空京

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建国の絆(第3回)

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建国の絆(第3回)
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教導団の戦い


 パラ実軍は浮き足だっていた。
五獣の女王器があれば、オレのようなモヒカンも女王候補になれるんじゃねえか?!」
「ヒャッハー! 俺様が新しい女王様だぁ!!」

 教導団員クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が「教導団が、五獣の女王器を輸送する」という偽情報を流したのだ。
 ちなみに、五獣の女王器を入手したからと、誰もが女王候補になれる訳ではない。パラ実略奪部隊は、理解していないようだが。
 情報だけでなく輸送部隊を編成し、厚い護衛部隊もつける。クレアはその護衛部隊に入っていた。彼女達が運ぶ「女王器」の正体は、豪華版のカルスノウトに過ぎない。
 クレアはこう考えていた。
(何者かが内通して情報を流し、部隊投入のタイミングを図っているにしろ、つまるところパラ実の略奪者達は、各々が『自分が得をするために』動いている。その欲をつつけば、敵の連携を崩す見込みがある)
 単純な略奪者達は、ものの見事にその計略に引っかかった。
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)がほほ笑んだ。
「これで本陣を囲むパラ実兵は減りましたね」
 多くのパラ実部隊が、戦線を離れて女王器輸送部隊を探しまわっていた。そのため、教導団への攻撃も手薄になっていた。
 クレアは作戦中につき、表情を緩めることなく言った。
「気を緩めるな。これから我ら輸送部隊への攻撃もあるだろう。『女王器』を奪われたら、取り返すべく追撃をかけねばならん。『女王器』を持った部隊を、別の部隊が襲って取り合う事も考えねばな」
 この作戦後、クレアは勲功を認められ、第一師団少尉に昇進する事になる。



 それでも教導団は苦戦していた。
 金住健勝(かなずみ・けんしょう)が負傷者に駆け寄る。負傷の程度はかなり重い。
「レジーナ、ヒールをお願いするであります!」
「大丈夫です、すぐに治しますから!」
 弾よけにラウンドシールドを構えたレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が、負傷兵を励ましながらヒールを施す。これで、ひとまず命の危機は脱した。
 健勝はレジーナと共に、負傷者を後方に運んでいく。目ざとくそれを見つけたパラ実生が突っこんでくる。
「身ぐるみ剥いでやるから、そいつを渡しなっ」
 健勝はアーミーショットガンで彼らに応戦する。

「……なんか変だな」
 突撃するパラ実部隊の中で国頭武尊(くにがみ・たける)がつぶやいた。今後の他校での活動のために、ホッケーマスクで顔は隠している。
 教導団の動きが、それまでと比べて随分と稚拙な気がした。
(まあ、細けぇこたぁいい。今が大将首を獲る絶好のチャンスだ!)
 武尊は軍用バイクで、情報撹乱により乱れた教導団戦線の間に飛び込んだ。
 サイドカーの不良猫ゆる族猫井又吉(ねこい・またきち)がガンナーとなって弾を撒き散らす。
「パラ実、舐めんなよ!」
 陣地に乗り込み、腕に覚えのある武尊はライトブレードを抜いて指揮官に迫る。そして。第一師団を指揮していたその男は、情けない声を上げて護衛官の背後に隠れる。
「ちっ、金団長じゃねえのか」
 武尊は斬りかかってきた護衛を剣で押し飛ばし、指揮官らしき男の尻を蹴り上げた。影武者かとも思ったが、金鋭峰(じん・るいふぉん)とはかけ離れた顔立ち、体型だ。
「わわわ私の父は中国の高官であるぞ! そんな態度で後悔ゴフッ!!」
 武尊はぶん殴って、彼を気絶させた。そして捕虜として運び去ろうとするが、さすがに教導団員が阻止しようと激しい攻撃をしてくる。武尊は無理せずに、離脱を図った。

 実は関羽がドージェに撃破された際、パートナーである団長もその影響で倒れていたのだ。
 その後、親のコネで少将になった男が指揮を執ったが、尻を蹴られた後「持病」を理由に本校に帰還してしまった。
 次に指揮官となった少将は、技術的な面ではずっとマシだったが。
「ドージェを討つべし! たとえ最後の一兵までも敵兵と剣をまじあわせ、打ち倒されし時は『シャンバラ教導団万歳』と叫びながら倒れていく覚悟を持ていッ!!」
 ここでのドージェ徹底追撃の命令に、さすがに隊長達が異議を唱えるために集まった。
 上官から意見を求められ、クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)少尉が言う。
「今は戦線を後退させるべきではないでしょうか。現在位置で敵を防ぐのは、師団の現状では困難と思われます。すでに戦場を離脱したドージェを追撃する余裕はないでしょう」
 しかし少将は考えを曲げない。
「悪漢ドージェが、我らが拠点ヒラニプラを破壊せんと狙っている事は明らかであるッ! 国家断裂の罪人を召し捕らえずに、何のための教導団かッ?!」
「そこまでにしておきたまえ、少将」
 聞き覚えのある声に、その場の一同がハッとする。金鋭峰(じん・るいふぉん)だ。
「団長、もうお体はよろしいのですか?!」
「大丈夫だと判断したから戻った」
 だが顔色は悪い。
「顔をつきあわせて談義している時間はないぞ。戦線を後退させる」
 今度は少将が団長に食い下がる番だ。
「団長! ドージェを見過ごすなど本国に顔向けできませぬッ!」
「私は常に本国の忠臣として判断を下している。戦線後退だ」
 静かだが有無を言わさぬ口調だ。少将も黙るしかない。
 将兵が戦線を動かすために散っていく。
「ドージェに、身中の蟲が燻し出されてきたか……」
 金鋭峰は唸るようにつぶやき、古傷に手を当てた。


 クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)は疲弊の大きい部隊を後退させるため、クレーメックと共に各部局と連絡を取る。
 同じ【ノイエ・シュテルン】の一員クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)は、厚紙や薄い石に金色や銀色の塗料を塗って、一見すると図画工作のようだ。
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は、撤退のために荷物をまとめる兵士達に呼びかけている。
「持ってゆかれる荷物は最低限の物だけでお願いします。特にテントや照明器具、炊事用具などの生活用品はそのままで、しまう事のないように」

 やがて教導団は部隊ごとに順次、撤退をしていく。
 ヴァリアは作った物を地面に撒いておく。色を塗った丸い厚紙や石は、遠目には金貨や銀貨のように見えた。わずかでもパラ実生の気を引いて、追撃を遅らせる事ができるかもしれない。
 一方、ハインリヒ本人がその光景を見る事はなかったが、後にパラ実部隊が陣地になだれ込んだ時、略奪者達は教導団を追うのも忘れて、その場に残った物品を我が物にするのに夢中となった。

 相沢洋(あいざわ・ひろし)は殿部隊に加わり、追撃に備える。
 見張りを行なう乃木坂みと(のぎさか・みと)が警告の声をあげる。
「敵移動ユニット見つけました!」
 さらに観察すると、追撃者は騎馬の盗賊部隊のようだ。
「勢い任せの進撃とは暴徒や盗賊の類か。まあ、そっちの方が容赦なく弾を叩きこめるからありがたい」
 洋はうそぶき、銃を構える。みとが、さらに報告する。
「敵移動ユニット、さらに増えました! ……あの、洋さま? これって絶体絶命のピンチって奴ですよね?」
「魔術を遠慮なく叩きこめ! 敵の移動ユニットは確実に破壊しろ! 突破されたら終わりだぞ!」
 洋はみとに魔法攻撃を指示しつつ、自身もパラ実相手に派手に弾を撒き始めた。


 パラ実の追撃を振り切り、教導団第一師団は、シャンバラ大荒野を抜けた所まで後退した。
 それによりパラ実側も攻勢を弱める。教導団がパラ実のナワバリである大荒野にいる事で反感を募らせていた部族は、それで満足したのだ。
 これまでの略奪で、略奪者達が十分に冬を越せるだけの物資が集まった事もあるだろう。
 また、略奪者も年末年始には故郷に戻って、のんびりすごしたかったようだ。
 パラ実生徒会の呼びかけにも関わらず、パラ実生達は勝手に散っていき、軍勢は解散した。
 こうしてパラ実と教導団の戦闘は、終結した。
 静かになった大荒野では、冬を迎えたというのに大きなイナゴが枯れ草を食んでいるだけとなった。


 第一師団の一部部隊は引き続きシャンバラ大荒野の南に展開し、パラ実略奪部隊の残党が侵入しないか警戒にあたる。だが多くの部隊は、ヒラニプラへと戻った。
 そんな中、憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)が上官に呼び出された。
「貴官に新たな任務を命じる。ドージェとの戦闘後に行方不明となった技術科兵士ケイティ・プロトワンと魔槍を捜索、確保せよ。なるべく隠密裏にな。キマク周辺のオアシスで目撃証言がある。これが資料だ」
 灰は面白く無さそうに言った。
「教導団内部や上官を調べたら左遷、という訳ですか」
「……せめて、内通者を探し出せなかったので、と言いたまえ」
 上官は不機嫌そうに言う。大尉は、ひょいと肩をすくめた。


 同じ頃、シャンバラ大荒野。街道沿いのオアシスに市場が立っている。
 ケイティは聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)と共に、露店の間を歩く。
 ドージェとの戦闘後、気絶していたケイティを収容した勢いで、そのまま、さらってきたのは聖である。
 フリフリのスカートを揺らして小走りに走っていったキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が、ひとつの露店に取り付いて、いつものように聖におねだりを始めた。
「ひじり〜ん、キャンティ、これ欲しいですぅ」
 聖はサイフを見て、ため息をつく。
「仕方ありませんなぁ。……ケイティ様も何か欲しい物がございますか?」
 キャンティが、ぷぅと頬を膨らませる。
「彼女にはキャンティが、スペシャルな『ご当地キャンティちゃん・パラミタトウモロコシ着ぐるみVer試作品』をプレゼントしてさしあげたのだから、これ以上買ってあげなくてもよろしくてよ」
 ケイティは、牙のペンダントと一緒に、キャンティがモデルらしいアクセサリーを下げていた。いつも通り無表情だが、無心にマスコットの猫耳頭をさわさわと撫でているので、気に入っているのだろう。
 彼女達は、教導団憲兵の追手が密かに探している事を、まだ知らない。
 だが聖には十分、予想できる事なので、今後の逃避行のためのアレコレを、この市場に調達しに来たのだった。