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リアクション
【1】エルキナ 1
空京内。光り帯びた一団と戦闘狂が対峙していた。
『そこをどけ、下賎な輩』
「高貴な頭で少し考えりゃ、どかねぇってわかんねぇか?
はっ、高尚な脳みそにはお似合いの思考だぜ」
エルキナの無慈悲ないい様に、軽口で返す業魔。
女騎士達に囲まれている業魔は、まったく動じず、堂々と立っていた。
『これは警告よ。貴方程度、殺すのは造作もない』
「なら四の五の言わずやってみろよォ!!」
業魔が動く。
エルキナへと向うが、四方にいた女騎士にそれを阻まれる。
「ちっ、金魚のフンが邪魔なんだっての」
避けることもせず攻撃を受ける業魔。
当然、攻撃を受け止められた女騎士の動きが止まる。
業魔はその女騎士をぶっきらぼうに掴み、別の女騎士へ投げつけた。
「……うじゃうじゃうぜぇ、皆殺すぞ」
『我が騎士はその程度の脅しには屈しないわ。
騎士が止め、こちらでトドメを刺す。最初から貴様に勝ち目はない』
「ああそうかい、だけどなぁ……戦いってのは、勝つ負けるで決めるもんじゃねぇぜ?」
『戯言を。……囲み足止め、その隙に終わらせる』
エルキナの合図に従い女騎士が八方に散る。
だが、業魔はニヤりと笑った。
「お前に敵対するのは他にもいるんだよ、バカが」
「エルキナ! そこで止まれ!」
「クイーンとの合流は阻止する。それが私達の役割ですからね」
業魔を通り越して、三船 敬一(みふね・けいいち)と白河 淋(しらかわ・りん)が先陣を切る。
それだけではない。
自身の部下と、契約を交わした傭兵団を指揮して、女騎士達へとぶつける。
たったこれだけで、エルキナと業魔の戦力はかなり縮まる。
「総員、対空戦用意! カバー重視で臨機応変に動け!」
敬一の気迫溢れる指示に鼓舞され、ツーマンセルになって女騎士を迎え撃つ兵士たち。
これに対し、女騎士は空中から急襲からの離脱、ヒットアンドウェイで攻撃を仕掛けてくる。
「一方的なのは関心しないですよ。重力に飲まれなさい」
悠々と空から攻撃をする女騎士たちを、淋のグラビティコントロールが捕え、
無理やり地上へと引きずり落とす。
突然の重力操作に女騎士はどうすることもできない。
それに狙いを付けた兵士二人が女騎士へと向かい、敵を行動不能にする。
が、女騎士の一人を餌として動いていたもう一人の女騎士が、躊躇なく急襲。
自らの命を顧みずがむしゃらに応戦する兵士二人だが、
まったく的を絞ることが出来ず、攻撃の危機に瀕する。
「馬鹿者、死んだ英雄なんていらねぇぞ! 兵士として生き抜け!」
見かねた敬一が女騎士へと自動小銃を乱射する。
高濃度の弾幕に舌打ちをした女騎士はそのまま下降、
地面に足を付けて銃弾を弾きながら後退する。
しかし、その背後にはゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が、手をわきわきさせて待ち構えていた。
「がははっ、光るモヒカンの俺様が美乳にしてさしあげるぜぇ!」
光を帯びる女騎士の胸元へ躊躇なく手を這わせるゲブー。
ガキンッ!!
鋼鉄のごとく硬かった。
「こ、こんなに硬い胸があるのかっ……。
だがおっぱい番町である俺様が、おっぱいから逃げるなんてありえねぇ!」
ゲブーは決して諦めない。
相手がおっぱいであるならば、揉めないことなどない。
おっぱい番町である自分がおっぱいから逃げることなど言語道断。
おっぱいに生きて、おっぱいに死ぬ。
それがゲブーの生き方、
「うおわっ!! あぶねぇ!?」
本当に殺されそうになっていた。
「スゲーぜ、アニキ! 光を帯びてようが硬かろうが関係ねぇ!
いよっ! アニキのモヒカンは今、輝いているぜ!」
バーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)が声援を送る。
その声援に応えようとゲブーも奮戦するが、やはり硬いものは硬く、苦戦を強いられる。
ちなみに、ゲブーが触っているのは女騎士が装備している軽鎧だ。
光の加減で見辛いがばっちり装備しているのだった。
「皆、この暁の騎士シャインヴェイダーも加勢するぞ!」
苦戦しているゲブーと奮戦する敬一の元に、
暁の騎士シャインヴェイダーこと蔵部 食人(くらべ・はみと)が参戦する。
既に魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)は装備済みである。
更に手に持つのは、ユグドラシルの蔦。意味ありげな、巨大な蔦である。
「さあ暁の名の下に正義を振るわん! とうっ!」
ユグドラシルの蔦が女騎士の一人に絡みつく。
装備していた軽鎧は本来装着する位置からズレ、すごく妖艶である。
(女騎士は触手っぽいものに弱い、(と仲間のヴァルキリーから聞いた)んだよ!)
シャインヴェイダーの声を聞きながらも食人は困惑していた。
「でもこれ、すっごいいけないことをしてる気が……」
(そんなことないって! ほら、拘束した後もウネウネ動かすの! 手を休めない!)
「な、なんだかなぁ……」
とは言いつつも手を休めることはない食人。
……それまで無表情だった女騎士の頬が、心なしか赤くなっている様に見えた。
「よし、ここらで毒虫たちをっ」
食人が毒虫を放つと、蔦を伝って毒虫が女騎士へと辿り着き、彼女を猛毒状態にした。
(ボクが言うのもなんだけど、君の方が割と発想がエグくない?)
「いや、ほら、一応戦いだから、なっ?」
確かに、ヒーローの割にはひどい戦法だったように思える。
しかし相手を無力化できたのだから何も問題はないのである。
「エルキナの移動は阻止できている、といったところでしょうか」
「そのようね。理想的、かしら」
エルキナと業魔、契約者たちの戦闘を見ていたマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)に三田 アム(みた・あむ)。
冷静にこの場の分析を済ませ、エルキナが現状動けないことを確信する。
「戦っている者には悪いが、兵は温存させてもらいましょう。
いざという時の備えはあったほうがよいでしょうから」
マーゼンは部下達に息を殺すように言って聞かせる。
一方のアムは周囲を見渡し、何かを探していた。
「クイーンの位置は把握できましたか」
「現在、他の契約者たちがクイーンを発見したとのこと。
エルキナをここで足止めできれば合流は阻止出来るわ」
アムの言葉に頷いたマーゼンは、エルキナの方へと視線をやった。
絶対にクイーンとエルキナを合流させはしない。
そのためにマーゼンの瞳は常にエルキナの動向を窺っていく。
何があっても直に足止めが再開できるように、と。