First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
Next Last
リアクション
6章 「命あってこそ」
〜森付近・村〜
慌ただしく避難準備の進む村にて、メイガスの男性が避難の陣頭指揮を執っていた。
彼の名は白雪 椿(しらゆき・つばき)。時に村人達に避難の指示をし、怪我人がいる場合はその治療に当たっていた。
「皆さん落ち着いて避難をお願いします……! もしも、お怪我をなされた方は、お知らせくださいませっ」
彼の避難指示は的確で、木の根に村が襲われながらも、死者を出すことなく避難は順調に進んでいた。
彼の元にミンストレルの少女……白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)が走ってくる。
彼女は未来人であり、彼のパートナーであった。
「椿、こっちの地区の避難は完了しました、次はどこを回ればよいでしょう?」
「ええ、それなら……」
「椿殿ーーッ!」
道の向こう側から、大柄な村人を背負ったビーストマスターの八雲 虎臣(やくも・とらおみ)が姿を現す。
大柄な男性を背負う彼の頭には、獣人特有の獣耳がぴょこんっと生えている。
「どうしました八雲さん! それに彼は……?」
「さっき向こうの方で、家屋の倒壊がありまして。瓦礫に挟まっている所を助けたですが、怪我が酷く……」
大柄な男性を見た牡丹はその傷の酷さに思わず手で顔を覆った。
背中は酷い裂傷を受けており、肉が大きく引き裂かれていた。
「わかりましたッ! すぐに治療を始めます!」
「椿殿、治療中の周辺警戒はお任せを!」
「わ、私は……えと、椿のお手伝いをします!!」
意識を集中させ、患部に手をかざすと椿は命のうねりを使用する。
輝く光が椿の手の平から患部へと注ぎ込まれた。患部は驚くほどの速さで再生を開始し、
数秒後には完全に傷が塞がっていた。
「ふぅ、これで大丈夫です。あとは体力がだいぶ落ちてしまっているので、避難場所で十分に休ませてあげてください」
「ええ、わかりました!」
「椿ッ! 大変ですよーッ! 木の根の大群がこちらに向かってきています!」
猫の姿をした獣人のローグ……彼はジャック・キャンベル(じゃっく・きゃんべる)。
紳士的な服装とその立ち振る舞いは、どこかの英国紳士を思わせる。
「そうですか、もうここまで……キャンベルさん、そちらの避難状況を教えてくださいますか?」
「私の担当していた地区は、怪我人を出すことなく全員無事に避難させました」
「わかりました、それならこの周辺にもう村人はいませんね。私達も避難場所に合流しましょう!」
各々頷くと、椿と共に避難場所を目指して出発した。
〜村・避難集合場所〜
避難集合場所は、一番森から離れた村の出口であり、大きく開けたその場所には
巨大な黒いクワガタ……黒鋼が待機していた。
「黒鋼、もう少しで出発だからね、ほら果物ゼリーだよ」
白髪のメイガスの少年……ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)から果物ゼリーを受け取った黒鋼はおいしそうにそれを食べた。
黒鋼は怪我をしているところをヴァイスに救われ、恩義を感じているのか、それ以降彼に懐いている。
現在、黒鋼は背中に大きなコンテナを背負っており、そこに村人が収容されていた。
コンテナの中にはヴァイスお手製の手すりとベンチ、シートベルト等が完備され、コンテナとは思えない快適さを
演出していた。
それに加え、ヴァイスが連れてきたホエールアヴァターラ・クラフトの山田さんと超人猿の超さんが
愛嬌をたっぷりと振りまき、村人の恐怖心を和らげている。
「さて、あとは椿達が戻ってくれば出発できるんだけど……」
「そうだな、このまま無事に避難できればいいんだが」
黒鋼により掛かっているナイトの男性はセリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)。
ヴァイスのパートナーで、剣の花嫁でもある。
彼はピリピリとした殺気のようなものを感じていた。
(この感じは……近いうちに仕掛けてきやがるか。急げよ、椿)
〜黒鋼の背中・コンテナ内部〜
コンテナの中では、超さんと山田さんが愛嬌たっぷりに動き回っている。
彼らに触れたり、共に戯れることで不思議と、恐怖心に泣き出すような子供も、絶望で騒ぐ大人もいなかった。
ベンチに腰かけ、シートベルトを締めた村長とメイガスの少年が話をしている。
彼の名は清泉 北都(いずみ・ほくと)。
村長から話を聞き、避難ルートの選定に尽力していた。
「えーと、ここを通らなければいいんですねぇ?」
「そうじゃ、そこは道幅が狭い。こんな巨大な物は通りなんぞせん」
「なら、ここは大丈夫ですかねぇ〜」
「うむ、そこならば……問題はなかろう」
「じゃあ、これで避難ルートの選定は完了ですね。ご協力、ありがとうございました」
「いや、礼を言いたいのはこちらじゃよ。こんな小さな村の為に、ありがとうな、少年よ」
「え、あ……は、はい」
地図を閉じると立ち上がり、背中を向けて走り出す北都。
(なんで、あんな当然のことをしただけで、褒められる……? この気持ちはなんだろう……わかんない)
コンテナの外に出ると、獣人のウィザードの少年白銀 昶(しろがね・あきら)が立っていた。
「あ、北都……もうルートの選定は終わったのかよ?」
「うん、なんとかねぇ〜……避難の状況は?」
「ああ、それなら椿達が戻ってくれば完了だ」
遠くの方を見つめ、北斗は呟く。
「このまま、何もなく終わってくれればいいんだけどねぇ……」
「それが一番いいんだが、どうやら無理そうだぜ」
殺気を感じ取った白銀は駆け出していた。
「面倒事は嫌いなんだけどねぇ。仕方ないか……」
意を決して、北斗も白銀を追う。
〜村・避難集合場所〜
ヴァイスが村の方向から駆けてくる椿達を発見する。
「おーい、こっ……ッ!?」
声をかけると同時に、地面から数本の木の根が突き出した。
木の根は黒鋼を取り込むように現れ、それぞれ蛇のようにこちらを向いている。
「おいおい、ここにきての襲撃かッ!黒鋼、移動するぞ! 椿達は逃げながら回収する!」
ヴァイスの声に反応し、黒鋼は静かに移動を開始する。
木の根はそれを合図にしたかのように一斉に襲い掛かった。
しかし、ディフェンスシフトで防御力を高めたセリカのファランクスによって全ての木の根の攻撃が弾き飛ばされる。
「はーはっはっはッ!! 俺のファランクスは、そう簡単には抜けられんぞーッ!」
木の根は目標をセリカに切り替え、様々な方向から襲い掛かる。
まず、横薙ぎに二つの木の根が交差するように迫る。
「ふんっ! この程度かァッ!!」
あっさりと弾き返すと、セリカは次の攻撃に備える。
振り上げられた三本の木の根がそれぞれバラバラのタイミングで振り下ろされた。
「ぬぅぅッ! まだまだァああーッ!!」
すべての攻撃を弾き返し、セリカは攻撃体制に移行する。
「今度はこちらの番だッ! 滅殺ッッ!!」
青色に包まれた紺碧の槍を構え、木の根の大群に突撃するセリカ。
次々と木の根を貫き、打ち砕いてゆく。砕かれた木の根は凍りつき、その活動を停止した。
「今だァッ!! 椿ーッ! 走り抜けろーッ!!」
椿達に追いついた北斗と白銀が彼らを守るように展開する。
「いいですか〜僕らが食い止めます。椿さん達は走り抜けてください」
「安心して、後ろは任せとけッ!!」
「わかりました。では、お任せしますッ」
椿達は黒鋼目指して走り出す。
木の根が数本地上から現れ、刺し貫こうと迫る。
北都は両手をかざし、意識を集中……全てを貫くイメージを固める。
「はああっ!!」
北斗がファイナルレジェンドを放つ。目の眩むような閃光が木の根を包み、跡形もなく吹き飛ばした。
それを回避した数本の木の根が鋭い枝を北斗に放つ。
(しまった……よけられない!?)
「俺を忘れんなよッ! この木の根野郎がッ!!」
北都と枝の間に割って入り、白銀は財天去私の構えを取る。
「うおぉぉぉおおおーーッ!!」
白銀は財天去私を放ち、枝ごと木の根を粉砕する。残骸が辺りに飛び散り、家などに当たって小さな衝突音を立てた。
黒鋼の方から一組の男女が走ってくる。
少女の名はオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)。プリーストである。
男性は彼女のパートナーのフランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)でセイバーであった。
「北都さん、白銀さん、黒鋼の方まで撤退してください! ここは私達がッ!」
「えっ、いやいや、俺達も戦うよ! 君みたいな女の子に……」
戻ろうとしない白銀の横をすり抜け、フランソワが剣を薙ぐ。
白銀に迫っていた枝が斬り裂かれ、ぱらぱらとその場に落ちた。
「いい子は私達にまかせて、戻りなさいよ。それとも私と仲良くしたいのかしら?」
美しく、端正な顔立ちのフランソワが白銀の顎に手を添え、自分の顔の方へ優しく導く。
「えええッ!? いや、あの、俺には心に決めたやつが……
別に男が嫌いってわけでもないけど……ってああッ! そういう事じゃなくてぇッ!」
あわてて顔を真っ赤にし、さいならッ……と一言残して白銀は黒鋼の方に走っていった。
北都は軽く一礼すると、白銀を追いかける。
「まぁ……私にそっちの趣味はないんだけどね」
いつもなら止めに入るか、笑っているオデットがうつむいている。
静かに近づき、優しくフランソワは声をかける。
「どうしたのよ、オデット? そんなに暗くなるなんて、あなたらしくないわよ?」
「……う、うん。あのね、あの木の根ってさ……人や動物を吸収してきたってことは……攻撃すれば、その人たちを」
そこまで口に出し、オデットはさらにうつむいてしまった。
オデットは自分の拳を赤くなるほど握りしめている。
若さゆえの苦悩、戦う者としては未熟な証。優しい彼女ゆえの躊躇。
(オデット……迷っているのね。なら、あたしは……)
「てやあああーッ!!」
フランソワの放った剣圧が風を巻き起こし、オデットの真横を抜けて木の根を斬り裂いた。
「ぼーっとするには、まだ早いわよ。」
明るい言葉と余裕のある表情をフランソワは彼女に見せ、ぱちりとウィンクを飛ばしてみる。
戦闘中にはとても思えないその光景に、思わずオデットから笑みがこぼれる。
「ふふっ……そうだよね、えへへ。ごめんね、フラン」
「いーえ」
(オデット、あなたはいっぱい悩んで、いっぱい苦悩しなさい……そしていい女になるのよ。
背中の心配はしなくていいわ……あなたの背中は私が守るから、この……命を懸けて)
〜村・上空〜
村の上空に一機の戦闘機……グレイゴーストが滞空していた。
コマンダーの佐野 和輝(さの・かずき)は地上から端末に送られる様々な情報を収集していた。
ホークアイを用いて、目視での情報集も行う。
(無事に避難は開始されたようだな……アニス、被害の状態は?)
アニスと呼ばれたオンミョウジの少女……アニス・パラス(あにす・ぱらす)は強化人間特有の
精神感応を使用して、和輝と会話を行った。
(んーと、ヘカトンケイルが少しブリガンテに押し込まれてるみたいだよ)
(どこか、地上の契約者かイコンを向かわせないと持ちそうにないぐらいか?)
(ちょーっと待ってね……えと)
アニスはモニターを切り替え、情報を目で追っていく。
そこには契約達の位置情報、被害状況などが細かく表示されていた。
(大丈夫みたい。固いんだねぇ、あのヘカトンケイルってやつ〜)
(そうか。ならそっちは問題なさそうだな。カルノスの位置は把握しているか?)
(ううん。目撃証言や痕跡はあるんだけど……どこに向かってるかはさすがに)
和輝は自分のモニター画面も操作し、切り替える。
カルノスの目撃場所や痕跡の発見された場所が、地図上にマーキングされた状態で表示される。
確かにその場所はバラバラで、法則性はまるでない。
まさに、木の根から逃げながら迷っているといった感じである。
注意深くモニターに目を這わせるが、カルノスがどこに向かっているのかは見当がつかなかった。
和輝は手を握りしめる。
(ねえ、和輝? 避難が始まって、村には誰もいないって誰かに教えた方がいいのかな?)
(あ、ああ。俺がヘカトンケイルに伝えておく。アニスは、カルノスの情報に新情報がないか探ってくれ)
(うん、わかった。何か見つかったら報せるね)
(そうしてくれ)
(危険とわかっていて森に入ったということは……どこかに向かっているはず……
どこだ、どこに向かっている……カルノス)
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
Next Last