リアクション
【1】アルティメットクイーン 1
一方その頃、トマス達はアルティメットクイーンを追いつめていた。
「ルティメットクイーンさんよ、残念ながらここは通行止めだよ。無一文のゆる族が出稼ぎに行くのに飛び降りるのはタダだが、そうでなければ相応の料金を払うのは当然だろ?」
そう言って彼女の前に立ちはだかるのは、弁天屋 菊(べんてんや・きく)だ。
菊は何もアルティメットクイーンを無理やり叩き伏せようとは思っていなかった。あくまでも目的は「最初の女王器」だ。それさえ渡してもらえるのであれば、菊の目的は果たせると言えた。
「そういうこと。あんたが素直になりゃ、あたしらも手荒な真似はしないよ」
それはどうやら彼女のパートナーであるガガ・ギギ(がが・ぎぎ)も同じらしく、女王器さえ渡してもらえれば、クイーンを逃がす余地があると考えていた。
だが、もちろんそうでない者達もいる――。
「菊さん、僕達はクイーンを逃がすつもりはないよ。例え、それが女王器の奪還に成功したとしても」
それがトマス達だった。
すでに彼らは「世界に対する殺意」を抱いた者に対し、相応に殺意を抱いている。もはやクイーンに猶予はない。向こうが本気で来るのであれば、こちらも殺す覚悟で立ちむかうまで……。トマス達はそう思っていた。
「ぎりぎりの選択を選ぶのね、トマス……」
ミカエラは彼を横目に見ながら言った。
これまでずっとトマスを横から見てきたミカエラからすれば、それがトマスの望むことではないということは分かっていた。しかし、それでも、そうすること選ばなければならない時はあるのだろう。たとえ、次善の策であったとしても――。
「クイーン、あなたは望みを叶える為に行動してるネ」
ロレンツォが言った。クイーンの眉が深く皺を刻んだ。
「…………」
「それは“誰の”世界ネ? あなたの思うままの世界ではないと、あなた自身が認めてるネ。アナタはそれでも生まれるのカ?」
「分かりません。けれど、それでも私は抗うでしょう」
クイーンは言った。
その目は決然としてる。揺るがない信念を掴もうとしているように思われた。
「私は救いたいのです。この世界を……“この手”で」
クイーンはそう言う。
ロレンツォのパートナー、アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)はそれを見て眉をひそめた。果たして捕まえられるか、それとも別の手段を選ぶべきなのか。頭の中ではどちらもぐるぐると巡り回っている。
だが、どちらにせよ、
「それが運命なら、きっと……その通りになるわ」
アリアンナはそう告げた。クイーンもそれは同じ気持ちだった。
どちらの運命が上か。どちらの運命が委ねられるか。クイーンはその壁から逃げようとは思わない。それは、アリアンナ達もまた同じことだ。
「ならば、決めましょうか。私達の運命を――!」
クイーンは言って、契約者達と向かい合った。
●
パートナーの
ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)や南鮪からの連絡を受け、
姫宮 和希(ひめみや・かずき)は全速力でアルティメットクイーンのもとに向かっていた。
ビルの谷間や屋上を人間離れした跳躍力を持って跳び、一直線に向かってゆく。その途中でも、ガイウスから常にナビゲートの連絡が入っていた。
「このまま行けば、クイーンのもとに辿り着くだろうな。和希、準備はいいか?」
そう尋ねるガイウスに、和希は笑って答えた。
「準備? んなもん考えてねえよ。こちとら出たとこ勝負の和希さんだぜ! 俺はクイーンに協力してもらえれば、それでいいさ!」
「………………その為には、多少の心の準備は必要だと思うのだがな」
ガイウスはそう唸ったが、心の中では仕方ないと思っていた。
ある意味ではその一途で真っ直ぐな部分が和希の持ち味であって魅力だ。時にそれは頭でっかちになりがちな自分よりも上手く事を運ぶことがある。
もっとも――時には、であったが。
たいていの場合はガイウスがとばっちりを被ることがほとんどだった。
「ところで、椿達は?」
ガイウスが尋ねた。
和希はちらりと空を見て、そこに小さな影があるのを見つけた。
「どうやら無事にこっちに向かってるみたいだぜ」
そう言った和希が見つけたのは、小型飛空艇の影だった。
乗っているのは
泉 椿(いずみ・つばき)と
オープン・ザ セサミ(おーぷんざ・せさみ)だ。二人は和希と同じで鮪やガイウスの情報の連携し、すでにクイーンの居場所を突き止めていた。
小型飛空艇アルバトロスを運転するのはセサミの役目だ。となれば探索はもちろん椿となる。彼女はアルバトロスから地上を眺め、さてどこに居るものかと目を凝らしていた。
「こっちにいるのは間違いないはずなんだけどなぁ」
がりがりと、椿は頭を掻いた。
「慌てず騒がずよ、椿」
セサミが落ち着いた声音で言った。
「いつの時代も、冷静でいる者が勝利を得る。この美少女探偵セサミちゃんの格言の1つだわ。………………とゆーわけで、そろそろ運転交代しない?」
「やだね。いいから、セサミはしっかりアルバトロスを手なずけててくれよ。クイーンの探索はあたしがするからさ」
「…………ぶー」
そんな風に言葉を交わしながら、セサミはふてくされて頬を膨らませる。
と、その時だった。ビル街の向こうでいきなり大規模な爆発が起こり、爆風の余波が椿達のもとに届いたのは。びりびりとした空気の振動が、二人の身体を震わせた。
「あれは!」
「間違いない! クイーンと契約者達が戦ってるんだ!」