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新年祝祭舞踏会~それより私と踊りませんか?

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 第二章


 1
 
「――こっちみたいね」
 ミリア・アンドレッティが几帳面にマッピングを継続させながら、傍らの及川翠に囁いた。
 足音を頼りに、少女を追う。
 ミリアの手元のマップによれば、事前に調査された個所からは大分逸れた通路だ。
 角から僅かに頭を出して、翠が通路を覗き込む。
「この先に、個室があるみたいなの」
「それじゃ、そこにけも耳さんがいるのかなー」
 翠の言葉に、アリス・ウィリスの顔がぱあっと明るくなる。
「でも、あっちの部隊はモンスターと遭遇したんだって――?」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が思案顔で言う。
「なんて、言っててもしょうがないか。行ってみるしかないね」
「それでも警戒するに越したことはないですぅ。けも耳ちゃんが予想に反して凶暴な可能性も無きにしもあらずですぅ」
 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が冗談半分、真面目半分といった調子で言った。
「……まあ、けも耳ちゃんがこっちを警戒するのは間違いないですぅ」
「それなら、チムチムに任せるアルよ」
 チムチム・リー(ちむちむ・りー)が、光学迷彩で隠していたもふもふとした巨体を露わにして言う。
「もふもふにはもふもふアル」
「もふもふー!」
 アリスがチムチムのふんわりとした腕に飛びつく。
「そっか、チムチムならもふもふ仲間ってことで警戒しないでくれる……かも?」
「いいかもなの」
 レキの言葉に翠が頷く。
「それで、私たちは怖い人じゃないって教えてあげれば……きっと、仲良くなれると思うの」
「では、他のメンバーはこちらで様子を見ながら待機しましょう。万が一ということもあるから、すぐ動けるように」
「それじゃ――行ってくるアル」
 一同が頷き合う。
「……なんだかドキドキですねぇ」
 メア・内藤(めあ・ないとう)がチムチムの背中を眺めて呟く。
 念の為にと、木刀の柄には右手を添えている。
「未知との遭遇ですぅ」
「ファーストコンタクトなの」
 ルーシェリアと翠が呟く。
「それにしても、こんな迷路みたいな場所――もし住むなら、上の洋館じゃダメだったのかしら」
 それに、広すぎるし――ミリアが言った。
「すっごくシャイなんだよ、きっと」
 それか、一杯いるのかも――レキが言った。
 その視線の先、チムチムが恐る恐るといった様子で扉に手をかけた。
 扉を押す。その扉の隙間から、
「けも耳さんなの!」
 兎耳の小柄な少女が飛び出した。
 少女は翠たちに気がつくと、くるりと踵を返して、脇道へ逃げ込んでしまう。
「どうしたの、チムチム――?」
 レキが少女を追いかけながら声を上げた。チムチムは未だ部屋を覗き込んだまま――固まっていた。
 返事よりも早く、脇道に入る。少女だけではなく――大振りの蛇がいた。捕食者の眼をした蛇がいた。
「手荒になっちゃうけど」
 レキが駆ける。怯え竦み上がった少女の背後に回ると、ヒプノシスで少女を眠らせ、その身体を抱きかかえた。
 そのまま飛びかかるモンスターをかわす。
 振り向きざま、レキは自分の目を疑った。
 先程の自分の言葉を思い出す。
『一杯いるのかも』
 チムチムが覗き込んでいた部屋から、兎耳の獣人の少女たちが、溢れ出すように飛び出していた。
「まさか、本当に――」
 唖然としながらも、素早くサイドワインダーでモンスターを退け、チムチムたちに合流する。

 まるで嵐が駆け抜けた後のようだった。
 少女の大群が、けも耳少女の大群がどたどたと音を立てて過ぎ去ってしまう。
 ルーシェリアとメアが顔を見合わせる。
「と、兎に角、追うですぅ!」
 メアが言うと、二人は少女たちの後を追った。
「……しまったわ」
 ミリアが呟いた。
「どうしたの、ミリアお姉ちゃん」
「アリスがあの子たちの人波に流されて行っちゃったわ……」
 レキの腕の中の少女を覗き込みながら、翠が目を丸くした。
「私も追ってくる。発信器を頼りにすれば獣人の子たちも見つかるはずだから」
「う、うん」
 翠が駆け出したミリアの背中に頷き返す。
「なんだか凄いことになってるの……」
「まさか、あんなにたくさんいるだなんて思わないよ……」
 レキが答える。
「この部屋で暮らしてたみたいアル」
 部屋から出てきたチムチムが答える。
「美術品の展示場みたいアル。もっとも」
 今は何も飾られていないアル。チムチムが言う。
「ホントだ」
 恐る恐る部屋を覗き込みながら、レキが言う。
「大分古いみたいだけど、使われてたみたいね」
「額縁だけ残ってるの」
 翠が部屋の脇に立てかけられていた額縁に触れながら呟く。
「これも貴重なものみたいなの」
「何か魔力を感じるアル。あとでじっくり調査した方がいいかもしれないアル」
「うーん、やっぱりこの子たちと関係あるのかな」
 未だすやすやと寝息を立てる少女の顔を覗き込んで、レキが言った。