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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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第5章 メアリの家にて 

 時間を遡ること、街での調査をしている最中の頃。 
「じゃ、ヘルガ。メアリのことは頼んだで」
 セイバーの桜井雪華(さくらい・せつか)は、パートナーで剣の花嫁のヘルゲイト・ダストライフ(へるげいと・だすとらいふ)の肩を叩く。ヘルゲイトは不安そうに桜井を見る。
「セツカさん、本当に私たち二人だけで入るんです……やろか?」
 ヘルゲイトは最後の語尾を微妙な間をあけて言う。桜井は叩こうとしていた光条兵器・ハリセンを下す。ヘルゲイトはいつも関西弁を使い損なって、桜井に自分から出した光条兵器・ハリセンでしばかれていた。
「そや。街で情報収集なんて必要ないやろ。ウチにはすべてお見通しや」
 桜井は腰に手を当てて、胸を張って言う。
「メアリは盗賊団のボスや! そんで、うっかりメアリの宿に泊まった青年を殺して、財宝をぎょーさんこの家のどっかに隠しもっとる! メアリは財宝を守るためにこの家に居座っておるんやろ。ウチがその財宝を見つけたるわ!」
 ヘルゲイトは桜井の話を聞き、ますます不安な顔になる。
 桜井はそんなヘルゲイトの様子に気づかず、
「ほなら、メアリの引きつける役は頼んだで。その間にウチが調べるわ」
 そう言って、桜井はメアリの家の裏へと回って行った。
「推理はあってなさそうですが……セツカさんが言うの……やもん。よしっ、頑張ろう」
 ヘルゲイトは正面からゆっくり入っていた。
 しかし、メアリは引きつけ役のヘルゲイトには一切反応しなかった。かわりに、裏の窓ガラスを割り侵入した桜井の前に、黒い犬・ジョンが出現する。桜井は光条兵器のハリセンを片手に言う。
「かかってきぃや! ウチの漫才界一のハリセン技術で返り討ちにっ……」
 ジョンは座り込んで、後ろ脚で耳を掻いていた。
「人間様の話は聞かんかいっ! バカ犬!」
 桜井は条件反射で、ハリセンでジョンにツッコミを入れようするが、
スカッ!
 ジョンはひょいと横によけ、ハリセンは空を叩く。
「ウ、ウチのハリセンが……!」
 自慢のハリセンツッコミを軽くかわされショックを受けるが、ジョンはさらに、
「あ〜あ」
 人間のような大きな欠伸をした。
「あ、あくび……芸人にとって退屈を意味する最も屈辱的な……!」
 桜井はわなわなと震え、
「い、犬に退屈って言われたぁぁあああ!」
 桜井は泣き叫びながら、呆然と立っているヘルゲイトの横を駆け抜けて玄関から出て行ってしまう。
「え、えっと……セツカさん! 待ってくださ……待っといて……かな?」
 ヘルゲイトは語尾に悩みながら、桜井を追いかけて行った。
 
 それから、しばらくして。アンデッド盗賊団と交戦中の時、メアリの家の前にナイトの藍澤黎(あいざわ・れい)がいた。いつも携えているランスはなく、代わりにヴァイオリンを持っている。藍澤は玄関で一礼して入っていく。藍澤の後ろからは、ウィザードの緋桜ケイ(ひおう・けい)とセイバーのアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)がついていく。二人とも全く武器を持っていない。
「特に妙な雰囲気とかはねえな」
 緋桜の言葉に、アリアも周りを見回しながら頷く。
「そうね。家の中も綺麗で……長年、空き家とは思えないね」
「そこなんだよなぁ。絶対に誰かが手入れしてるってことだと思うけど」
 緋桜はパートナーの悠久ノカナタが調べてくることを願いつつ答える。
 玄関から入って左側に階段があり、右側にはキッチンとリビング、さらに奥には何もない部屋がある。
 リビングには白いシーツが被せられた椅子とテーブルがある。アリアはそれを見て呟く。
「この家具とかって、メアリが使っていたものなのかしら?」
 リビングを抜け、奥の何もない一室へ入ると、藍澤はもう一度一礼し、何もない空間に向かって言う。
「ひと時の慰め、お耳汚しを失礼」
 藍澤はヴァイオリンを構え、おもむろにフォーレ作曲の『夢のあとに』を弾き始める。
 緋桜とアリアはヴァイオリンの音色に耳を傾けながら、視線はメアリと黒い犬ジョンを探して彷徨う。
かさっ
 その時、家具に掛けられていた白いシーツが擦れる音がした。緋桜とアリアがリビングを見ると、風もないのにシーツの端が揺れている。テーブルの下には黒い靄のようなものが揺らめいている。
「メアリ?」
 緋桜は呼びかけるが、シーツは静かに揺れているだけ。
「君はジョンなの?」
 アリアはしゃがんで、黒い靄に手を伸ばす。しかし、黒い靄は警戒するように少し後ずさった。
 藍澤も二人の様子で気付き、リビングのほうに体を向けてヴァイオリンを弾き続ける。
 
 藍澤のヴァイオリンの音色は、メアリの家の二階まで響いていた。
「……誰でしょうか?」
 ローグでガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は呟く。横にいたパートナーで機晶姫のシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は、ベッドの下を覗きながら言う。藍澤達が来る前から捜索していたので、一階に藍澤達が来ていることを知らなかった。
「メアリっちゅう幽霊かのうぅ……。それなら、落ち着いて調べられるから、ええがのう? アリス」」
 突然シルヴェスターに話を振られ、メイドのアリス・ハーバート(ありす・はーばーと)は持っていた花瓶を危うく落としそうになる。
「そ、そうね! ヴァイオリンを弾いている間は、この二階にいないってことだしね」
 シルヴェスターの美少女然とした容姿と喋り方のギャップに戸惑いながら、アリスは頷いた。
 ガートルードたちは5部屋の内、最も広く寝室で使用していたらしい一番奥の部屋を調べていた。
 ガートルードはトレジャーセンスを使って調べているが、
「ハーレック、どうや?」
「……何も反応を感じません」
 ガートルードは首を横に振る。アリスは頬に手を当て、首を傾げて言う。
「やっぱり一階のキッチンのほうが怪しいのかしら? 大切な物を隠すのに寝室では、簡単過ぎるわ。ヘソクリもよく食器棚とかに隠すし……私は隠さないけど」」
 メイドらしいアリスの提案に、ガートルードたちも納得する。
かちゃ
 そこへ突然ドアが独りでに開いた。ドアの向こうには誰も見えない。
 思わず身構えるガートルードたちだったが、
「ちょっと! 私だから! 攻撃しないでよね!」
 姿は見えないが、慌てた声にガートルードたちはほっとする。
「ああ、如月ですか。光学迷彩を使われていると、幽霊と間違えてしまいます」
 ガートルードに言われ、ウィザードの如月玲奈(きさらぎ・れいな)は光学迷彩を解いて姿を現す。
 他の部屋を調べていた如月は溜息を吐く。
「特に何も見つからなかったわね。そっちは?」
 ガートルードは首を横に振る。トレジャーセンスでも見つからないことを話す。
 如月は少し考えて言った。
「もしかしたら、トレジャーセンスは金品財宝を探す力だから、金品財宝ではなくてもメアリにとっては大切な物があるのかもしれないね」

 藍澤のヴァイオリンの音色を外でも聞いている者たちがいた。ナイトの羽瀬川セト(はせがわ・せと)はパートナーで魔女のエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)を心配そうに見ている。
「ミア、大丈夫ですか?」
 エレミアは少し青ざめた顔のまま、無理な引き攣った笑みを浮かべる。
「な、何がじゃ! わらわが怖がっておるというのか。わらわは偉大な魔女だぞ。おばけなんぞ怖くないぞ!」
 羽瀬川はミアの背中を落ち着かせるように摩りながら言う。
「う、うん。わかったから。ちょっと深呼吸しようか」
「う、うむ」
 エレミアは羽瀬川と一緒に深呼吸する。
「あの魔女っ子ちゃん、大丈夫かしら?」
 イリスキュスティスはエレミアを見ながらゴザルザに言うが、ゴザルザは聞いていない。小脇に改築業者から借りた工具箱を抱え、突入する気でいる。
 イリスキュスティスはその姿を見て呟く。
「トレンチコートに伊達眼鏡。でも、小脇に大工道具を抱えてる姿って、なかなかシュールよね」
「よし! 突入の連絡を……」
 ゴザルザがちょうど携帯を取り出そうとしたとき、こっちに近づいてくる二つの人影あった。
「お前が遅いせいで、きっと幽霊退治など終わっているぞ! この僕が幽霊など軽く退治してやろうと思っていたのに! 非常に残念だ!」」
「ブレイズ……事件が終わっているかもしれないと聞いた途端、顔色が良くなりましたね。あんなに青かったのに」
 ウィザードのブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)とパートナーで機晶姫のロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)がやってくる。
 胸を張って歩くブレイズの後ろを歩いていたロージーは、羽瀬川たちを見つけて言う。
「あ、良かったですね。まだ幽霊退治は終わっていないようです」
「なにっ!」
 ブレイズの足が硬直するが、ロージーをブレイズの腕を引っ張りながらやってくる。
「遅れて申し訳ありません。間に合いましたか?」
「う、うん。でも、すごく顔色が悪いけど大丈夫ですか?」
 羽瀬川は頷きながら、一気に顔色が青くなったブレイズを心配する。ブレイズが何かを言う前に、ロージーが答えた。
「いつものことですから、大丈夫です」
 ゴザルザは携帯を取り出し、青年の霊と接触する予定の樹月刀真に電話を掛けた。
「ゴザル刑事! 今、突入するでござる!」
 それだけ言うと、電話を切って玄関のドアを開いて突入する。
 後から楽しげなイリスキュスティスが続き、羽瀬川は立ち竦んでいるエレミアに手を差し出す。
「……手を繋ぎましょうか?」
「ふ、ふん! セトが怖くて仕方無いなら、わらわが繋いでやっても良いぞ!」
 羽瀬川はにっこり微笑んで言う。
「……じゃあ、オレが怖くて仕方ないので、手を繋いでくれませんか?」
「仕方のないヤツじゃ! 今回は特別じゃぞ!」
 エレミアはそう言うと、羽瀬川の腕にしがみつくように手を握った。
 それを見ていたロージーだが、逃げ出そうとするブレイズの腰を掴み、無理やり引き摺って行った。