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■第四章

「フランツ、後どれぐらい持ちそうなんや!?」
「わからない! けど、長くはなさそう」
 ドラゴンの帰還を待っていたイコン集団から離れて偵察に出ていた泰輔達が乗るイコンは、もうすでに満身創痍だった。
 完全に把握しているわけではないイコンの操作に、体力と精神力が削られる。
「見えた! 皆の機体だ!」
 フランツがモニターに一番近くにいる機体を映し出す。
 自動的に現在位置から対象までの距離が残りのエネルギーに換算されると、画面に『警告』の文字が様々な形式で浮かんだ。
『対象……! ……象機! 聞こえ……か!』
 画面の表示を見て涙目になるフランツの耳元にあった通信機からノイズ交じりの音声が流れた。
『こちら……クラ! 現在……機、そ……を補……ました!
 コンマ8秒後に射撃を行います! 気合でも根性でも何でもいいので避けて下さい!』
 やけに不穏な内容の通信は最後の一言だけをクリアに伝えて、その後は何も聞こえなくなった。
 フランツは、固まったままの表情で首だけを通信機の方向へ曲げる。
「コ、コンマ8秒って何ビートだっけ?」
「ボケとる場合かっ!!」
 全力で走らせていたイコンの膝を強引に折る。土埃を上げながら壊れた人形の様に転がるイコン。
 上空で飛行していた漆黒のドラゴンが、不可思議な動きをするイコンに爪を立てようと体勢を整えた瞬間、翼にビームが打ち込まれた。
 バランスを崩したドラゴンの翼に、次々とビームが打ち込まれ、僅かに押し返していく。

「無茶するなぁ、おい。もし聞こえてなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時は、その時です。それに当てるわけないじゃないですか。回避を求めたのは……まぁ、保険です」
 苦笑いをする聡に、サクラが笑顔で応える。コクピットのモニタには、今まさに撃ち抜いたドラゴンがロックされていた。
 それもそうか、と聡が軽く相槌を打ち、コクピットに備え付けられた通信機に手を伸ばす。
『うーっし! お前ら! いや、ドラゴンバスターの諸君!』
 仰々しくコームラントの腕を広げながら、聡が全機に通信を送る。

『狩りの時間だ! 派手に行こうぜ♪』

 どことなく気の抜けたこの掛け声が、開戦の合図となった。



 聡の声を聞いていたのか、ドラゴンを見て手が動いたのか。
 ややフライング気味に松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が率いるイコンの小隊が、ドラゴンへ向けて出撃を開始した。

「……サクラ、今のは?」
「一人乗りのクェイルが三機、二人乗りのイーグリットが一機、二人乗りのコームラント一機……コームラントは出力が足りていませんね」
「無茶しやがるなぁ」
 聡が手早く待機しているイコン全てに通信を送る。
『天御柱学院のパイロット、先行部隊のカバーリングに回れそうなやつは全力で追ってくれ』
 その一言に、数機のイコンが駆動音を高めた。

『こちら【蒼炎の龍皇剣】。敵が体勢を整える前に接近する』
『こちら【ヘルヴォル】、了解です』
 レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)の操るクェイルが、岩造の機体に併走しながらアサルトライフルを構えた。
『こちら【神鳴雷槍】。同じく了解っ』
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)と、ゴールド・アイリス(ごーるど・あいりす)もそれに続く。
『えっと、【蒼月の龍皇星】、了解ですぅ』
やや遅れて蛇行しながら走るユイ・マルグリット(ゆい・まるぐりっと)のクェイルの横を、イーグリットが通り抜ける。

『こちら【ゴッドサンダー】、了解。先行します』
 ユイのクェイルに当たりそうになりながらも鳴神 裁(なるかみ・さい)と、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が搭乗するイーグリットは、加速してドラゴンへと走る。
『【ゴッドサンダー】が接敵次第、【ヘルヴォル】及び【神鳴雷槍】、【蒼月の龍皇星】は前衛に。エンゲージ後は白兵戦に集中。
 炎を吐こうとした瞬間に全員で一斉射撃を開始する』
『……了解』
 岩造からの指揮が終わった頃には、起き上がったドラゴンが、接近するイコン達を視界に入れていた。
 漆黒のドラゴンが首をもたげて翼を広げると、太陽に雲がかかったのかと思うほどに周囲が暗くなる。
 そして広げた翼を羽ばたかせて、飛行を開始した。
『こちら【ゴッドサンダー】、エンゲージ!』
 ドールが翼で風を切るドラゴンを見上げながら短く通信を入れ、メインモニタに映る巨躯を見て息を呑む。
 裁は怯まず、まだ地面からそう離れていないドラゴンの脚にビームサーベルを突きたてた。
 飛翔しようとするドラゴンの衝撃で機体が揺れ、コクピットに激しい振動が走る。
 このまま接近をしているか、一度離脱をするか。一瞬の迷いがドラゴンに攻撃を許した。
 頭上からの体重を乗せた爪が襲い掛かる。何とか反応したが、虚を突かれた為にそのまま腕を出してしまった。
 間接駆動域を大きく超えて、イーグリットの腕が曲がった。その勢いで、機体ごと地面に倒れる。
『【ゴッドサンダー】、大丈夫ですか!?』
 レイヴがクェイルでドラゴンと裁達の間に入り、頭上に向けてアサルトライフルを発射。
 しかし、狙わずに撃ったライフルは牽制にしかならずに空を切った。
 追撃を防ごうとビームシールドを展開した上に、ドラゴンが体重を乗せた足の爪を食い込ませる。
 ユイがカバーに入ろうとして、ビームシールドを展開しながらドラゴンの足へ体当たりを仕掛けるが、反動を殺しきれずに吹き飛ばされた。
 爪とビームシールドが拮抗する音の合間に、あちこちから破砕音が混ざってレイヴのコクピットに響く。
 折り重なるイーグリットとクェイルを踏み潰そうと、ドラゴンが力を込める。
「ゴールドッ!」「わかってます!」
 半ば悲鳴にも近い声を出しながら、アリスがコームラントを操り、ビームキャノンを構えさせた。
 照準を合わせようとするが、なかなか合わない。コクピットに響く外音が、手を震えさせる。
「わああああっ!!」
 ロックもままならいままに放ったゴールドのビームキャノンは、幸いにもドラゴンの翼に着弾した。
 体重を掛けていたドラゴンの足を微かに持ち上げることに成功したのを確認すると、アリスが叫ぶ。
『お願い!』『任せろ!』
 岩造の乗っているクェイルが、ドラゴンの下に移動。イーグリットごと、クェイルをドラゴンの足元から引き摺り出す。
 続けて、頭上のドラゴンに向けてアサルトライフルを放つが、一人で操縦から射撃まで、行うには無理があった。
 ほぼ全ての射撃はドラゴンの身体を掠めるか、黒く光る鱗を数枚欠けさせるに留まった。
 獲物を奪われた事に怒りを覚えたのか、ドラゴンが岩造のクェイルに炎を吐き出し、機体ごと焼き尽くそうとする。
「ぬぅ……ッ!」
 何とかビームシールドを正面に構えるが、一瞬で汗が噴出す程にコクピット内の温度が急上昇していく。
 炎の勢いに脚部が曲がり、クェイルがバランスを崩した所へ、ドラゴンが爪を振るう。
 横合いから振られた爪は、クェイルの胴体を深く破壊した。激しい破砕音と共に機体が吹き飛ぶ。

 転がるクェイルに向かって、更に追撃をかけようとするドラゴンの表皮が弾け飛んだ。
 何事かと振り向くと、ゴールドが駆るイーグリットがビームキャノンを構えていた。瞼を瞳に乗せて細め、ドラゴンが口を開く。
 喉の奥から湧き上がる炎が見え始めた時、轟音と共にドラゴンの頭が跳ねた。
『こちら、【ゲイ・ボルグ】。大丈夫か?』
『こちら【神鳴雷槍】……ありがとうございます』
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が乗るコームラントから通信が入る。
 ゴールド達のコクピットモニタには、コームラントだけではなく他にも数機のイコンが映っていた。
『動ける機体で、パイロットの救助を最優先してくれ。さすがに故障機をカバーしながらは戦闘できない』
『了解です』
 素直に指示を受けてゴールド達は岩造のクェイルへと接近していく。

「熱源反応、頭上……更にその後方!」
 複座から綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が紫音に叫ぶと同時に、コームラントを下げた。間髪入れずに、先程まで居た場所に火球が舞い降りる。
「まだっ!」
 駆動限界までコームラントを操って、風花が二発目の火球を避ける。見上げれば、口から炎を零した純白のドラゴンがこちらを睨んでいた。
 空中からの攻撃を続けようとするドラゴンの翼に、数発のビームが打ち込まれ、僅かに血が舞う。
『こちら【ヴァイスハイト】。撃墜機の撤退まであとどれぐらいかかりそうだ?』
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が遠距離からの射撃でドラゴンを牽制しながら、移動を繰り返す。

 押されるドラゴンを見てなのか、上空から待機していたコームラントが現れた。
「おい、赤坂ぁ! あのドラゴン……叩き落とすぞ! さっさと照準しやがれ!」
「うっさいわね! もうやってるっつーの!」
 折原 宗助(おりはら・そうすけ)が急かすと、既に作業に入っている赤坂 琴葉(あかさか・ことは)が操作を続けながら切り返した。
 メインモニタに映し出される照準を固定。短い電子音がコクピットに響く。
「照準セット……いけるわよ!」
「っしゃあ!」
 意気揚々と放った射撃は、ドラゴンの翼を僅かにそれた。
(っ!? ずれた? 狙いが甘かった……?)
 琴葉が慌てて修正を入れる横で、宗助が舌打ちをする。
「ちぃ、少しずれたか。まぁいい。次っ!」
 琴葉はパネルを叩きながら、照準に微細な修正を加えていく。既に撃った軌跡をトレースし、再度照準を固定。
 短い電子音が再びコクピットに響いた。
「ロックオン!」
「おらおらおら、堕ちやがれぇー!」
 叫び声を上げながら放たれたコームラントの攻撃が、ドラゴンの翼を撃ち抜いていく。
 宗助達の襲撃も加わり、攻撃を受けるドラゴンは翼を翻して後退する。

(真司、更に追撃を確認。今度はこちらも攻撃対象の様です)
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が真司の脳内に直接語りかけながら、回避行動を続ける。
『【ヴァイスハイト】へ。対象は安全圏まで退避が完了した』
 幾度かの火球を回避した後、聡からの通信が入った。その言葉を聞いて、真司達は体勢を立て直すために後退した。



 空から地上に降りた漆黒のドラゴンに向かって、一機のクェイルが疾走する。
「ふむ、これがイコンか……悪くは無いがもうちょっと反応が良ければな。
 ま、予測と勘で何とかするしかないな」
 ドラゴンに向けてクェイルを走らせながら、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は少し残念そうに目を伏せる。
「と言うか……とっくに射程範囲内だぞ、唯斗」
 エクスが接近を続けながら、未だにアサルトライフルをドラゴンへ向けないパートナー、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)に確認をする。
「遠くから撃ってりゃ良いってもんでもない。イコンだって使い方次第さ」
 そう答える唯斗の言葉に、若干の嫌な予感を覚えながらもエクスは接近を止めない。
 距離が詰まり、手を伸ばせば届きそうになった時になって、ようやく唯斗が動き出した。
 突っ込んできたクェイルに炎を吐きかけたドラゴンに、超至近距離からライフルを撃ち続ける。
 狙いを定めるわけでもなく、ただドラゴンに向けて打ち出し続けた弾は、首や顔の鱗を砕いていく。
 ドラゴンが痛みに口を開いた瞬間、唯斗がクェイルの左手を開いた口の中に突っ込んだ。
「…………」
 眉間に皺を寄せながら、エクスが距離を離そうとクェイルを制御するが、コクピットに軽い衝撃が走るだけで、機体が下がる事は無かった。
 モニタを見れば、撃ち切ったライフルを手早く捨て、開いた右腕でドラゴンを掴んでいる。
 唯斗はそのまま、噛み砕かれそうになっている左腕を操作して、ドラゴンの口内でビームシールドを展開した。
 口の中を削られる痛みに、ドラゴンがクェイルの左腕を完全に噛み千切る。
「イコンだから出来る攻撃、ってな」
 微妙に誇らしげなニュアンスが入っている気がするが、口調がいつもと同じ為、真意は測れなかった。
 口の中に残ったクェイルの残骸を吐き捨てるドラゴンに向かって、クェイルの右拳を繰り出す。
 特に仕掛けがあるわけではなく、単純に殴りに行った攻撃は、あっさりと牙によって文字通り砕かれた。
「……………………で?」
 深い沈黙の後、エクスが唯斗に問いかける。
「撤退」
 ドラゴンが口の中の残骸を再び吐き捨てる隙を突いて、クェイルが下がる。
 ほぼ両腕が無くなったクェイルを必死に操りながら、エクスが深い溜息をつく。
「整備をする人間が泣くぞ?」
「やり甲斐が有り過ぎてか?」
「……もう何も言うまい」
 当然の様に切り返す唯斗に軽い頭痛を覚えながら、エクスは全力でその場から撤退した。

「……大丈夫なんですかね、あれ」
「さぁ」
 バイクに跨ったプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が、後ろに乗っている紫月 睡蓮(しづき・すいれん)と一緒に戦線を離脱する唯斗達のクェイルを眺めている。
 元々プラチナム達も唯斗達と共に、随伴歩兵としてバイクで出撃する予定だったのだが、自分達の数倍の大きさの炎やレーザー、弾丸が降り注ぐ戦地をバイクで駆け抜けるのが無理だと悟り、戦場全体の把握に努めていた。
「もし同行していたら、あの状況の中を走ってたんですかね」
「多分、そうでしょうね」
 プラチナムは、乾いた笑いを浮かべる睡蓮の遥か後ろで飛行中の、白いドラゴンを見つめていた。
 地上のイコンと戦闘しながらも、何かを探しているように見える。
「……とりあえず、クェイルと合流しましょうか」
「そうですね」
 何か胸に引っかかるものを感じながら、プラチナムはバイクのアクセルを開いて撤退するクェイルを追いかけていった。



「いやいやいや。そこまでやったらもう廃棄寸前レベルだぞ」
 現状の戦況報告を受けた聡が、頬を引き攣らせる。
 続けて、白いドラゴンと交戦中の【ヴィントシュトース】に、聡が通信を入れる。破損の度合いが他の機体よりもわずかに大きい。
『【ヴィントシュトース】、そっちは大丈夫か?』

「こっちはまだ、撃墜されてないよ!」
 何か間違ったカテゴリに分類された気がする通信に返答しながら、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が、ドラゴンの攻撃を器用にサイドステップで避ける。
 機体のすぐ横を、地面を抉りながら、爪が通過していくのが見えた。
「だが、近いものは感じるな……次に攻撃を受けたら確実に堕ちる」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が炎を吐いてくるドラゴンの口内に攻撃を仕掛けながら淡々と答える。
 二人が乗るクェイルは、確かにまだ撃墜されてはいないが、機能を停止するまでそう遠くないダメージを負っていた。
『こちら【グラディウス】。可能であれば上空に向けて射撃を! 狙わなくていいから、射撃後は速やかに戦線の離脱を!』
『【ヴィントシュトース】、了解』
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が搭乗するクェイルからの通信を受けて、ロートラウトが直ぐにアサルトライフルを上空に向けた。
 指示通りに特に照準も合わせないまま、エヴァルトがトリガーを引く。牽制を受けたドラゴンが、攻撃の手を緩める。
 アサルトライフルを撃ち切ったエヴァルト達の機体が下がると、その場に美羽が乗っているクェイルが全力で走ってきた。
 その機体は金色に輝いて、日の光を反射している。
「いきますよ!」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、上空のドラゴンに少しでも近づこうとクェイルを跳躍させた。
 美羽は、反撃とばかりに口を開いて炎を吐こうとするドラゴンの口内に、アサルトライフルを撃ち込む。
 しかし空中での射撃は当然狙いが定まらずに、撃ち込んだ攻撃はドラゴンに容易な回避を許してしまう。
 だが、美羽に焦りの色は見えない。
 無理やり跳んだ機体は大きな音を立てて落下したが、それ以上に大きな咆哮が空に響いた。

「イコン戦で頼りになるのは、やっぱり天御柱学院だね」
 落下の衝撃に顔を歪めながらも笑う美羽の視線の先では、ビームサーベルをドラゴンに突き立てるイーグリットの姿があった。
 素早くビームサーベルを引き抜いたイーグリットは、ドラゴンの身体から離脱。反撃の炎を鋭角的な動きで避けていく。
『こちら【ファング】。大丈夫ですか?』
『大丈夫っ! ……ちょっと壊れてる所もあるけど」
 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が、機体の制御をしながら美羽達のクェイルに目を向ける。
 無茶な動きをした分、機体に損壊が出ているが、動けないわけではなさそうだ。
「美幸、少し離れた場所で降下を」
 綺雲 菜織(あやくも・なおり)が複座に座るパートナーへ指示を出す。降り立ったイーグリットを追って、菜織達の正面にドラゴンが降下した。
 翼を広げ、爪を振るうドラゴンの攻撃を美幸が半身ずらし、ビームライフルの銃身で受け流す。
 そのまま相手の攻撃の勢いを、ビームサーベルを振る腕に集約して袈裟懸けに胴を切り裂く。
 赤黒い血を胴体から流しながら声を上げたドラゴンは、翼を利用して後ろに跳躍した。

 徐々にではあるが、ドラゴンに疲弊の色が見え始める。