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リアクション
最終競技に向けて
西シャンバラチーム応援団長武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はシャンバラ教導団を訪ねた。向かう先は本校校舎ではなく、関帝廟だ。
そこに奉られるのは関帝聖君関羽・雲長(かんう・うんちょう)。
一度は教導団を出奔した関羽だが、金鋭峰(じん・るいふぉん)団長がアムリアナ女王からドラゴンキラー作戦中止の命令を拝受した事により、教導団へと戻っていた。
牙竜の姉を称する武神 雅(たけがみ・みやび)は、少し離れた木立の陰から、彼の様子を見守っていた。
(まったく、欲望に素直になってセイニィと一緒に応援すればいいのにな。不器用な奴だ)
「応援団長として、西シャンバラのみんなが期待してる関羽を呼びに行くぜ」
牙竜はそう言って、ここ関帝廟にやってきたのだ。
(三つか、不思議な縁だな。
……三国志で、関羽の義兄弟である劉備が孔明を迎えたときも三回懇願したと言う。俺も応援団の代表の立場として、三顧の礼をして一つの競技でも出てくれるように頼み込もう)
牙竜は気合を込めて、ケンリュウガーの衣装を着たままだ。
関帝廟に向けて、大音声で呼びかける。
「関羽殿! ろくりんピックの競技に助っ人をお願いしたい!!」
そうして彼は、外で正座して待った。
廟の鮮やかな扉が開き、関羽が出てくる。
「もう最終競技を迎えるのか。
この関羽、人々の熱き呼びかけに応えて仕合に参ろう。
丁重な出迎え、感謝する」
牙竜は、期待を込めた瞳で関羽を見る。
「……では?!」
「三試合すべてに、許される限り助太刀させていただこう」
「! やったぜ!」
牙竜は跳ね起き、ガッツポーズを取る。
その後、関羽は雅の案内で赤兎馬を走らせ、空京に向かう。
さらに雅は、牙竜も会場へと引きずっていく。
「競技の応援が終わるまで倒れることは許さん。
最後まで、つとめを果たせ……男ならばな」
◇ ◇ ◇
最終競技が行なわれる日の早朝。
2020ろくりんスタジアムのVIPルーム内では、これからやってくるVIPや来賓の為に清掃や準備が進められていた。
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は室内に、花瓶に生けた花を飾っていく。
剣のようにツンと立った葉が特徴的なグラジオラスの花が中心だ。ろくりんピックらしく、勝利を意味する花でもある。
これは「観戦といえど優雅に」と、薔薇の学舎のジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)校長への心遣いだった。
呼雪が花の向きを整えていると、ぽんぽんと肩を叩く者がいる。
振り返るとヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が得意げに胸を張っていた。
「メイドだよ!」
彼はホワイトブリムに上品なメイド服、高級はたきと、立派なメイドコスチュームに身を包んでいる。
「……ああ」
呼雪は相槌を打つと、すぐに花の飾りつけを再開させる。
ヘルははたきを振り回して、じれた。
「ああん! せっかくメイドするんだからメイドっコな格好したのにー。その薄い反応は何ー?」
そうは言っても、ヘルが素っ頓狂な服装をするのは今に始まった事ではないし、いつもの派手派手な格好にくらべれば、今日は上品にまとまっていた。
ヘルはすねたフリをしながら、ジェイダス校長が座る予定のイスにはたきをかける。
「綺麗にしとかないと、背中のフサフサがゴミ集めちゃうもんねー」
VIPルーム用の厨房では佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が、料理の下ごしらえや仕込みに忙しい。
各学校の代表が集まるため、和食、洋食、中華、アラブ、ロシア料理でお弁当を用意するのだ。
(ここが腕の振るいどころだねぇ)
弥十郎は感慨深げに厨房を見渡した。料理を始めた頃には、まさか、このような場を任されるようになるとは思ってもみなかった。
しかし今ではジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)校長から「彼の料理の腕は、私が保証しよう」と言われて、シャンバラろくりんピック委員会の審査も軽くパスしている。
弥十郎はテキパキと調理を進めていく。同時に厨房内の人の動きにも目を配る。
テロリストが調理人になりすまして潜入し、料理に毒物を混ぜる可能性もあるからだ。
皿洗いを務める佐々木 八雲(ささき・やくも)も、使い終わったナベを洗いながらも、おかしな動きをしている者がいないかをチェックしている。
弥十郎が料理に神経を注いでいる際には、代わりに八雲が目を光らせなければならない。
一通り作り終わって配膳する際には、弥十郎自身が毒見すると決めている。
これは味のチェックでもあり、料理人としての誇りによるものだ。
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