空京

校長室

建国の絆(第3回)

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建国の絆(第3回)
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略奪対策


 教導団第一師団の後退や、義勇兵の数が減った事で、略奪の危機にさらされる村は増えていた。
 残った義勇兵達は懸命に戦ったが、有効な手立ては得られていない。
 義勇兵のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は他の義勇兵と共に、危険地域の住民避難を進めようと飛び回っていた。
「さっ、焦らずに急いで急いで! パラ実が来る前にッ……!」
 彼女のパートナー、アリスのイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)は外見年齢が自分に近い、子供達を連れて避難する。
「こっちこっち! 早く行って、遊ぼうね」
 少し離れた場所で信号弾があがる。
「略奪部隊が来たんだ! イッシュは皆をお願いねっ」
 ミルディアは身を翻し、略奪部隊の迎撃に飛び出して行く。



 教導団らの苦戦を聞き、パラ実E級四天王ナガンウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は思う。
(シャンバラの自称正義の味方様はツメが甘めぇぜ、まったく、仕方ねぇなぁ)

「おいトロール! ナガンと討伐数勝負しようぜ!」
 ナガンは、同じパラ実E級四天王の吉永竜司(よしなが・りゅうじ)に勝負を持ちかけた。
「オレをトロールって呼ぶなっつってんだろうがぁ!!」
「おぉ? 誤魔化すってコトは自信無いのか」
「なにいぃ?!」
 するとパートナーのアイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)までが竜司に言う。
「おぬし、あんなピエロにナメられて良いのかな?!」
「ぬかせぇ! その勝負、受けて立ってやろうじゃねえか!」
 見事、竜司は誘いに乗った。ナガンとアインが密かに、にやりと笑う。

 そしてナガンと竜司の勝負が始まる。狩るのは、パラ実生徒会に従い、村々を略奪する奴らだ。
 竜司はアインのアドバイスに従い、誰も見向きしないような小さな村を襲う略奪部隊を襲っていく。
 従うのは、スキンヘッドの舎弟達だ。個人的四天王心得が「人に厳しく、舎弟に優しく」の竜司は、案外と舎弟達に好かれており、士気も高い。
「オレはこんなところで燻ってるわけにはいかねぇんだよ!」
 竜司は、罠にハメた略奪部隊の頭をボコボコに叩きのめしながら吼える。

 一方、ナガンも人知れず略奪されている村に向かい、そこを襲う略奪部隊を狩っていた。
「今回は一人ではなく部下がいるんでなァ!」
 部下=舎弟は皆、ナガンやクラウンファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)のようなピエロマスクを装着している。
 略奪部隊を倒すと、部下になるよう求める。
「ナガンはパラ実、お前もパラ実、文句はねぇよな?」

 ナガンも竜司もそのようにして舎弟を増やしながら、勢力を拡大させていく。
 やがて、競って略奪者狩りをするピエロとトロールの名は、恐怖と共にD級四天王として轟くようになる。



 幹線道路の宿場町ヒビオアシス。
「本当に、ここに児玉 結(こだま・ゆう)さんが来るんですか?」
 鷹野栗(たかの・まろん)が聞いた。島村幸(しまむら・さち)は自信たっぷりに頷く。
「兵士や地元住民から情報収集した結果、児玉はパラ実女子の例にもれず、プリントシール機なる物が大好きだそうです。その新機種が今日、この街に置かれるのですよ」
 幸の指した先には、街角に置かれた撮影用BOXにギャル風の女生徒が長い列を作っている。
 しばらく待つと、巨大な物体が宙を浮きながら近づいてくる。
 結が「エンプティ・グレイプニール」と呼んでいた、巨大な口だけの怪物だ。その上に座った結は、列ができている事に文句を言いながら最後尾に並ぶ。
 栗が引き寄せられるようにエンプティに近づいた。彼女にとっては、怪物も珍しい動物に見えるようだ。
「……ごはん、あげてもいいですか?」
「いいよー。エンプティ、おやつくれるって」
 巨大口は喜んだようにポンポン弾むと「あーん」とばかりに口を開けた。栗は拾い集めた枯れ木や古タイヤを、真っ暗に広がる口の中に次々と入れる。何でも食べてしまうエンプティに、栗は不思議に思った事を聞いた。
「口の中から他のモンスターが出てきた事もありますよね? 間違って食べてしまったりしないんですか?」
「エンプティの口はランドセルにナカタと繋がるから、入るトコ別で大丈夫的なー」
「ぐ、ぐー……」
 結の言葉に、エンプティが体をプルプルと左右に揺する。
「あれ? ランダムにナラカとつながる? だってー。ごめんごめん」
 お気楽に笑って訂正する結に、幸が呆れた様子で言う。
「そんな調子で、ランランなる人物はよく伝言など、あなたに頼みましたね」
「他に頼めるフレいなかったみたいだしぃ。あれでもケータイにメモって頑張ったのに、後で、ランラン言うな! とか文句たれてきてー。でもユーに頼んだ以上しかたないっしょー」
「ランランとは、あだ名ですか?」
「そそ。ユーのまわりじゃラン付くの、あいつだけだから別にかまわないっしょ」
 幸は「知るか、そんな事!」と突っこみたいのを我慢して聞いた。
「ランラン氏の本当の名前は何なのです? それに見た目は、ランランというファンシーな呼び方に相応しいのですか?」
 結は何か思い出す顔で答える。
「んーっと、ミスター・ラングレイだったかな? 見た目も何も、包帯グル巻きで顔見えねーって」
「それは鏖殺寺院の報道官ではありませんか」
 幸に付き添うガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が警戒を強める。羽入綾香(はにゅう・あやか)も栗を守るように身を寄せる。当の栗は、エンプティに欠けレンガを食べさせるのに忙しそうだったが。
 幸が結に聞いた。
「あなたは、なぜ鏖殺寺院幹部と知り合いなのです?」
「ひみつ〜。ランラン、キモいぐらいイイ奴だから、ユーとエンプティの味方してくれるしぃ」
 さらに幸は聞いたが、結は捕まっている鏖殺寺院については何も知らないようだ。

 話しているうちに、プリントシール撮影の順番が来る。
 列に並んだ形の幸とガートナは、折角だからと二人で撮り、結とシール交換した。綾香もドサクサに紛れ、結のシールを手に入れる。
 それは名刺形式で、結の携帯番号も書かれていた。



 シャンバラ大荒野に、崩れかけた古代遺跡が砂に半ば埋もれている。
 蒼空寺路々奈(そうくうじ・ろろな)はその奥で、遺跡を守るマンティコアと会っていた。路々奈は、ヘルから預かった黄金の鍵と巻物を彼に渡す。巻物には、遺跡の守護者マンティコアを、遺跡から切り離す呪文がしたためられている。
 路々奈は渋るマンティコアに言った。
「できれば空京に来てくれない? 書物のマンティコアは穏やかな性格じゃない。あんたが普通じゃないという事はよくわかるわ。ヘルもあんたの性格知ってたようだし……そういやあんた、ヘルの事知ってるの?」
「ヘルなどという者は知らぬが」
「確か白輝精の分身だって話よ」
 マンティコアは、もじゃもじゃの眉を寄せた。
「はっきせい……随分と前に、どこかで聞いたような……」

 マンティコアがそれを思い出すまで、かなりの時間がかかった。
 その間に路々奈はギターを引いたり、空京に残ったヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)と携帯電話で話す。
 ヒメナは空京当局に、遺跡のマンティコアを受け入れてもらえないか交渉にまわっていた。
「色々とまわっているんですが、苦戦中です」
 ヒメナはすまなそうに言う。
 彼女はまず、空京市の治安警備活動を行なう空京警察に行った。しかし警察は、魔物を市内に入れるなどとんでもない、と突っぱねた。
 次に空京市役所で相談したところ、観光客相手の幻獣動物園を紹介された。だが、遺跡のマンティコアの尻尾が切断されていると聞くと、動物園は受入を断った。
 その後、ヒメナは市内治安に奔走している学生の独自組織【六学の絆】の何人かと話した。マンティコアが援護に来てくれるのは嬉しいが、市内でモンスターが暴れている現在、見間違いで襲われたり、一般市民を驚かせるのではないかと懸念が出された。
 現時点での、マンティコアの空京受入は難しそうだ。
 路々奈はヒメナを励まし、電話を切った。受入態勢が整わなければ、マンティコアを説得しても行き場所が無い。幸い彼も、律儀な路々奈を信用しているようだ。

 記憶の糸を手繰っていたマンティコアが、ようやく何かを思い出した。
「そうだ。白輝精とは、女王陛下を崇める宗派の長アズール・アデプターの補佐を務める女性神官の名ではないかな?」
 その言葉に路々奈は聞き返す。
「記憶違いじゃないの? アズール・アデプターって鏖殺寺院の長の名前よ?」
「そうなのか? 鏖殺寺院は最近、悪さをしている組織であろう?」
 マンティコアも記憶が朧で、自信が無い様子だ。