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【2022七夕】荒野の打上げ華美

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【2022七夕】荒野の打上げ華美

リアクション

「さて、どこに吊るすかな〜」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、親しくしているアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)、それから彼女のパートナーである神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を誘って、笹飾りの前に来ていた。
「先にアレナ、どうぞ。届かないところがいいんなら、持ち上げることくらいは出来るぜ」
「はい、ええっと、私は優子さんの後に」
 アレナは短冊を握りしめながら、優子に目を向けた。
「いや、長くなると思うから、2人は先に飾って屋台でも回っていてくれ」
 と言ったかと思うと、優子はどさりと鞄を置いて、中から短冊の束を取り出した。
 そして一枚一枚、丁寧に笹飾りに吊るしていく。
「沢山あるんだな……確認しきれないぜ」
「すごいですね……」
 康之とアレナは驚きながら、優子が吊るしていく様子を見ていた。
 仲間や、友人達に対しての願い事を1枚1枚に記したらしい。
「私も、お友達の数分あります」
 アレナも数枚、短冊を持っていた。
「まあ……七夕って元々は針仕事してる女の人が上達願う事から始まったらしい。だから、優子さんやアレナみたいな女の子の願いなら、いっぱいあっても、きっと叶うさ」
 そう康之が微笑むと、アレナは嬉しそうに頷いた。
「アレナが短冊を吊るす場所は、優子さんの隣だな」
「え?」
 どこに下げようか迷っているアレナに、康之はそう言った。
「こういう時ぐらい『後ろ』じゃなくて『隣』でもいいだろ?」
「……」
「断るんなら、俺が優子さんの隣、ゲットしちゃうぜ〜?」
「えっと……」
 アレナは迷いながら、優子が並べた短冊のちょっと後ろに自分の短冊を並べる。
「ここ、がいいです」
「そっか」
 康之は、優子の隣ではなく、アレナの隣に短冊を吊るした。
 彼の願いは――。
『アレナが大切な人と共にいられますように』
 だった。
「1枚だけ、ですか?」
「一番叶えたい願いだからな。今この時だけじゃない、これから先ずっとだ!」
「……」
「俺も、出来る限り傍に……隣にいるから……」
 そう言った後、康之はちょっと照れながら。
「なんて!」
 と続けた。
 優子がちらりと彼を見た。
「傍にいる為に、康之さんと皆と、一緒に頑張るために、私は……」
 康之は、アレナが吊るした願い事を見た。
『剣の花嫁に戻れますように』
 優子の一番傍に飾られた、彼女の短冊にはそう書かれていた。
 アレナ・ミセファヌスはとある事件により、剣の花嫁でありながら、光条兵器を取り出せなくなってしまった。
 それで、普通の人間になれるのなら、それをアレナが好しとするのなら、それが一番なのかもしれないけれど。
(アレナは今までいっぱい苦しんできた。辛いことが沢山あった。だから、もう幸せになっていいはずだ)
 幸せにしてあげたい。
 いつでも彼女が笑顔でいられるように。
 康之はそう思いながらも、彼女の今の気持ちを酌んで。
「そっか……治るといいな」
 目を細めてそう言った。
 彼の言葉に、アレナはゆっくり首を縦に振った。
 それから、アレナは優子を見る。
「手伝ってくれるか?」
 優子はアレナの願いに対して何も言わず、アレナと康之にそう頼んだ。
「はい」
「おう、任せてくれ」
 優子の短冊には、彼女の大切な人達への願い事が書かれていた。
 幸せを願うものではあったが、大切な人々と、共に戦い、立ち向かっていきたいという、彼女の願いも込められていた。

 笹飾りの着ぐるみを着たキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)は、この巨大な笹飾りに大苦戦していた。
「百合園生の願いを叶えてあげれば、校門くぐれるワヨネ」
 キャンディスの願いは、ただ一つ。ではないが、大きな願いとして、百合園の校門をくぐること、がある。
 何故か、いつも校門前で追い払われてしまうのだ。
 百合園には同じゆる族も沢山通っているというのに。何故かキャンディスだけ。
「これは叶えられそうかもネ」
 百合園生の願い事と思われる短冊を見つけて、外してはキャンディスは自分に飾る。
『ダイエットに成功したい』
『素敵な出会いがありますように』
 などという短冊を。
 とはいえ、笹飾りが巨大すぎることと、キャンディスが叶えられそうな、且つ百合園生の願い事はほぼないことから、かなり苦戦している。
 叶えられることを叶えてあげることで、恩を売ろうという作戦なのだが。
「それに叶えるためには百合園の敷地に入らないと駄目な願いもあるはずヨネ」
 動きにくい格好だが、時間をかけて根気よくキャンディスは探し続ける。
「そういえば、これも飾らないとネ」
 ポケットの中から取り出したのは、白い封筒だった。
 エリュシオンから届いたもの――クリス・シフェウナからの手紙だ。
 手紙には簡単にこう書かれている。
『去年、レストお兄ちゃんの彼女になりたいって短冊に書いたのに、叶わなかったじゃない! バカー! 今年はちゃんと叶うようにしなさいよね!!』
 そして、今年の彼女の願いも、暗号で書かれていて読めない。
「読めないから、叶えられないケド、叶うといいワネ」
 そう言いながら、キャンディスはクリスの短冊も、自分に飾るのだった。
「さて、もうひと頑張りするワヨ」
 飾り終えて、再び百合園生の短冊を探して自分に移そうとするキャンディス。
「何をしているのですか」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が、キャンディスの肩――はないので、竹を掴んだ。
「ミーは、笹飾りのゆる族【ロクリくん】ネ。百合園生なら、ユーも短冊書いて、ミーに吊るすノヨ!」
「吊るすのなら、この巨大笹飾りに吊るします。皆の願い、帰してください」
「ミーが叶えるノヨ。百合園生ハッピーになる、ミーもハッピーになるネ!」
 小夜子はキャンディスに飾られた短冊を取り返そうとするが、キャンディスは体を揺すって抵抗する。
「返してくれないのなら、仕方ないですね」
 小夜子はロープを取り出した。

「綺麗に飾り付けられてますね……」
 一仕事終えて、小夜子は巨大笹飾りを眺めていた。
「しかし、七夕かぁ……。こういう夜空も素敵ですよね」
 空の星々もとても綺麗だ。
「おーろーせ」
「キャッチさせろー!」
 しかし、星になったはずの男達がギャーギャー声を上げている。
「あんまり暴れないでくださいね。短冊が落ちちゃいますから」
 小夜子は吊るされているパラ実生達にそう声をかける。
 小夜子の姿はタンクトップにショートパンツ。
 スタイルが良く、1人でいる彼女に、寄ってくるパラ実生は多かった。
 じろじろ見てくる人には「編な目で見ないでください」と言って睨むくらいで済ませたが、流石に触ってきたり、強引に連れて行こうとするパラ実生や、カツアゲなど犯罪行為をしているパラ実生に対しては、黙ってはいられない。
 運営用のテントから借りてきたロープで縛り上げて、巨大笹飾りの飾り物にしていった。
「この辺りにも百合園生の短冊があるヨ。つるし上げてくれてありがとネ」
 ……しかし、最後に吊るされたキャンディスは全くこたえていない。
「あなたに叶えられる願いなら、いいのにとも思いますけれどね」
 小夜子は小さな声で呟いた。
 彼女も、願い事を短冊に書きはした。
 だけれど、誰にも言えない。
(恋人がいる人はいいですよね……)
 笹飾りに短冊を下げに来たカップルを見て、小夜子は心の中でため息をつく。
「覚えてろよー。あとであんなこととか、こんなことしてやるからなァ」
「小夜子ちゃん、可愛いー。もー、悪い事しないから、下ろしてぇぇ」
「俺のことは下ろさなくてもいい。その代りそのショートなパンツを下ろしてみせろ」
 吊るされたパラ実生が小夜子に様々な言葉を浴びせてくる。
 ため息をつき、哀れみの目で、小夜子は見上げる。
(こうやってパラ実生を吊してるのもある意味八つ当たりかもしれませんね)
 小夜子は、彼らに見えないように自分の短冊を笹飾りに吊るすと、そのままその場を後にした。

「……ん?」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、屋台で購入したアイスコーヒーを口に含んだ時点で、なにやら添加物が入っていることに気付いた。
 害のある量ではなさそうだが、飲まずにその場にコップを置いておく。
「うーん、美味しかった〜!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はミックスジュースを飲み干して、それから持ってきた紙の束をバサッと取り出す。
「……なんだこの量は」
「え……つい?」
 唖然とするダリルの前で、ルカルカはてへっと笑みを浮かべる。
 紙の束、それは全て短冊だった。
「それにしても、ホントに大きな笹飾りねー。上の方、どうなってるのかしら」
 ルカルカは笹飾りを眺めながら、どこに飾ろうかと考えていく。
「そんなに、何を願うんだ」
「色々〜♪ うふふ、うふふ」
 ルカルカは頬を赤く染めて、にこにこ微笑む。
 ミックスジュースの効果が出てきたのだが、彼女自身は気付ていない。
「まずはこれっ!」
 ルカルカは大げさに短冊を一枚抜いて、高く上げた。
「『戦争がなくなりますように』か、規模がでかいな」
「そう! 夢は大きく持たなきゃね♪」
 鼻歌を歌い始めながら、ルカルカは笹飾りに短冊を吊るした。
「次はこれっ!」
 続いて取り出した短冊には『金団長の期待に応えられるよう頑張ります』と書かれていた。
「ただの意思表示だろ、これ」
 ダリルからつっこみがはいるが、ルカルカは変わず上機嫌でにこにこ笑みを浮かべている。
 それから、恋人や友人達への思いや『私たち幸せになります』という宣言だとか。
「最早何も言うまい……」
「ふんふんふ〜♪」
 呆れるダリルをしり目に、ちょっと変わった願い?の短冊をルカルカは笹飾りに飾っていく。
(微妙に七夕を勘違いしているようだが、願うだけではなく叶える為に行動もするのだろうとは分るがな)
 ダリルは軽くため息をついた。そして。
「弗慮胡獲、弗爲胡成と言うし、叶うと良いな」
 そう言うと。
「ほえっ、何の呪文?」
 ルカルカが不思議そうな目を向けてきた。
「おもんぱからずんばなんぞえん、なさずんばなんぞならん、だ。帰ったら自分で調べてみろ」
「はあーい♪」
 にぱっとルカルカは笑う。
「で、ダリルは何書いたの?」
 突然キラキラした目を向けられて、ダリルは思わず足を一歩後ろに引いた。
「何を書いたの、何を書いたのぉ♪」
「や、やめろ……」
「ダーリールぅ、くすぐっちゃうぞぉ」
 ルカルカがダリルの身体をゆさゆさ揺すりだす。
「わかった、飾るから勝手に見ろ」
 言って、ダリルはルカルカを振りほどく。
 薬の効果で彼女は変にハイテンションになっていた。
「一応書いてはきたがな。効力は信じてはいない」
 ただの付き合いだといいつつ、ダリルも落ちないようしっかりと短冊を吊るす。
「ふむ……『最大の防御より最良の防御を持って国防が成されん事を祈念する』か。最大の……ってのは攻撃の事? 最良の防御ってなあに?」
「ルカなりの答えを考えてみろ」
 ダリルはルカルカの質問に答えなかった。
 ルカルカは、うーんと考えている。
(俺の考える最良の防御とは「敵を作らない事」だが、ルカはどんな答えを出す?)
「……受付けに持っていくぞ」
 ルカルカが考えている間に、ダリルはルカルカ持ってきたもう一つの袋を持って、パラシュート花火の発射台の方へと向かう。
「あっ、今のうちにこれも……」
 1人になったルカルカは、ダリルにも見せずに隠しておいた最後の1枚の短冊を手に、空飛ぶ魔法↑↑で巨大笹飾りの頂上に飛んだ。
「天辺だと最初に叶えてもらえるかもだからっ」
 飾った短冊にはこう書かれていた。
『金団長の願いが叶いますように、健康でありますように』
 ――数分後、ルカルカが提供した沢山のチョコバーが、空から降ってきて、訪れた人達に笑顔の華を咲かせた。

「若葉分校って何気に有名だよね。興味あるなぁ」
「インターネットも使えるっていうしね。まるで学生向けの道の駅みたい」
「じゃ、是非遊びに来てよ。喫茶店の野菜ジュースがお勧めだぜ」
「採れたての野菜で作ってるんだ」
 2人組の少女を、2人組の少年がナンパをしたようだった。
 4人の話は弾み、楽しく屋台を回ったり、花火を見ていたのだが……。
「いい雰囲気だね」
 トイレに向った少年の前に表れたのは、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)だった。
「これを、キミに貸してあげるよ」
 そう言ってブルタが差し出したのは、キューピットの弓矢だった。
「これって……聞いた事がある。射抜かれた子は使った人にときめくってヤツ」
「更に関係を深める為に、一歩前に踏み出す勇気がキミには必要だと思うよ」
 したり顔で、ブルタはそう言った。
「サンキュー、よし、ブラヌより先に彼女作るぜ、俺は〜!」
 言って、キューピットの弓矢を持って、その少年は戻っていき。
 好みの女の子に、ハートの矢を射ち込んだ。
 道具で人の心をどうにかしようなどと想う輩は別れた方が双方の為。
 ブルタはそんな風に思っていた。
 好みの女の子とより親しくなっていく少年を見ながら、呟く。
「ボクが幸せを感じる瞬間は二つある。一つは心の軋む音が聞こえた時、もう一つは一番信用していた者に裏切られた人間の顔を見る時さ」
 彼が少年に貸した弓矢は元は愛の弓矢であったが、愛を信用しないブルタにより「弓矢を使い恋人になったカップルは必ず不幸な分かれ方をする」と言う呪詛が込められている。
「どうやら上手くいったみたいだね」
 少年と少女は凄く楽しそうに笑い合っている。
 結果はすぐには出ないが、時間をかけて経過を見届けるのも一興だと、ブルタは考えていた。