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花とニャンコと巨大化パニック

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花とニャンコと巨大化パニック
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第六章 思いを繋いで
「みんなごめんね、痛いよね…わたしが原因を止めてくるから…お願い! 道を教えてっ!!」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は【人の心、草の心】で巨大化した植物に声を掛けていた。
 感じ取るそれらは混乱して、それが郁乃の心を痛めた。
「そうでふ、植物さんは悪くないんでふ!」
 リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)とそのパートナーである十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)もまた装置を止めようとしていた。
「こっちはOKですよぉ、猫も人も全て助けられました」
 そして、武からのGОサインに、真人は頷いた。
「装置の現在地は、中央……そう、その巨大な植物の根元にあると推測されます」
 時間によって刻々と変化していた状況、思考速度を【オーバークロック】で加速させた真人は状況分析の末、導き出した。
「そやな、バッチリやで」
 こちらも助け出され……【人の心草の心】と【妖精の領土】で装置の位置を探っていた優夏が、首肯した。
 このまま放っておいても解決されるだろうが、優夏とて命は惜しいし……見過ごす事も出来なかった。
「なんだかんだ言って結局、事件解決しようとするんだから」
 フィリーネはそんな優夏に一つ笑み。
「あたしも、愛と正義の魔法少女として協力しないとネ」
 今はディーヴァだけど、呟きながら仲間達に向かい【震える魂】と【命のうねり】を飛ばすのであった。
「行こう、リイム!」
「はいでふ!!!」
 支援され勇気をまとい、宵一やリイムは一斉にその場所を目指した。
「右前方より、来ますっ!」
 【熾天使の比翼】……3対の氷の翼を展開させたヨルディアが、警告した。
 その銀の瞳は、おびただしい緑の影から飛び出た緑……巨大バッタを捉えて。
 だがそこに。
「あんたらは先に行き、こっちはオレらの担当やで」
「何で偉そうなんだよ……いえ、お任せ下さい」
「貴殿らには近づけさせはしない」
 裕輝に偲に綱が、宵一達と巨大バッタの間に割って入った。
「虫というのは、もしその体を大きくしたならば、薄い殻では自重を支えきれなくなり潰れてしまう」
 事前にそう告げていたのは、裕輝だった。
 裕輝もまた気付いていたのだ。
「ちょっと重心を崩してやって転かすだけで十分やって」
 そうすれば自身の重みで、脚が折れ、身が崩する……と。
 だから綱は重心を崩すように攻撃を入れていたし、それは偲も同じ。
 そうやって巨大虫たちを動けなくしてきた。
「あんた達の相手はあたし達だって、言ってるでしょ〜が!」
「不本意だけと、もう少しだけ付き合ってもらうわ」
 そして、相変わらず疲れ知らずのセレンフィリティとセレアナが、銃弾と拳でもって巨大虫達を近づけさせない。
「上手くいって良かった……この調子で……被害が最小になるように頑張ろうね」
「ホームズ格闘技バリツもまだまだ見せちゃうよ」
 ネーブルも春美も、
「連携プレーでガンガンいくわよ! スキルの出し惜しみなんてしないでね」
「分かってますよ」
 アリアンナもロレンツォもまた。
 思いは同じ……一刻も早く、この騒ぎを止めたいから。
「皆の気持ちは受け取った……装置は止める」
 宵一は言って、ゴールデンアクスの一撃を太い茎へと叩きこんだ。
 リイムがギュッと唇を噛みしめるのが目の端に映ったが、そこが最短距離だから……何より植物たちがそれを望んでいたから。

「やっぱ近づけば近づいただけ、効果は強いようだな」
 【疾風迅雷】で緑の上を疾走しつつ緋山 政敏(ひやま・まさとし)は胸中でもらした。
 足場、一際巨大な植物は既に飽和状態のようで、酷く脆くなっているのが感じられた。
 同時に周囲からだろうが、急成長した緑の蔓などが突然飛び出し、危ない事この上ない。
「よっ……っと」
 だがそれさえも利用する。
 飛び出してきた蔓をワイヤークローで絡め取り、下へと……目的地へと加速する政敏。
 そこに再び襲い来る、緑の触手。
「カチェア!」
「了解!」
 すかさず、政敏のパートナーであるカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が【光術】を放った。
「植物が光を求めて、生きるための意志を利用するなんてずるいですけれど、その恩恵もある訳です。これ小学生でも知っている『初心』です」
 光で蔓を誘導する二人。
 政敏が真っ直ぐ突き進むのは、カチェアとリーンを信頼しているからこそ。
 ヴァルキリーであるカチェアとペガサスに乗ったリーンは、空中から政敏をサポートし、その道を切り開いていく。
 政敏がその心のままに駆けていけるように。
 そうして。
 リーンにサポートされながら政敏の元まで近づいたカチェアは、ニッコリと微笑んだ。
 ここから先は飛行では近づけない、そしてここからはもうノンストップだ。
「わかってますね」
 カチェアは政敏の襟首をおもむろにつかんで、放り投げた。
 【ゴッドスピード】を付与された身体は一直線に降りて……落ちていく。
 根元まで後わずか、な所で突き出たきた緑。
「お願いでふ、道を開けて下さいでふ!」
「頼む!」
 リイムの宵一の必死の説得に、蔓の軌道が僅かに逸れた。
「無茶しすぎだろ」
「真面目に、不真面目に。これが私達のやり方ですから」
 ふぅと息を付く宵一に返すカチェア。
 同時に手刀が、根元の緑を切り裂き。
「……あれか」
 政敏の目に映るそれは、ミカン箱くらいの四角い箱だった。
 振動を続けるそれは、今も動いている……効果を発揮している、という事だ。
「止めるさ。後で、ちゃんと直すからな」
「壊しちゃ、ダメぇぇぇぇぇぇっ!?」
 追走という名の落下をしてきた郁乃が、思わず声を上げた。
「装置壊したら、それこそ暴走するかもしれないもの」
「確かにな……くっ」
 触れた瞬間、咄嗟に【サイコメトリ】で感じ取ってしまった、装置の通常の状態。
 こんな事態を引き起こしているとは思えないくらいの、頼りないちゃちな作りのレバー。
 目盛の位置を間違えたら……あまり楽しくない事になりそうだった。
「目盛二つ分、レバーを引けえっ!?」
「分かったわ!」
 装置を抑えたままの政敏の指示に、郁乃がレバーを引いた。
 あまりに呆気なく……思わず引き過ぎてしまいそうな程に手ごたえなく、あっさり引かれたレバー。
 そして、そうして。
 装置は唐突に、止まった。
「マズイです、皆さん早く離脱して下さい」
 直後、真人の声にそれぞれが場を離脱する。
 成長過多……飽和状態となっていた植物が、瓦解し始めたのだ。
「……ありがとう」
 それでも、残った力で自分達を守ろうと、傷つけまいとする降る優しい緑達に、リイムはそっと感謝を送ったのだった。