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リアクション
chapter5.ヨサーク
ネコクイーンと生徒たちがいざこざを起こしている頃、エメネアに向かっていたヨサークはロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)に足留めを食らっていた。ロアはヨサークとエメネアの接触を防ぐかのように彼の進路上に立ちはだかっている。
彼の斜め後ろにはパートナーのレオパル ドン子(れおぱる・どんこ)が、そしてヨサークの左右にはロアの指揮するキメラ、「タイガーリキシ」が今にもヨサークに襲いかかろうとしていた。ちなみにタイガーリキシとはその名の通り、虎と力士の遺伝子を組み合わせたキメラである。力士の体と虎の頭を持つ、どこかで見た記憶のありそうな姿をしている。
「へっへっへ、ヨサークよぉ、久しぶりだな。再開記念に、いっちょ喧嘩でもやらねぇか? それも、とびっきり派手なヤツをよ」
「周り囲んで4対1で喧嘩とは小せえ野郎だな、ああ?」
「勘違いすんなよ、こいつらはあくまで喧嘩の邪魔されないためにいるだけだ。俺は人数も武器も使わねぇ。拳ひとつでタイマンだ、ヨサーク!」
「上等だ、知り合いでも容赦はしねえぞこらあ!」
以前この空峡にある小さな島で行動を共にし、連れションまでしたことのあるふたりはそんな過去が遠い昔であるかのように向かい合う。ボクサーのように拳を構えるロアを前に、ヨサークも鉈を置き拳を武器にした。いつ殴り合いが始まってもおかしくない、そんな雰囲気の中、ヨサーク空賊団団員である佐伯 梓(さえき・あずさ)がヨサークを追いかけるようにしてその場に駆けつけた。
「頭領、大丈夫ー? 俺も手伝うよー」
どうやらヨサークが囲まれているのを見て、心配になって手伝いにきたらしい。
「あぁ、戦いの邪魔はしちゃいけないのですぅ〜。タイガーリキシちゃん、やっちゃってくださぁい」
梓にとって不幸だったのは、タイマンで話が進んでいたことを知らずに割り込んでしまったことであった。結果、それが原因となりドン子は本来防波堤として置いていただけのタイガーリキシを梓に差し向けることとなったのだ。
同時に、殴りかかってきたロアの一撃を紙一重でかわしたヨサークは、カウンターを狙わんと腕を振り上げる。そうしてロアとヨサークの勝負は始まった。梓はヨサークの背後に近付き、彼に背中を向ける。互いに背を向け合うような形だ。
「だいじょぶ、頭領の後ろは俺が守ってみせるから」
そこに襲いかかるタイガーリキシ。自分のすぐ真後ろでドタバタされたことでヨサークの移動スペースが狭まり、ロアに押され始める。
「お、おめえちょっとまずそこから離れ……」
「任せて! 任せて頭領! 俺がいる限り後ろはだいじょぶだから!」
梓はヨサークの背中を守るのに夢中で、ヨサークの言葉が届いていないようだった。そんな様子を見ていた梓のパートナー、ディ・スク(でぃ・すく)は梓の熱心な言動に感心していた。
「主が一生懸命になっておる……これはわしも手伝わねばなるまいて」
ディはそう言うと、何を思ったか突然ビリビリと服を破きだした。あまりに勢い良く破きすぎて、下半身があられもないことになっていた。
そのままディはパートナーの背中を守ろうと、梓とヨサークの間に入り込む。が、戦いに夢中で梓もヨサークもディが割り込んだことに気付いていない。
「頭領、後ろだけは任せて! だから後ろは気にしないでいいから! 後ろ振り向いたりしなくていいからね頭領!」
「なんだおめえ、さっきから後ろ後ろって……」
あまりに梓が連呼するので、つい条件反射で振り向くヨサーク。するとそこには、下半身を露出させたおじいさんがいた。
「おあああっ!? なんだおめえええ!」
これにはさすがのヨサークもびっくりである。そしてそれは、最大の隙となった。
「戦いの最中によそ見してんじゃねぇ!」
ロアの拳が、ヨサークの顔にクリーンヒットする。
「うおっ……」
一瞬目の前が真っ暗になり、よろけるヨサーク。ふらつき、倒れそうになる彼だったがロアが伸ばした手でそのままヨサークの腕を掴み支えた。
「いい喧嘩だったぜヨサーク! さあ、ひと暴れしたことだし、もっとすっきりするために連れションしようぜ!」
「何、連れションじゃと!? ふふ、わしも加えてもらおうか。心配せんでも準備はもう出来ておる」
下半身を出したままのディが、ロアの言葉に反応する。ヨサークは一瞬「何人のこと殴っておいて小便誘ってんだ」と思ったが笑顔で手を差し伸べるロアとディを見ているうちに、なんかもういいかという気になってきた。
「よしおめえら、このキノコにたっぷりぶっかけんぞこらあ!」
ヨサーク、ロア、ディは仲良さそうに一列に並び、スタンバイを始めた。それを見ていた梓も妙にその連帯感が羨ましくなり、慌てて混ざる。
「頭領、俺もやるよ頭領ー」
下を脱ぎ始めた梓を見て、大慌てで彼らの下へ走ってきたのは梓の後輩であるケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)だった。
「自分もヨサーク空賊団の団員なんだ! 今ここで自分が動かなきゃ、いつ動くって言うんだ!」
間に合え、間に合ってくれ。ケイラは走りながら懸命に祈った。もうヨサークたちはいつ発射してもおかしくない。が、どうにかケイラは間一髪で間に合った。
「はあ、はあ……良かった、どうにか間に合った……」
ケイラは息を整えることもせず、いそいそとリュートを取り出し、爽やかな曲を演奏し始めた。アルプスの高原を連想させるような軽やかなメロディーが流れると同時に、ヨサークたちからも液体が流れる。
そう、ケイラは排尿の音を出来るだけ消そうとリュートを弾いたのだ。これがきっかけで、ケイラは「イルミンの音姫」と呼ばれることになるのだがそれはまだ先の話である。
ともかく、ヨサークはケイラの演奏をバックに無事ロア、ディ、梓と連れションを終えた。改めて思い返すとなんだこれ、と言わずにはいられない流れだが、本人たちがすっきりしているのできっとこれでいいのだろう。
「どうだ、すっきりしたろヨサーク!」
「ああ、出し切ったぜ……!」
もう何しにここに来たのかよく分からない会話である。ロアとヨサークがそんなお喋りをしながら服をはき直そうとしたその時、彼らの背後から危機が忍び寄っていた。
エメネアのところに行こうとしていたが、屈強な男たちの尻に吸い寄せられたベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が、よだれを垂らしそうな勢いでヨサークに近付いていたのだ。
「菊の花……まさかまた咲いている花を見れるとは! これは私に摘めということですね!」
我慢出来ず、ベファーナはヨサークの尻を目がけて飛びかかった。
「私とひとつになりましょう! そして私とあなたのキメラが誕生するのです!」
「!!」
突如背後から襲い来るベファーナに気付くが、下をはき直している真っ最中だったためとっさに反応が出来ないヨサーク。かわせない。そう彼が思った時だった。
「危ないヨサークッ!」
様子を見ていたケイラのパートナー、マラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)が咄嗟の判断でヨサークに氷術をかける。
「うおおっ!?」
一気にヨサークの下半身が凍りつく。これではベファーナも手出しが出来ない。
「いざという時のため、ガードに務めていたのが功を奏したか……」
ふう、と安心した様子で息を吐くマラッタ。が、当のヨサークは歯をガチガチ言わせて震えている。
「頭領!」
「ヨサークさん!」
その後ヨサークは梓とケイラの手によって介抱され、どうにか事なきを得たようだった。
「普通、俺じゃなくて相手に氷ぶつけるだろうが……」
青ざめた顔で呟いたヨサークの言葉は、もちろん誰にも聞こえなかった。
ヨサークが倒れているその一方で、ベファーナの契約者である雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)はエメネアのところへ向かっていた。その格好はチャイナドレスに虎の毛皮と、なんともゴージャスな服装である。先ほど真が興奮気味に「チャイナ服が!」と言っていたのはおそらく彼女のことだったのだろう。
「まったく、貧乳が好き勝手やってくれるじゃない?」
ぼそっと呟くリナリエッタ。彼女はどうやら自分よりスタイルの劣るエメネアが自由にしているのが許せないようだった。そのまま駆け抜け、もう少しでエメネアに辿り着こうというタイミングで、彼女の行く手を残っていたネコクイーンが阻む。エメネアを護衛するため、そばで控えていたキメラたちである。
「へぇ、それでセクシーさを出してるつもり? 私も甘く見られたもんねぇ」
リナリエッタは挑発するように、体を屈め胸をよせる。91と噂のバストが、大迫力で彼女らの眼前で揺れた。
「な、何よ、大きけりゃいいってもんじゃ……」
負けじとネコクイーンたちも、綺麗な体のラインを惜しげもなく披露する。強調されたくびれが、滑らかな曲線を描いている。両者の勝負はほぼ互角であった……が、ここでリナリエッタが奥の手を出す。
「ベファーナ!」
ヨサークを追い掛け回していたベファーナを呼び戻し、リナリエッタは再びポーズをとる。と、ベファーナはサンダーブラストで派手にそのポージングを演出し始めたのだ。カメラのフラッシュにも似たその閃光は、リナリエッタをトップモデルのように映し出していた。
「そんな……何なのあの輝きは!!」
「どお? 私の方がセクシーでしょ、ふふ。あなたたちもこのライトを浴びたかったら、こっちに来るのね。セクシー隊を結成しましょうか」
ネコクイーンは美を武器とする存在。その牙を磨くためなら、彼女たちは敵対する者へ下ることも辞さなかった。
一匹、また一匹とネコクイーンたちがエメネアの下から離れ、リナリエッタに吸い寄せられていく。彼女のスタイルの良さに加え、ベファーナの演出、そして適者生存によりどちらが上位にいるかを思い知らせることが出来たのが、彼女の勝因であろう。
「ふふ、さあて、後はあの貧乳娘だけね」
リナリエッタがちら、とエメネアの方を見る。既に何人かの生徒が、彼女の下へと辿り着いているのが見えた。
同時に、フロアにビーッ、という音が繰り返し鳴り始めた。機関室が破損したことを知らせる警告音だ。おそらくもう、長時間は持たないであろうこのマ・メール・ロアでしかし、エメネアは微塵も動く気配を見せようとはしなかった。
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