空京

校長室

建国の絆 最終回

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建国の絆 最終回
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リアクション



恋心の行方
 

 人前で正体を現してしまったヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、薔薇の学舎に連れてこられていた。
「これが処分?」
 ヘルが自分の額にはめられた、サークレットを指して聞く。
 傍目には細い銀のオシャレなアクセサリーのようだ。
 いつも通り薔薇にまみれたジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)校長が、口の端で笑う。
「それの効果はだな……」
 校長が何かの呪文をつぶやき始めると、ヘルは頭を抱える。
「いだだだだ! ギブギブ!!」
「……と、かように頭を締めつける物なのだよ。もちろん呪文が聞こえない場所にいても、私がこれを唱えれば、そういう事になる」
(まるで三蔵法師と孫悟空だな)
 ヘルに付き添う早川 呼雪(はやかわ・こゆき)はそう思う。
 一方、ヘルは別の事を想像したようた。
「この輪っか、場合によっては別の場所に移動して、キュウキュウするとか無いよね?」
 ジェイダス校長は妖しく微笑んだ。
「さあ、それはどうかな?」
「うひいいいいい」
 校長のパートナーラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)が、呆れた様子でヘルを見下ろす。
「その程度の処分で済んで、助かったと思うのだな」
 ジェイダスは鷹揚に笑う。
「以前は鏖殺寺院として我が校を攻撃したが、その後に改心して回顧派に鞍替え。
 ナラカ城攻略や旧宮殿での戦いでの働き、ヒダカの説得、スフィア書き換えの協力……考慮すべき点も多い。
 なにより、この状態では安易に厳罰を処す事はできないだろう?」
 旧宮殿から薔薇の学舎までの間に、ヘルは呼雪のパートナーになっていたのだ。
 ヘルは、てへ、と笑う。
「手をつないだ時に、契約しちゃったみたいなんだ」
 ラドゥが疑わしそうに、ヘルを見る。
「貴様に限って、そんな事でか?」
「えー。手もつないだのは本当……」
 軽い口調で話し始めたヘルが、急に汗をかき、口をはくはくと開け閉めする。
 背後の呼雪は何も言わないが、ヘルは物凄いプレッシャーを感じていた。
 ロボットのような口調でヘルは言った。
「手ヲツナイダラ契約シマシタ」
 目が完全に泳いでいる。
「ふうむ、まあ、そういう事もあるだろう」
 ジェイダスはその件は追求しないでおいた。
 この分なら、ヘルも悪さをする恐れはないだろう。
「これからは、ボクがお兄ちゃんだよ!」
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が自分よりだいぶ背丈のあるヘルを見上げ、胸を張る。
「お兄ちゃんに昔話を話す事になるのか……」
 ヘルは苦笑しながら、ファルのたてがみをなでた。

 白輝精から関係を断たれ、ヘルの魔力は著しく落ちていた。
 この状態でもし、テレポートを始めとする強力な呪文を使ったら、ヘルの体は魔法の負荷に耐えられずに、最悪死んでしまう可能性がある。
 そこで神子であるファルやその場にいた神子達が協力して、ヘルの魔法を封印していた。
 一から鍛えなおせば、いつの日か封印を解ける日が来るだろう。



 空京大学のキャンパス。
 医療計器とクーラーの音だけが小さく響く、静かな病室。
「砕音、今日はいい天気だぜ?」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は眠ったままの砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)を抱き上げ、ゆっくりと中庭に面した窓に近づく。
 ラルクは陽光の輝きに、まぶしそうに目を細める。しかし彼の腕の中の砕音は、まぶたを閉じたままだ。

 旧王都が消えた後も、砕音は目を覚まさない。
 空京大学長アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)が砕音の受け入れを申し出て、彼はそこで治療を受ける事になった。
 アクリトや魔道書パルメーラ・アガスティア(ぱるめーら・あがすてぃあ)は、彼らに理解を示して大学での保護を約束している。
 機晶姫アナンセ・クワク(あなんせ・くわく)も大学に身を寄せて、ラルクの邪魔にならない程度に砕音の世話をしている。

 と、ラルクの脳内に、すまなそうな声が響いた。
(……なあ、ラルク? 向こうの庭の方で、学生がこっちを可哀想なものを見る目で見てるのが、申し訳なくて気がひけるんだが……)
「体が動かねぇのは、ホントだろ。
 てか砕音。目ぇ閉じてんのに、なんで分かる?」
(ラルクに密着してるから、ラルクの目を通して見られたんだ。すりすり)
 情況にそぐわぬ上機嫌なテレパシーが返ってきた。教え子が聞いたら愕然としそうな甘えぶりである。
 ラルクは苦笑した。
「言ってるだけで、全然すれてねーじゃねぇか。しゃーねーな。おっさんが代わりに、くっつけちゃる。……っと」
 ラルクは口をつぐむ。通りすがりの学生が、砕音に話しかけているラルクを、なんとも気の毒そうに見ている。
 学長や各校長、親しい友人をのぞいて、表向き砕音は意識が無い事になっているのだ。
「う〜ん」
 ラルクは困った笑いを浮かべる。
(いくら話ができるっても、やっぱり体は治してやらねぇとな)


 それから、しばらく後。
 小奇麗な会議室に、クイーンヴァンヴァード特別隊員樹月 刀真(きづき・とうま)を伴った蒼空学園校長御神楽環菜(みかぐら・かんな)がやってくる。
 部屋で待ち受けているのは、ラルクと砕音だ。
 環菜は、出迎えの挨拶に立った砕音を見て、興味深そうだ。
「魔導空間でのヴァーチャルリアリティの質は悪くないようね。
 どんな情報通信技術を使っているのかしら」
 そこは普通の空間ではない。
 砕音が空京大学のコンピュータを利用して発生させた魔導空間上に設定した「会議室」である。
「ご希望なら設計図をお送りしましょうか?」
「かなり重そうね。蒼空学園のコンピュータのパフォーマンスでは、逆効果かもしれないわ。
 携帯を持たなくても取引できるのは便利ではあるけれど」
 環菜の周囲では、細かい光の粒がくるくると回っている。それでオンライントレードが取引できているようだ。
「それで? 私をここに呼んだのは新機能発表の為ではないでしょう?」
 砕音は少し言いよどんだ。
「当初は、公表されたくないので黙っていらしたのかと思いましたが……
 やはりご自分の事となると、確認しづらいのかもしれません」
「能書きはいいわ。端的に」
 促されて、砕音は苦笑しながら実に端的に言った。
「御神楽校長、貴女は神です」
「なんですって?」
 環菜がねめつける。
「比喩上の神ではありません。貴女は全地球上のトレードを支配し、その力でシャンバラを金融面から守り通されています。
 それはドージェ様やネフェルティティ様同様の、パラミタにおける神です」
「…………」
 少し長い沈黙。
 だが、その間に環菜は恐ろしい速さで、すべてを計算していた。
 やがて。
「……そう。そうだったのね」
 環菜は納得の表情でうなずいた。
「これで答えが導けたわ。みずからを過大評価しないよう気をつけたつもりがアダになったわね」
 砕音は、環菜の背後に控える刀真に一瞬視線を送ると、言った。
「神であればこそ、シャンバラをおおう巨大な渦の流れに巻き込まれる危険があります。渦はさらに勢いを増しているようです。校長もどうかお気をつけください」
「抽象的表現は好みではないわ」
 やはり環菜は聞き入れない様子だ。

 砕音の体調の問題で、その会議室はあまり長い間は維持できない。
 また環菜も、グダグダとだべるような趣味はなかった。
 魔導空間を抜け、環菜と刀真はもとの蒼空学園に戻った。
「校長、ようやく御時間が取れたので、今回の事件の顛末をご報告させていただきます」
 刀真は、旧シャンバラ宮殿で起こったことの顛末を御神楽 環菜(みかぐら・かんな)に報告する。
「厄介な事になったけど、良かったわ。それに、蒼空学園のクイーンヴァンガードが神子を供出できた点は評価するわ。
 ……さ、対エリュシオンでやる事は山積しているのよ」
 報告を受けた環菜は相変わらず片手で携帯を操作し続け、彼には目もくれない。
「あなたも早く仕事に戻りなさい」
 いつも通りそっけない様子だったが、刀真には、いつものように仕事に打ち込めることを彼女が安堵しているようにも見えた。

担当マスターより

▼担当マスター

砂原かける

▼マスターコメント

 ついに『建国の絆』は最終回です。
 シャンバラは、東シャンバラと西シャンバラの二国に分かれての建国となりました!

 今回の投票結果は以下の通りです。

【1】63票 無効2票 神子9人以上が儀式に参加はクリア
【2】70票 無効0票
【3】153票 無効6票


【1】と【2】の条件をクリアするのに必要な数は、各70票でした。
【1】では神子の数は足りているものの、全体の人数が足らない為、アムリアナ
女王はエリュシオンに連れ去られ、
シャンバラは東西ふたつの国家に分かれて、建国される事となりました。
 東西シャンバラにはそれぞれ首都があり、また、両国にアムリアナ女王の代王
が置かれ、それを守るロイヤルガードが置かれます。

 この東西シャンバラを分割するのはパラミタの地球露出面と異世界の狭間にあ
たる地帯、「トワイライトベルト」です。
 そのエリュシオン側が「東シャンバラ」で、地球側が「西シャンバラ」となり
ます。
 これを学校で分けますと、以下のようになります。

●西シャンバラ(首都:空京 代王:高根沢理子)
蒼空学園
シャンバラ教導団
芦原明倫館
空京大学
天御柱学院

●東シャンバラ(首都:ヴァイシャリー 代王:セレスティアーナ)
イルミンスール魔法学校
百合園女学院
薔薇の学舎
波羅蜜多実業高等学校


 現在のところ、東西のシャンバラで移動の自由の制限などはありません。
 西側のPCが東側のシャンバラ内海にバカンスに行く事も、東側のPCが空京のバーゲンに行く事なども、制限なく行なえます。

8月に開催予定のオリンピックも、東西シャンバラの共同開催となり、東と西の学校で競い合う内容となります。

 そして今回シナリオにご参加いただいた方へのプレゼントは「西シャンバラ国民証」又は「東シャンバラ国民証」を所属学校別にお渡しいたします。

 なお今回は、人数の偏りが大きかった為、アクションの際に選択いただいた番号【1】【2】【3】【4】に関わらず、別のマスターが担当しているケースが多くございます。ご了承くださいませ。


 『建国の絆』はこれで終了です。
 これまでのご参加、大変ありがとうございます。
 しかし、スペシャルボイスドラマ『海神のイーグリット』を始め、『蒼空のフロンティア』新章はすでに始まっています!
 これにあわせて、FBC先生による新章予告マンガを公開いたします!!

 驚きの展開が待つ予告マンガのURLは、こちらです。
 http://souku.jp/special/comic/


 さらに熱い展開となる『蒼空のフロンティア』に、これからもご期待ください!