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令嬢のココロを取り戻せ!

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令嬢のココロを取り戻せ!

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 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)とは、たくさんの食材と、大きな鍋、取り皿、簡易コンロといったものを運んできた。
「美味しいものを食べる感動をえていただきたい、と思いましてね」
シリウスが言った。
 「手早く出来ますので、雪見鍋を作ろうと思いまして」
リーブラが言いながら、鍋に昆布を敷き、水を張って火にかける。白菜を3玉、ネギ3本を取り出した。近くにいた芦原、秋月、御剣に、シリウスが声をかける。
「ちょっとこの白菜の葉をさ、洗ってきてくれないかな?」
声をかけられた3人は快く承諾し、各々1玉ずつ抱えて、丁寧に葉をはがし、洗ってゆく。
「お肉を切りましょうかね」
その間にリーブラが薄切りの豚肉を手早く一口大に切ってゆく。シリウスが大振りの大根を取り出し、大雑把に切る。
「大根を多量に下ろさねばな」
「わー、大根おろし、あたしやる〜」
ノーンが駆け寄ってきた。
「お、じゃオレもやるが、頼む。エレーナお嬢様もやってくれるか?」
「あら、はい」
ノーンに教わりつつ、エレーナも大根を下ろす。
「これ……案外大変なものなのですね」
エレーナがだるくなってきた腕をさすりながら言った。
「ちょっと大変ですわね」
リーブラがにっこりする。
煮え立った鍋に、白菜を入れ、肉に火が通ったあたりで、大根おろしを投入。
「ああ、このさまが雪が積もったようだから、雪見なのですねえ」
エレーナが感心したように言う。答えてリーブラが言う。
「そうなのですよ〜。さあ、皆さん召し上がれ」
ポン酢の入った取り皿を皆に配る。
「お料理って手間がかかるけれど、自分で作ってみるのも楽しいものですね」
「そうでしょう?」
シリウスが言ってウインクして見せた。

 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)はテルミンをテーブルに設置すると、この奇妙な楽器を操ってシューベルトのアヴェ・マリアの演奏を始めた。独特の、うなるような音が、優雅な歌曲を奏でてゆく。
「どうです? 面白いものでしょう? 演奏してご覧になりますか?」
 演奏が終わり、興味深げに楽器を覗き込む令嬢に、大久保が言う。
 大久保は言って、エレーナにやり方を教えはじめた。
「こんな風にやればいいんですよ」
「あら、ちゃんと音がでたわ」
エレーナが嬉しそうに言う。
「テルミンは、シンセサイザーの大本になった、とも言われる電子楽器です。スイッチを入れて、手の位置によっていろんな音が出るんですよ。面白いでしょう?」
フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は大久保のわきについていたが、にぎやかに話し始めた。
「僕の没後出てきたおもしろい楽器だね。そうそう、これで音を奏でて、何の音をイメージしたものか当て物をしましょうか」
 テルミンで大久保が次々と小節を演奏してみせ、列席者たちが各々にぎやかに小鳥のさえずり、虫の声、風の音だ、などと思いつくままに声を上げてゆく。一渡りにぎやかな当て物が終わったあと、シューベルトが言った。
「音当てクイズ用に『断末魔の肉食動物のけいれん』とか『ニオイアラセイトウ』とか、古くからのメロディもまぜておこうとしたんですが、マイナーすぎるって泰輔に却下されちゃったんですよ。ははは……」
「いや、そんなの誰も知らないから……」
大久保がぼそっと呟いた。