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第7章 コミュ人員増やし隊「投げと政治と指揮官と」



「続きましては、複数のコミュニティを同時に紹介しております、ちょっと変わったPVです。
 プログラムNO.8、『天壌の女神』、『龍雷連隊』、『東城散人房』の紹介PVです」


 画面にはまず、「シャンバラ教導団」の訓練場の真ん中にポツンと立っているトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の姿があった。
 カメラが引くと、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)の姿が画面に入ってくる。トマスまでの距離、十メートル弱といったところか。
 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)のナレーションが入った。
「格闘、白兵、射撃戦。有事の際の戦い方は色々ありますが、手軽で意外に有効なのが『投擲』です。
 『投擲』の訓練を積んでいる人と、そうでない人の違いを見てみましょう。
 まず、テノーリオさんの『投げ』の力。彼は、『投擲』の訓練を余り積んでいません」
 テノーリオ、傍らの泰輔の体を肩に担ぎ上げ、投げ飛ばそうとした。
 が、態勢が崩れて、泰輔の体を背中から地面に叩きつける形となってしまった。
 どしん、という鈍い音と、
「ぐぎゃあっ!!」
という泰輔の悲鳴が同時に聞こえた。
 画面外からリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が駆けつけてきて、泰輔に「ヒール」をかける。
 ミカエラのナレーションが割り込んだ。
「うーん。これは、投げは投げでも、『投げ技』ですね。柔道だったら文句なしの一本ですが。
 では続いてレイチェルさんの『投げ』力を見てみましょう。彼女は『天壌の女神』というコミュニティで『投擲』の訓練を積んでいます」
 レイチェルは、回復はしたもののまだ立ち上がっていない泰輔の両足を両脇に抱えると、自分を中心軸として泰輔の体を振り回し始めた。
 プロレスで言う所の、「ジャイアントスイング」である。
「でりゃあああああああ!!」
 物凄いかけ声とともに空に放り出された泰輔の体は、弓なりの軌跡を描きながら、見事にトマスの足元に、
「ぐあっ……!」
という悲鳴と共に落着した。
 ミカエラのナレーションが入る。
「見事な飛距離でした。単純な『投げる』という行為も、訓練の有無で全く違う事がおわかり頂けたでしょうか」 


ルキノは、
「分かるかーっ!」
と周囲の客と一緒に画面に向かって声を上げた。

「今回投げたのは人の体でしたが、これが仮に手榴弾だとしたらどうなるか、想像してみて下さい」 

「ジャイアントスイングの最中に爆発するわ!」
と、客席からツッコミが入った。

「……おや? 泰輔さんが立ち上がり、何やらトマスさんに話しかけています」
 画面切り替わった。トマス視点のようだ。
 あちこち薄汚れた泰輔が、懐にあった資料を取り出し、画面いっぱいに迫ってセールストーク。
「おぉ、トマっち。『政治』、興味あるか?」
「え、政治?」
 困ったような返事は、トマスのものだった。
「そう。僕ら『東城散人房』はな、『政治』について研究してるんや。
 激動するシャンバラやパラミタの明日を見抜くには、各校各勢力のパワーバランスを見抜き、眼に見える物事の裏の裏まで考える訓練が必要や。例え隠居したって、人は政治から逃れる事はでけへんからなぁ」
「は、はぁ」
「『東城散人房』いうのは非営利組織、原則おカネは取らん安心団体。ちょっとノゾキに来ぇへんか? わいも含めて、イカしたナイスなヤツらがそろい踏み。これに入れば、君の男にもハクがつくってもんや。
 入会は簡単、この紙のココに名前とハンコを……あ、日本人ちゃうならサインだけでええわ」
 そこに、「こらこら」と乱入する魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)
「君、強引な勧誘はよくないぞ」
「ほっとけオッサン。これは僕とトマっちの間の話や」
「同じ『東城散人房』の人間として、品位を貶めるような事はして欲しくはないね」
「品位が何や。数は力、それが政治の基本やろう?」
「それは政治をただのパワーゲームにする危険な発想だ。そもそもマツリゴトとはね……」
「大義名分は後からつける、物事は即断即決、タイミングが命。巧遅よりも拙速、そうやろ?」
「……言っても分かりませんか」
 魯粛は頭を振り、テノーリオを手招きした。
「テノーリオさん。この分からず屋さんに思い知らせてあげて下さい」
 テノーリオ頷き、得物を構える。泰輔も「ええなぁ、力ずくってのも嫌いやないで?」と戦闘準備に入る。
 二人の間に緊張がみなぎる。
 その時、
「わんっ!」
 鳴き声と共に両者の間に飛び込む狼の姿があった。スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)である。
 スプリングロンドは、二人の間にお座りをして「きゅ〜ん」と鳴き、潤んだ瞳で見上げてきた。 


 スプリングロンドのアップ顔に、客席のあちこちからはヒソヒソと感想が上がった。
「……うっわー」
「何かあざといよなー」
「『ボクってカワイイでしょ』オーラが鼻についてムカつく」
「見てて腹立たない?」

 テノーリオと泰輔の表情が険悪に歪んだ。
 イラついた表情で顔を見合わせた後、「どうする?」と言わんばかりに同時に魯粛の方を見る。魯粛、無言で握り拳に親指を立てた後、「殺ってよし」と親指を下に向ける。
 直後、テノーリオと泰輔からスプリングロンドに集中攻撃が開始された。スプリングロンドは泡を食って逃げ出した。
「魯粛のサインで、今まで争っていたふたりもがっちり共闘。これこそ魯粛が『龍雷連隊』で積み上げた、『指揮』の訓練のなせる技」 


 ミカエラのナレーションに、観客から一斉に、
「ねーよ!」
とツッコミが入った。

「こらーっ! うちの子に乱暴するなーっ!」
 2vs1の状況に見かねてリアトリスが乱入した。
「このように、コミュニティに所属する事によって養われる特技は、みなさんの快適な学園ライフをサポートすることでしょう。
「投擲」だったら「天壌の女神」
「指揮」なら「龍雷連隊」
「政治」なら「東城散人房」
 見学やお問い合わせはお気軽にどうぞ」
 ミカエラのナレーションが映像を締めると、画面の下に文字が出た。
天壌の女神  >検索」
龍雷連隊索  >検索」
東城散人房  >検索」 


「3つのコミュニティを同時に紹介するという、密度の高いこのPVを企画したのはトマス・ファーニナルさんです。
 トマスさん、方向性の違う三つのコミュニティのテーマをまとめるのは大変だったのではありませんか?」
「えぇ、まぁ」
 トマスは頷いた。
「でも、いつもお世話になっている『天壌の女神』、『龍雷連隊』、『東城散人房』に少しでも恩返しをしたくて。
 協力してくれた皆さん、特に体を張って下さった泰輔さん、本当にありがとうございました」

「PV作り、大変だったけど面白かったね。ほんと、みんなお疲れ様だったよ」
 ニコニコしながらそんな台詞を口にするリアトリス。だが、近くに座っている泰輔とテノーリオの表情は少し重苦しい。
 ふたりは眼だけで会話をしていた。
 ――ホンマ、大変やったなぁ。
 ――あぁ、まったくだ。
 ――こいつ、こんななりしてメッチャ強いねんからなぁ。
 「こいつ」とはリアトリスの事である。
 ――俺は、「ソニックブレード」で吹っ飛ばされた所までは覚えているんだがな。
 ――その後「ドラゴンアーツ」喰らってたんやで……って、あれは僕の方だったかな?
 ――何か、あそこらへんの記憶が数分ないんだ。
 ――とにかく、こいつはもう怒らせへんようにしよ。
 ――だな……。