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リアクション
巨人現る
『イーダフェルト……破壊すべきもの、完膚なきまでに』
エピメテウスの口から発せられる声は、それだけで周囲の瘴気を震え上がらせる。
エピメテウスが前進する。目標は護衛艦隊でも契約者でもなく、イーダフェルトただ一つ。
「遂に来たか。さて、止めなければならないのだよ」
「星辰結界の準備が整う前にナラカの底に沈められたらたまらないからね」
数キロに及ぶ巨躯を持つエピメテウスを愛機ラルクデラローズ乗りながら見つめるのはリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)とララ・サーズデイ(らら・さーずでい)。
「ここまで大きさに差があると、私たちは蚊みたいなものだな」
「好ましくはないが、時にはそう役回りも必要であろうな」
ラルクデラローズが急発進、一番前に立ち進行をしているエピメテウスの周りを飛び交う。
『……うるさい蝿だ』
「なるほど。蝿という発想はなかったのだよ。しかし、リリたちはそこらの蝿とは一味違うぞ」
そう言ってエピメテウスの首の後ろ辺りに狙いをつけて、魔力で鍛えあげられた巨大な剣を突き刺そうとする。しかし――――。
「刺さらない、だと?」
ラルクデラローズの攻撃はエピメテウスの体表に傷をつけるものの、深く刺さることはない。
「ならば次は目玉を狙おうじゃないか」
ララの呼びかけに即応しリリがエピメテウスの眼前に立ち、イコン専用の弓から矢を放つ。
『ふん……』
しかしその攻撃も読まれていたのか、放たれた矢はエピメテウスによって止められる。
しかも手を使ってではなく、瞼を閉じただけ、たったそれだけでイコンから放たれた弓が弾かれた。
『攻撃が通じないとわかれば、次は目か、口か、耳か。鍛えることができない部分を狙ってくるだろうなど、阿呆でも予想がつく。……チクリとはしたがな』
「……予想以上に厄介な相手なのだよ」
「でも、それだけ考えてるってことは知能はそれなりってことだ。そいつはいい」
小型飛空艇に乗ってエピメテウスの前に躍り出たのはシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)とアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)。
『また蝿が増えたか、一掃してやろうか?』
「待ってくれ、俺に戦うつもりはない。あなたと話がしたいんだ」
『ふざけろ。戦いの最中に話だと? 寝言は寝て言え』
エピメテウスはシルヴィオに構うことなく、前へと進む。たったそれだけでシルヴィオが乗っている小型飛空艇が小さく揺れた。
「聞く耳持たぬ、ですか」
「ま、待つんだ! あなたはアトラスに執着しているようにも見える! それは一体!」
シルヴィオの叫びを耳の端で聞いたエピメテウスは、独り言のように呟いた。
『奴は俺様を踏み潰し、何万年という時を浪費させた。その娘があそこにいる。ならば俺様がやることはたった一つ、イーダフェルトを破壊することだけだ』
「……色々大変だったみたいだが、アトラスの娘、つまりエルピスには罪はないはずだ。今更ぶり返すこともないんじゃないか?」
「あなたに、パラミタでの思い出、記憶……ありませんか? あなただけではありません。このパラミタに生きる人の思い出を、あなたは破壊していいのですか?」
シルヴィオとアイシスが必死にエピメテウスを止めようと説得するが、エピメテウスは聞く耳を持たない。
『俺様は奴に関係する全てが憎い。だからあの娘も、奴が支えていたこの大陸も憎い。だから破壊する、それだけだ』
「……これは大層な逆恨みだ。それだけが原動力とは、はた迷惑な話だが」
説得はできない、シルヴィオはそう感じ攻撃される前に後退を決めた。
進行を続けるエピメテウスの後ろには不気味に浮遊する万魔殿と、無数の戦艦が列を成している。
「説得にも耳を傾けない。なら、やるしかない」
「ああ、ゾディアックの方は任せろ」
星辰戦艦『金獅子』内部ではルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が万魔殿への突入口を作りつつ、エピメテウスへの進行妨害をかねた作戦を実行しようとしていた。
「俺はデッキに行く。万魔殿は任せた」
そう言って足早にデッキへと駆けていくダリル。その背中を見送ったルカルカは目を瞑り、ゆくりと息を吐いた後、全乗員へと声をかける。
「これより我が隊は、金獅子にて突貫を行い、万魔殿に極近距離で星辰波動砲を撃ちこみ突入口をこじ開ける!
その後各戦艦、イコンは後退時の援護に専念。エピメテウスはゾディアックが受け持つ! 準備はいい?」
ルカルカに尋ねられたクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)は神妙な顔つきのまま、首を縦に振る。
「各部隊、金団長からも防衛は任せろ、と通信が入っています」
「出力、推進、全て問題ない。いつでもいける」
続いて操舵・主砲を担当するサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)も問題ない旨を伝える。
「……ではこれより、金獅子は突貫を開始。優雅に漂っている甘ちゃん要塞を叩き起こす!」
各員が了解!と声を上げる。それと同時に金獅子が急発進、目標は不気味にそびえる万魔殿。
『狙いは万魔殿……多少は守ってやるか』
その動きを見たエピメテウスが金獅子を止めようと両手を伸ばす。
「そうはさせん。シャンバラには、星華以外にも女王器を操る剣がいるということ、その身に刻むといい」
エピメテウスの動きを看破していたダリルが最後の女王器【ゾディアック】を起動させる。
更に星辰の儀剣による結界を発動して、エピメテウスの動きを抑制する。
「行くぞ、ゾディアック。一度は世界を滅亡させようとした剣、今度は世界を救う剣となれ!」
動きの止まったエピメテウスにダリルの力を加えたゾディアック、がゆっくりと剣を振り上げる。
『ふん、多少大きくなった程度でこの俺様がどうにかできる――――
エピメテウスが言い切る前にゾディアックによる、真上から真下に斬り落とす一太刀が見舞われる。と、あのエピメテウスの皮膚、肉が裂け血が溢れ出た。
『な、にぃ……! こ、いつ、ただの蝿ではないのか!?』
「ふん、貴様がただでかいだけの的だということだ」
鋼鉄の獅子が、咆える。
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