空京

校長室

建国の絆(第3回)

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建国の絆(第3回)
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リアクション



空京市内防衛


 ある日の夜、空京に震度5弱程の地震が起きた。
 空京地下に、鏖殺寺院が「救世主の寝所」と呼ぶ建造物が現れたのだ。
 それ以降、空京市内の各地にどこからともなく突然モンスターが大量に現れるようになった。
 ここ一月ほど、モンスターが突然現れる事件は頻発していたが、寝所出現以降、その量は一気に増えた。


「あっ、あんな所にモンスターが!」
 真新しい魔法の箒に乗って、市内をパトロールしていたミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、バイクで見回るシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)に電話する。
「開拓大路のダイエーホテル付近に、ヒドラが出現してるの。応援を呼べる?」
「大物ですね。すぐに迎える人を探します」
「頼んだよ。他の人にも応援を頼むから」
 ミレイユは同じ【六学の絆】のイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)にも連絡する。
 イレブンは高層ビルの屋上から、モンスターの出現を監視していた。
「なに?! ダイエーホテル付近にも現れたって? さっきキメラ討伐に向かった中から、応援に行ってもらおう」
 イレブンは素早くメールを打ち、これまでの事件で協力してきた仲間達に一斉送信する。
 その背後で鈍い音が響く。
 カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)がセスタスを装着した拳で、集まってきたグレムリンを殴り飛ばしていく。知恵の回るグレムリンが、イレブンの携帯電話を故障させに来たようだ。
「かかっておいで! モンスターなんて【至高のメニュー】の食材にしてあげるよ!」
 カッティは威勢良く言って、彼らの注意を引きつけながら拳を振るっていく。
(でも本当に食べるには、けっこーマズそうだけど)
 カッティは戦いながら、心の中だけでそう考える。


「ああん?! 次はダイエーホテル? 行ってやるよ! 次から次へと出て来やがって……ゴキブリよりタチの悪い連中だなァおい!」
 イレブンからの連絡を受け、比賀一(ひが・はじめ)は携帯をポケットにつっこみ、自転車に飛び乗った。ペダルをこいで、すっ飛んでいく一を、守護天使ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)がスパイクバイクで追っていく。
(やれやれ、怒りのあまり口調まで変わってんぞ、アイツ)
 観測機器設置で市内を走り回っただけあり、一は脇道や建物の間を通り抜け、あっと言う間に暴れているヒドラの下に辿りつく。
 まだ到着した生徒は少ない。
「今回もこいつらのせいで、ひもじい思いをしなきゃならねぇってのか、えぇ!? いいか、弾丸はタダじゃねぇんだよ!」
 食費がふっ飛んだ怒りで、一は破壊工作用の火薬をモンスターに叩きつける。
「一は敵から市民を出来るだけ引き離す役だろう? 倒してもいいが、あんまり無茶はするんじゃないぞ」
 ハーヴェインが一に言うが、耳に入っているかは怪しい。
 彼は自分の仕事だけでもやっておこうと、ホテルの窓ぎわに群がった宿泊客を下がらせに向かう。
「怪獣映画じゃないんだ。ノンキに見物してると巻き込まれるぞ」

 バイク形態で機晶姫イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が、ヒドラに体当たりをかます。
 途中までイビーに乗ってきたパラミアントこと五条武(ごじょう・たける)が、その勢いでヒドラの体の下に潜り込み、破壊工作の爆薬を設置する。爆発。
 武は間一髪で、怪物の足の間から転がり出ている。
 彼を噛み潰そうとしたヒドラの首を九条風天(くじょう・ふうてん)が紋章の盾で受け止める。
「せめてこの手の届く範囲程度は護り通してみせますよ」
 風天はさらに前に出て、ソニックブレードでヒドラの首を切り落とす。が、切り口から二本の首が生え、何事もなかったように噛みかかってくる。
「くっ、しぶとい怪物め」
 英霊宮本武蔵(みやもと・むさし)はディフィンスシフトをしいて、仲間の防御を高める。
「だったら、こうするまでよ!」
 パラミアントはヒドラの首を避けて胴体に飛び乗ると、度重なる破壊工作で鱗が剥げ落ちた箇所へ、雷を帯びた拳を突きこんだ。鉄甲で轟雷閃を放ったのだ。
 咆哮をあげつつ、ヒドラの巨体が倒れた。
 一はトミーガンの銃尻で、ヒドラの頭を殴りまくってトドメを刺す。
「よし、一般人に被害はないな!」
 パラミアントが周囲を確認する。
 C級四天王の殿道にリベンジを試みたいと思っていた彼だが、自身の力を活かすのは空京だと、街に駆けつけたのだ。

 しかし、彼らが一息つく間もなく、一の携帯電話が鳴った。イレブンから新たな魔物出現の情報が入る。
「まだ出るか! 行くぞ、うらぁ!!」
「ああ、目の前で消える命は、今しか救えねえ!」
 一は自転車に飛び乗り、パラミアントはバイク型機晶姫イビーにまたがる。
「センセー、ボク達も急ぎましょう」
 風天も小型飛空艇に乗る。
「おう! まったく、大将と居ると退屈しないぜ」
 武蔵は楽しそうに、やはり小型飛空艇に乗って風天と共に走りだした。
 ハーヴェインはやはりスパイクバイクで皆に続きつつ
(怒りが醒めたら、一の奴、ひどい筋肉痛だろうな)
 と考えた。


 地震以降、空京市内各地には外出禁止令が出されていた。
 そのためオフィス地区では通勤してくる者も無く、ビル街はほぼ無人の状態だ。
 空京警察が築いたバリケードに銃座を構え、崩城亜璃珠(くずしろ・ありす)はモンスターを待ち構える。囮役の生徒が、そこに怪物を導いてくる手はずだ。
 警察官達は、いずれも不安そうだ。
 もともと彼らは、人間の犯罪者を相手どるのが任務だ。モンスター戦は想定外である。その上、他都市を守護する騎士団とは異なり、地球から派遣された彼らはモンスターに慣れがない。
 亜璃珠は警官を鼓舞し、士気を高める事にした。
「鏖殺寺院報道官ミスター・ラングレイは声明文の中で、こう言っていますわ。
『数万、数十万の民の犠牲に背を向ける貴人には、地の果てまでも死が追いかけ、いずれ世界は闇へと消えるでしょう』と。
 背を向けても追いかけてくるならば……そう、立ち向かえばいいのですわ」
「おおぉっ!」と、まだどこか不安そうながら声があがる。
 崩城ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)だけは、何を言っているのだろうという表情だ。
「亜璃珠ー、かっこつけてもけっかがついてこないといみないよー」
「ちびには、士気を鼓舞するという意味が分からないようですわね」
「そ、そのくらい、わかるもーん」
 ちび亜璃珠は知ったかぶりをする。

 道の向こうから咆哮が響いた。囮がモンスターを連れてきたのだ。
「さあ、いらっしゃい。穴あきチーズにして差し上げてよ!」
 亜璃珠が、囮の避難を確認し、機関銃の弾を凄まじい勢いで巻き始める。モンスターだけでなく、穴だらけになった看板も吹っ飛んでいく。
 ちび亜璃珠も指輪の光精や、ランドリーを駆使して援護した。
 ネイジャス・ジャスティー(ねいじゃす・じゃすてぃー)はバリケードの前に出て、怪物に接近戦を挑む。
「女王様、どうか私にお力をお貸しください……」
 ネイジャスはナイトシールドにブロードソードで、襲ってきたキメラに対峙する。
 ヤジロアイリ(やじろ・あいり)が動きを鈍らせるため、キメラの翼に氷術を打ちこむ。
「ここは契約者である俺達が、やるしかねーな」
 アイリはSPリチャージを使いながら、モンスターに魔法を打ち込んでいく。
 契約者との不協和音が目立つ空京警察ではあるが、何より市民を守るという気持ちは同じはずだと、アイリ達は信じていた。


 シャンバラ宮殿は建設中で、竣工は来年だ。とはいえ下層階はほぼ工事を終え、その敷地内では先日、ツァンダ家による女王候補宣言の儀式も開かれた。
 もっとも、その儀式の最中、新たなる強大な敵十二星華が出現したのだが……

 宮殿の警備を行なうクイーン・ヴァンガードに、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が見晴らしに優れた宮殿から狙撃をさせて欲しい、と頼みに来る。
「いきなり素性の分からない奴が来たって、簡単に入れるわけには……、ん?! あんたは【教導団の勝利の女神】!」
 クイーン・ヴァンガードの少年はあわてて、彼らの班長に連絡を入れる。
 班長はさらに、クイーン・ヴァンガードの親衛隊隊長ヴィルヘルム・チャージルは連絡を入れる。
 ツァンダ家重臣の守護天使ヴィルヘルムは、宮殿の被害を防ぐべく指示を出すのに忙しかった。だが、知らせを受けてミューレリアの入場許可を出す。

 クイーン・ヴァンガードからそれを告げられ、ミューレリアに同行する霧島玖朔(きりしま・くざく)は呆れたように言う。
「さすが実績持ち、それもホカホカの奴は違うな。だが今度は俺が、女神よりも多くの敵を狙い撃ってみせるさ」
「ふん、負けないぜ!」
 ミューレリアと玖朔は、パートナーと共に内装工事用のエレベーターで上階に登る。
 シャンバラ宮殿は高さ2千m。上層階はまさしく雲の上だ。
 空京に現れたモンスターも、せいぜい数百mの高度しか飛んでいない。
 ミューレリア達はモンスターを狙撃しやすい、高い階で降りる。しかし、そこも宮殿全体では低層階に過ぎない。
 カカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)ハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)が双眼鏡でモンスターを探す。
 我が物顔で空京を飛ぶワイバーンに目をつけた。
「でっかい体が良い的だぜ!」
 ミューレリアはスナイバーライフルを発射する。
「霧島、タイミングを合わせろよ!」
「やってるぜ。このデカブツ、落ちろッ」
 ワイバーンは銃弾を受けながらも、攻撃をかけてきた宮殿に向かって飛んでくる。
 と、宮殿からも無数の銃弾や魔法、遠距離攻撃が飛ぶ。宮殿を守るクイーン・ヴァンガードだ。地面に落ちたワイバーンに、地上を守る者がトドメを刺す。
「蒼空学園も、けっこうな戦力をクイーン・ヴァンガードに集めたもんだな」
 玖朔が、彼らを見定めながら言った。


 空京は街が建設され始めてから、わずか五年しか経っていない。
 百万人に届く人口も、ほぼすべてが仕事や新天地を求めてシャンバラや地球の各地から移り住んできた者達だ。
 そのために年代ごとの人口比率は、他都市とはかけ離れている。働ける年代の者ばかりで、子供と老人は極端に少ないのだ。
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は災害弱者となる者の少なさに、複雑な気持ちを抱きつつもホッとしていた。
 そうは言っても、若い労働者の多く住む地区では、乳幼児は普通に見られる。メイベルはそうした地区の体育館で、避難してきた市民のケアを行なっていた。
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)はゆるスターを見せて、小さな子供達を喜ばせていた。
「ほぉら、ねずみさんにご挨拶してあげて」
 セシリアはあえてモンスターや避難については触れず、子供達を安心させるのに心を砕いた。

 人気の無い繁華街をルーナ・フィリクス(るーな・ふぃりくす)セリア・リンクス(せりあ・りんくす)が歩く。その辺りは、モンスターが頻繁に出没するため、避難区域とされた地区だ。
 突然セリアがエンシャントワンドを構える。
「ま、魔物?! ……じゃなかった。人だよ、ルーナちゃん!」
 一人の少女が、足を引きずるようにして歩いていた。ルーナが彼女に声をかける。
「どうしました? お怪我でもしましたか?」
 少女も、やはり怪物が出たと思ったのだろう。悲鳴をあげて飛び上がるが、自分に近寄るのがルーナ達だと分かると、緊張を解く。
 服装から見て、出稼ぎに来たシャンバラ人のようだ。ひどく顔色が悪い。
「街が騒ぎになって……逃げようとしたけど、気持ち悪くなって……」
 少女は辛そうに言う。ルーナは彼女を安心させようと、ほほ笑みかけた。
「きっとショックで気分が悪くなってしまったんですね。ヒールしますから、安心してください」
「モンスターが来ても、セリア達がお姉ちゃんを守るから大丈夫だよ」
 二人が少女を手当てしていると、小型飛空艇に乗ったメイベルが通りかかる。逃げ遅れた者がいないか、見回っていたのだ。
「どうしましたぁ?」
 ルーナ達はメイベルに状況を説明する。
「でしたらぁ近くの避難場所までご案内しますぅ。仮設の救護所もありますからねぇ」
 少女が困った顔になる。
「でも……病院代、払えないし……」
「災害時のボランティアですよぉ。心配ないですぅ」
 メイベルの案内で、少女達は避難場所へと向かった。


 空京のベルモンド市長も、市庁舎で対応に追われていた。市議の陳情に眉を寄せる。
(私の調査命令は封じておいて、自分の支持者だけは優先的に守ってくれ、とはね)
 市長は、鏖殺寺院のミスター・ラングレイの声明にあった「度重なる警告を無視し続け」「鎮魂の地に都を建設した報い」との文言について至急調査するよう、空京警察に求めていた。
 だが「そんな事を気にしている市民は一人もいないのに、税金でムダな調査をするなど許されません」と、市議会議員や空京警察の重鎮達に止められてしまったのだ。
 初代市長でもある前市長に個人的に聞こうともしたが、連絡はつかずじまいである。