空京

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建国の絆(第3回)

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建国の絆(第3回)
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リアクション



ドージェ 1


 シャンバラ大荒野をパラ実総長ドージェ・カイラスの巨体が進んでいく。その足取りは確かだ。何か目標があるのだろうか。

「ドージェ、確認!」
 彼を食い止めるために進軍してきた教導団、魔法兵団の間に緊張が走る。
 教導団技術科のシャンバラ人兵士ケイティ・プロトワンがつぶやく。
「あれが……敵」
 彼女はペンダントを外した。獣の牙のようなペンダントップが、彼女の手の中で姿を変え、禍々しい槍となった。全長3m程、トップに似た黒い牙のような穂先だ。
「行くよ、魔槍グングニル・ガーティ。ママのために……敵を殺す!」
 ケイティが宣言したとたん、槍から凄まじい波動が生じた。超音波や低周波、様々な波長が、ケイティと共にいた将兵を襲う。至近で音響爆弾を喰らったようなものだ。人々はなすすべもなく、地面をのたうちまわった。
 ケイティは彼らに目もくれず、魔槍の魔力で宙を飛んだ。一団を率いる関羽・雲長(かんう・うんちょう)が止めるのも聞かない。誰もケイティに対して備えていなかったのだから、対抗しようがない。

 ドージェが、謎の波動を発する存在が近づいてくるのに気づく。その波動に含まれた力に、彼は歓喜の雄たけびをあげた。
 数十キロ四方に響き渡った雄たけびは、あらゆる生き物を恐怖の底に叩き落とした。
 パラ実と教導団の戦いでは、一般兵達は涙を流して地に這い、特に敵対する教導団兵士は失禁、失神しる者があいついだ。契約者ですら、身を縮こまらせて震えるだけとなる。戦線は、ドージェの一声で崩壊した。
 唯一、魔槍の波動に苦しんでいた者達は、波動が打ち消されて逆に助かった形だ。
 ケイティは空中から槍で突きかかるが、ドージェに軽くかわされる。ドージェの取り巻きが、関羽達の存在に気づき、襲いかかる。
 朝霧垂(あさぎり・しづり)などの、戦闘が始まる前に話し合いをしようとしていた者の計画は破られた。
 教導団員もドージェを目指して、攻撃を始める。
 サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)が、関羽に向かってくるパラ実生を迎え討つ。
「雑魚はまかせテ! 関羽は早くドージェのトコに!」
「協力、感謝しよう」

 向かってくる取り巻きにアーシャ・クリエック(あーしゃ・くりえっく)が発煙弾を撃ち込む。
「今です、夢見」
「はい、お姉様」
 夏野夢見(なつの・ゆめみ)は混乱する取り巻き達の足を狙って、銃で打ち抜いていく。行動不能にしても誰も殺さないのを目指しているのだ。
(問題なのは、ドージェ本人より、彼に便乗して略奪する取り巻きの方。ならば、その数を減らせばいい)
 多くの者がドージェ本人に注意を向ける中、夢見は確実に略奪者を減らしていく。

 ドージェが空中のケイティを捕まえた。彼女は巨大な拳を蹴りつけて暴れる。ドージェはそれに構わず、魔槍をしげしげと見る。だが何か確信したのか、ケイティもろとも地面に投げつけ、気絶させる。
 関羽がドージェに相対した。
「久方ぶりであるな、ドージェ殿。以前の約束、果たしに参った」
 青龍偃月刀を構える関羽に、ドージェが拳を構える。心なしか嬉しそうだ。
 二人の神は同時に飛び出し、刀と拳をぶつけ合った。地は裂け、大地が鳴動する。文字通りに、ドージェが殴りつけた場所に深さ数百mの谷が口を開き、関羽が力を練った場所には数十mの丘がせり上がる。
 嵐の海のように荒れ狂う大地に、ドージェの取り巻きは多少、慣れがあったが、教導団員や義勇兵は戦闘どころでない。魔法兵団は箒で上空に避難した。

「大丈夫でありますか?!」
 比島真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と共にドラゴアーツを駆使し、怪我人を片っ端から回収。後方待機していた輸送用トラックに運びこむ。
 真紀は、とにかく味方が敵の捕虜になる事だけは避けたかった。
「こりゃ、人間が首を突っ込める戦いじゃないな」
 サイモンはボヤき、片目で神々の戦いの様子を確認しつつ、巻き添えを食わないルートを探した。

 同じシャンバラにおける神であっても、ドージェと関羽の間には大きな力の差があった。関羽は全力で戦っているが、ドージェは余裕にあふれている。
 ドージェの拳が、関羽の体を貫いた。関羽が、ゆっくりと大地に倒れる。
 あまりに衝撃的な光景に、教導団員は愕然と立ち尽くす。
 それまで神々の戦いで生じる衝撃波で近づく事ができなかった魔法兵団が、箒で一気にドージェに向かう。
 ヴァルキリーアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が先陣を切って、轟雷閃を放つ。
(これで一瞬でも注意を引ければ……!)
「還らない唯一を失うまいとする人間の意地、思い知れ」
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)がドージェの頭めがけ、雷術を放つ。目や耳や鼻などの感覚器を集中して狙い、感覚を紛らせようという狙いだ。イーオンの戦術に乗った魔法使い達が同じようにドージェの頭を狙う。
 クラーク波音(くらーく・はのん)アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)と共に、ギャザリングヘクスで増した魔力で、ドージェの目を狙って魔法を撃ち込む。
(世界樹を切り倒しに来るかもしれないなんて、イルミンスール魔法学校生として許せない!)
 ドージェは顔の周りで閃く魔法の光に頭を振り、空中の魔法兵団めがけて拳を突きだした。その勢いで生じた空気の壁が、魔術師達を打ちのめし、地面に落とした。魔法兵団は全滅した。
 波音は地に転がりながら、うめくようにつぶやく。
「……せ、世界樹イルミンスールには手出しさせないんだから……っ」

 魔法兵団が攻撃している間に、教導団の真紀サイモンサミュエルが倒れた関羽を後方に運んでいく。
「関羽、関羽……目を開けててヨ!」
 サミュエルは必死に、戦闘不能になった関羽に呼びかける。
 クは追撃しようとするパラ実生を、ランスで追い散らす。
「近づくな鬱陶しい!」
 英霊である彼は生前、同郷の武将が関羽に殺された為、本当なら殺したやりたいぐらい嫌いなのだ。
(サミュが言うから貴様に協力しているだけだ。勘違いするな)
 クは関羽をねめつけ、心の中で言った。

 ドージェは魔法兵団を不思議そうに見ると、近くの岩をつかみ取り、投げた。轟音をまき散らしながら、地平線の彼方に岩が消える。

 同じ頃。シャンバラ大荒野から数百キロ離れたイルミンスール魔法学校。
 校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が何かに気づく。
ミーミル、力を貸すですぅ」
「はい、お母さん」
 聖少女ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が素直にエリザベートと手を取り合い、世界樹の中に消えた。
 世界樹イルミンスールに力が溢れる。太い枝が蠢き出し、たがいに巻きつき合う。まるで巨人の腕の筋肉のように見える。
 そこへ遥か彼方から巨大な嵐のような衝撃が襲いかかった。世界樹が二本の腕を交差させ、嵐に突き出す。広大なイルミンスールの森が、どうどうと揺らめいた。
 魔法学校生徒達は、世界樹の中に転げ込んで難を逃れるが、箒もろとも飛ばされる者もいる。
「すとらいく〜ですぅ」
 世界樹のどこかからエリザベートの声が響く。巨大な掌が、大きな岩を止めていた。数百キロの彼方からドージェが投げた岩だ。
 もしドージェが来襲したら魔法学校を守ろうと集っていた生徒達も、多くは世界樹を巨大なだけの、ただの木だと思っていた。だが世界樹イルミンスールは、ドージェや関羽同様にパラミタの神なのだ。
「おかえしするですぅー」
 世界樹が振りかぶるように腕を上げる。しかし。
「ま、待って! ドージェに攻撃を返しちゃ駄目よ!!」
「待つのじゃ、二人とも!」
 四方天唯乃(しほうてん・ゆいの)が声を上げ、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が世界樹の壁のような幹を杖でつついた。
「はぅ。大ババ様、なんで止めるですぅ?」
「大ババ様と呼ぶなと言うておるじゃろう!」
 ごつん。アーデルハイトがまた幹を殴る。
「あう〜、ひどいですうぅぅ」
 エリザベートが世界樹との合体を解き、ミーミルと共に幹から出てくる。杖での突っ込みは、ダメージは無に等しいが、精神的に痛いらしい。
 世界樹の腕も消え、元の姿に戻る。
 唯乃がエリザベート達に言う。
「ドージェは敵対意思を持つ者、強大な力を持つ者のみを相手にすると考えていいでしょう」
 アーデルハイトは一通の手紙を掲げる。
「先の教導団の参謀めらの予測じゃが、自治区対策に欧州魔法連合の協力を取り付けたい中国側高官と、中国への進出を企てる連合内の野心家どもの結託により歪められているとの密告があってのう」
「どーいう事ですぅ???」
 きょとんとするエリザベートに、唯乃が言う。
「ドージェには、私達は戦う気が無いって態度で通せば、わざわざイルミンスールを襲う事はしないと思います」
「え〜」
 エリザベートはつまらなそうだ。唯乃は説得する。
「……ここで反撃したら、魔法学校や森をパラ実との戦いに巻き込む事になるわ。我慢しましょう、校長」
 さらにエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)が言う。
「合体して反撃したら、ミーミルまで戦いに巻き込んでしまいますわ」
 二人の説得に、エリザベートはミーミルをちらと見る。
「う〜。しかたないですうぅぅぅ」
「お母さん、どうしたんですか?」
 不思議そうにミーミルが聞いた。周囲の話が飲み込めていない様子だ。
「なんでもないですぅ。しばらくはミーミルとのんびり遊ぶって決めただけですぅ」
 エリザベートの言葉に、ミーミルは嬉しそうに微笑んだ。
 ただアーデルハイトだけは、手紙に目を落として考えこむ。
(しかし、この正体不明の密告者め。何を考えておるのか……。同封の情報は確かそうじゃし、魔法学校や連合に損は無いのじゃが……)