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虹色のかたつむりを探せ

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虹色のかたつむりを探せ

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=第1章=   ここから始まる




 蒼空学園付属幼稚園は、朝から園児たちの笑い声や遊び回る音が聞こえている。

 ここに、授業の一環として「虹色のかたつむり探索」に赴いた生徒たちは、すでに園内と園外に散っているため、
 まとまった姿はどこにも見えない。

 未だにそこに残って話をしているのは、今回の探索を企画した秋野 向日葵と、
 向日葵の自称・補佐係として一緒にいる大岡 永谷(おおおか・とと)だ。


「私の個人的なお願いために、こんなにたくさんの協力者が集まってくれて、嬉しいんだよ」


 ううっ、と泣き真似をしながら向日葵は顔を伏せる。
 なにしろ、学生である皆が、勉学の間を惜しんでこうして行動に出てくれるとは予想していなかっただけに、
 感激もひとしおだ。


「向日葵さんの人柄があってこそ、みんな集まったんだ。きっと、さつきさんの願いも、すぐに成就します」


 永谷は、念のためにと【スキル:禁猟区】の力を込めたお守りを向日葵に渡す。
 どこまでも絶対的に、向日葵を助けるという意思表示だ。
 常に身につけている軍服を女物の私服に着替えてまで、この企画に参加している永谷の意気込みは確かなものだ。


 いまいちど、向日葵と永谷は周りを見渡し、仲間たちの行動を大まかに確認する。


 園内に視線をやると、ずいぶんと大所帯でわらわらと歩き回る者たちがいる。
 
 親子のように連れ添って佐々良 縁(ささら・よすが)佐々良 姫香(ささら・ひめか)が、地面を注視しながら
 幼稚園の周りを囲む石塀沿いに探し物をするように腰を低くして歩いている。
 正しくは、湿っぽい地面と、そこから生えているアジサイを見ているのだ。


「まったく姫はぁ・・・・・・単独行動は厳禁なんだよぉ」
「ひとりじゃなくて、ソフィーおねえちゃんとパパも一緒にいたもーん!」


 まだまだお子様の姫香は自由度が高く、先ほどまで縁ではない他のメンバーのところにいて、
 そのメンバーと虹色のかたつむりを探していたところを再会したのだった。
 それが、日頃仲のいいソフィア・リースレット(そふぃあ・りーすれっと)モファーレ・ファー(もふぁーれ・ふぁー)
 そして縁と夫婦でもないのに姫香からパパと呼ばれる鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)なのだ。
 
 談話も楽しげに、5人はアジサイの葉っぱの裏などを指で押し上げて、生き物がいないかを丁寧に見ていく。


「みゃにゃにゃ、みゃお?」


 姫香に抱かれながら、モファーレが「あそこは、どう?」という風な仕草をする。
 どれどれ・・・・・・と虚雲が怪しげなアジサイの群生に入り込むが、何もいなかったようだ。
 虚雲に続き、縁も同じようにするが、結果は同じだ。

 
「んもう! 服が濡れちゃったぁ。虚雲くん、責任とってくれるんだよねー?」
「わかった、明日デパードに行って――――って、なんでだ!?」


 漫才のようにやり取りする虚雲と縁を見て、ソフィアは微笑む。


「あらあら、縁さん結婚したのねぇ」
「してない!」 「してませんよ!」


 漫才コンビ?が動いた反動で、濡れていた葉っぱから雫が飛び散る。

 もし、静かに生活したいと虹色のかたつむりが思っていたならば、これは相当の迷惑だったに違いない。



  
 佐々良ペア、虚雲らの団体から少し離れたところで、地道に幼稚園の建物下を覗き込んでいるのは氷室 カイ(ひむろ・かい)だ。
 幼稚園の付近をそうして歩いていたところ、園児から凝視された末に逃げられるという事態になり、
 心中かなりヘコんで今に至る。

 しかし、この機会に子供が苦手な性格を克服したいと、あえて園児たちから見える場所で行動するのだった。


「虹色のかたつむりなんて見たことないが、もし見つけたってことになれば、子供から尊敬されるかも、しれない・・・・・・」


 園児たちに囲まれる自分を想像し、その想像で元気になる姿は少し面白いが、
 虹色のかたつむりを見つけるより、「子供克服への道」を歩き切ることの方が長丁場になりそうなカイだった。




 すぐ視界に入る範囲でも、皆の行動熱心さが分かる。


「さってと、もたもたしてられないじゃん! そろそろあたし達も行動開始なんだよ!」
「まったくだ」


 皆が一生懸命にしているのに、自分だけのんびりともしていられない。
 向日葵と永谷も虹色のかたつむりを探しに足並みをそろえ、園内に向かった。




 *

 


 向日葵と永谷が園内へ消えた後、なぜか園外の、しかもまるで見当違いなところを歩いている女性がいる。
 緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)は、雨にぬれた石塀の割れ目辺りなどを見ながら、ぼやいていた。


 「・・・・・・う〜ん・・・・・・幼稚園はどこかしら・・・・・・」


 虹色のかたつむりを探そうとする心意気はあるのだが、なかなかどうして、仲間たちが見当たらないと困っているところだ。
 実際は、何組かが園外で探索を行っているのだが、極度の方向音痴の紅凛は、そんな仲間たちにさえ出会えない。

 ふらふらと動くとゆさゆさと揺れる胸に少々イライラしつつ、紅凛は仕方なく単身で、外部探索を続行することにした。