校長室
花とニャンコと巨大化パニック
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第八章 今日もいいお天気です 「刀真さん、花壇に行きませんか?」 ある日、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)に誘われた樹月 刀真(きづき・とうま)は漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と共に懐かしい場所を訪れていた。 先日トラブルが発生した花壇は、嘘のように元の穏やかさを取り戻していた。 ちょっと見、おっきな花が咲いてたり花壇が大きくなっていたりはするものの、花々がキレイに咲き並んでいる。 「今日は花壇が復活したお祝いなんですって」 雛子がお世話になった人達を招いたお披露目に便乗しました、と微笑む白花の手にはバスケットがあった。 果たして、出てきたのはサンドイッチを中心とした色とりどりのお弁当だった。 「刀真さん、あーんして下さい」 「うん、美味しい。もう料理の腕は抜かれちゃってるな。師匠としては嬉しいやら寂しいやら」 白花が口元に差し出してきたサンドイッチを、恥ずかしげもなく口にした刀真は、顔を綻ばせた。 「……ぐはっ」 近くで何か悲鳴じみた声がしたが、スルー。 それよりも刀真の胸に込み上げてきたのは、懐かしさと温かいものだった。 二年前、この場所で初めて会った頃には想像もしなかった。 こんな風に笑い合うようになるなんて。 「そんな! 刀真さんが教えてくれたから、だから……」 謙遜と堪え切れない嬉しさで、白花が頬を染めた。 刀真と出会うまで、自分は何も出来なかったと白花は思う。 御柱として、人柱としての役目……それはただそこにいるだけ、生きているだけで良かった。 誰も何も望まなかった求めなかった、白花はただそこに在れば良かったのだ。 けれど解放された、刀真達が解放してくれた。 その時から白花は自由になった。 同時に知った、自分が何も出来ない何も知らない事を。 文字通り『普通の生活』の全てが初めてで大変で……でも、刀真が一つ一つ教えてくれて、触れる全て教えられる全部が新鮮で楽しかった。 料理もまた、その中の一つだった。 大好きな人に笑顔になって欲しい、それが上達の秘訣だったと密かに思っている。 だから、不意の問いに対する答えは躊躇などなかった。 「白花、隠し味は何かな?」 「隠し味ですか?…貴方を想って作りました」 何気なく聞いた刀真だったが、返ってきた答えに僅かに動揺した。 何て嬉し恥ずかしい答えなんだろう……いや、嬉しいけれど。 「……ぐぁぁぁぁっ」 何やら悶える魂の叫びが聞こえたが、やはり恥じらう白花と刀真には聞こえていないようだ。 「む〜、刀真と白花が良い雰囲気でお弁当を食べている」 代わりにチラっと打ちひしがれている物体(と書いて井上陸斗と読む)を見たのは月夜で、しかしやはり突っ込んだりせず。 モヤッとする胸をそっと抑えてから、 「ズルイ! 私だって白花のお弁当を食べるの!」 刀真の頬をつねり白花から引き離して、「サンドイッチを頂戴」と口をあーんと開けて主張した。 「はい、どうぞ」 「……美味しい!」 白花が笑いながら食べさせてくれるサンドイッチは確かに美味しかった。 「私もお返し〜っ」 と言いながら食べさせてあげると、白花がとろける様な笑みを浮かべてくれて、やはり嬉しくなる。 (「陸斗も雛子に思い切った行動を起こせば良いのに」) 思う月夜の胸のモヤモヤは、いつしか消えていて。 「白花のお母さんは喜んでくれているかな?」 笑いながら月夜の相手をする白花に、刀真は目を細めて青い空を見上げた。 「また働いてしまった……修行が足りへんなぁ、人生の負け組になってしまうやんか……」 雛子から貰ったクッキーをもそもそ食べつつ、優夏は打ちひしがれていた。 「いやそれ修行の方向性間違ってるから」 フィリーネは突っ込みつつ、続けた。 「ちゃんと働いて生計立ててよね……苦労するのあたしだし」 恥ずかしげに告げられた最後のセリフ。 「ん?」 と首を傾げる優夏に、フィリーネはふいっと赤くなった顔を背けた。 「もう大丈夫ですよ」 その横ではベアトリーチェが、用意したホットミルクを猫達に飲ませていた。 怖い思いをした猫達に少しでも元気になって欲しい、と。 「ね、雛子。この子達、ここで飼おうよ」 そして、美羽は子猫の背中を撫でながら、考えていた事を提案した。 「皆で育てていけたらいいなぁ、って」 「許可が下りたらそうしたいです……この子達にも迷惑、かけてしまいましたから」 にこにこと笑い合う雛子と美羽。 ちょっと離れた位置で、ペシャンコになっていた陸斗が僅かに復活したっぽい。 「……何だろう、アレ」 それでもショックを隠せない様子で見つめるのは、刀真と白花だった。 二年前、初めて出会った筈の二人が何であんなにラブラブイチャイチャしているのだろう? 「もう二年経ったからねぇ」 「確実に愛を育んでますよね……誰かさんと違って」 「げふっ」 理沙とチェルシーの言葉に、堪らず撃沈。 「ここは頑張って、一歩踏み出す所じゃない?」 「男らしく告白とか……じゃないとこの先もずっとこのままだと思いますよ」 このまま、ずっとこのまま。 そのあまりに現実味のあり過ぎる未来にゾッとした陸斗は立ち上がり。 「……雛子」 陸斗が声を掛けた。 「陸斗くん?」 雛子が振り返った。 「雛子、改めて言うけど、俺……」 陸斗が気合を入れた。 「……にゃっ」 雛子に抱えられた母猫が、陸斗に飛びかかった。 尻尾を踏まれた痛みを忘れていなかったらしい。 「って、痛っ何、何するっ?!」 更に猫パンチもとい爪攻撃を繰り出した。 陸斗は撃沈した。 「ところで……陸斗さんっていつもああいうポジションなの?」 舞の思わずといった疑問に、理沙とチェルシーはほぼ同時に頷いていた。 「あぁ今日も良いお天気ですねぇ」 黎はやっぱり目元をそっと拭ってから、眩しい青空を見上げたのだった。
▼担当マスター
藤崎ゆう
▼マスターコメント
こんにちは、藤崎です。 色々楽しかったです、ありがとうございました。 ではまた、お会い出来る事を心より祈っております。
▼マスター個別コメント