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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

リアクション

――暴れる猿の捕獲をしていた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)の目に入ったのは、猿に襲われる少女のはずだった。
 少女を助ける為に、淳二は駆けつけたのだが――
「……なんだ、これ?」
 駆けつけた先にあった光景に、淳二が言葉を失う。

「あによぉ〜! あらひらっれれぇ〜! かっこひぃかれひほひぃんらかられぇ〜!」
 
 そこでは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が猿に絡んでいた。
 片手には酒瓶を持ち、もう片手で猿の胸倉を掴んでガクガクと前後に揺する。
 淳二に気づいた猿が『どうにかしてくれ』という目で見てくる。
「いや、そんな目で見られても……」
「ちょっろぉ! ひぃへんろぉ!? うぇっぷぅ……」
 よそを向いている猿を強引にミルディアは自分に向きなおす。
「そ、相当酔っ払ってるな……」
 自分にまで漂ってくる酒の臭いに顔を顰める淳二。
「あによぉ! あんらあらひをばかにひへんれひょ!」
 そういうと、ミルディアは猿をガクガクと揺らしだした。よく見るとサルの顔が赤くなっている。首が絞まっているのだ。
 苦しさから逃れようと猿はもがいていたが、やがてどんどん青くなっていき、遂には失神してしまった。
「うぅ……どいつもこいつもぉ〜!」
 そういうなり、ミルディアは横になった。その直後、物凄いいびきをかきだした。眠ってしまったようである。
「……この状況、どうしろと?」
 失神した猿、そして大いびきをかくミルディアを前に、淳二が困ったように呟く。
「きゃーーー!!」
「この声は……ミーナ!?」
 聞き覚えのある悲鳴に、淳二は駆け出した。
「は、離してください!」
「ミーナ! どうした!?」
「そ、その声は淳二ですか!?」
 淳二がかけつけると、そこには猿に囲まれたパートナーのミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)がいた。
「待ってろ、今助け……」
 淳二の言葉が詰まる。ミーナが着ていたはずのビキニが、無くなっていたからだった。
「な、何で水着を着ていないんだ!?」
 肝心な部分は手で隠しているとは言え、恥ずかしくなり淳二は眼を逸らした。
「お、お猿さんに取られちゃったんですよ……や、止めてください! 離して!」
 ミーナの悲鳴に淳二ははっとなり、向き直る。猿はミーナを連れ去ろうとしていた。
「っとそうだ! お前ら、ミーナから離れろ!」
 淳二が猿を追い払おうとするが、数が多すぎて中々うまくいかず、次第に焦りが出てくる。
「まてぇーッ!」
 そこへ、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)が駆けつけてきた。
 増援に分が悪いと判断した猿達はミーナを諦め、一斉に逃げていった。
「糞っ! 逃がした!」
 逃げる猿を見て、信長が怒りを露わにする。
「大丈夫か?」
 忍が淳二達に言う。
「すまない、助かった……あの猿達を追っているようだが、どうかしたのか?」
「ああ……あいつらに香奈を攫われたんだ」

――少し前、プールにて。
 泳げない忍は、パートナーの東峰院 香奈(とうほういん・かな)と信長に泳ぎ方を教わっていた。
「す、少し休ませてくれ。泳ぎっぱなしで疲れた……」
「なんじゃ、だらしないのう」
 呆れたように信長が言う。
「まあまあ、ちょっと休憩にしようよ」
 そんな信長を宥めるように、香奈が言った。
「けど、少し泳げるようになってきたんじゃない?」
「だから言っただろ? 俺は泳げないんじゃなくて、泳ぎ方を知らないだけだって」
 そう言って梯子を上り、プールサイドへと上がろうとする忍。梯子からプールサイドへと足を乗せた時だった。
「うわっ!?」
 忍は足を滑らせ、プールへ転落した。
「しーちゃん!?」「忍!?」
 突然の事に、泳げない忍は軽いパニックになりつつも浮き上がる。
「ぷはっ! な、何なんだ……ん? 何でこんな物が?」
 忍の傍を、バナナの皮が浮いていった。これを踏んでしまった為、足を滑らせたのだろう。
「きゃーーーー!!」
 突如、悲鳴が上がる。
「ど、どうした!?」
「し、しーちゃん助けてぇ!」
 プールサイドでは、香奈は水着を剥がれた上、猿達に担がれていた。その横では水着を奪われた信長が猿を追いかけている。
「ま、待て!」
 忍が必死で追いかけようとするが、慣れない水の中ではうまくいかず、猿達はそのまま香奈を連れて逃げ去ってしまった。

「あの猿達を捕まえれば、香奈を何処に連れ去ったか解るかもしれないんだ……いたっ!」
 話し終えた忍が、痛みに顔を歪める。よく見ると頬が腫れていた。
「それも猿にやられたのか!?」
「い、いや違うんだ……いてて……」
 淳二の言葉を忍は弱弱しく首を振って否定した。
「どういうことだ?」
「こ、これは信長に蹴られたんだ……」
「な、何でだ?」
「いや、猿を追いかけてる時に信長と正面からぶつかったんだけど……アイツ、その時水着が無い状態だから……」
 忍が苦笑した。ちなみに今は流石に信長は木の葉で隠していた。
「わ、わしのせいではない! これも全て猿のせいじゃ!」
 誤魔化すように、信長が叫んだ。
「取り込み中の所すまない。人を探しているんだが、見かけなかったか?」
 そこへ、柊 北斗(ひいらぎ・ほくと)よいこの絵本 『ももたろう』(よいこのえほん・ももたろう)が会話に入ってきた。
「人? どんな人だ?」
「えっと……金髪の小さい女の子です」
「名前はイランダという」
 淳二の問いかけに、ももたろうが答える。
「……いや、俺は見かけていないよ」
 淳二が首を振る。
「俺たちも見ていないな」
「うむ」
 忍と信長も同じように首を振った。
「そうか……邪魔してすまない」
「その子がどうしたんだ?」
「一緒にいたんだが、目を離した隙にいなくなったんだ。さっきから周りじゃ猿の被害が出ているらしいし、もしかしたら攫われたのかもしれない」
「ボク達も探しているんですけど……誰も見てないって」
 北斗とももたろうが、落ち込んだように言う。
「そうか……力になれなくて申し訳ない……ん? ミーナ、どうした?」
 ふと、淳二は何か考えているミーナに気づいた。
「あの……私、見たかもしれません」
「な、何だって!? 詳しく話してくれ!」
「は、はい……今思い出したんですけど、さっき襲われた時に他に二人女の子を担いでるお猿さんを見ました。その内の一人は金髪だったので、そのイランダという子かもしれません」
「二人……ってことは、もしかしたら、もう一人は香奈かもしれない!」
 忍の言葉に、ミーナが頷いた。
「その猿は何処へ行った!?」
「えっと……あっちの方へ」
「こうしちゃいられない! イランダーッ!」
 ミーナが指差す方向へ、北斗が物凄い勢いで走っていった。
「ま、待ってくださいよぉ北斗さーん!」
 その北斗の後を、ももたろうが慌てて追いかけていく。
「そ、そうだ! こうしちゃいられない! 俺達も追いかける!」
「お、おい忍! 私も行くぞ!」
 駆け出した忍の後を、信長が追いかけていった。
「……けど、気になります」
 四人が走り去った後、ミーナが呟いた。
「え、何が?」
「いえ、さっきあの人が言っていた小さい子なんですが……」
「その子がどうしたんだ?」
「その子……攫われたはずなのに、楽しそうに笑ってたんですよ」

「うぅ……離してよぉ……」
 香奈を掲げ、猿達が走る。水着を取られた香奈は胸を隠しているので、迂闊に抵抗が出来なかった。
 その横に、猿達に運ばれているイランダ・テューダー(いらんだ・てゅーだー)がいた。
「よーっし、さっきは邪魔されたけど次行くわよー!」
「「ウキーッ!」」
 イランダが叫ぶと、猿達は鳴き声を上げる。
 香奈と違い、イランダは水着を剥ぎ取られていない。それもそのはず、彼女と猿は現在共闘状態にあるのだ。

――イランダと猿達の出会いは、茂みの中だった。
「さーってと、北斗達も撒いたし……何をしてやろうかしら」
 一人行動していたイランダが、これから北斗達に巻き起こるであろう事を想像しほくそ笑んでいる所。
「「あ……」」
同じように、イタズラを企んでいる猿達と出くわした。
「「……」」
 一瞬驚くが、イランダと猿達はお互いを見つめあい、やがて手を差し出した。同士という事を本能が理解したのである。
「一緒に楽しむわよ」
「ウキッ」
 がっちりと握手を交わすイランダと猿。そして彼女達が思いついたのが、誘拐だった。
 水着を脱がしてしまえば抵抗も難しく、連れ去りやすくなる。騒ぎになるのが想像に容易い。
「ふっふっふ……楽しくなりそうねぇ……」
 そこに、邪悪な笑みを浮かべたイランダと猿がいた。

「見つけたッ! 香奈ぁッ!」
 忍が追いつき、香奈の名を叫ぶ。
「し、しーちゃん!」
「香奈ぁーッ!」
「危ないっ!」
 猿が足止めの為ゴミ箱を倒し、忍が散乱したゴミに足を取られ転びそうになるが、危うい所で信長が受け止める。
「おっと、油断するな忍」
「ああ、悪い……! 待ってろ香奈ぁーッ! すぐ助けるからなぁーッ!」
「しーちゃん……」
 そんな忍の横を、同じように全速力で走る北斗がいた
「イランダァーッ! 今すぐ助けるぞぉーッ!」
 北斗が叫ぶ。
「北斗ぉー! ……ていっ」
 イランダが北斗目掛け、どこからか取り出した椰子の実を放り投げた。
「がふぁッ!?」
 椰子の実が顔面に当たる。
「ほほほほほ北斗さん! 鼻血が!」
「さ、猿め……くっ、何のこれしき……」
「北斗ぉー、助けてぇー!」
 イランダが叫ぶと、
「イランダァーッ!」
すぐさま北斗が駆け出した。勿論演技なのだが、北斗は気付きもしない。
「ほいっ」
 そんな北斗目掛けて、イランダがまた椰子の実を放る。
「くっ……そう何度も同じ手を……」
 飛んできた椰子の実を北斗は払いのけた。
「喰らうか……あぁッ!?」
 直後、足元に落ちていたバナナの皮で北斗がずっこけた。椰子の実をブラインドに、イランダが仕組んだ罠であった。
「ほほほほほ北斗さぁーん!? 今! 今ぐちゃって鈍い音がぁー!」
 ももたろうの悲鳴のような叫びが聞こえてきた。
「こ、これしきでぇーッ!」
「ほ、北斗さん頭! 頭から尋常じゃないくらい血がぁー! ってこっちに倒れてこないでくださいぃー! いやぁー潰されるぅー!」
 血を失った北斗がよろけてももたろうへと倒れこむ。ももたろうも支えきれず、北斗の身体に圧し潰されてしまう。
「あぁ……やっぱり北斗は思い通りに動くから面白いわ……」
 満足げにうっとりとした表情でイランダが呟く。
(……なんでこの子までイタズラしてるんだろう?)
 そんなイランダを、香奈が横目で見ていた。
「ウキッ」
 猿が指差す先に、看板があった。
「何々……この先南国バー……よーし、このまま突っ込むわよー!」
「ウッキー!」
 イランダの言葉に、猿達はサムズアップで応えた。

 プールサイドに併設してある南国バーは、泳ぎ疲れた客達で賑わっていた。
 そんな中で、滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)がぼんやりと椰子の実ジュースを飲んでいた。
「ああ、美味しいですわ」
「ほう、このような物を口にするのは初めてじゃか、中々いけるのぉ」
 洋介の視線の先のテーブルにいるのは、トロピカルドリンクを飲む雑賀 孫市(さいか・まごいち)道田 隆政(みちだ・たかまさ)
「うぅ〜……何よあの胸ぇ……何処どうすればああなるのよぉ……不公平よぉ……」
 そして、自分の胸とは比べ物にならないほど豊かな二人の胸を妬みの視線で凝視しつつ、ブツブツと何かを呟くエリー・プラウド(えりー・ぷらうど)が、他の客が引くくらいの負のオーラを放っている。
「はぁ、平和だ……」
 その光景を見て、洋介は呟いた。第三者から見たら一部が異様な光景だが、洋介にとってはいつもの光景だ。
「あら、洋介君。そんなとこにいないでこっちにいらっしゃいよ」
 視線に気づいた孫市が、洋介に手招きする。
「そうじゃ、洋介も一杯やら……お?」
「どうした?」
「いや、あれは猿かの?」
 隆政の視線の先には、猿の集団がいた。
「あら本当。赤毛のお猿ですわね」
「……な、なあ……あれこっちに向かって来てないか?」
 洋介の言う通り、猿の集団はバーに向かってきていた。
「つ、突っ込んでくる!」
 そして、猿の集団がバーへ突撃してきた。
 バーが、悲鳴に包まれた。

「ぐ……い、いてて……」
 洋介が、猿に突撃された衝撃で打った頭をさすりながら周囲を見渡すと、猿が客を襲っていた。
 女性客からは水着を剥ぎ取り、男性客にはバーの酒をかけたりと猿はやりたい放題だった。
「そ、そうだ! みんなは!?」
 洋介が皆の姿を探そうと見渡した直後。
「洋介くぅ〜ん、お猿さんに水着取られてしまいましたわぁ〜♪」
 孫市が裸の上半身を隠そうともせず、腕に抱きついてきた。その揺れる胸に、襲われながらも男性客から歓声が上がる。
「ちょ! 孫市姉さん見えてますよ!? ああなんか腕に柔らかい感触が!」
「あらぁ、洋介君なら構いませんわ♪」
「ぬぅ……孫市、抜け駆けとは卑怯な」
 背後から洋介の耳に入った声は、隆政の物だった。
「隆政姉さん、無事か!?」
「いや、わしも盗まれてる」
 洋介が振り返ると、やはり水着が無い箇所を隠そうともしない隆政がいた。こちらも男性客から歓声が上がっている。
「なんであんたも隠そうとしてないんだよ!」
「ふむ、ならば洋介に隠してもらうかのう」
 そう言うと、隆政が洋介の背中に抱きつく。
「隆政姉さん背中に! 背中にむにむにとした感触が当たってるんですがぁ!」
 その光景を男性客から、歓声と呪詛が上がっていた。

「……で、何で私は何の被害も無いのよ!」
 エリーが吼えるように、猿達はエリーを全く襲おうとしなかった。
 近くに来ても通り過ぎるだけ。エリーをスルーして、後ろに居た女性客を襲ったなんて展開がもう何度もある。
「……ちょい待ち!」
 通り過ぎようとした猿を、エリーが強引に捕まえる。
「何であんた達、私をスルーしてるのよ」
 エリーが睨みつけながら言うと、猿は視線を落とした。その先にあるのは、エリーの胸。
 ふぅ、と猿が溜息を吐いた。そして哀れんだ目でエリーを見ると、猿は肩をポンポンと叩く。その目が『まぁ、元気だせや』と言っていた。
――エリーの中で、何かが切れる音がした。

「お、お二方! とりあえず何か着る物で隠して……」
 洋介が辺りを見回した直後、
「ウギィィィィィィィィィぐぅえっ!」
猿が一匹、地面と水平に飛んで来てバーのカウンターに叩きつけられた。
「な……何が……?」
 飛んできた方向を見ると、エリーが凄まじいオーラを孕んで立っていた。背景に『ゴゴゴゴゴ』といった擬音が良く似合いそうだ。

「貧乳って……貧乳って……ひ、貧乳ってバカにしたなぁー!」

「や、やべぇ! おい待てエリー! おちつぐふぇッ!」
 怒り狂うエリーを止めようと洋介が抱きつこうとするが、顔面にストレートを喰らいプールへ吹っ飛ばされ、水しぶきを上げ着水する。
「何よぉー! どいつもこいつもバカにしてぇー! 貧乳で悪いかこのやろぉー!」
 吼えるエリーの目に、猿達が入ってきた。そしてお互いの目が合う。
「……アンタらもバカにするのかぁーッ!」
 そう叫ぶと、エリーは猿達に向かって突撃していった。
 その後、洋介はプールの底からゆっくりと、伏せたまま浮いてきた。

「あらあら、洋介君、プールに沈められちゃいましたわ」
「全く、もう少し楽しみたかったのだが」
 プールにぷかぷかと浮いている洋介を眺めながら、孫市と隆政が残念そうに溜息を吐く。
 その背後に、二人の水着を持った二匹の猿がじりじりと近寄り、そして飛び掛った。
「調子のるなよ、猿が」
 直後、隆政が一匹の猿の顔面にアイアンクローをかましていた。
 メリメリと握力が頭蓋を軋ませ、即座に猿の手足がだらんと下がる。口からは泡、目からは血の涙が流れている。
「あらあら、動物には優しくしないと」
 そう言っている孫市も背後に般若を浮かび上がらせ、もう一匹の猿の胸倉を掴み、何処からか取り出した銃の銃身での殴打の雨を頭部に降らせていた。殺る気満々である。
 殴られる度猿の顔がどんどん変形していき、鼻やら口やらから血が流れ出している。こちらも既に意識を無くしていた。
 それは二人とも、気が済むまで続き、やがてゴミ屑のように猿達は放り捨てられた。
「やれやれ。洋介もいないのでは面白みも無いのぉ」
「仕方ありませんわ。飲み直しましょうか。待っていれば再開するでしょう」
「お、いいのぅ。エリーもああなったら止まらんしのう」
 二人は取り返した水着を付け直し、バーへと戻っていった。

「な、何が起きているんだ……?」
 漸く追いついた忍が、バーの惨劇を目に呟く。
「わからん……なにやら猿共も倒れておるが……」
「一体何が……あ、か、香奈!」
 辺りを見回した忍の目に香奈の姿が目に入り、彼女の元へ駆け寄る。
「あ、しーちゃん!」
「よ、よかった……無事だったか……あ」
 忍が香奈の姿を目にし、彼女が水着を着て無い事を思い出した。
「あ、あんまり見ないで……」
 身体を隠しつつ顔を赤らめた香奈が言う。
「忍、助平なのは感心しないな」
 信長がジトっとした目で忍を見た。
「わ、わるぶぅッ!」
 眼を逸らした瞬間、忍の顔面にエリーの拳が飛んで来る。
「お前も巨乳派かぁーッ!」
「し、しーちゃん!?」
「忍!?」
 強烈な一撃で、忍は失神した。
「し、しーちゃん! 目を! 目を覚ましてぇ!」
「忍! 死ぬな! 気をしっかりと持て!」
 香奈と信長が必死に呼びかけるが、忍は目を覚まさなかった。
「うわぁーんちくしょー!」
 そして、ぶん殴ったエリーはというと泣きながら去って行った。

「イランダー! 何処だー!?」
 バーに到着した北斗が、イランダの姿を探し辺りを走り回っていた。
「あ、あの北斗さん……なにやら様子がおかしいんですが……」
 ももたろうが周囲に倒れている猿や客の姿を目にし、北斗に言う。
「ああ……確かにな。だから早くイランダを見つけないと……あの人に聞いてみよう」
 そう言って北斗は、目に入ったエリーに声をかける。彼女が、この惨状の原因だとも知らずに。
「すみません! ここいらで小さい女の子を見かけ……」
「小さいって言うなぁ!」
「がふぁっ!?」
 突如エリーに腹を殴られた北斗が、身体をくの字に折り曲げる。
「アンタも私を貧乳だってバカにするんでしょ!? そうなんでしょ!?」
「ま、待て! 落ち着くんだ! いいか、小さくたって悪いわけじゃない! 小さくてもいいという奴だって――」
「小さいって何度も言うなぁーッ!」
「ごふぅ!」
 エリーの拳が、北斗を沈めた。
「ほ、北斗さぁん!?」
「うぅ……慎ましやかで何が悪いのよぉー!」
 エリーがそう言って走り去っていく。
「何してんのよ、アンタ達」
 北斗達を目にしたイランダが駆け寄ってくる。猿達がエリーに全滅状態に追い込まれたので逃げてきたのだ。
「い、イランダさん! 北斗さんが! 北斗さんがぁ!」
「あーはいはいわかったから……ほら北斗、起きなさい!」
 イランダが北斗をガンガンと踏みつける。が、北斗は全く目を覚まそうとしない。
「ああもう、ここに居たら危ないってのに世話が焼けるわね! もも、手伝いなさい!」
 そう言ってイランダは北斗の手を持ち、運ぼうと引き摺りだした。
「ま、待ってくださいよぉ……」
 その後ろを、ももたろうが遅れてついていった。

――それからも、エリーの暴走は留まるところを知らず、猿を片っ端から仕留めた後に男性客にまで襲い掛かるようになり、後に来た美緒達の手により沈黙させられる。
 そして気絶した状態で危険な存在と判断されたエリーは、
「……なんで私が檻に入れられてるのよぉー!」
猿と同じ檻に入れられる事になったのであった。

 人気の無い茂みの中、数匹の赤モンキー達が集まっていた。
 捕獲されていく仲間達を見ながら、猿達は話し合う。
『おい、これからどうする?』
『どうするもなにも、あんな奴らがいたんじゃやりにくいぞ』
『もう結構な数が捕まったらしいじゃねぇか。止めるか?』
『馬鹿言うな。こんな機会滅多に無いんだ』
『けどなぁ……』
『おい、他の奴らから話を聞いてきたぞ』
 やってきた一匹の猿が、輪に混じった。
『おお、どうだった?』
『ああ、向こうの方はまだいないらしいぞ?』
 そう言って、猿が指差す。その方角は、温泉ゾーンだ。
『よし、ならばそっちに移動しよう』
 その言葉に猿達は頷き、移動を始めた。