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【猫の日】黒猫が!黒弥撒で!黒猫耳!

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【猫の日】黒猫が!黒弥撒で!黒猫耳!

リアクション

●魔法が解けたら●

 結局。
 騒動は2月22日が終わるまで収まることなく続いた。
 空京の街は、人々のほぼ全てが黒猫と化し、一時は都市機能の麻痺まで危ぶまれたが――時計の針が重なって、シンデレラの魔法も解ける時間が来た途端、踊り狂っていた(最後の方はキャットファイトに興じていたが)黒猫たちはただの猫に戻り、それと同時に人々も正気に戻った。

 公園に作られていた祭壇はさくらが処分した。
 残された石像は、どさくさに紛れて天音がかっぱらっていった。(さくらから処分を委託された、とも言う)
「……それで黒ミサを企てようなどと思うなよ」
 ブルーズがしっかり釘を刺したが、天音の反応からするに、約束が守られるかは怪しいところだ。

「うわぁあああああああッ!」
 頭から猫耳が消えた樹月 刀真(きづき・とうま)は、理性と記憶とが手に手を取って戻って来たのを感じて悲鳴を上げた。
「あ、刀真」
 刀真の頭を撫でる格好のまま眠っていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、その叫び声で目を覚ました。ぶる、と寒気が走る。当然だ、まだ冬は過ぎていないのに、数時間も屋外で眠ってしまった。
「おおお、俺は、なんて事をおおお」
 芝生の上でもお構いなし、刀真は先ほどまでの自分の姿を思い出し、ゴロゴロと頭を抱えてのたうち回る。
 刀真の脳裏には、今日一日の自分の行動がありありと浮かんでいる。月夜と買い物へ出て、洋服や下着、本などを買って――そこまでは良い。休憩しよう、と公園へやってきて、ベンチに座って――そこからの記憶は、甚だぼんやりして居るのに、はっきりと思い出せる。妙な感覚だ。そう、まるで、自分の視点で撮影された映画を見ているようなイメージ。映像や音声ははっきりしているのに、その時自分がどう感じていたかという自分の主観だけが抜け落ちている、そんな回想。
 そしてその、他人の物のような自分の記憶の中での自分の行動といったら。
 月夜に頭を撫でられてみゃおみゃお嬉しそうに鳴いたかと思えば、急にすり寄ってきた月夜に頬ずりを返したり、抱き寄せて抱き返されて。刀真の頭は沸騰寸前だ。
「ふふふ」
 一方の月夜は、そんな刀真をニコニコと笑顔で眺めている。どうやら幸せな時間だったらしい。
「さ、刀真、帰ろう?」
 寒いよ、と微笑んで、月夜は少し落ち着きを取り戻した刀真の腕をとった。

 魔法が解けて、ぱちりと二人は同時に目を覚ました。
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)の二人である。
 二人とも公園のベンチで休憩していて――例によって二人とも猫化していた、と言うわけだ。
 正気に戻った二人はがばっと起き上がって、それから顔を見合わせて、お互い顔を真っ赤にして黙り込んだ。
 短い沈黙が落ちる。
「………………うわぁあああああああ」
 その沈黙を破ったのは歌菜の方だった。頭を抱えて、思い出したくないと言わんばかりにぶんぶん頭を振っている。
――確かにねっ、確かに羽純君を膝枕してあげたのは凄く幸せで、黒耳はもふもふで気持ちが良かったけどねっ、でもでもあんな恥ずかしい真似を……私はっ……!
 先に猫化したのは羽純だった。
 初めもたれ掛かってきた時には寝てしまったのかと思ったが、気付いたらにゃんにゃん言いながら歌菜の膝の上に頭を載せていた。その時は確かに、息が止まるかと思うほど恥ずかしかったし、いつもなら思わず振り払ってしまう所なのだけれど、膝に当たるふわふわの猫耳は温かくて柔らかくて、だんだん歌菜の思考も蕩けてきて――要するに猫化してしまって、結局二人揃ってひなたぼっこしたまま眠ってしまっていたのだ。
 出来事を思い出しながらひとり百面相をして居る歌菜とは対象的に、羽純は無言だった。
――俺としたことが。
 ショックすぎて言葉が出ない。勝手に脳裏に再生される記憶に目眩がしそうだった。
 しかし、目の前でおおいに恥ずかしがっている歌菜の姿を見ていると、なんだかどうでも良いような気分になってくる。
「歌菜、落ち着け」
「お、落ち着けないよ羽純くん……」
 涙目になって居る歌菜の姿に、羽純は思わず吹き出した。
「どうせこの辺り一帯、みんな猫になってたんだ。貴重な体験が出来たと思っておけばいい」
「羽純君、何でそんなに冷静なの……」
「あんまり歌菜が狼狽えてるから、逆に」
 ひどぉい、と頬を膨らませる歌菜の肩を抱くようにして、帰ろう、と促す。すっかり体も冷えてしまった。
――歌菜に猫耳が生えたところを、ちゃんと見られなかったのは少し……残念だ。
 並んで家に向かいながら、羽純はそんなことを考えた。

 自宅で猫化したまま眠ってしまい、翌朝を迎えた者が居た。
 アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)だ。
「あ、アルトリアちゃん、元にもどったですねぇー」
 ひょっこり顔を出した佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)がのんびりとした口調で声を掛けてくるが、アルトリアは事態を理解するまでに少し掛かった。
 ぱちぱち、と何回か瞬きをして、周囲を見渡す。
――昨日は……確か……
「覚えてないですかぁ? アルトリアちゃん、猫さんみたいになってぇ、働きたくないでござるにゃんーとかー」
「あああああうわあああああああルーシェリア殿! 思い出しました! 思い出しましたからそれ以上は!」
 楽しげに回想を語るルーシェリアの言葉に、芋づる式に昨日の出来事が思い出されて、アルトリアはあまりの恥ずかしさに悲鳴を上げる。
「でも、アルトリアちゃん普段から働いてないですから、大して変わりませんでしたけどねぇ」
「ルーシェリア殿……ひどい……」
 アルトリアはよよよとその場に崩れ落ちる。

 かくして、空京猫だらけ事件は、数名の心に深い傷を刻みつつ、概ね平和に幕を下ろしたのであった。

――おしまい。

担当マスターより

▼担当マスター

常葉ゆら

▼マスターコメント

ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。
復帰作ということで、どれほど調子が取り戻せるかひやひやしながらの執筆となりました。お楽しみ頂けましたでしょうか。

猫と言えば猫耳ですよねー! と、趣味全開のシナリオとさせて頂きましたが、沢山の皆様にご参加頂き感謝感激です。
結局猫たちの正体も何もかも解らずじまいですが、特に深い裏話等はありません(笑)。皆さんにねこねこしい一日をプレゼントするための不思議な力、ということで。

また、貴重なアクション欄を割いて出産祝いのメッセージをくださった皆様、本当にありがとうございました。
お陰様で大きなトラブルもなく子育てライフを楽しんでおります。

また次回シナリオでお目もじ出来れば幸いです。ありがとうございました。