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【2019修学旅行】奈良戦役

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【2019修学旅行】奈良戦役
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第4章 市街戦

 奈良の人々を守るべく、それぞれの戦地へ赴く教導団員ら。その中、同じく人々を守ろうとする、薔薇の学舎の二人。
(修学旅行……の筈が、獅子小隊の皆に会いに来たら……何これ? 町が、こんなことになってるなんて。)
 行き交う式神を払い除け、急ぎ、目的の場所へ向かう、二人。
「クライス殿、どうした?」
「いえ……藍澤さん。ごめんね……なんだか、巻き込んでしまったみたいで」
「いや、そんなことはない。それに、クライス殿と、こうして共に戦えること。少し、楽しみでもある」
「藍澤さん……ありがとう。じゃあ、行こうか!」
「ああ、クライス殿」
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)藍澤 黎(あいざわ・れい)
 金の騎士と銀の騎士が、駆ける。


4‐01 市街戦

「観光客の多い場所へ……」
 奈良の町から、そこで人々を助けようと、夏野夢見(なつの・ゆめみ)と、パートナーのアーシャ・クリエック(あーしゃ・くりえっく)の二人が向かったのは、法隆寺。
 今日は戦闘のため、ベレー帽をかぶれるように、その青い髪のおさげの位置も、少し下げて結ってきた。
 こういうとき、いつもは救助や輸送を担当するのが主だった彼女だが。
 おそらく、霊体の相手と戦う手段を持たない生徒らもいるはずだから、ここは自分が前線に立って戦おうと決めた。
 騎凛と会ってきた先ほども、
「そう。では、法隆寺は、ほんとうに夏野さんたちお二人にまかせてだいじょうぶなのね」
「はい! あたしと、剣の花嫁であるお姉様とで、敵に向かうつもりです」
 そして、今、
「いる、いっぱいいるね……!」
「夢見!」
 法隆寺近辺に到着した夏野とアーシャ。現れ始めた式神に、逃げ惑うたくさんの人々。
「ええ、お姉様」
 もとは冗談で"桃園の誓い"の台詞を言ったことからなのだが……しっかりと義兄弟の契りで結ばれる二人。
 アーシャから、偃月刀の形状をした光条兵器が手渡される。
 霊体と戦う手段、そう彼女にはここに勝算があった。
「鬼兵は、たぶん力が強い。
 猿兵は、たぶん、すばしっこい。盗みなんかもしてきそうだよね」
 相手を近付かせぬよう、偃月刀の長い柄を利用し、敵を打ち払う。
 光の斬撃が、式神を薙ぎ払う。
「マラ兵は……何してくるか想像付かないんだけど、たぶん射撃かな?」
 ばっ。夏野の前に現れた、……マラ兵。その攻撃法は……ビンゴ。
 ド○ュ
 なるほど射撃だ……
「きゃぁ、いやぁ!」
 そこへアーシャ、「そう言えば、このホーリーメイスの「魔を退ける力」。霊体に効くのかしら?
 せっかく霊体がうようよしているんだから、試してみましょう」
 ボグッ。
 マラ兵、「……」。
 マラ兵の頭がふっ飛んだ。





 すでに、奈良の町は邪気に溢れ、道満の操る鬼兵、猿兵、マラ兵たちが充満してきている。
 本国からの連絡により道満の企みをいち早く悟った教導団。
 奈良に着くや、道満のもとへ本隊が向かう一方、成す術なく戸惑うしかないであろう市民たちを守るべく、動いた生徒たち。
 既述のように、県警との連絡・連携もとれていたおかげで、教導団の兵は、この異常な事態に対応するための特殊な部隊として動く者たちとして各自が任務にあたることができた。
 彼らの活躍は、パラミタ大陸に行っている地球人たちの活躍を示す、ということにもなったであろうか。

 地球の人たちが、教導団と道満の戦いに巻き込まれて負傷した、とあっては教導団に非難が集中することにもなる。
 そう思い、市街地で率先して人々を守ろうとするのは、クロス・クロノス(くろす・くろのす)と、彼女のパートナー、カイン・セフィト(かいん・せふぃと)
「三種類の式神の種別は名前から推測すると……
 鬼は怨霊の化身とされていますし、猿兵は名前からして狒狒や鵺のたぐいと思われます。これらはともに不吉の象徴」
 そういう間にも、彼女や、彼女が誘導する市民らの目の前を、鬼、猿の姿をした異形の兵が、すたすたと駆けていく。
 それに、ランスを向けて牽制する。
「最後のマラ兵は、人の善事を妨げる悪神の魔羅がベースになっていると思われ……」
 すたすた。今度はマラの形をした異形の兵が、クロスの前を通っていく。
「悪神……と言いますか、あの形はなんとなくもっと身近というか卑猥というか……
 ともあれ。
 これら式神は三種とも陰陽でわければ陰の側の性質のモノに分けられます。
 と、なれば誘導先は陽の側であり神聖な場所とされる近くの神社仏閣!
 皆さん、さあ、安全な場所に、私たちが誘導しますので、移動してください」
「クロス? どうです、だいじょうぶそうですか……」
「ええ、カイン。でも市民の皆さんも、ずいぶん混乱しています。まだ、町中に散らばっていますし……
 他の教導団員の方々も見えます。ここは、私に任せて、カインは、先頭に立って皆さんを付近の神社まで案内してくださいますか?」
「……わかりました。クロスが俺にそう指示を出すのでしたら。
 ですが、俺はクロスが怪我をしないかが心配です。無事避難経路が確保できたら、すぐに戻りますから、どうか!」
 そのすぐ近くでは、同じく教導団のクレハ・アルトレシア(くれは・あるとれしあ)が、避難する人々に近付いてくる式神たちに、攻撃を試みていた。
「霊体ってことだからな。普通に攻撃するだけじゃ通じないとは思ったが、やはりか」
 クレハの繰り出すランスは、相手の体をすうっとすり抜けてしまう。
「フェレス」
 クレハの後ろから、小学生くらいのちいさな女の子が出てくる。
「おお、嬢ちゃん。そっちへ行っちゃあぶないぞい」
 避難する老人が、引き止めようとするが。
「ゆくぞい!」
 歩み出ると、ぼうっと火術を放ってみせる。
「おお?! な、なんじゃなんじゃ?」
「ほほほ。どうじゃな」
 クレハのパートナー、メフィルシア・フェレス(めふぃるしあ・ふぇれす)。すでに千年を生きる、彼女は魔女だ。
「ギャ!」
 下がる、道満の式神ども。
「効いたな」
 同じ武器(ランス)を持つクロスも、
「通常の武器による攻撃は効かないようですね。ですが、どうやら魔法でしたら」
「なるほど。では、火術をもって壁とし、皆さんを避難させましょう。では、どうかご無事で!」
 吸血鬼のカインも、火術を放ちながら、式神を寄せつけないよう、皆を誘導して行った。

 クロスや、クレハたちとは少し離れたところでも、町の方々で教導団の生徒らが、人々を守るべく、活躍している。
 ひゅんっ
 カルスノウトを振るう、紫光院 唯(しこういん・ゆい)
「ただ斬るだけでは、駄目ね。メリッサ」
 彼女を、いつでも回復できる位置につく、メリッサ・ミラー(めりっさ・みらー)
「唯。では、わたくしの力をお使いください」
 唯の、剣の花嫁である。メリッサの手に、光が集い束になり、レイピア状の長剣が生まれる。
 メリッサからその光条兵器が手渡されると、唯は周囲を回る式神に、素早く二太刀目を入れる。
 式神は、光の斬撃に引き裂かれ、消滅した。
「唯! やりましたわ」
 唯はすぐさま、左右に攻撃を転じ、二匹、三匹と斬り伏せ、敵を消していく。
 メリッサと観光したり色々したいところはやまやまなのだけど……と、唯は思う。
(よく考えてみれば、戦いに事欠かない環境ということは、"彼の者"と戦う時のため、力を磨きたい私たちにとってはうってつけのようね。
 もちろん、この式神たちが、道満の駒として動いている以上、放っておくわけにもいかないわ。無関係の人々に災いを齎すなど、許せることではないからね。)
 "彼の者"……それは彼女が戦う理由でもあった。復讐。
 彼女の苦しみを受け止めてくれた恋人の命を奪ったその存在への。
 彼女は彼女なりの、思いを秘めて……戦いを繰り広げる。
 そんな唯の思いを気遣うように、メリッサは、彼女をしっかりサポートする。
(唯が戦いに専念できるように……! 唯だけは、もう失いたくはないですから……。)
 唯はメリッサに、亡き恋人の面影を見ている。
(……わかってる。無茶はしないわよ)
 それぞれの思いを胸に、今は人々を守るため、戦う教導団生徒たち。
 さて、こちらも市街を訪れている、ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)
「修学旅行の筈だったんだがな。……ある意味、教導団らしいが」
 冷静に言い放つ、ロブ。
 今日、彼が連れているのは、レナード・ゼラズニイ(れなーど・ぜらずにい)。小柄な、男性の剣の花嫁で、新たなロブのパートナーである。今日奈良を訪れていないがアリシアのことは、姉のように慕っている。
「あーあ、折角修学旅行って奴を楽しめると思ったのに。
 やっぱ、教導団だとダメなんだろーな。らしいかもしんねーけど」
 ロブとは、(じゃれ合いという名の)口喧嘩の絶えない彼だが、思いは同じだ。
「レニー。行くか」
「ま、仕方ないちゃ仕方ないか。あの訳分からん連中を倒しておかないとヤバイ事になりそうだしな」
 町を闊歩する道満の兵に、慄く市民たち。
 近くを通りがかった鬼兵に、早速一発くれてやる、ロブ。
 弾がすり抜けていく。
「むう。やはり、無駄か。レニー」
「ああ、わかったぜ。ロブ」
 レニーの手に作り出されたのは、狙撃銃型の光条兵器。それが、ロブに手渡される。
 光の弾丸が、貫いた式神を消し去った。
「こいつらを操るのは道満、か。ドーマンと呼ばれる呪符を使っているんだろうが……こちらにセーマンの使い手でも居れば面白い事になったんだろうがな」
 唯は、周囲の式神を払い除けるように、ロブは、一体一体を確実な射撃で撃ち、数を減らしていく。
 しかし、鬼、猿、マラ……式神の数はそれでも、一向に減っていく様子は感じられない……ますます、増えているようですらあるのだ。

「こんな形で日本に帰ってくるとは意外であります。が、何にしても京都を水浸しにするわけにはいかないであります!
 まずはこの連中を何とかしないと!」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は、式神達が市街に侵入するのを防ごうと、森や山付近に移動するつもりだった。
 が、いざ来てみると、すでに、市街は、鬼に猿にマラに、で一杯の様子であった。
「ならば、ここで戦いましょうか!」
「たった一人の相手のために、街全体を水攻めにするなんて……。許せないです」
 正義感の強い、健勝のパートナー、レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)
 そんな彼女だから、健勝の生まれた国に来れたという嬉しさよりも、まずは街を守ることだけを優先に考える。
 建物の壁伝いに隠れながら、用心深く移動する健勝。レジーナも、しっかりと着いていく。怪我人がいたらすぐ、避難させられるようしっかり注意しながら。
 ふと、頭上、建物の上に気配。
「キェアァァァ!!」
 猿の姿をした式神、飛び降りてくる。
 だが、こういった事態は想定済み。
 きっちり、銃を構えて打ち抜く健勝。
 が、弾は、その姿を通り抜けてしまう。
「れ、っ? しまった」
 構え直すが、猿兵は、そのまま町中へ行ってしまった。
「こちらに敵意はない、のでありましょうか……?」
 うようよしている鬼、猿、マラ、どれも、金住らを探して襲ってくる、という感じではない。
 市民も、逃げ惑っているが、とくに狙われたり襲われているという者はいないようだ。
「鬼、猿、マラ、……それにしても、
 レジーナ? いつもより口調が乱暴であります。どうしたでありますか?」
「あ、あの、健勝さん? 鬼、猿、マ、……い、いえ。
 鬼、猿、はいいにしても、マ、……い、いえ、その……
 健勝さん! こんな連中、一人残らずブッ倒しちゃってください! 絶対ですよ!」
 顔を真っ赤にして、レジーナ。
 襲ってこないにしても……こんな姿の式神を町中に放つなんて。
 道満への怒りを増す、レジーナであった。
「どうしたでありましょうか?? マラが何か……」「もう!」「??」

 ともあれ、怒りのレジーナから拳銃型の光条兵器を手渡され、これで健勝も式神を撃つことができた。
 町の中心部に、向かう。
 一人、光条兵器(from携帯電話)で戦っている男の子。
「レジーナ、あちらへ。加勢するであります!」
「あ、ありがとうございます。同じ教導団の、金住健勝さん、ですか。
 僕は、相良伊織(さがら・いおり)といいます。
 どうぞよろしくお願いします」
「相良殿! でありますか!
 こちらも、協力し合わねばと思っていたところであります。共に参りましょう! 相良殿はナイトでありますか、ならば後ろは任せてください!」
「なんだか、いかにも真面目な二人が揃いましたね。教導団らしいと言いますか……」
 教導団には意外と、パラ実送りすれすれの変わり者達も多い。
 金住や相良らは、最も真面目な部類であろう。
「軍人の本分は訓練、そして任務の遂行。浮ついた気分など持っての外! 修学旅行と言えども……
 あ、……こ、この鹿煎餅は僕の非常食です!」
「さすが相良殿であります。私も、見習わねば……」
 レジーナ、「……」。健勝さんも、鹿煎餅を非常食とか言って持つくらいの、愛嬌があると可愛いかも……?
「レジーナ、では、行きましょうか」
「え、ええ。行きましょう」
「金住さん。ところで」
「何でありましょうか!」
「マラ兵なんですけど」
 レジーナ、「(ぴくん)」。顔がまた真っ赤。
「あれってやっぱり、……(い、いえやっぱり、そ、そんな破廉恥な想像なんて駄目です!)」
「相良殿??」
 真面目というか、何か純粋な教導団の三人であった。