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リアクション
黒髪の美少女僧侶、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が立ち上がった。軽く咳払いをすると、おもむろに説法が始まったのだった。
「まずはこの素晴らしい花々の咲き乱れる素敵な庭に感動致しました。わたくしは普段は大荒野のあたりをうろうろしているのですが、そこは本当に草も木もまだらで何も無く、殺風景なところですわ。それゆえにか、町並みや自然の美しさに触れたときに、感動できるようになった気がするのです。何も無いところを見ている、というのも心の肥やしになるのです。
この庭のように恵み多く、むしろ恵まれ過ぎている。それも悪ではありません。
ただし、感謝する心を忘れぬように……」
そこから堅苦しい説法が始まった。単調な声。暖かい日差し。バラを訪れる、休眠前のミツバチの、物憂げな柔らかい羽音。御剣の淹れたラベンダー効果とあいまって、列席者たちは次々と居眠りを始めたリリィは語るほうに意識が全て言っており、列席者の反応に全く気付かない。
エレーナは一人頷きつつリリィの説法を聞ききった。それを見た山葉は、あくびを噛み殺しつつ、一人ごちた
「あれを聞ききるんだから大したものだ」
「チキショウ!チキショウ!! なんでテメー1人のためにこんなに人があつまりやがる! なんで小娘1人のためにテメーら一生懸命になってやがる!!
突如会場の片隅からゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が立ち上がり、大声で喚き始めた。説法に眠り込んでいた列席者たちが驚いて目を覚ます。
「オメーみたいに幸福な奴がいるから俺様のように不幸な奴が出てくるんだ!! お前ら全員、俺様の幸福のために、不幸になりやがれぇぇ〜〜!」
緑の髪を振り乱し、自分のそばのテーブルに向かっておもむろに炎を放つ。即座に周囲のメンバーが反応した。ゲドーを取り押さえ、火を消し止める。警備員がゲドーを庭から速やかに連れ出した。
令嬢はぽつっとさびしげにつぶやいた。
「あの方、なぜそこまで人を呪うしかなくなったのでしょうね……」
芦原 郁乃(あはら・いくの)は素朴なタッチで描いた絵を、ニコニコと差し出した。四季の花々が多々入り乱れて咲く絵だ。決して上手い絵ではない。しかしそこには暖かさが感じられた。
「春には春の花、冬には冬の花が咲くように、その時々、見る人、見方によって見える世界もどこか少しずつ違うんじゃないかって思うんです。そんな気持ちが伝わるといいなぁと思って、この絵を描きました。よろしかったら受け取ってくださいね」
エレーナは微笑んで、絵を受け取った。
「どうもありがとう。暖かい日差しのような絵ですね」
「お庭を一緒に見て回りましょう。いっぱいステキなものがあるんですから」
芦原のパートナーの秋月 桃花(あきづき・とうか)はハルニレの木をモチーフにし、周囲をレースで飾ったタペストリーを差し出した。
「桃花からはこれを。よろしかったらどうぞ、エレーナ様」
おっとりと微笑む。
「ハルニレの花言葉は『信頼』ですね……」
エレーナは言って、桃花の瞳を静かに覗き込んだ。
「はい」
「素晴らしいタペストリーですね」
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