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リアクション
7章 「約束の地」
〜森・人型の木付近〜
カルノスを発見した契約者の一団が彼を追いかけていた。
「待って……話だけでも聞いて……お願い……ッ」
転びそうになりながらも、カルノスを追いかける胸の大きなプリーストの少女。
彼女はネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)。
カルノスと自分の境遇に似ているところを感じ取り、一所懸命説得をしているのだが、カルノスには効果がなかった。
大切な人を亡くしている彼女には、カルノスが自分の言葉を聞かないで、ただ前を見ているその気持ちも理解できる。
しかし、戦えない彼が森の奥に行くのは危険と判断し、一生懸命に説得しているのであった。
その真横で高速で足を動かし、ネーブルに対してぴらりと紙を見せるゆる族のバトラー。
彼は鬼龍院 画太郎(きりゅういん・がたろう)。その姿からは想像できないが、実力派のバトラーであり、ネーブルへの
気遣いも忘れない紳士。
彼の紙にはこう書いてあった。
『お嬢さん、これ以上の説得は無意味かと。もし、止めろと言うのであれば、
実力行使でカルノスさんをお止めいたしますが? いかがでしょうか?』
ネーブルは首を横に振る。
「そんなの……だめ。力で押さえつけるなんて、絶対に……だめだよ」
カルノスとの間に木の根が突如現れる。不意を突かれたネーブルは、木の根に吹き飛ばされてしまう。
「きゃああッ!」
木に叩きつけられ、意識を失うネーブル。
カルノスは一瞬振り返るが、ごめんとだけ言い残し、走り去る。
「か、かっぱあああああっ!!」
画太郎はネーブルに駆け寄り、助け起こそうとするが、腕がぷるぷるして持ち上げることができない。
「画太郎さんッ! わたくしにお任せ……ふぎゃッ!!」
駆け寄ろうとして、地面に顔面から突っ込んで派手に転んだ獣人の少女……シュガー・ヴィネガー(しゅがー・う゛ぃねがー)。
彼女は、森から避難するようにネーブルを説得しにきたのだが、追いかけているうちに何度も転び、
その体には生傷が目立ち、着ているメイド服も所々擦り切れている。
「うう………何故でしょうか…お嬢様を説得しようと思いまして、ここまできましたのに……。
何故、わたくし一人だけこの様に生傷だらけでここにいるのでしょうか」
その眼には涙が滲んでいた。画太郎がどこからともなくハンカチを取り出し、その涙をぬぐう。
「あ、画太郎さん……ありがとうございます。そうですよね、今はお嬢様を助けないとですよね」
武器を構え、木の根に退治する画太郎とシュガー。
後方から追いついてきた女性が二人に声をかける。
「そこの貴方たち、今助けに向かうわ!」
彼女はマスター忍者ルカルカ・ルー(るかるか・るー)。
金髪の胸の大きなその女性は、シュガー達の方へ向かってくる。
つい、シュガーは自分の胸を見る……すこし彼女は落ち込んだ。
「いえ、こちらは大丈夫ですからお気になさらずッ! それよりもカルノスさんがこの先に向かっています!
今なら、まだ追いつくはずです!」
「……そういう事なら、ここは任せるわッ! 行くわよ、カルキッ!!」
「ああ、急ごう」
カルキと呼ばれた彼はドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)。
彼はシーアルジストでもあった。
ルカ達はその場をシュガー達に任せ、カルノス追って奥を目指した。
少し進んだところで、木の根に巻きつかれ、身動きが取れなくなっているカルノスを発見。
ルカはブライドオブブレイドを構え、姿勢を低くして突進、地面を蹴り跳躍。
体重を乗せた一撃を上空から木の根に叩き込んだ。
木の根は一撃で斬り裂かれ、拘束されていたカルノスは地上に落下する。
それをすかさず逞しい腕で受け止めるカルキ。
「まったく、無理はいけねぇな、カルノス」
「え、あ……ありがとう」
「俺はカルキノスってんだ。お前とは一文字違いだな、わはははっ!」
豪快に笑うカルキを最初は、脅えた目で見ていたカルノスであるが、次第に落ち着いてきたのか、
普通に会話ができるようになる。
「無理って言われても……俺は……」
「まぁいいさ、別に帰らなくてもなぁ」
「……え?」
カルキは振り返り、ルカに聞く。
「別にかまわんだろう? 漢にはな、何があってもやり遂げないといけない時がある……そうだろう、カルノス」
カルノスは何か言いたそうにしているが、なかなか言葉にはならなかった。
ルカはそれを見かねて、カルノスに行きたいところがあるのなら、一緒に行くことを了承する。
「ありがとう……じゃ、案内するよ」
カルノスに案内され、ルカとカルキは森の奥へと進んでいく。
〜森・約束の場所〜
足を踏み入れたその場所は開けた広場のようになっており、中心に太い樹木が立っていた。
その樹木の前に一つの墓がある。
「ここが……俺の幼馴染みの……アリアの眠る場所だ」
「きれい……こんな奥地に、こんなにもきれいな花畑があるなんて」
「うむ、見事な花畑だな……」
カルノスは墓の前に立つとしゃがみ、墓にかけられたペンダントを握りしめる。
「あいつと……約束したんだよ、もう一度……もう一度、ここで星を見ようって……でも、あいつは」
肩を震わせ、今にも泣きだしそうなカルノス。
慰めようとルカは言葉を探すが、いい言葉は見つからなかった。
突如、地響きが辺りに響き渡り、地面が激しく鳴動する。
ルカ達の周囲に今までの木の根の数倍ともいえるほどの木の根が一本、突き出した。
その木の根は、形を変え、人の形を取る。
「なにッ!? 人型になるだとッ!!」
カルキはカルノスを自分の後ろに下がらせ、武器を構える。
ルカも武器を構え、カルノスを守るように周囲を警戒した。
「カルキ、アイツ以外にもいるわよッ! 警戒して!」
「ああ、わかってる……こりゃ、気合入れるしかなさそうだな……おい、ちぃとばかし、離れてな」
カルキはルカにカルノスを連れて下がるようにいい、人型の木の根に対峙する。
彼は大きく息を吸い込むと天を仰ぎ、激しく咆哮する。
咆哮は大地と空気を激しく振動させ、カルキを中心に竜巻を巻き起こす。
「うわあああっ! 一体、カルキは何をしたんだよッ!!」
「いいから、黙って見てなさい。カルノス、あんた、きっと驚くわよ……カルキの本気に」
竜巻が止んだ時、そこには巨大な竜カルキノスが立っていた。
「ウォオオオオオオッ!!」
雄たけびを上げ、カルキは人型の木に掴みかかった。
人型の木の腕を掴むと、力任せに引き千切る。小さな木片が飛び散り、宛ら血飛沫のように見えた。
片腕を振り上げると、人型の木は力任せにカルキを殴りつけた。
大きくのけぞったカルキは頭を振り、体勢を立て直す。
口元から流れた血を腕で豪快に拭った。
「もう、ああなっちゃうと怪獣大決戦よね……」
「確かに……そう見えるかも」
ルカはカルノスにこの場から離れるように促す。しかし、カルノスは動こうとしない。
「ちょっとッ! ここにいたらあの戦いに巻き込まれちゃうわよッ! 早くここから離れないと!!」
「でも……俺は……俺はッ!!」
そうしている間にカルノスとルカを地面から生えた木の根が取り囲む。
「しまったッ! カルノスッ!! 逃げて!」
ルカは木の根を切断し、その数を減らそうとするが……一本切断する間に数本は出現している。
「そう……そんなにまとめて蹴散らして欲しいなら、お望みどおりにしてあげるわッッ!」
武器を構えると、一瞬ルカの姿が消える。
次の瞬間、ルカは木の根たちの背後にいた。ルカが剣についた木くずを振り払うと、それを合図に、
次々と木の根が切断されていたことを思い出したかのごとく崩壊していった。
魔障覇滅……マスターニンジャのみに許された技であった。
しかし、木の根は止むことなく次々と現れ、ルカを襲う。
最初は優勢であったが、そこは多勢に無勢……徐々に押されていくルカ。
どうすればいいかわからなくなっているカルノスの足元から、木の根がカルノスを襲った。
防御など知らない彼は、大きく吹き飛ばされ、墓の前の地面に叩きつけられた。
(くそッ……体が、うまくうごかねぇ……こんな、最後なのかよ……)
カルノスが諦めかけたその時、辺りに男性の声が響く。
「魔を斬り、鬼を斬り、神を斬り、天道を征くッ! 斬鬼天征・魂剛、推して参るッ!」
森の中から何かが跳躍、カルノス達の目の前に着地する。
黒と紺色の重装甲。どことなく和の雰囲気を纏ったイコン……魂剛。
鬼を斬り、天を征く剛なる魂。イコンホースに跨り、マントをたなびかせるその勇姿は見るものを勇気づける。
搭乗者はチャンピオンの紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。
カルノスの保護の為に森を捜索していた契約者の一人。
「思いの残された場所ってやつは……大事なもんだ。だから征くぜ、魂剛。
大切な想いを護る為にッ! 人々を護る為にッッ!!」
「出力は安定しておるぞ、やれ、唯斗!」
サブシートに座る、剣の花嫁の魔法少女……エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は唯斗にそう告げた。
唯斗の役割が操縦と戦闘ならば、彼女の役割は唯斗が戦闘しやすいように出力の調整を行ったり、
レーダーや敵の行動に目を光らせ、その動きを予測し、警告やアドバイスを行う事だった。
魂剛は鬼刀を抜き放つと、木の根に向かって駆ける。一太刀で、ルカを襲っていた木の根を一掃する。
一方、カルキは人型の木の根と格闘していた。
(ちぃぃッ! なかなかにしぶといなッ! ならば、これで決めてやるッ!!)
カルキは人型の木を足場にし、高く跳躍する。翼を広げると、口に炎を溜める。
人型の木、目掛けてドラゴンブレス改を放つ。
ドラゴンブレス改を放ちながら、彼は両腕を突出し、その手でドラゴンブレス改を挟み込み、圧縮していく。
圧縮された炎の勢いは更に増し、人型の木の根を容赦なく襲った。
激しい炎に包まれ、燃えるというよりも、その場に溶けていく人型の木の根。
まるで、人が焼かれた時のように、苦しそうに手を天に伸ばし膝をつくと、勢いの増した炎によって消し飛ばされた。
激しい戦いを見たカルノスは何かを決心したように、アリアのペンダントを握る。
「ルカさんッ! 俺も……俺も人型の木との戦いの場所へ連れて行ってくれ!!」
「……それが、あなたの思い? いいの? 今なら、避難した村の人達の所に送ってあげることもできるけど……」
カルノスは首を振り、強い眼差しでルカを見つめる。
「いいんだ……俺には何もできないけど、あんた達と一緒に行きたいんだ!」
ルカはカルキの方を向く。
カルキはまだ巨大化したままであり、そのままルカを見た。
「という事なんだけど……カルキ、私と一緒に背中に乗せて上げたいんだけど、いい?」
カルキは静かに頷いた。
こうして、ルカとカルノスはカルキの背に乗り、唯斗達と共にブリガンテの所へ向かった。
最後の決着をつける為に。
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