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第3章 裏側で動く者たち

 遺跡付近。馬賊たちのキャンプ。
「なんだテメエらは!」
 見張りに立っていた馬賊が、近付いてくる複数の人影に銃を構えて威嚇した。
 近付いた人影のひとり、鏖殺寺院制服を着たミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)は、向けられた銃口にも動じず、大きく息を吸った。
「我々は鏖殺寺院の幹部である! 名をヨゼフ!」
「同じくレニ」
「余は鏖殺寺院上級幹部のヴァレンティノである」
 ミヒャエルに続き、アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)も偽名を名乗る。
 遺跡を取り囲む集団、馬賊が鏖殺寺院と協力していると知り、ミヒャエルたちは内部に潜り込む計画を立てたのだ。
「貴様達も王国の手先の学生とやらか! 機晶石鉱脈を狙って来たのだな。返答次第によっては寺院の名において天誅を加える!」
 突然の恫喝に呆然としている見張りに向けて、アマーリエが火術を放つ。
 狙いは逸れていたが、突然の攻撃に見張りは慌ててその場から逃げ出す。
 混乱し、騒然となる馬賊のキャンプだったが、
「なんの騒ぎだ!」
 突如響いたその一喝によって、ぴたりと騒ぎが治まった。
 一斉に道を開けた馬賊たちの奥から現れたのは、頭目のバルゴフだ。
「なんだお前らは」
 バルゴフがミヒャエルたちの前に立つ。
 さすがに集団をまとめているだけあり、それなりの落ち着きと威圧感があった。
 だが、ミヒャエルも動じた様子を見せずに演技を続ける。
「貴様が頭か。言え。なにが目的で遺跡に近付いた!」
 バフゴフは答えず、見張りの手下に目を向ける。
「バフゴフ様、こいつら鏖殺寺院の幹部だって言ってやすぜ」
「ふん、鏖殺寺院……ね。知り合いか? お前も鏖殺寺院だろう?」
「さあ? 私だってすべてのメンバーを知っているわけじゃないわよ」
 からかうように答えたのはバルゴフのすぐ後ろにいた女性、メニエス・レイン(めにえす・れいん)だ。
 彼女もまた情報を聞き、馬賊に接触した内のひとりである。
 ミヒャエルとメニエスは一瞬だけ目を合わせると、何事もなかったかのように会話を続けた。
「寺院の人間と一緒にいるということは、貴様らは敵ではないということか」
「今のところ、協力関係といったところだ」
「機晶姫軍団を手に入れられたら、それなりの地位と報酬を与えられる予定」
 口を挟んだメニエスを、バルゴフが睨む。
「その話はまだ途中だ。俺たちはお前らの下につく気はない」
「せっかく便宜を図ってやると言ってるのにね」
「俺たちは俺たちで勝手にやる。協力は感謝するが、あくまで対等な関係だということを忘れるな」
 やれやれと、メニエスが肩をすくめた。
(ま、どちらにしろ生徒たちと戦ってくれるなら文句はないわね。私はそれを見て楽しむだけだし)
 そう思いながら、暗い笑みを浮かべるメニエス。もちろん、その場の誰にも気付かれないように。
「ふむ……では助太刀させてもらうとしよう。実は、昔馴染みと連絡が取れずに困っていたところでな。渡りに船だ」
「好きにしろ」
 ミヒャエルたちとバルゴフの話も終わった頃、別の場所から馬賊に連れられてヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)がやってくる。 ヴェルチェはバルゴフを見ると、明るい声を出した。
「あら、あなたがバルゴフかしら? なかなかいい男じゃない♪」
 警戒され、複数の馬賊に取り囲まれていても、ヴェルチェは気にせずリラックスした様子だった。
「バルゴフ様、この女、我々に協力したいそうです」
「またか」
 うんざりしたように、バルゴフが舌打ち。ミヒャエルたちとメニエスは沈黙を守っている。
「もう、そう邪険にしないでよ。イイ情報持ってきてあげたんだから♪」
「……言ってみろ」
「その前に、バルゴフちゃんは遺跡にある機晶姫で機晶姫軍団を作ろうとしているのよね?」
「その情報、どこで聞いた」
 バルゴフの纏う空気が変わるが、ヴェルチェは飄々と受け流す。
「それはナ・イ・ショ。ふふ、それでね、実は私も欲しいのよね、機晶姫。1体でいいんだけどなあ」
 そう言ってヴェルチェは、バルゴフに妖艶な流し目を送った。
 しばらく睨みあっていたふたりだったが、やがてバルゴフが矛を収める。
「ふん、情報次第だ」
「そうこなくっちゃ♪」
 そうして、彼らは馬賊のキャンプに招かれた。


「バルゴフ様、あの情報を信用なさるんで?」
 話し合いを終え、手下のひとりが恐る恐るバルゴフに訊いた。
 情報とは、ヴェルチェが持ってきたもののことだ。内容は、遺跡に向かう学生たちの戦力に関して。
 たしかに有益な情報ではある。
 バルゴフもそう思ったからこそ、成功した暁には機晶姫の1体をやってもいいと、ヴェルチェと約束したのだ。
 とはいえ、
「あの女もそうですが、あっしは今日来た全員が信用できねえでさあ」
「だろうな。タイミングが良すぎる」
「放っといていいんですかい? 裏切るかもしれませんぜ」
「機晶姫軍団さえ手に入れてしまえば、問題はなくなる」
 そうですかい、と手下は納得する。
 その時、バルゴフの元に別の手下が報告にやって来た。
「バルゴフ様、遺跡に向かう連中を見張っていたヤツらからの報告です。連中の進路から、遺跡の場所がわかりました!」
「よし、馬を出せ! 連中が着く前に先回りして遺跡に入る! お前らはオークとゴブリンを使って連中を近づけるな!」
 歩きながら迅速に指示を出し、バルゴフは馬に跨った。
 駆け出したその先には、機晶姫の眠る遺跡がある。