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リアクション
第二章 祭りの賑わい1
賑やかな音楽が、そこかしこから聞こえてくる。
学校交流の意を兼ねて、今回は百合園生達が招待され、一日だけとは言え同じ空気が吸えることになった。
お近づきになれるチャンス! この絶好の機会を逃す手は無い。
屋台の食べ物の匂いと混じって、百合園生達の高貴な香りが漂っているように感じられる。
くんくん。良い香り〜〜〜……。
……だが。
一色 仁(いっしき・じん)はふと空を見上げて、目頭を押さえた。
思わず涙がこぼれそうになる。
「俺は……俺は……百合園にもてなかったんだよ! 俺は、バカップルが憎い!!」
仁は心の叫びを吐き出した。
百合園のガールフレンドを作ろうとしたが、何故か警戒されて出来なかった。
「モテナイ男は、悲惨ですわね」
「!!」
パートナーのミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)が、止めを刺した。がっくりと肩を落とす。
「……くそぅ……復讐してやる、祭りを廻る全てのバカップルに復讐してやる……!」
「たんなる八つ当たりですわ」
どこから持ってきたのか、仁は赤鬼のお面と怪しいマントを取り出して装着した。
「一体、何を?」
「邪魔してやる……脅かして仲を引き裂いてやる!」
仁の目の中に嫉妬の炎が見える。
(面白そう♪)
気づかれないように、ミラは小さく笑った。
「あぁ、ミラは適当に店を回っていればいいぞ。後で待ち合わせして帰れば……」
「一緒にいきますわよ」
ミラの笑顔に、一瞬、頭が真っ白になったが。
「お、おう。じゃあ……」
自分と同じ行動をわざわとろうとするパートナーに、仁は熱い友情を感じていた。
浴衣の胸元を正しながらクロス・クロノス(くろす・くろのす)はぎこちなく歩いていた。
お祭りに合わせて浴衣を注文し、着付けを習った。
浴衣は、白地に薄ピンクの牡丹と黒い蝶をあしらった布地に、小さな蝶をちりばめたグラデーションがかった黒地の帯。黒塗の台に赤い鼻緒の下駄を履き、手毬模様の巾着を用意した。
完璧なはずだ。
パートナーであるカイン・セフィト(かいん・せふぃと)と、はぐれないように手を繋いで歩く。至福の時。
カインの浴衣ははクロスが着付けをした。
黒地に麻蜘蛛柄の浴衣に、白と黒のストライプの角帯をつけ、黒の鼻緒の下駄を履いている。
うんうん、良い感じ。
「餅に中華まん、冷麺食ったし、焼きソバも食った。あとはゴマ団子とフランクフルトか?」
「えぇ〜もっと食べたい〜」
「……食べすぎると太るぞ」
カインの目が笑っていない。
「わ、分かったよ〜」
「そうそう。分かればいいんだ」
「むぅ」
「……クロスのお腹が満たされたら、遊戯系屋台の射撃をやりに行こうぜ。実用性の高い物を狙って、な?」
カインのとろけるような笑顔に騙されて、クロスは大きく頷いた。
「私、中華風のこう言った食べ物初めてなんどすぅ〜♪」
清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、あっちにふらふらこっちにふらふら、心の動くままに店内の食べ物を物色していた。
その姿を、後ろからパートナーであるティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)がじっと見つめている。
(……おかしいですわ、エリスをデート相手に誘うケダモノが現れません……)
『この子は相手がいませんの! この子は何をされても大丈夫ですわよ! 恐怖病棟へでもどこでも連れて行っても宜しいのよ〜!』
ティアは思わず叫んでしまいそうになるのを堪えた。
「美味しそうですねぇ、ティア。覚えたら作ってさしあげますぇ〜」
笑顔で振り返ったエリスの顔が固まった。
ティアが氷の微笑を浮かべている。
「あ、え、あぁ、え?」
「エリスには、誰かを誘う勇気がある訳でも宛てがある訳でも無いんですよね? 本当に情けないですわ」
「ふぇ、ふぇええぇえぇええ??」
……その目、ゾクゾクしますわ。
ティアはこっそり舌なめずりをすると、わざと大きくため息をついて見せた。
「仕方ないですね。今日は一日私がお相手しますわ」
「よ、よろしくおねがいしますぇ〜」
祭りはまだ、始まったばかり。
ティアは不適な笑みを浮かべて、これからのことを思った。
「…………」
少し離れた場所からその様子を見ていた高務 野々(たかつかさ・のの)は身体を震わせた。
近づかない方がいい──
瞬時に察知すると、その場から急いで離れた。
人ごみに紛れ、二人の姿が見えなくなるのを確認すると、野々は息を吐いた。
君子危うきに近寄らず。今の状況にぴったりの言葉が浮かんだ。
……それにしても。
お祭りと聞き、神社の縁日のようなものを想像してやって来はしたが、スケールが違って困惑する。
屋台が立ち並ぶ道に入る手前にあった小さな祭壇に、故郷から持ってきた自家製の梅干をお供えした。
『今日のお祭りが楽しめますように』
間違った祈りをして、屋台を回り始めた。
そんな矢先に出会ったあの二人。ある意味、楽しい場面を目撃できたのかもしれないけど、やっぱり怖い!
「屋台に行かなくちゃ、屋台」
恐怖心を振り払って歩き出した。
甘いものは避けていたつもりだったが、試食として無理やり手渡されたゴマ団子。
これはパートナーのお土産にしよう。
「そして私は、他の美味しい物を食べましょう〜♪」
野々は中華まんの匂いのする屋台へと駆け出した。
前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)は幼馴染の如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の手を握って、彼女の歩幅に合わせるように、ゆっくりと歩いていた。
「……いろいろと……気、使わせちゃって……ごめん、ですぅ……」
「こういう時は、ごめんじゃなくて、ありがとう、かな?」
何気なくエスコート出来ればと思っていたが、やっぱりぎこちなくなってしまう。
普段からこういうことをすることに慣れているキャラではないので、風次郎は戸惑いつつも出来る限りのことはしようと思った。
盲目である彼女のために、幼馴染としては黙っている事はできない。
「お〜い、そこのお二人さん。仲良いねぇ〜全く羨ましいよ。たこ焼き買って……って、なんだ。風次郎達か」
屋台の中にいたのは同じシャンバラの学生、佐野 亮司(さの・りょうじ)だった。
「『なんだ』はないだろう〜? ……あ、ちょっと待ってて、たこ焼き買ってくる」
「はい」
店の名前は【タコスレイヤーのたこ焼き屋】。亮司が店主を務めている。
たこ焼きの具はタコだけではなく、色々な物を使う、いわゆるロシアンたこ焼き。
中身は買って食べてみるまで分からない。
普通の具から、わさびやゴーヤ、ハバネロなどのハズレなど、様々な具を用意していた。
「サービスしてやるよ」
「さんきゅ」
風次郎はたこ焼きを受け取ると、日奈々の元へと戻った。
「──お待たせ、えっとそうだな〜……あ! あそこに座って食べよう」
二人はベンチに腰掛けると、たこ焼きを仲良く頬張った。
「あれ? 結構旨いかも」
「本当……ですね」
ロシアンたこ焼きのはずだったが、特別に普通の物を渡してくれたようだ。
亮司に感謝。
「美味しい……」
「……良かった」
風次郎は日奈々を優しく見つめた。
「──カップル、か……」
亮司は二人の姿を見ながら、ため息混じりに呟いた。
本当は、自分だって片思いの相手とこの祭りに来るつもりだったのだ。
これを機に、気になるあの娘と仲良くなって、ラブラブな学園生活に突入しようと思っていたのに……
結局誘えず一人寂しくたこ焼き屋の出店を出す羽目になってしまった。
「……」
亮司は相手の顔を思い浮かべて、再びため息をついた。
「あの〜このお店のたこ焼きって美味しいですか?」
突然、悪気の無い笑顔を向けながら、ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)が尋ねてきた。
「……え?」
「おいしいですか?」
「ちょ、ちょっと、そんなぶっちゃけた言い方……」
パートナーのルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)が慌てふためいてユウを止めようとする。
「あ、ああ。多分……美味しいと思うよ?」
「一つ下さい」
「はぁ」
たこ焼きを渡すと、二人は礼を言って去っていった。
「カップルかなぁ……いいなぁ……」
亮司は自分で作ったたこ焼きをじっと見つめて。
「祭りの土産として渡してみよっかな」
ようやく笑うことが出来た。
「うん。なひゃなひゃおいひぃ」
はふはふと。
口の中で熱々のたこ焼きを転がしながら、ユウは唸っている。
色気の無いユウに少し不満を覚えるルミナだったが、射的の景品にあった大き目の兎のぬいぐるみに目を奪われ立ち止まってしまった。
「ん?」
ユウは振り返ると、ルミナの視線の先にある、愛くるしいぬいぐるみに気付いた。
「あれが欲しいの?」
「え、えええ!? ちっ、違うそんなんじゃ……」
ユウは慣れた口調で店主から銃を受け取ると、構えの状態に入った。
一発。二発。三発。
「あっ……!」
三発目にして、目的の商品が崩れ落ちた。
「やった! やりましたよユウ!! ──あっ、ご、ごめんなさい」
思わずユウに抱きついて喜んでしまったルミナは、慌てて飛び離れる。顔が赤い。
普段ではお目にかかれない一面を見れて、やった甲斐があったと、ユウはこっそり思った。
「教導団の人とはあまり接点がないので、これを機に知り合いになりたいんですが……」
フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)はきょろきょろと辺りを見回した。
「……1人で回るのは少し寂しいので一緒に回ってくれる男の人を探そうと思ったんですけどねぇ」
フィルは、ため息をついた。
「目ぼしい人はいませんし……移動した方が良いのでしょうか……?」
のんびりと歩き出したフィルを見守りながら、パートナーのセラ・スアレス(せら・すあれす)が尾行している。
気づかれないように、こっそりと。
フィルがお祭りに行くと言うので学校で一人待っていようと思ったのだが、事件に巻き込まれたり変な人に絡まれたりしないか、心配で心配でいてもたってもいられなくなった。
行ってくれば? と行った手前、やっぱり一緒に行くとも言えず……
さすがに、そのままの姿では気づかれてしまうので、髪を編みこんで男物のスーツとつばの広いソフト帽をかぶって男装をした。
「大丈夫よね、フィル。まぁもし何かあったら私が飛び出していって守ってあげるけど」
挙動不審じみた行動は、本人には分からなくても、周りから見ればかなり怪しく映る。
向けられる奇異の視線をスルーして、セラは細心の注意を払いながら後をつけた。
桐生 円(きりゅう・まどか)は、自分のマスターでもあるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)に面白い遊びを思いついたと言われた。
それは、占い屋台を開くこと。
だが、どうも怪しく思われてしまったのか参戦許可が下りず、口コミ&裏通りで開始することとなった。
占い師役としてオリヴィアは、黒いローブに狐面を被る。
蜜柑のダンボール箱の上に亀の甲羅やら水晶やらを置いて、無料で占いをすると吹聴した。
──実際は、実行可能な事を予言し、死角で携帯をいじって円にそれを実行させる事である。
「むぅ〜無料でやるって言ってるのにお客が来ないわ〜」
オリヴィアは唇を尖らせた。
「円、カモを引き連れてきて〜」
「了解、マスター」
円は表通りまで行くと……
「わっ!」
「うわっ!」
フィルとぶつかってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「びっくりした〜……あ? あぁ〜もしかして一人?」
「え、えぇ」
「占いやってるんだよ〜無料だよ。出会いなんかも協力するよ〜」
「え? 出会い??」
フィルは思い切り食いついて、早速見てもらうことにした。
「むぅ〜今日はらっきーでーよ。素敵な友達と知り合えるわぁ〜。場所はこの十軒先の屋台の前に居るわ〜」
オリヴィアが占いをしている最中、円はメールでの指示を待っていた。
更にその後ろでは、怪しい変装をしたセラが心配そうに様子を見守っている。
「すぐ行ってみます!」
「え?」
オリヴィアの話を最後まで聞かずに、フィルは飛び出した。
円の横を通り過ぎる。
セラの横も駆け抜ける。
「……あ、あれぇ?」
三人は呆然と、フィルの後姿を見送った。
タピオカミルクを片手に、孫 紅麗(すん・ほんりー)はパートナーのマリアルイゼ・アントールナン(まりあるいぜ・あんとーるなん)と一緒に屋台を回っていた。
屋台でお腹いっぱいになるまで食べ尽くしてやる。
口の中でタピオカの触感を楽しみつつ、孫は目を輝かせながら屋台を眺めた。
「まだまだ腹には余裕があるからのぅ」
マリアルイゼはお腹を軽く叩いてみせた。
「変った中華まんとか食べたです〜」
孫は屋台から流れてくる匂いを嗅ぎながら、中華まんが置いてある場所を探し出そうとする。
「そこの二人! これなんかどう?」
おばちゃんに声をかけられ、店の中を覗きこむと。
そこには、ゲテモノ料理にしか見えない品々が並べられていた。
黒い小さな固まりがごろごろ──
ご、ごきぶり?
コオロギ?
「あ、あは、あはははは……遠慮します!」
孫はマリアルイゼを引き連れると、一目散に逃げ出した。
無難な中華まんが置いてある屋台の前で立ち止まり、息をつく。
「怖かったぁ……さすがにあんなの食べたくはないですよ」
「そうじゃのぉ、わしも嫌じゃ」
二人は顔を見合わせて苦笑した。
「あの!」
見ると、二人以上に息を切らせたフィルが、目の前に現れた。
「教導団の方ですか!? 占いでここに行けば友達が出来るって聞いて飛んできました!」
真剣な眼差しのフィルに気圧されて、孫は笑った。
「はい……では一緒に、屋台巡りでも致しますか?」
「ありがとう〜」
物陰の隅から、この光景を見ていたセラが涙を流していたのは言うまでも無い。
「良かったねぇ……」
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