リアクション
4-02 高松塚古墳の戦い
クライスと藍澤、二人の薔薇の騎士が向かったのは、高松塚古墳。
有名な観光地であり、広い公園内に取り残された人がいたとしたら、危ない。
「着きましたね」
「ここからは、我が禁猟区にお任せあれ」
藍澤は静かに目を閉じると、両手を合わせる。すぐに、辺り一帯に禁猟区の効力が満ちた。
「敵の分布具合を見ると、公園奥の、古墳の付近に多いようだ」
「じゃあ、そちらへ」
「うん……動きが、ある。この感じだと、逃げ遅れた人が、追われているかも知れない」
「! 急ぎましょう」
緊張の面持ちで、クライス。藍澤も頷き、気を引き締める。
公園内の其処此処で、逃げ遅れたり、怯えて、取り残されたりしている人々。彼らに声をかけて励まし、もし、傷ついている者があれば、治療を行う。
取り残されている人々で傷ついている者は、道満の操る式神に襲われたというよりは、混乱が巻き起こったことで、逃げる際に転んだりぶつかり合ったり、中には、闇雲に式神に突っ込んでしまい切られた、という例がほとんどのようだった。
多くは、子どもたちで、ちょうど修学旅行に訪れていた小学生らしかった。
回復にあたるのは、藍澤の守護天使フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)。
「あかん。この調子やと、はやSPがなくなってしまう。
回復役はボクだけやからな。……戦うみんなの健康状態を常にチェックしとかなあかんのやけど。
かと言って、この子ら、ほっとくわけにもいかんし」
前衛では、クライス、ローレンス、ジィーンたちが、うまく敵を退けている。
公園には、親子連れや、老人なども多く訪れていたようで、フィルラントが子どもたちを治療するのを見て、続々集まってくる。
「天使さま……どうか、うちの子を。私はもういい、だけどこの子だけはどうか、どうか救ってくださいまし」
「おお天使さま。これはどうしたことじゃ? なぜこんな、地獄絵図のようなことに……」
「あっ、あのなあ!(……まあ、確かにボクは守護天使やけど……)
おおげさな……。
ええいぞろぞろと、ひざ擦り剥いたりしたくらいでぇ……」
「お母さん、この天使関西弁で喋ってるよ」
ぽん。子どもの頭をかるく叩いて、ヒールをかける。
「よっしゃ! 傷は浅いで、きばりや!!」
「おおお、怪我が治った! 救済者さまだ」「天使さま、救済者さま……」
……なんでやねん!!
それよりあいつら、だいじょうぶやろか……
公園中央付近に式神の姿は多くはなく、クライスたち前衛陣に今のところ心配はなさそうではある。
「でもバニッシュでばりばり活躍する前にSPなくなるんは勘弁やで……」
「フィルラにーちゃん♪」
しっぽをふりふりふるような感じで、エディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)が現れた。
「心配はご無用だよ。ほうら」
フィリラントの、ふわふわ頭の旋毛あたりに、チュー(アリスキッス)♪
って。わっ。登場した思たらいきなりかいな……
「デカイからってそんなトコにすんな! このデカわんこ!!」
「……怒られちゃったよ……せっかくチュー(アリスキッス)したのに」
「あ、ああ……ありがとな」
わんわん♪ エディラント、しっぽをふる(ような感じ)。
治療を受けた人たちに、ヴァルフレード・イズルノシア(う゛ぁるふれーど・いずるのしあ)が指示を出し、避難を促す。
「……あちらへ。」
「お、お母さん、この人だれ? 高貴なひと??
あっ。あっち、また来たよ、チン○のかたちのへんな敵!!」
ばっ。マントを翻し、チン、……マラ兵を受け流すヴァルフレード。
「わあ。お、おにいさん?(おねえさん?どっちなの??)……ありがとう」
「(力あるものの義務だ)……平気。」
む……?
足もとに、きら、きら、と輝くものが、広がる。
「わあっ何これ、さっきのチン○と関係あるの??」
「……水だ。」
「しっ○じゃなくて?」
「……。……水だ。」
ヴァルフレードはそのまま、ふ、と指を高く掲げる。
「……西へ。」
高台のある方だ。
「……無理なら、貝吹山。」
「わ、わかったよ。高貴なひと……ありがとう!」
「(ああ、礼には及ばん。民間人よ)……急げ。」
式神だけでなく、道満の操る大蛇の引き入れる水が、町を浸しつつある……!
*
前衛。
「はぁっ!」
爆炎破で、少々派手に戦うのは、
ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)。
というよりも、最初は剣で切りつけたが、式神相手には、通常の攻撃は効果がないことがわかったからである。
寄せてくる敵には盾となり、後方へ抜けないようにも、気を遣う。
「流石は藍澤殿とそのパートナー方。着実に任務を遂行しておられる。
これは負けてられぬな。まだまだ、私達も行くぞ、ジィーン、サフィ!」
「おう!」
「はぁい♪」
「……」
しかし、ローレンスは二人が不安だった。
目覚めて間もない英霊に、(「とりあえず、襲ってくる敵を倒せばいいんだろう?」そんなジィーンの声が聞こえる。)
騎士の心得はあるようだがあまりにもやる気のない女子……(「ちょっとぉそれあんまりじゃない??」なんかサフィの声が聞こえる気がする。)
主も最近ソルジャーの真似事などやっているし……(「はっくしょん!」クライス。「インフルエンザか?」藍澤。(お決まりですが……。))
ここは私がフォローせねばなるまい――
「……背中を任せられる日が来るのはいつの事か」
と、一人奮迅のローレンス。
目覚めて間もない英霊……こと、
ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)。
「……知らない者を助けるのが、騎士という奴か?
ふむ、それなら俺もやってみるか」と。
今は、クライスらと共に、薔薇の学舎の騎士となったわけだが、彼はもともと、ドージェ来訪以前に蛮族の間で信仰されていた英雄。(なので"比較的新霊"ということになる。)
「ジィーン、こいつらに普通の剣は効かぬ、技を使うのだ」
「おぉお、ローレンス。……っても面倒くさい。やっぱり殴る!」
ぼごん。猿兵がふっ飛ぶ。
「……ふむ。まあこんなもの、か」
「き、効くのか……そうか貴公も英霊であるから」
「あたりまえだぜ!」
*
「クライス殿。どうやら、公園の奥……この群がる式神たちの向こうに、取り残されてる人たちがいる」
「……ちょっと数が多いね。どう戦おうか。一匹一匹、やるしかないかな?」
隣り合い、迫り来る式神を排除にあたる、クライスと藍澤。
まだまだ、互いに疲れは見せていない。
二人とも、今は薔薇の学舎で、お互い、ソルジャーに、ローグにまで、スキルの下積みをしながら自身を磨いている。
だけど、いずれは、……
「?」
そのとき、クライスの後ろから、こそこそ……
「ん? どうした、サフィ殿、……?」
「しーっ。藍澤君」
「?? ど、どうかした、藍澤さん……。
わ わ わっ?? なんだこれ」
サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)が、光精の指輪で作った明かりを、クライスの頭の上にぽんと。
「藍澤さん。僕が敵を引きつけるよ、任せて!?」
クライスの声色を真似て、サフィが高らかに言い放つ。
「わあ、言ってないって」
クライスの背中をぽんと。式神の群れに突っ込んでいくクライス。式神ども、クライスの頭の光に反応して、クライスを追いかけていく。
「囮頑張ってねー♪」
「むう。我々も奥へ向かおう、フィルラ、エディラ、ヴァルフ!」