イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

蒼空歌劇団講演!

リアクション公開中!

蒼空歌劇団講演!

リアクション

 再び舞台下段に照明が当てられた。
 セットの階段を降りて、王妃たちが白雪姫の前に登場した。
「私の美しさを脅かす白雪姫……、ここであったが百年目、その命頂くわ」
「お、お義母様。一体何をなさるの……?」
 ビシッと指を突きつけるリカイン王妃に対し、先ほどの流れを聞いていた愛美白雪姫は、余裕を持って合わせて演じた。お互いの安定感のある演技に安堵したのも束の間、先に動き出したのは大鋸王妃であった。
「オラァ! 往生せぇやぁ!」
 マントの下から取り出した血煙爪を、ブォンブォンと唸らせて愛美たちに襲いかかった。
「ええっ! ちょっと何それ、ワンちゃん!」
「誰がワンちゃんだ、コラァ! 犬っころみたいに呼ぶんじゃねぇ!」
 血煙爪をぶん回してマジ暴れする彼から、愛美たちは舞台袖に一目散に退散した。
「逃げんな、コラァ! バラバラにしてやるぜぇ! ヒャッハーッ!」
「ヒャッハーじゃないっつーの!」
 愛美たちを追いかけようとする大鋸の後頭部を、リカインはおもクソ殴り飛ばした。
「い……、いってぇーな! 何しくさってんだ、てめぇ!」
「自分で黙る? それとも黙らせて欲しい?」
 セスタスを拳に装着しながら、リカインは微笑を浮かべて大鋸に迫った。
「てめぇが姫を殺しに行くっつったんだろが!」
「殺す芝居なの! マジでぶっ殺ししてどーすんのよ!」
「芝居だぁ? 折角、俺様が天下取るチャンスだと思ったのに邪魔しやがって……」
「天下? 王君、まさか妙な事考えてるんじゃ……」
 その瞬間、ジャジャーンと効果音が鳴り響いた。
 照明が怪しげな紫色に切り替わり、舞台袖から謎の三人組が登場した。
「まさかの時の鏖殺寺院異端審問!」
 そう言い放ったのは、鏖殺寺院制服に身を包んだミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)、役名はミスター・ラングレイとの事。その後ろにパートナーのアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)。彼女もまた鏖殺寺院制服を着用し手には何故かラジカセ、役名は羽根季保。そして同じくパートナーのロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)。彼は英国国教会大主教の正装をして、手には杖、頭には三重冠。役名はアズール・アデプターだそうな。


 五千年前 異端の宗教の台頭に抗するため
 鏖殺寺院首領は審問官をシャンバラに配し 異端者一掃を図った
 その悪虐 非道 残忍は 見事な映画を生んだ
 これが鏖殺寺院宗教裁判である



 アマーリエが朗々と設定を語ると、ロドリーゴが颯爽と前に出た。
「我らの武器は二つ。唐突な登場と恐怖。あと狂信もあった。だから三つだ!」
「な、何がなんだかわからねぇ……」
 ぽかんとする大鋸を他所に、ロドリーゴは「はっはっは!」と悪魔的に笑った。
「ミスター・ラングレイ、罪状を読み上げよ」
 するとゲルデラー博士は巻物を取り出し、鼻にかかった訛りで大鋸の罪状を読み上げた。
「おまんは舞台の進行を邪魔したでよ、好かん。よって、書き割り殴打の刑に処す!!」
 ジャジャーンと言う効果音が、アマーリエのラジカセから流れた。
「書き割り殴打の刑とは! ……まあよい、羽根、刑の執行を」
「ははっ! 了解でございます」
 ロドリーゴのフリを受けて、アマーリエは舞台の書き割りで大鋸を殴り始めた。それにゲルデラー博士も加わり、大鋸は完全に袋だたきにされた。さすがに二対一では敵わない。大鋸がぐったりすると、異端審問官たちは大鋸を引きずって舞台袖へはけて行った。どうやら彼らは舞台上の異端分子を排除する係のようである。
「……な、なんなの? あの三人?」
 独り舞台に取り残され、呆然とするリカイン。
 と言うか、鏖殺寺院なんて名前を出してしまって客席の反応が心配である。だが、「あらまぁ、地球にも鏖殺寺院はいたのねぇ、怖いねぇ」と客席はとてものん気な様子であった。どちらかと言えば、筆者は何人の読者がこの宗教裁判の元ネタを知っているのかのほうが心配である。



 騒動も一段落すると、物悲しい音楽が舞台に流れ始めた。
 上段に置かれた魔法の鏡にスポットライトが当てられ、再びサフィの姿が浮かび上がる。
 そして、鏡の裏からサフィの相棒であるクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が登場した。
「……僕は古くから城に仕える騎士。僕はずっと真実を見てきました。白雪姫様は本当の王妃様が亡くなられたと信じておりますが、王妃様はまだ生きておられるのです。悪い王妃の魔法にかかり、このような鏡の姿に変えられてここに……。ああ、なんと言う悲劇なのでしょうか!」
 クライスは悲壮な表情で訴えると、サフィがおよよと泣き崩れた。
「あたしが不甲斐ないばかりに、白雪に危険が迫ってしまうなんて……!」
「王妃様の所為ではございません。僕がついていながら……!」
「ああ、神でも悪魔でもいい! 白雪を、私の愛しい娘を護って!」
 悲壮なボルテージが上がってきた所で、クライスは腹式呼吸全開で歌い始めた。


 ああーーお后ー様ー、あなたはどこへいるのでしょおーかー
 すがーたはあああああれどここーろはあああああらず
 美貌を狙い現れたー奸佞邪智の穢れた黒にー
 染められ溶けて消えたのでしょおおおかあああああ
 ああーー白雪ー様ー、あなたもどこかへ行くのでしょおーかー
 ははをーもこえええええしここーろとびぼおおおおう
 穢れた心と現れたー有象無象の穢れた雪にー
 積もられ埋もれ消えるのでしょおおおおおおおっかああああああああああ