校長室
建国の絆 最終回
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封印の間へ 「はぁ、はぁっ……」 「理子様……はぁ……もう少しです!」 彼女を傍らで励ましながらも、そう言う北条真理香の方が息が荒い。クイーンヴァンガード隊長ヴィルヘルム・チャージルのパートナーであり、親日章会に所属する彼女は、部下を率いながら、自身も奮闘していた。力を振り絞り、剣で襲い来る魔物を切り裂く。 「皆様の思いに応えるためにも……理子様には傷一つつけさせません!」 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は息を整えながら真理香に頷く。彼女の持つ魔剣は今や親日章会にとってだけでなく、シャンバラ中の期待を背負っているのだ。 「うん、そうだね、みんなの思いを背負ってるんだ。そのために、ここまで来た。来させてくれたんだ」 蒼空学園理事長にして生徒会長の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、一般のクイーンヴァンガード隊員に旧王都で戦うことを命じていた。それに葦原明倫館の二部隊、イルミンスールの魔法兵団も加わっている。彼等は一部の生徒を旧シャンバラ王国の宮殿──旧宮殿に送り届けるための礎となっていた。 そして一部の生徒もまた、その更に一部である理子と神子達を旧宮殿内の目的の場所に届けるためにいる。 「そうですわ。シャンバラを破壊する闇龍を止めること。それには女王の復活はもちろん、ダークヴァルキリーの呪いを解く理子様の魔剣が必要ですわ」 そのために、蒼空学園からはクイーンヴァンガード特別隊員と理子様親衛隊。百合園女学院からは白百合団。そしてエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)他有志の魔法使いに、十二星華の一部までが集結しているのだ。 「盛り上がってるところ悪いんですがぁ、もう少しって言われてもぉ、広過ぎですぅ」 空飛ぶ箒に跨るエリザベートが、理子と真理香に突っ込みを入れる。 あたりを見渡せば、単に広過ぎというものですらなかった……旧王都を走っているときからうすうす気づいてはいたのだが。 広さは宮殿というよりはすでに都市だった。そしてあろうことか、空中にぶちまけられた巨大なブロックの一“群”だった。一つ一つがピラミッドほどの大きさを持つまばゆく輝く四角いブロックが空に浮いていたのだ。 「旧王都もそうだけど、古シャンバラの支配者階級には翼があって、空を飛べたからね」 サポート・解説役の蛇エルことヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が世話役の白田智子の肩の上から、ぐるりと一同を見回す。ここにいる面々は翼がない方が多い。地球人が半数以上を占めるのだから当然だ。 「テレポートしてもいいんですがぁ」 エリザベートが杖の先で地面にぐりぐりとミミズを這わせながら、 「あちこちに大勢運ぶと疲れるのですぅ」 つまりそれは、エリザベートの戦力がガタ落ちになるということを意味する。実は、この旧宮殿突入組面子の最大戦力は(テレポートを除いても)彼女なのだ。 「半分受け持つよ〜」 「お願いしますぅ。じゃあどっちに行くか、みんな決めて下さぁい」 神子の向かうべきは、女王のいる封印の間。 そして理子の向かうべきは、ダークヴァルキリーにできるだけ近い、宮殿上層のブロックだ。 力を合わせて旧宮殿入口にたどり着いたが、ここで隊を分けることになる。 「僕はどっちでもいい。シャンバラの行く末なんてどうでもいいからね」 戦闘で歪んだつば広の帽子を両手で直しながら、不穏な言葉を口にしたのは白百合団見習いの桐生 円(きりゅう・まどか)だ。 「でもパッフェル君が女王の復活を望むっていうなら、全力を尽くすよ。そして君を守る。刃からも、糾弾からもね」 円は帽子の下から十二星華・蠍座(シャウラ)のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)を見つめた。 パッフェルは円の赤い瞳を受け止めると、傍らの親友に視線を一度移し、 「……私はティセラとセイニィと一緒に行くわ……」 天秤座(リーブラ)の ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)と獅子座(アルギエバ)のセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の二人は、パッフェルにとっては大事な親友だ。しかも、ティセラ達の呪いが解けて仲違いも終わり、やっと今度こそ一緒に、という大事な時期である。 監視しやすいから三人一緒にいろ、という命令を環菜が下すまでもない。 「そう言うと思ったよ」 円は肩をすくめる。そうして、三人の監視役を命ぜられた水瓶座(サダクビア)の テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)が、少し距離を置たところから厳しくも複雑な表情な視線を注いでいるのに対して、今度は無言で肩をすくめた。 「じゃあミネルバちゃんが盾になるからねー。その間にパッフェルちゃんやティセラちゃんの強〜い攻撃期待してるよ! がんばろうー!」 円のパートナーミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)がぴりぴりした空気を打ち破るようにこぶしを突き上げる。 「そうだね。警戒と陽動は任せてよ」 二人でサポートすれば、必然的に攻撃をし、敵にトドメを刺すことが──彼女たちの戦果が増える。この戦いの後に待ち受ける軍事裁判に有利になるだろう。女王復活よりもそちらの方が円には重要だった。 「十二星華が四人もいればぁ、安心ですねぇ。じゃあ私はダークヴァルキリーの方に行くですぅ。特に理由がない人はぁ、さっさとこっちに集まるですぅ」 エリザベートはティセラ達から距離を置くと、杖を振り上げ、生徒たちをせかす。 遠くからは剣戟や銃声がひっきりなしに届いている。旧宮殿の警備システムは彼女たちを敵と認識し、時折砲撃をしかけてくる。入口でもたもたしている時間はない。 「いっくですぅ〜!」 エリザベートは杖を振り上げ、集った生徒と共にテレポートする。 一方封印の間へと送り届けるのはヘルだ。彼は小さく苦笑する。 「こんな面子でいいのかなぁ?」 洗脳されていたとはいえ、一度は女王に反旗を翻した十二星華に、彼女達を支持する生徒。それに鏖殺寺院のヘル。神子を送り届けるには不適当な顔ぶれに思えた。 「ま、いいか……テレポートするよ」 こうして、旧宮殿潜入組は二分割され、それぞれの目的地へと向かっていった。