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【2022七夕】荒野の打上げ華美

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【2022七夕】荒野の打上げ華美

リアクション

「え、まじで打ち上げんの? まじで?」
 瀬島 壮太(せじま・そうた)は焦っていた。……決して怯えてはいない。ちょっと焦っているだけだ。
「ええ、本当ですよ。花火も綺麗ですが、人が打ち上げられるって凄いことですから」
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、壮太を引っ張って、打上げ機の側まで来ていた。
「そりゃ、すげえことやってんなとは思ってたけど……なんか、地面に刺さってるやつもいるし」
 壮太は、紺の甚平に草履といった動きにくい格好をしていた。
 自力で着地は難しそうだ。
「ふふ、大丈夫ですよ。ちゃんとキャッチしますから」
 エメの格好は、白地に紺と金銀の流水紋の浴衣、紺の角帯。白に藍の千鳥格子和柄のサンダル。
 こちらも動きやすい格好とはいえない。
 だからなおさら、壮太は不安を感じてしまう。
「ホントだな? ちゃんとキャッチしろよ! 突き刺さんの嫌だからな!」
「はいはい」
 エメは凄く楽しそうだった。
(なんかエメ、異様にはしゃいでるように見えるのは気のせいか?)
 壮太は軽く緊張しながら、先に発射台へと向かう。
「さて、しっかりキャッチしませんと……でもこれ、頭下になって落ちてくるんですよね」
 若干不安を感じつつも、エメは落下地点へと急いだ。
「それじゃ、行くよぉ〜」
 託が慎重に、壮太を打ち上げる。
 ポンッ
「う、うううう……」
 打ち上げられた壮太は、迫りくる星空を見た。
 速度が弱まった地点でみた空は――本当に美しかった。
「あ、ああああっ」
 でもすぐに、落下に変わってしまう。
「壮太君!」
 エメの声が聞こえる。
 大丈夫、エメを信じられる。
 壮太は目を閉じて、衝撃に備えた。
「はっ」
「うぐっ」
 頭から落ちてきた壮太を、掬い上げるように、エメはキャッチ。
「ふ、はあ……。すげえ、体験だった。なんか別世界に行ってきたみたいな」
「お帰り、壮太君」
 感動している壮太に、エメはそう声をかけて下した。

 続いて、エメの番。
 勢い良く打ち上げられたエメは、星の海を漂う。
「ああ、やっぱり夜空が近い感じがしますよ」
 そんなことを思った途端、落下に変わって。
「わ……」
 次第に勢いを増して、落ちていく。
「とりゃっ」
「うっ」
 エメのことも、壮太がちゃんとキャッチしてくれた。
 けれど……。
「よ、よし。成功だな」
「凄く、感動しました」
(まあこいつがこんなに喜んでくれるならやって良かったな)
 目を輝かせているエメを下ろして、壮太は笑みを浮かべる。
 ただ実は、壮太はキャッチする際にちょっと腰を痛めてしまっていた。
「楽しかったです。ふふ」
「そうだな! はははっ」
 声は出さずに堪えたが、笑いながらつい、壮太は腰に手を当ててしまう。
「それじゃ、次は何するかな〜」
 そう言って歩き出した壮太に続き、エメは気付く。
 歩き方が少し変だということに。
(壮太君、なんか腰を庇ってます?)
 気づきはしたが、言えば却って気にするだろうし、そこまで酷い症状ではないようだから。
 気づいてない振りをして、エメは壮太と一緒に歩き出す。
「手持ち花火はどうですか? あそこに座りましょう」
「そうだな」
 エメと壮太は花火を買うと、ベンチの代わりに置かれている丸太の方に向って行き、今度は小さな花火を2人で楽しんだ。

「羽純くん、次だよ、次っ」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は、月崎 羽純(つきざき・はすみ)の腕を引っ張り、目をキラキラ輝かせていた。
「本当に飛ぶのか?」
「勿論、とっても楽しそう♪」
 リーアの屋台で刺激的なアイスティーを飲んだ歌菜は、ハイテンションになっていた。
「楽しそうではあるがな」
 羽純も高揚している自分に気付く。彼もまた、リーアの屋台でミックスジュースを飲んでいた。
「この手、絶対離さないから」
 羽純にキャッチしてもらえたら嬉しいなとも思うけれど……。
 幻想的な時間を、羽純と一緒に分かち合いたいと、歌菜は思った。
 だから、彼の手を引いて、一緒に飛ぶことを望んだ。
(まぁ、最悪、泉へ飛び込めば問題はないか)
 羽純はそう思いながら、承諾し、歌菜と一緒に発射台へと向かった。
「行くよぉ、3、2,1」
 託のカウントが響く中、歌菜はぎゅっと羽純の手を握りしめていた。
 ポンッ
 そして2人は、勢いよく空へと放たれる。
「う……わ……ぁ」
 高く高く飛んで、風の勢いが少なくなった頃。
 歌菜は目をあけて、空を眺めた。
「……」
 羽純は、星空を見たまま、息をのんでいた。
「……吸い込まれそう……とは、こういう事を言うんだな」
「うん、天の川の中に、いるみたい」
 地上の光が届かない場所に浮かびながら。
 月と、星の光の中で2人だけで過ごしながら――2人は、言葉少なく世界に見入っていた。
 少しして、2人の身体は星空から離れていく。
 落下の勢いが強くなった頃に、歌菜は空飛ぶ魔法↑↑を使う。
 羽純の手は今だって離さない。
 羽純は地上が近づいた時点で、レビデートを発動。
 片手は歌菜と手をつないだままで、もう片手を彼女の背に回して。
 ふわり、と浮いた状態で、彼女を抱き上げた。
 そして、地に、足をつく。
「ありがとう。素敵な時間だった」
「楽しかったね! やっぱり一緒に飛んでよかった♪ あんな素敵な景色、一人で見るなんて勿体ないもの」
 上気した顔で嬉しそうに言う歌菜に。
「ああ、よかった」
 羽純はそう言って、彼女にお礼のキスをした。
 歌菜は少し驚いて。
 それから、羽純の首に腕を回して「楽しかった、嬉しい♪」と。
 満面の笑顔で、彼をぎゅっと抱きしめた。

「そもそもお前は魔女として(くどくど)」
 黒に金の大輪の花火の浴衣を着たドラゴニュートが、魔女の少女に説教をしている。
「はいはい、これ飲んでね、これもどうぞ、気持ちよくなるわよ」
 魔女――リーアの屋台で説教を始めたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、彼女にいろいろなジュースを飲まされ、ハイテンションになったり、突然泣き出したり、踊りだしたりしている間に。
 濃紺に線香花火の浴衣を纏った黒崎 天音(くろさき・あまね)は、鬼院 尋人(きいん・ひろと)と共に、打上げ華美の発射台に来ていた。
「キャッチできたら、そしたら……キスしてもいい?」
 発射台に入る天音に、尋人は真剣な表情で尋ねた。
 天音は言葉ではなにも答えず、僅かな笑みを見せた。
 ノーではない、と。尋人は判断する。
 ポンッ
 天音が空へと飛んでいく。
 尋人は、穿いていたサンダルを脱ぎ、浴衣もはだけて落下予想地点へと走る。
 高く高く飛んだ天音の姿は、しばらく見えはしなかった。
 ……しばしの夜空の観賞を楽しんだ後。
 天音は空より帰還する。
 落下速度はかなりのものであったが、キャッチされずとも上手く着地をする自信はあった。
 空中で天音は体を回転させて、足を地面の方へと向けた。
「黒崎……っ!」
 尋人が勢いよく飛び込んでくる。
「……!?」
 抱きとめてもらえる姿勢ではなかった。
 天音は尋人の肩を軽く踏んで勢いを殺して、そのまま華麗に着地しようとした。
「絶対にッ」
 尋人は執念で、天音の足を掴む。
 そして、天音の身体が地面へと落ちる前に、彼を捕らえた。
「捕まえた……!」
 そのまま尋人は目の色を変えて、天音を地面に押し倒した。
「……」
 天音は声も顔にも出さなかったが、ゴンと地面に後頭部を打ちつけていた。かなり痛かった。
「黒崎……ッ」
 後頭部だけじゃない。肩を押さえつけ、体重をかけてくる尋人は重かった。
 いつの間にか身長も体重も自分を越えていて、彼は男らしい体格になってきていた。
 可愛いけれど……生意気だ。
 ふて腐れのような感情を天音は抱いていた。
「鬼院、ちょっと落ち着こうか」
 そう言った後、天音の次の言葉を待つ尋人に、天音はこう尋ねた。
「俺とタシガンどっちが大事?」
 途端、尋人の瞳が揺らいだ。
 力が弱まり、顔には動揺が現れる。
 少し、意地悪な質問だったかなと、天音は思う。
 だけれど、天音が質問を撤回する前に、尋人が口を開いた。
「タシガンは黒崎と出会って黒崎と過ごした大事な場所。 だから両方守りたい。両方守れるような大きな存在にオレはなりたい……」
 真剣な目で、天音を見つめながらこう続ける。
「もちろん何よりも守りたい存在は黒崎だよ」
 その答えに、天音は数秒目を閉じて。
「……しょうがないね」
 と、小さく息をついた。
 次の瞬間に、尋人の頭を引き寄せて、彼の唇に、自分の唇をごく軽く重ねる。
「!!」
 尋人の表情と、身体が驚きのあまり硬直した。
 少し離れて、天音はそんな彼を見て微笑んだ後。
 再び、彼を引き寄せて、長いキスをした。
(後頭部のコブのお返しだよ)
 彼がしばらく立てなくなるほどの、骨を砕く甘いキスを――。
 尋人はそれからしばらくの間、茫然と、ただただ座り込んでいたという。

『やー兄!ちーちゃん打上げ華美で織姫様になるからキャッチしてねー☆』
「な、なんやと……」
 日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)から届いたメールを見て、日下部 社(くさかべ・やしろ)は目を見開いた。
「だ、大丈夫なんか打上げって……」
 打上げ華美という企画が行われていることは知っている。
 だが、自分の妹が打ち上げられるとは思いもしなかった。
 危険じゃないわけがない、そんな企画だから!
(元気があるのは良い事だけどな〜……)
「で! 打上げは何処で行われるんや! ちょいそこの人!」
 社は夜空を観賞している若者達に、駆け寄った。
「会場の場所教えてもらえまへんか!?
お、俺の妹が星になってまうかもしれんのやぁ〜!!」
 必死に尋ねる社に、若者達は「あっちの方だよ」と曖昧に教えてくれた。

「やっとちーちゃんの番だね。打ち上げられる人いっぱいだね。こんなに織姫様がいたら、それだけ彦星様もいるんだね!」
 千尋は打上げ機の前でわくわくしていた。
「それじゃ、行ってくるね!」
 順番を待っている人に、笑顔で言って。
 皆で幸せになれたらいいなーと思いながら、打上げ機の中へ。
 ポンッ
「ん〜」
 打ち上げられた千尋は空へ空へ飛んでいく。
 最初は声も上げられない状態だったけれど、次第に速度は弱まって。
「お空に天の川をもう一個作るー♪」
 握っていたミルキーウェイリボンを一生懸命振って、もう一つの天の川を作りだす。
「わーい♪」
 下降が始まってからは、シャンバラの大地を、地上に光る星々を感動しながら見ていく。
「ここからだと色んな景色が見られるね♪ 綺麗ー☆」
 空も、大地も星でいっぱいだった。
 どんどん速度は速くなって、お兄ちゃん……社はちゃんとキャッチしてくれるだろうかとちょっと不安になるけれど。
(やー兄ならきっと大丈夫だよね♪)
 そう笑みを浮かべて、千尋は最後まで空中飛行を楽しんだ。
「み、見つけたで! ちー!」
 ホエールアヴァターラ・クラフトで水上を駆けて、社は千尋の着地点を目指す。
「やー兄ー♪」
「はは♪ こりゃ、ちーからすごいプレゼント貰ってもうたなぁ〜♪」
 千尋が持つ、ミルキーウェイリボンが綺麗な天の川を作りだしていた。
 両手を広げた彼女を、社も両手を広げて受け止める。
「大冒険やったな、ちー」
「うん♪ 天の川の旅、楽しかった♪」
 千尋は社の腕の中で、とても楽しそうに笑った。