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リアクション
そんなこんなで表がいろんな事をしているとき、サークル棟の中では全員を集めた講習会が開かれていた。
「それでは今日も張り切っていってみましょう! 皇甫と?」
「青の?」
「3分レジスタンスー♪」
パチパチパチパチ。
司会役の皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)と博士役の青 野武(せい・やぶ)が自分で拍手する。
まわりはじっと見つめている。
いったい2人で何をやらかす気なのだろう。
「博士、今日はいったいどんな非公然活動の仕方を教えてくれるんですか?」
「ぬふふふふ。よくぞ聞いた。今日はなんと火炎瓶!」
「えー、でもそれって誰でも作れるじゃないですかー」
「そこがだ。今日これから紹介するのはタダの火炎瓶じゃあない。増粘化燃料によるテルミット焼夷投てき弾なのであるっ!」
「わー! すごいですぅっ! でも、それってお高いんでしょ?」
「ノンノンノン。材料はぜーんぶご家庭とホームセンターで買ってきた材料で小学生にも作れてしまうのだ!」
観衆がわあっとどよめく。
深夜のアメリカの通販番組みたいな雰囲気になってきたぞ。
「材料の説明に入ろうっ。まず基本となるガソリンと灯油それから容器になるビール瓶か一升瓶と点火用の布切れ」
「うんうんっ」
「肝心なのはこれからであるっ。まずお砂糖を少々、石鹸と天ぷら油、錆びた鉄釘などの酸化鉄、一円玉などのアルミニウム。たったこれだけでできてしまうのだ」
「たったそれだけなんですか?」
「その通り。まずは灯油とガソリンを2:1の割合で混ぜる。そしてそこに天ぷら油、石鹸、砂糖をくわえる。こうすることでさらさらの液体だった混合油がべっとりとゼリー状になり、一度付着すると落ちにくく、また水をかけても消えないようになるっ! いわゆるナパーム焼夷弾であるっ」
「すごいですぅっ博士っ! これなら機動隊も丸焦げですねっ!」
「さらにここに、酸化鉄とアルミニウムを粉末にして混ぜて加えることでテルミット反応が起こり、鉄をも溶かす摂氏2300度の高熱燃焼が期待できるのだっ!」
「なるほどっ。では早速ユーザーの声を聞いてみましょうっ」
ジェームズ(21歳 男性)「こいつは本当に最高さ。以前使ってたのとは比べものにならないね。今度また兄貴と銀行を襲うよ。ムカつくSWATもこいつでイチコロだぜ!」
ステファニー(35歳 女性)「夫とケンカしたときにこれを投げつけてやったの。そしたら、聞いて? あの人ったら部屋中転げ回ってもがいて死んだわ。おかげで家も燃えちゃったけど、でもこれさえあればまた再婚できるものね!」
「などなど、大反響のこのテルミット焼夷投てき弾、今ならビール瓶ケース付き1ダースで19800円ですぅっ! どうですかっ? 茜さんっ?」
「使 用 禁 止 で す っ !」
と、そんなとき、サークル棟の外から、拡声器でしゃべる声が聞こえてきた。
「あーあー。立てこもっている学生の諸君っ!」
サークル棟の外でマイクを握っているのはクロセル・ラインツァートだ。
「聞いているかな? 学生諸君。君たちの言いたいことはよーくわかります。その思いはこのクロセル・ラインツァートにしっかりと届いています。だがあえて言いましょう。馬鹿なことはおよしなさいと」
と、サークル棟の4階の窓が開いて同じく拡声器で反応が返ってきた。
「おー? おぬしはクロセルっではないかっ。マジケットの火事場泥棒がたわけたことを言うでないぞ」
ファタに痛いところを突かれてもクロセルも負けずに言い返す。
「ごほんごほん。昔のことはいいのです。大切なのは未来です。皆さんの大切な未来の為の学問の時を、こんなところで消耗してよいのですか? それにこんなところで暴れていたら就職活動にも響きますよ?」
「うるさいっ。我々が今やらなきゃいけないのは大学の不正と戦うことだっ!」
空京大生のひとりが叫び返す。
「おやおや。それは子供の論理というものです。よいですか? 確かに人は正しいことをしなければなりません。しかしながら、そのためには力がいるのですっ。弱者の正義など所詮は空論なのですっ。学生諸君、今はひたすら耐えて偉くなりましょう。偉くなってから正義をなせばよいのですっ。さあ、もうおわかりですね。くだらないイタズラはやめて、おとなしく出てきましょうっ。ラヴエーンドピースの精神で受け止めてあげましょうっ。このわたしがっ!」
そういってクロセルは演説を締め切った。
サークル棟の中の連中がそれをどう受け取ったは言うまでもない。ゾディアックのパートナー、親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)が「あんなこと言われて悔しくないだぎゃ? ここは実力で反撃だぎゃ!」と、騒いだせいもあるが、立てこもる学生たちの怒りはふつふつと燃え広がっていった。
一方、当のクロセルはというと、いつまでたっても学生たちが出てこないのを不思議に思いながらサークル棟を見上げていた。
「ふむ。おかしいですねえ。全然出てくる気配がない」
当たり前である。すると、
「ちょっとそのマイクを貸すでござる」
と言ってクロセルのマイクを椿 薫(つばき・かおる)が奪い取った。
椿薫といえばおっぱい党。
おっぱい党といえば椿薫。
ますます嫌な予感がする。
「学生さんに告ぐでござる。すべての地球人、すべてのシャンバラン人
すべての男性、すべての女性、皆様われわれにはおっぱいがあるでござる! おおきなおっぱい、小さなおっぱい、黒いおっぱい、白色なおっぱい、黄色なおっぱい、おっぱいはどれもすべて平等でござる すなわちみんな仲間でござる!」
サークル棟は一瞬静まりかえった。
「……えー、あのー、あなたはいったい誰ですか?」
茜が拡声器で聞いてみる。
「よくぞ聞いたでござる。拙者はおっぱいのおっぱいによるおっぱいのための政治を掲げるおっぱい党党首にしておっぱい王、そのついでにのぞき部部長の椿薫でござる」
「そのおっぱい党が何の用よ?」
「ズバリ、武器を捨てて胸を出せ! 茜殿もシャツを脱いでブラを外し、拙者におっ
ぱいを見せるでござる。そのついでにもませてくれると嬉しいでござる!」
「……」
拡声器を持ったまま、サークル塔内の茜は固まっていた。
「青博士、伽羅ちゃん、あのテルミット焼夷弾はできてる?」
「いっぱいありますよぅ♪」
「命令、撤回っ!」
クロセルと椿は様子をうかがっている。
「どうでござるクロセル殿? 説得力抜群でござろう」
「確かに反論してこなくなりましたねえ」
「おやクロセル殿、何か降ってござる」
「ほうほう確かに何かがいくつも。何でしょうねえ?」
「何でござろうか?」
「瓶のようですよ」
「火がついているでござるな」
がしゃがしゃがしゃんと瓶が割れ、クロセルと椿を火柱が包む。
「わああっ! 火がっ! 火がマントにっ!」
「ひいいいい! 熱い熱い熱い熱い熱いでござるよーーっ!」
火だるまになった2人は大急ぎで逃げていく。
機動隊員が消化器で2人の火を消してくれたときには、ふたりはすっかりコゲコゲなっていた。まあ、命があっただけでもラッキーだったかもしれない。
煌煌と燃え上がる火炎瓶の炎が、サークル棟攻防戦の口火を切った。
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