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リアクション
=第6章= 今こそひとつになって
セシルと綾乃の声かけにより、探索のためにバラバラになっていたメンバーや、全員幼稚園の玄関先のスペースに集まっていた。
携帯電話を持っていた生徒がセシルの他にもいたため、弁天屋 菊が連絡のつく者全員に連絡をした成果もあった。
携帯のスピーカー機能を発動し音量も最大にしているので、セシルの携帯から菊の声は大きく響き、全員に届く。
精霊が関与しているという冒頭発言もさることながら、菊の仮説は軽く皆の想像を超えたものになったようだ。
<子供の精霊は寂しがりやで恐がりだ。外もこんな天気で薄暗いし、楽しく遊んでいる園児たちにひかれて室内に現れたんだろう>
菊は、変わらぬ声の調子と大きさで、「虹色のかたつむりを再度探す風を演じる」ことを提案した。
より一層楽しく遊んでいるように見えれば、子供の精霊が遊びたい本能から姿を現すかもしれないと思ったからだ。
もちろん、虹色のかたつむりが実在する可能性も否めないので、探索自体にも手は抜けない。
探索を任されたメンバーは、ふたつの要因を含んだ上で“演じ分け”をしなければならないのだ。
けれど突飛な意見と提案に、異論を唱える者はいなかった。
「あり得ないこと」が「あり得ること」になる世界――それがパラミタなのだと誰もが認めているからだ。
「もしかして私たちが助けるのは、さつきちゃんだけじゃないかもしれないんだよ。
どうか最後まで、よろしく!!」
秋野 向日葵の一喝に、一同は改まって「はいっ!!!!」と返した。
そして園児たちや幼稚園関係者に不審がられる前に素早く解散し、各々が改めて探索に赴くことになった。
*
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は探索初めにアジサイの花の群生地を選んで歩いた。
コンクリート塀でない家の場合、植物などが歩道に飛び出ているところが多くあるからだ。
不法侵入にならない範囲とはいえ、グラキエスは度を越した丁寧さでアジサイの花や葉っぱの裏を見て行く。
「ゴルガイス、生命反応はこのあたりか?」
「そうだな、ちょうど貴公の右足が入っているあたりなのだよ」
【スキル:探索】を使いながら、ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は事細かに、
かたつむりと思われる生体反応のある場所をグラキエスに教えている。
目的の範囲を教えられ、ふっと右足を見下ろしたグラキエスは、地面に舞い落ちたアジサイの花びらに思わず反応した。
「土色の地面に暖色の花びら・・・・・・美しいコントラストだ・・・・・・」
そういったものにことあるごとに興味を示して行くものだから、たぶんグラキエスが探索にかけている時間は他者の2倍ほどはあるだろう。
容姿からは想像できぬほどお茶目な一面を見せるマスターに、ゴルガイスは思わず和んでしまった。
はじめ、ドラゴニュートという種族特有の巨漢ゆえ、かたつむり探し以前に子供に会うことさえ躊躇していたゴルガイスだ。
この気持ちを保っていけば、いつも以上にグラキエスの役に立てるかもしれない。
ゴルガイス、どんな生き物の痕跡も見逃さぬよう目を皿のようにして地面を凝視するのだった。
――その日の天気予報は、降水確率100パーセントの完璧な悪天候を知らせていた。
探索組の誰もがひとつは傘を手にし、室内以外で探索をする者たちは確実に開いているという様子だった。
しかし、予報は良い意味に裏切られる。
まるで精霊を見つけてと言わんばかりに、灰色の雲の群れが割れ、太陽の光が差し込んだ。
たちどころに、天気は晴れに変わったのだ。
急に差し込んだ太陽の光に目をすがめ、柴田 拓斗(しばた・たくと)は空を仰いだ。
天気が悪いというだけで、やはり人間は知らず知らず心が沈むもので、それは拓斗も例外ではなかった。
それが、この突然の変化に、予想外に奮起の気持ちが起こる。
ビーストマスターというクラスをフル活用し、自分とパートナーの目だけでなく、動物たちの目も借りて
虹色のかたつむりと精霊を同時進行で探していた拓斗は、そこで幼稚園内の小動物からも情報を取り入れる余裕を見せた。
(んっ・・・・・・この声は、どの子だろう・・・・・・)
超能力ではないが、協力を要請した相手からテレパシーのように声が頭に響く仕組みだ。
泡を吹くコポコポという音が一緒に聞こえてくる。
幼稚園でよく飼う、水に属する動物と言えば――。
「君、園内で飼われてる金魚くんですね。どうしたんですか?」
コポカパ・・・・・・泡の音は、拓斗には人間と変わらぬ声に変換されているので、会話に問題はない。
話を聞いて行くうちに、拓斗は今日何度目か知れぬ驚きの表情を示す。
「幼稚園の中に、精霊の姿があらわれたって・・・・・・!」
紺色の制服を翻し、拓斗は付近で自分と同じように行動しているパートナー、チェルミィ・キルシュ(ちぇるみぃ・きるしゅ)の姿を探す。
好奇心の塊であるチェルミィは、登園してすぐの園児たちにも聞き込みを徹底していたが、園内を出てもその姿勢を崩さず、
通行人たちに虹色のかたつむりのことを聞いて回っていた。
拓斗が一声投げかけると、すぐさま駆けつける。
「ごめんなさい、持ち場を離れちゃいました! なにか情報があったの?」
「重大情報です! 幼稚園の教室の中に、不思議な子供がいるって・・・・・・!」
「えっ・・・・・・それなら、その場にいる誰かが声をかければ・・・・・・」
「そうもいかないです。変に声をかけたら、精霊が驚いちゃうかもしれないから」
あくまで声をかけるとすれば、第一声はさつきでなければならないだろう。
使命感にかられた拓斗は、急いでチェルミィを連れ、この速報を伝えるべく走りだした。
*
まるでこの情報を一早く知りたいとでも言うように、さつきは偶然にも幼稚園の玄関先に出てきていた。
数分前まで、探索組一同が集合していたあの玄関だ。
偶然と言うより、コロリと変わった外の天気がおかしく思えて、衝動的に出てきてしまったという方が正しい。
さつきが空を眺め、そこに広がった青さに驚いていた時、チェルミィがやってきた。
拓斗よりも身軽な格好だったので、彼より先に幼稚園に到着したのだ。
息を切らせるチェルミィの様子に、驚きの表情を更に深めてさつきは聞いた。
「さつき、ちゃんっ、金魚がい、いる教室に、精霊が、はぁ・・・・・・っ」
「精霊? 金魚?」
慌てて、何もかもを前倒してさつきに報告してしまったことチェルミィは反省した。
まず、仲間が見つけた本、虹色のかたつむりが現れた状況、そして天候が雨であったこととの関連性、
そしていま虹色のかたつむりを探すほかに精霊も探しているということを説明する。
理解しやすいように言葉を噛み砕いたが、チェルミィはちゃんとさつきに話が伝わっているか、心配顔で少女の顔を見る。
子供なりに思案する風に目を伏せてから、さつきは勢いよく顔を上げた。
「水槽がある、お遊戯室だ!!!!」
毎日通い、そして見慣れた風景から、「金魚」というワードをはじき出して目的地を決める作業は一瞬だった。
さつきも青少年に負けずと劣らない脚力で、地面を蹴って「お遊戯室」を目指した。
・・・・・・急を要していても、そこで靴をきちんと脱いで園内に上がり込むところは、さすがと感心するしかなかった。
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