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七不思議 怪奇、這い寄る紫の湖

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七不思議 怪奇、這い寄る紫の湖

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第7章 日はまた昇る
 
 
「さあ、みんなお疲れ様。慰労会だから、じゃんじゃん食べて飲んでよね」
 世界樹のそばに長テーブルを並べて、急ごしらえのお茶会を開いたルカルカ・ルーが言った。
 テーブルの上には、苺餡とブルーベリー餡のおはぎが山盛りにおかれている。
「さあ、いかがですかな」
 ジゼル・フォスターが、紙皿に二食おはぎを取り分けながら、生徒たちの間をサービスして回っていった。
「ありがとう。いただくよ」
 にっこりとほほえみながら、ミレイユ・グリシャムがおはぎを受け取る。
 ジゼル・フォスターが離れたのを見計らうと、ミレイユ・グリシャムは持っていたフォークでおはぎを滅多刺しにした。
「この、ていっていっ」
「ちょっと、ミレイユ、三月ウサギのお茶会じゃないのだから、それはちょっと怖いであろうが」
 さすがに、デューイ・ホプキンスがたしなめる。
「だって、結構雷術や酸でスライム倒してるんだよ。でも、何となく大勢の人に埋もれてる気がして……。えーい、このスライムめ、スライムめ」
「それは、こちらも総力戦でしたからね。ミレイユ。あなたはもう少し考えてから行動しなくては……。この奇妙奇天烈な食べ物に罪はありませんよ。戦いとは、目立つだけが勝利ではないんですから。私たちのような地味な作業がなければ、他の人たちは全滅してますよ、きっと」
「いいもん、次は前線で目立つから」
 おはぎをぐりぐりしながら、ミレイユ・グリシャムはそう答えた。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「これも配ってくるねー」
 学生食堂の冷蔵庫から運び出したゼリーの山をかかえて、ペルディータ・マイナがにこにこと言った。
「いや、ベルディータ、その赤と青のゼリーを出すのはやめとけ……。あそこの人みたいなのが続出するぞ」
 七尾蒼也が、さりげなくミレイユ・グリシャムの方を指さして言った。他にも、今回不幸にもすっぽんぽんにされた者たちが、ぶつぶつ言いながら二色のおはぎをつついている姿がある。この上さらに、二色のゼリーを叩き潰す人間が出てくることは、できれば避けたい。
「ええー、おいしいのにぃ」
 不満そうに、ペルディータ・マイナちょっぴり頬をふくらませた。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「ウィルさん、ヨヤさんは……どこ……ですか?」
 おはぎに火をつけたためにシルヴィット・ソレスターに小突かれて叱られているウィルネスト・アーカイヴスに、漆髪月夜が声をかけた。
「ヨヤ? あいつなら、今日は留守番してるぞ」
 丁々発止とシルヴィット・ソレスターと鉄拳を交わしながらウィルネスト・アーカイヴスが答えた。
「じゃあ、これを……渡しておいてもらえます……でしょうか。この間のスコーンの……お礼と言ってもらえれば……分かると思います。で、では、よ、よろしくおねがいしまーす」
 そう言うと、漆髪月夜はぴゅーっとその場を逃げ去っていった。
「こ、これは……。もしかして、ヨヤをいじくれる最高のアイテムを俺は手に入れたのだろうか。よっしゃあ!」
 ウィルネスト・アーカイヴスは、思わず人生最高の歓声をあげた。スライムと戦ってよかった。かわいいピンクのリボンが結ばれた紙袋にすりすりしながら、ウィルネスト・アーカイヴスはそう思うのだった。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「平和だねえ」
「これのどこが平和なのよ」
 のほほんと言う御嶽に、紗理華がかみついた。
「だって、みんな楽しそうじゃないですか。好きなんですよ、みんな、この学校も、パラミタ大陸も」
「それはいいけれど、敵を逃がしちゃったのは失敗よね。だいたい、なんで私たちを目の敵にするのかしら。私たちが侵略者ですって。ありえないわよ」
 本当に嫌な相手だことと言いたげに、紗理華は頬杖をついたままため息を漏らした。
「立場が違えば、そう見えるのかもしれませんね。でも、森が広がるのを誰も拒むことはできないでしょう。彼らもやがて認めざるを得なくなりますよ、時の流れというものを」
「だといいんだけれど」
「いずれシャンバラ大荒野がイルミンスールの森の一部になるだろうというのと同じように、新しいシャンバラ国がパラミタ大陸に広がっていくのは、自然な流れだと思いたいですね。それを嫌だと言って拒絶するだけでは、ただのだだっ子ですから」
「そのだだっ子が多いから、私たちは苦労しているんじゃない。とりあえず、あの鏖殺寺院だけでも早くなんとかしてほしいわ」
 イルミンスール魔法学校でも起きた、いくつかのしゃれにならない悲惨なテロを思い出して、紗理華は顔をしかめた。
「そのうち、みんなが気づくようになりますよ。破壊の魔法陣に見えていたものが、実は癒やしの魔法陣であることに」
 そう言うと、御嶽はぱくりとおはぎをほおばった。


担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 ちょっと身体をこわしてしまって、無理するとさすがに病院送りになりそうだったので、少しだけわがままして体調を優先しています。
 
 スライム話の完結編のはずなのですが、何となく話は完結していないような気もします。まあ、本気で小説にしてしまうと、文書量が数倍になってしまい、マジで文庫本数冊になるので勘弁してねということなわけなのですが。
 そのうち、すべての背景が明らかになるときもくるでしょうから、それまで妄想していてください。事件の背景は、実はすごくシンプルなのかもしれませんから。ただ、どの方向にシンプルなのかが謎ではありますが。実際、伏線やキーワードは、結構出そろっていますので。まあ、それ自体がブラフである可能性もあるわけで、確定は難しかったりしますが。
 
 で、前回のコメントで5W1Hの話をしたのですが、正確には「どのように、どうした」ではなく、「なぜ、どうした」ですので。HOWの意味が二つになって、WHYが抜けちゃってたんですね。ただ、アクションとしては、目的は独立項目なので、やはり「どのように、どうした」がないとダメなわけですが。「どうした」だけですと、確定ロールになっちゃいますからね。
 
 さすがに今回無理ができなかったので、ちょっと出番の少ない人もいますが、結構行動がかぶってしまった人が多かったので、結果論としてそうなっちゃっています。まあ、戦いがメインですから、普通の戦い方をしていると、どうしても他の人とかぶってしまいますから。
 直接描写がなくとも、同じ方法で攻撃している場合は、ちゃんとみんなと一緒に戦っていると思ってくださいませ。

追記 誤字脱字修正。句読点の修正。一部台詞の口調修正。名前違いの修正。位置情報の訂正。時間経過のわかりにくいところをちょこっとだけ加筆。魔法防御力のない衣服を着ていた人がすっぽんぽんになっていたのを修正。