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リアクション
第二章 ヴァジュアラ戦線大混戦
広がる湾を見つめ見れば、短い浅瀬の先には浮島が4つ。右手に見えるは岩場の山々、それとは対照の海原中に青刀の双岩を見る事ができる。
「これは…… 思った以上に酷いですね」
イルミンスール魔法学校のバトラー、沢渡 真言(さわたり・まこと)は湾を見つめて零し言った。
人魚たちから湾を取り上げて占拠している魚人たちは、湾の至る所で争っているのだ。
水中で拳をぶつけ合っているのだろう、間欠泉の如くに、または水面爆弾のようにその衝撃で水面を弾けさせていた。
投げられ飛ばされた魚人が宙を舞っている、すぐに体勢を整えては見事に入水していく、勢いも十分につきそうだ。
「魚人かぁ…… 、俺は人魚たちと絡みたかったぜ」
真言のパートナーであるマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)は力の抜けた声で言った。波羅蜜多実業高等学校のウィザード、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は姿の見えている魚人たちを数えながらにアリシアへと向いた。
「まずは、魚人同士の争いを止める、で良いですか?」
「えぇ。そのように」
アリシアとルファニーはウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)と魚住 ゆういち(うおずみ・ゆういち)が用意したキャンピングチェアに腰掛けて湾を見つめていた。ルファニーはどうにも落ち着かない様であったようだが。
「それには、魚人たちの注意をこちらに向ける必要があるのう」
ガートルードのパートナーであるシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が言えば、イルミンスール魔法学校のナイト、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が百合園女学院のナイトであるロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の背を押して皆に紹介した。
「俺とセリナさんがその役を務めますよ、彼女の光条兵器が打ってつけですから」
「えぇ、はいっ、頑張りますですわ」
そう言ってセリナは5メートル近い巨大なランスを見せて、皆を驚かせた。
驚いてばかりはいられない!妙な対抗心を見せたのは波羅蜜多実業高等学校のソルジャー、レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)である。すでに水着は着用済みであるようで、デニム生地のマイクロミニホットパンツを脱げば、真っ赤なビキニ姿の完成であった。
「水中に居る魚人たちは任せるネ、ワタシとアリシアでメロメロにして引きつけるヨ」
「そ、そうですわ、わたくしとレベッカでメロメロに……」
レベッカのパートナーであるアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)は自分の言葉にも、またレベッカの水着姿にも顔を赤らめて俯いた。
折角のビキニ姿を目の端に捉えただけにして、薔薇の学舎のバトラー、清泉 北都(いずみ・ほくと)と、同じく薔薇の学舎のプリースト、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は思考を巡らせた。
「なるほど、洞窟内へ行く人が居るんだから、水中の魚人たちを引きつけるのは意外と大役かもしれないねぇ」
「そうだな。やってくれるのか?」
「う〜ん、そうだなぁ、そうだよねぇ、やるしかないよねぇ」
そう言って制服を脱いでゆく北都は、紺のサーフパンツ姿に早変わりを果たしていた。
「なら俺は…… 、アンタ、俺たちを飛空艇に乗せてくれないか?」
小型飛空艇に乗りたまま呼雪に呼ばれたのは蒼空学園のソルジャー、久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)である。ゆうは呼雪の目を真っ直ぐに見つめてから笑みを浮かべた。
「何か、良い案がありそうですね」
「あぁ、あの馬鹿デカイ光条兵器にも負けないインパクトと誘導効果がある。どうだ?」
「面白そうですね」
二人はしっかりと握って握手をした。
「さぁ、行きますよ!! セリナさんっ」
クロセルが声を高々に投げ放つと、パートナーのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)と共に空飛ぶ箒で湾へと飛び出していった。
セリナは浅瀬の端まで駆けると、海原水面めがけて巨大ランスを打ち付けた。
水面を割り、巨大な水波を起こす。何度も何度も打ち付けるを続けたものだから、遠くに見ればまるで爆発が起こっているかのようにも見えた事だろう。
続いたは小型飛空艇に乗りた呼雪とゆうである。直線的に水面スレスレを飛びながら呼雪は「バニッシュ」を放っていった。高速で飛んでいる為に、発動したバニッシュは広範囲に眩い光を放つ事が出来ていた。ゆうのパートナーであるカティア・グレイス(かてぃあ・ぐれいす)の飛空艇には呼雪の小柄なパートナー、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)とユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)の二人が乗り、こちらは光精の指輪を用いて光を放っていた。
セリナの打撃衝波と呼雪たちの光状合図が水面に起これば、水中の魚人たちの動きは、すっかり止められていた。そこへレベッカとアリシアが飛び泳いだ。アリシアは争う魚人たちの間に入ると、バニッシュを放ち、レベッカが一人の足を掴んで回す、ジャイアントスイング。そのまま他の魚人にぶつけて放ると、浮島を目指して泳いで行った。
水中は完全に混乱していた。魚人たちの住処である水中洞窟への潜入を考える生徒たちにとっては、絶好の機会である。
シャンバラ教導団のウィザード、比島 真紀(ひしま・まき)はパートナーであるドラゴニュートのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と並んで言った。
「サイモン、動きは最小限、行動は迅速に、良いですか?」
「わかってる、行こうぜ」
二人は同時に「ドラゴンアーツ」を唱えてから海へと飛び込んだ。その様子を見ていた波羅蜜多実業高等学校のローグ、国頭 武尊(くにがみ・たける)は感嘆の声をあげた。
「なるほどな、スキルを使って潜ったか」
ドラゴンアーツによって強化された腕で水をかけば、一度に5メートルは潜っていた。水中を潜って行くという難題を容易にクリアしていた。
「そうだ、それなら俺も♪」
国頭は巨大な岩を抱えながら「光学迷彩」を唱えた。なるほど、見つかりにくく、沈みやすい。掛け声と共に飛び込んで行った。岩のおかげで潜るに力は要らなかった。洞窟の入り口を見逃さないように、海水の流れを見つめて、岩場も見つめた。
今まさに海に飛び込もうとしているのはイルミンスール魔法学校のウィザード、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)とパートナーのジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)である。玲奈は、狼の姿をしたゆる族のジャックを指さして言った。
「本当に! 泳げるのね! 水を吸って溺れましたって言われても知らないんだからね!」
「しつこいぞ! 大丈夫だ、以前に泳いだ事もある、水は吸っても泳ぎに影響は無いんだ!」
眉を潜めて玲奈は見つめた。
「…… 、どうして黒いのよ、いつもは白い体なのに」
「水の中で白を着てたら目立つだろ! 黒なら潜れば潜るほどに隠れられる」
「おぉ! 考えてるのね!」
「当たり前だ、ほら、行くぞ」
光学迷彩を唱えてジャックが玲奈を抱きかかえれば、一切に水に紛れていた。含気薬のおかげで息も出来る、水は少しに冷たくてもジャックの体が温かい。油断ばかりに包まれながらに玲奈はしっかりとジャックにしがみ付いて、水中を行くのであった。
しばらくが経てば、経ってしまえば、魚人たちは争う対象を魚人以外へと変える、認識の変換を完了させていた。すなわち、姿が見つかれば襲われるという事だ。
含気薬を用いてから、幾らか時間が経っていた。効果が切れてしまう、そう思え始めていたのに、蒼空学園のセイバー、長曽禰 虎徹(ながそね・こてつ)は洞窟の入口を見つけられないでいた。
虎徹は人魚のルファニーから「洞窟への入口は幾つかある」と聞いてから潜っていた。なぜ正確な場所と数を言わないのか、知らないのか?そんな馬鹿な、そう思っても口にはしなかった。
「やぱり、もう一歩、踏み込むべきでしたね」
虎徹がそう思った時、パートナーのアトロポス・オナー(あとろぽす・おなー)が岩肌を指差した。見つけた!大きな岩肌の陰に、人が一人、やっと入れる程の穴を見て取れた。
「よし、行こう」
笑顔をアトロポスへ向けた時、魚人が二人、拳を振り上げて向かって来ているのが見えた。アトロポス!の五文字を言う間に魚人たちは間合いを詰めてきて……。
やられる、そう思い、体を強張らせた瞬間、魚人たちを蹴り飛ばす者たちが現れた。薔薇の学舎のバトラー、清泉 北都(いずみ・ほくと)と、パートナーの吸血鬼、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)である。
「今のうちに、早く!」
「しかし、あなた方は」
「聞きわけが悪いと、血、この場で全部いただくぜ」
「コテツ」
「えぇ。恩にきます」
虎徹とアトロポスは「ドラゴンアーツ」を唱えると、一気に洞窟の入口まで向かって行った。
北都は七首を、ソーマは両手を広げて。背中合わせになり構えた。
「ソーマ、背後は任せたよぉ」
「あぁ、北都こそ、ヘマるんじゃねぇぜ」
明らかな怒りを顔に見せて魚人たちが向かって来た。魚人たちを倒す事が目的じゃない、スピードで劣る以上、最小限の動きで受け流す、が正解だと北都は導いていた。
含気薬の時間と状況。撤退のタイミングが肝だ…… 、やってやる。そう思いて北都は小さく笑みを浮かべた。
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