を払った。
酒杜 陽一(さかもり・よういち)も、同じく不審な気持ちを持っていた。
「菊さんもそう思うか。俺も、リゼットさんの喉の不調の原因は一体何なんだろうと思ってたんだよ。原因が分からないと再発予防の対策もできないしな。喉に気を使いすぎたストレス? でもなさそうだし。うーんわからん。ハチミツ飲めば治るから問題ないって話でもないと思うんだが・・・・・・」
ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)は、酒杜 陽一の話にうむとうなずく。
「ヴァイシャリーに招かれた直後、か。タイミングが良すぎるような気もするが・・・・・・でも原因は不明。ただの偶然ならば良いがな。もしかしたら、彼女を快く思っていない同業者が、彼女が口にするものに、こっそり声が嗄れてしまうようなものを混ぜた、とか? って、憶測でものを言うのはいけないな」
だが、
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はそれもありうるというった表情だ。
「オレもウィルトゥスの言っていることには一理あると思う。声が出なくなったのがヴァイシャリーに来てからで、本人に思い当たることがないってのも気になるな。これってやっぱり、ラナに歌われると困る奴らが何か企んでるんじゃねぇか? 念には念を入れて、帰りは、人食い虎だけじゃなく人間の襲撃者にも注意しておくぜ」
しかし
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、ラナに向き直ると、妙な噂による心痛を打ち消してあげるとばかり、励ましの言葉をかけた。
「ラナ、おまえの声が出なくなった原因は、喉でなく心じゃないか? 騎士から詩人になったんだろ。だんだん名前が売れ始めて、当初の気持ちを見失ったってのが正直なところじゃねえのか?」
ラナは黙ってきいている。
「だが、おまえ、歌が好きなんだろう? だからお前はお前の気持ちを信じる限り、お前の決断に自信と誇りを持っていいんだぜ。歌って、いいんだよ。未来の帝王たるこの俺が承認しようではないか!」
神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)も、ラナの不安を拭うべく気を配る。
「音楽、特に心情を乗せて絞り出す歌謡は我も大好きでな。だからこそ、吟遊詩人殿には心から回復してもらわんと勿体ないのだよ・・・・・・『ヴァルの出世払いの帝王認可でラナが自信を取り戻してくれればいいのだが、果たして一体今まで帝王の認可をどれくらい出世払いしているのやら・・・・・・』」
しかし、実際はラナの声が出なくなった原因は迷宮入りの様相を呈していた。
ただ、生徒たちの間では、ラナ・リゼットの泊まっている宿屋の近くで魔女のような姿を見たという情報があっただけだった。
今の状況では、それしかわからない・・・・・・