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リアクション
「こわいよー。でも首しめたりとかは危ないからなんとかしないと。でもこわいよーっ」
稽古が始まる直前、座敷部屋には行かずに用具室の入り口から顔を覗かせる形で、遠鳴 真希(とおなり・まき)は中を震えながら見回していた。
これといって不可思議な物はない。
驚くとすれば、この高い天井。そして高い棚。
脚立ではなく梯子でないと、目的の品を取り出すことは出来ないだろう。
地震でも起きたら必ず落下物が出てくるに違いない。
一体どうしてこんな厄介な部屋を作ったのだろうか?
──天窓から差し込む月明かりが、幻想的な空間を作り出していた。
光の筋が降り注いでいる。
なんて美しい、光景。
「綺麗……」
真希は思わず息を飲んだ。
「……あ、あぁ、いけない! 思わず」
ハッとすると頭を振った。
稽古がすぐに始まってしまったがために、ピアス達に話を聞くことが出来なかった。
それならもう直接ここに潜り込んで、何が起こるのかを突き止めようと思っていた。
だが。
中々足が前に進まない……
手には武器代わりのほうきを持っている。
「えっと……」
「女、入らないのかい?」
「──っひゃあああああぁああぁあぁぁあああ!!!」
いきなり後ろから声をかけられて、真希はあらん限りの声を発した。
「ななな、なな……」
「鼓膜が破れちゃうぅ〜」
真希が振り向いた先には、耳を塞いでいる清泉 北都(いずみ・ほくと)の姿があった。
「びっくりした〜!」
「ごめん、ごめん。ずっと入り口塞いでたから、どうしたんだろうと思って。中に入らないの?」
「…………」
「じゃあ僕が先に入らせてもらうねぇ」
こくこくと何度も頷きながら、真希は北都の後ろについて中に入った。
「広いねぇ……それに高い天窓……」
北都は上を仰ぎ見た。
青白く冷たい光が、北都の顔を照らす。
その時。
「──あれ? 先客ですか」
入り口に目をやると、クレイ・フェオリス(くれい・ふぇおりす)と黒水 一晶(くろみ・かずあき)の二人がやって来ていた。
「何かありましたか?」
クレイが優しそうな笑顔を浮かべながら二人に尋ねる。
「先に、この場所をチェックしておこうとやって来たのですが……」
部屋を見回しながら、一晶も独り言のように呟いた。
「何にもないよ」
「そうですか……」
クレイが残念そうな声を出す。
「やっぱりただの噂なんでしょうか? 女の子のすすり泣きなんて……」
「うっ!」
問いかける一晶の言葉に、真希は恐怖心を高まらせた。
「分かりません。稽古は今始まったばかりですし、ピアスさんの出番迄にはまだ時間がありますし」
「そうですね……。ところで皆さんはこれからどうされるおつもりで? 俺は「なにか」を油断させるために、ちょっと皆から離れようと思っていますが」
一晶が皆の顔を見る。
「僕は用具室の側で待機し、声が聞こえてたら中を確認しようと思っているよ」
「俺はもう少し……室内に気になる所や不審な点が無いか、可能な限り見落とさないようにチェックしようと考えています」
皆の視線が真希へと移る。
「え、えっと……あたしは……ここに潜んで、いようかと……」
三人の目が点になった。そしてすぐさま憐れみに満ちた表情へと変っていく。
「頑張って下さい。──怖いですよぉ」
ぽん。
クレイが肩に手を置く。
「勇気あるねぇ……あ、でも月明かりが綺麗だから大丈夫かな」
ぽん。
北都が肩に手を置く。
「きっと出ると思いますよ」
ぽん。
一晶が肩に手を置く。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
本心なのか冗談なのか、三人の気のきいた?言葉を浴びた真希は、声にならない悲鳴をあげた。
「泊り込みにはならなかったね」
高潮 津波(たかしお・つなみ)はびくびくしながら、通路の端を歩いていた。
パートナーのナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)が、その様子を可笑しそうに眺めている。
「あ、ちょ、ちょっとナトレア、側を離れないで下さい!」
津波はナトレアの服の裾をぎゅっと握った。
「ポシェットの中には、泊り込み用のお菓子とか缶ジュースとか懐中電灯とかを入れてるんだ」
ナトレアに向けられる津波の笑顔が引きつっている。
「お菓子はね、スナック系と、チョコレートと、グミと、飴と、ラムネとね」
「……」
「缶ジュースも何本か持ってきてね、炭酸飲料もちゃんと入ってるし……」
「…………」
「ナトレア〜何か喋ってよぉ!」
「どうしてですか?」
「静かだと怖いじゃない」
「そういうものですか?」
「そういうものなの!」
「……じゃあ、怖い話でも……」
「やめて〜〜〜〜〜!」
津波は耳を塞いで駆け出した。が、すぐに自分の愚かさに気付いたのか慌てて戻ってくる。
もう一度ナトレアの服の裾を握る。
「話はしなくていいけど側にいて」
ナトレアはくすりと笑った。
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