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令嬢のココロを取り戻せ!

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令嬢のココロを取り戻せ!

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 早い時間の軽い茶菓でみながくつろいだ頃、招待者たちによる演目の発表がいよいよ始まった。

 まずは一番手。佐野 豊実(さの・とよみ)は、簡素な紫紺の和装に身を包み、黒髪をゆるく結い上げていた。無骨で強持てながら、どこか生真面目さを漂わせた夢野 久(ゆめの・ひさし)が、巨大なカンバスを布でくるんだものを携え、その脇に静かに立った。
「いかな麗しき花とはいえ、毎日欠かさず見ていれば……それは最早、ただの日常。水準が高かろうともそれは停滞を招く。心を動かすには触れ幅が必要と考えた。……では見て頂こう」
 流れるような一動作で夢野が布を取り払うと、携えていたものの本質が現れた。荒れ、枯れ果てた荒野の絵だ。そこには生命の欠片すら感じられなかった。飢え、渇き、果ては瘴気すら渦巻く。風景画でありながら、それは見るものの心に絶望感すら抱かせる。列席者から、うめくようなざわめきが巻き起こる。しばしのち、
「そういった形での、貴女の思い、拝見いたしました」
エレーナが静かに言った。佐野はふっと笑みを浮かべ一礼すると、久野を連れて壇上を去った。
「あのお人は何か新しい趣味だか目標だかを持つべきだな。やりたい事ってぇか、気合入れて取り掛かりてー事がありゃー、概ね人生にゃメリハリが付くもんだ。だって、上手く行かなきゃ悔しいし、順調なら嬉しいもんな」
久野がぼそりと言う。
「満腹ではどんな御馳走も美味しく無い。だから先ずは飢えて貰おうと言う趣向さ」
飄々と佐野が返す。
「豊美さん、あれは要するに他の奴の出し物の効き目の強化だろ? それで一等最初にしてもらったわけだろう」
佐野は目を細めただけで、何も言わなかった。少し離れた位置でそんな会話を交わす二人を、エレーナは静かに見つめていた。

 ついでルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が進み出た。強い黒髪に髭の、ワイルドな男らしい美男子だ。教導団軍服に身を包んではいるが、野性味は損なわれていない。
「こんにちは素敵なお嬢さん。贈り物を受け取っていただけますか?」
香り高い、真紅の薔薇の花束を差出しつつエレーナに声をかける。
「まあ、ありがとうございます」
エレーナは嬉しそうに花束を受け取り、その甘い香りを胸いっぱいに吸い込む。
「オレはかくのごとくナンパな性格でして……女性とみると声をかけずにいられないんですよ」
ルースはははは、と笑った。
「オレには今、恋人がいるんですが、こんなオレに愛想を尽かさず支えてくれて……私が傍にいますってね。今のオレは本当に幸せで……そろそろ付き合い始めて一年になるんです。その、記念日に指輪をプレゼントしてプロポーズしようと思ってるんですがね」
エレーナは微笑んだ。
「まあ、それはステキですね」
「だから、その……きっとあなたにも恋人ができれば幸せで心が満たされますよ。ちょっとのろけになってしまいましたか。ははは……」