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リアクション
◆
「何かお困りですかな?」
セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は祭り開始直後、なにやら困っている様子のお嬢様方を発見して声をかけた。
「遊園地に来たのなんて久しぶりで、何処に何があるのか……」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は複雑な表情を見せた。
その横で、デニム地のショートパンツ、薄ピンクのタンクトップ、上着代わりに半袖デニムシャツを着た遠鳴 真希(とおなり・まき)も困った顔をする。
「本当、この人の多さには勘弁しって感じよね」
「流れに逆らうのもしんどいです」
パートナーのユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)が苦笑した。
「……もしかして百合園の方達でしょうか? 自分はシャンバラ教導団のセオボルト・フィッツジェラルドと申します。良ければご一緒に……」
ユズは値踏みするような視線で見つめたあと、ふと笑顔になって。
「そうですね。御案内お願い致します」
「承知しました! では、今日一日、よろしくお願いします」
(──……イィィィィヤッホォォォォゥッ!!!!!デート最ッッッ高ォォォォォッッ!!)
セオボルトは心の中で絶叫した。
「あの、私は七瀬 歩と言います。宜しくお願いします」
「遠鳴 真希だよっ。よろしく」
「リスティラクス・エグザドフォルモラスユズィ……お願い致します、セオボルト様」
エスコート中は頼れる男を演出しなければ。
両手に花どころじゃなくなった現状に、少々のとまどいを感じつつも、やっぱり嬉しいセオボルトだった。
遊園地が初めてのメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、世話しなく辺りを眺めている。
この日をずっと楽しみにしていたメイベルの様子を目の当たりにしていたパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、その姿を微笑ましく見つめていた。
待ち時間中に手軽につまめるものをと思い、手作りサンドウィッチ弁当を持参した。
メイベルが気に入ってくれると良いのだけれど……
「セシリア、セシリア! 色んな乗り物がありますぅ! どれから行きましょう!?」
「慌てなくて大丈夫だから」
「ええ〜閉館される前に急いで乗らなきゃ! もう全部! 全部の乗り物を制覇したい気分ですぅ!」
はしゃぐメイベルがあまりにも可愛くて、セシリアは思わず笑ってしまった。
「んん〜? なぁにい? どうして笑うんですかぁ?」
「なんでもありません。──さぁ行きましょう!」
「は〜い!!」
二人の足は、ジェットコースターへと向かっていた。
(──本物のヒーローショーってものを見せてやる!)
神代 正義(かみしろ・まさよし)はステージ裏に潜り込んでいた。
イベント広場で行っていたヒーローショー、あまりの稚拙さに正義は我慢が出来なくなった。
「行くぞ、大神! 準備はいいな!」
「こ、こんなことして後で大問題になるんじゃ……」
パートナーの大神 愛(おおかみ・あい)が泣きそうな声を出して正義を止めようとするが。
「ふざけんなっ! こんなショーを誰が喜ぶっ!? 俺が本物のヒーローの真髄を教えてやる!!」
……もう聞く耳を持っていない。
「大丈夫だ、一回だけ本物を見せれば、奴らは納得する」
「そんな憶測だけで……」
「パラミタ刑事シャンバラン!! 変身だっ!!!」
愛の忠告を無視してお面を装着する正義にため息をつきながら、手作り感全開の怪獣の着ぐるみを、しぶしぶ着始めた。
「お待たせしましたっ」
荒い息を吐きながら、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)はぺこりと頭を下げる。
パートナーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)もその隣で同じように頭を下げた。
「ちょ、ちょっと謝らなくていいから。俺達も今来たばかりだし、な?」
松平 岩造(まつだいら・がんぞう)はパートナーであるフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)に同意を求める。
「はい。気にしないで下さい」
四人は目を見合わせて笑った。
「では。ここはやはり、絶叫マシン巡りですわね♪ まずジェットコースターとフリーフォールは外せませんわ♪ そうそう、新しい絶叫マシン『絶叫番長』に乗りたいですわ♪」
ミルフィは心底楽しそうに、プランの提案をしていく。
「あ、あのミルフィ……わ、私も……?」
実は絶叫マシンが大の苦手の有栖が、震える声で尋ねた。
「……足腰が立たなくなったら、わたくしがおぶって差し上げますから♪」
ミルフィは微笑しながら、本当はそれが目的なんじゃないかというような怪しい声音で言った。
「絶叫マシンか……いいな」
岩造がぽつりと呟いた。
「ジェットコースター楽しみです〜今日一日、本当に素敵な日になりそうです」
「そうだな」
満面の笑みを浮かべるフェイトに、岩造も嬉しくなって微笑んだ。
「眠くない? 葵ちゃん」
秋月 葵(あきづき・あおい)はパートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)の心配そうな顔を見ながら、苦笑してみせる。
大好きなエレンと一緒に遊園地に行ける喜びで、パンフレットやカタログを取り寄せ、回るコースを考えたりしていたら──結局、朝を迎えてしまった。
興奮して眠れなかったという話でもあるのだが。
「もし辛いようだったらどこかで休んだら良いと思……」
「だ〜いじょうぶっ」
エレンの手をぎゅっと握って、葵は恥ずかしそうに笑った。
「行こ!」
手を引っ張られながら、エレン微笑んだ。
(遊園地なら危ないこともないし、安心して葵ちゃんと楽しめるはず)
葵のために張り切って作ってきた弁当が、カタカタ音を鳴らしている。
(喜んでくれるといいなぁ……)
エレンは葵の手を強く強く握り返した。
鞘月 弥生(さやつき・やよい)は周囲に目を光らせていた。
一緒にデートをする相手を探して楽しむつもりだったが、いざ現地に来てみれば、カップルや親子連れだらけ。
「…………」
シャンバラ教導団から来た、せっかくのご招待。
恋の相手を探すはずだったのに……
『誰かデートしてくれないかなぁ〜』
「え?」
「え?」
呟いた言葉がハモったことに驚いて、弥生は顔を上げた。
隣で、真ん丸の目をして驚いている、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の姿があった。
少しの間。
二人は同時に噴き出した。
「もしかしてあなたも?」
「はいそうです! デートしてくれる人探したり、声をかけてくれるの待ってたんですが、現れなくて」
「本当、どうなってるんでしょうね?」
二人は声をたてて笑った。
「……一緒に遊園地、楽しみませんか?」
「ボクでいいんですか?」
「もちろんです」
「ありがとう」
弥生とヴァーナーは、照れたように笑いあった。
メリーゴーランドのゆるやかな動きにアリス・ハーバート(ありす・はーばーと)は身を任せていた。
「さっきのジェットコースターは、きつかった……」
発車と同時に、あんなに重力がかかるなんて思わなかった。
ぐったりとした身体を、馬の乗り物に預ける。
「まだダメ?」
隣の白馬から、パートナーのミーナ・シーガル(みーな・しーがる)が心配そうな声を出す。
「さっきより大分マシ。これが終わる頃には復活してると思う〜」
「…………」
アリスに変な虫が付かないように守るつもりでやって来たのだが、なんだかそれ以前の問題になっていた。
無理はさせたくないと思うのだが、せっかくやって来た遊園地。
二人で楽しんで帰りたいと思っている。
徐々に復活の兆しを見せていくアリスに、ミーナは安堵のため息をもらした。
「良かった……」
「何か言った?」
「ううん」
「これ終わったら、次は何乗ろうか?」
「大丈夫なの?」
「バッチリ、バッチリ!」
アリスの乗っている白馬が、嬉しそうに身体を揺らした。
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