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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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第7章 追憶の契り 
 
バンッ! ゴンッ! ドンッ!
「もう嫌じゃああ! わらわは帰るぅーー!」
「わわ! ミア、しがみつくと危ないですよ!」
「違う違う! 断じて違う! あれは元気な老婆……ではなく、老婦人! おしゃれなシースルーなだけで……」
「ブレイズ、玄関で蹲るのはやめてください。みなさんの邪魔です」
「おっかしいなぁ〜。黒いもの同士、ジョンと仲好くなれると思ったのになぁ」
 メアリの家では椅子が宙を飛んでいた。
 ゴザルザの携帯がずっと鳴っている。しかし、出られる状態ではなかった。ゴザルザは入るなり、いきなり壁に釘を打ち込んだのがメアリの激怒を買ったらしく、ずっと椅子とジョンに追いかけられている。
 そんな中でも藍澤はヴァイオリンを弾いていた。藍澤たちがいる部屋だけは被害がない。
「やっぱり家を傷つけたら怒るんだな」
 緋桜はゴザルザを見ながら呟き、アリアも頷く。
 メアリはリビングの中央で白髪を振り乱し、深緑の瞳は大きく見開かれ、ゴザルザに椅子を当てようとしている。風もないのに、メアリの纏っている白いボロボロの服がはためいている。
 そんな中、一人の男がリビングにやってくる。すぐに気付いたのはジョンだった。
「ワンッ! ワンッ!」
 ジョンは尻尾を振りながら、男にすり寄る。
「メアリ」
ドンッ!
 宙に浮いていた物が床に落ちた。
「あ……」
 メアリは小さく声を上げる。そこには椎名真がいた。しかし、全身からぼんやりした白い光を放っている。アレックスが憑依していた。その後ろには双葉京子が心配そうに見ている。
「アレックス……」
 椎名の姿をしたアレックスは頷き、メアリを抱きしめようと近づくが、
「見ないで!」
 メアリはそう叫ぶと姿が消える。アレックスは姿を探すと、二階からメアリの声がする。
「お願いだから、見ないで!」
「メアリ! 怒っているのか?」
 アレックスは二階へ上がろうとするが、双葉が止める。
「女同士、私が話を聞いてくわ」
 そう言うと、双葉は二階へ上がって行った。
 
 二階の寝室には捜索中だったガートルードたちがいた。突然のメアリの出現に驚いていると、双葉が追いかけてくる。
「メアリ、やっとアレックスと会えたのになぜ?」
 メアリは自分の顔を両手で隠し、苦しげに言う。
「私……こんな……醜く歳をとっている姿……見せられないわ」
「メアリ……わかった。じゃあね、私の身体を貸してあげる!」
 メアリが驚いて振り返る。双葉は微笑み頷く。
「アレックスに貸している身体ね、私のパートナーなの。だから、平気よ」
 それまで黙って聞いていた如月が声を掛ける。
「もしかして、この衣裳の出番?」
 アリスとガートルードが白いウエディングドレスを持ち上げる。
「……唯一、トレジャーセンスが反応していて……」
『勝手に持ち出してごめんなさい』
 アリス、ガートルード、シルヴェスター、如月は声を揃えて謝った。
 
 藍澤の曲はフォーレ作曲の「シシリエヌ」に変化していた。
 双葉と椎名の身体を借りたメアリとアレックスは長い遠回りの末、やっと正式に契りを交わす。
「遅れてすまない」
 アレックスが謝ると、ウエディングドレスを着たメアリは首を横に振る。
「俺が死んだことは、知らなかったのか?」
「いいえ。知っていたわ」
「それでも、待っていたのか?」
「だって、心配して見送る私に言ったじゃない」
 アレックスが怪訝な顔をすると、メアリはにっこり笑い言った。
「死んでも帰るから、心配するなって。おかえりなさい」
 笑ったメアリの瞳は、嵌めている指輪の石と同じく深緑に輝いていた。
 
 その日、藍澤が最後に弾いた曲は、ラヴェル作曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ」だった。