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仮装の街と迷子の妖精

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仮装の街と迷子の妖精

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「そうそう、さっき通った道にあったアクセサリーショップ、ちらっと見ただけだったけど、後で見に行こうよ歌ちゃん!」
「いいですね〜。あ、このフルーツタルトも美味しい……」
「本当?! 歌ちゃん味見していい?」
 ケーキを一口食べては美味しそうに声を上げるルカルカの隣、コーヒーカップを口に運びながらルカルカと対照的にテンションが下がってきているダリルがいた。
「お前ら、よくもまぁそんなに甘ったるいものばかり食べられるな……」
 本来ならば一つか二つ注文すればいいだけのものを人数分注文したのだ。一つ頼めばケーキが四つもついてくるというのに、セットを四つも頼んだおかげでテーブルのケーキは全部で十六個。さすがに全部まとめては置けないと判断したのだろう店主が、気をきかせて三段重ねのケーキスタンドに綺麗に並べてテーブルへと届いた。
 どれから食べようかと迷いながら自分の皿に取り、各々が嬉しそうにぺろりとその胃袋へと収めてしまう。
 甘い物が苦手なダリルにとってケーキという砂糖の塊のようなものがこのテーブル上に二桁以上あること事態恐ろしいことだった。
「羽純も、甘いもの好きなんだな」
 歌菜やルカルカほどではないが、確実に自分の分を確保しており、表情こそ大きな変化は見られないにしろ嬉しそうに食べているのが分かる。
「ダリルもどうだ?」
「いや、俺はこの甘い匂いだけで結構」
 本当に苦手なんだなと思いつつ、時折苦虫を噛み潰したような表情をしながらコーヒーを口に運ぶ様子を羽純は面白がっていたのだが、次第に可哀想になってきてこのケーキを堪能したら早めに店を出ることにしようと心に決めた。

「本当にあんなに食べられるのか……カップルって怖いな、アインス」
「紅鵡様、カップル関係なくないですか?」
 テーブルの片付けを終えてバックヤードへと戻った笹奈にアインスがツッコミを入れながら黙々と作業を続けていた。
 カラン、とまた店の扉が開く音が聞こえる。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」
 まだまだアルバイトは始まったばかり。笹奈とアインスは再び笑顔で接客を続けるのだった。


「今日は、よろしくお願いします!」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はドキドキしながら本日最初のお客へと元気に挨拶した。
 ヴァイシャリーと言えば街を縦横に走る水路。観光客が多く来るこの日は橋渡しのゴンドリーエがどうしても多く必要とされる。そんなネージュも百合園女学院から手伝いに借り出されることになった。
 憧れのゴンドリーエが出来るとあって一段と気合も入り、せっかくだからと特製のサンドイッチも作ってきた。コンテストもあることだし、せっかくだから仮装もとお願いされれば断る理由などない。地球の漫画で見たような真っ白なゴンドリーエの衣装に身を包んで櫂を手に取る。
 練習もしたし説明もたくさん聞いたが、まだお客を乗せてゴンドラを漕いだことはなかったのでとても緊張していた。何度かは地元のゴンドリーエの人も一緒に乗ってくれるというので少しは安心するのだが、上手く出来るのかどうかは心配で仕方ない。
「あらあら、可愛らしいお嬢さんだこと。よろしくお願いしますね」
 ネージュの手を取りゴンドラへと乗り込む老夫婦。漕ぎ出した最初こそ緊張していたが、柔らかな物腰の老夫婦と会話をしながらネージュなりの感想も交えて街の観光案内をしていく内に次第に緊張が解けていく様子を見て、一緒に乗り込んだゴンドリーエも安心したようだった。
「いろいろお話してくださってありがとうね」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
 目的地の桟橋にゴンドラを寄せて、笑顔で老夫婦を送る。少し見送ることの寂しさも感じつつ、楽しんでいって欲しいという気持ちも込めてもう一度ネージュは笑顔でお礼を言うのだった。


「は、は……くしゅっ」
 狭い路地で彼女がくしゃみをした瞬間、ぼふりと白いものが舞ったかと思えば、彼女を中心に真っ白な雪が辺りを覆いつくした。
「あらあら、誰か私の噂でもしてるのかしらー……」
「ようやく見つけたぜ!」
 口元をハンカチで拭いながら何事もなかったかのように歩き出そうとする彼女を引きとめるように後ろから声をかけたのはマリリン。
「その雪、あんたエルだろ? 妹のアルってのが探してたぜ」
 それでも気にせず歩き出そうとした彼女だったが、アルの名前を聞いてその足を止めた。
「……あなた、アルがどこにいるか知ってるの?」
「おう知ってるとも。もちろん教えてやるけど、その代わりこっちのお願いも聞いちゃくれねーか?」
 マリリンに背中を向けたまま話を聞くエル。
「あんた、アルを誰かに預けたままでやりたいことでもあるんじゃないか? あんたならきっとすぐにアルを見つけることも出来るだろ? それでも探そうとしてないところをみると何か用事があるとみえる」
「…………それで?」
「あたいの願いは簡単さ。仮装コンテストに出る連中、そいつらをちょっと雪だるまにしてほしいだけなんだ。今街ではあんたの妹が雪だるま頭を量産してるのよ。あたい的にはそのままでも充分面白いんだけど、どうせならコンテストに出る連中の方があたいには都合がいいってだけの話。何も一生ってわけじゃない。コンテストが終わったら元に戻るくらいの時間で構わねーんだ」
 乳白金の三つ編みを指でクルクルといじりながらマリリンが笑う。
「なんならアルってやつのお守りをしてやっててもいいんだぜ?」
「ふーん、なるほどね」
 顎に指を当ててしばらく考えていたエルだったが、くるりとマリリンの方へ向き直り笑顔を見せてこう言った。
「それなら、ばーんと行きましょうか」