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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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第二章



 七つの影が大型飛空艇に迫った。
 鳥か、飛行機か、新手の空賊か……、いや『新空賊団? いいえ島村組です』の皆さんだ。

 ◇◇◇

 椎名真(しいな・まこと)の操る小型飛空艇の後部座席に、東條カガチ(とうじょう・かがち)は乗っていた。
 ふと、彼は真の背中に顔を乗せ、後ろからそっと抱きしめた。
「真の背中、おっきい……」
「え? ちょ、ちょっと、か、カガチさん……?」
 寒気がするようなカガチの行為に、真はぎょっとした。
 だが、何か思う所があったのか、少し照れた素振りで、つんとカガチのおでこを突ついた。
「……まったく、甘えん坊さんだね、カガチさんは」
「ねえ、聞こえる? 俺の心臓がドックンドックン高鳴ってるの。恥ずかしいよぅ」
「大丈夫、俺の心臓もバックンバックン言ってるから……、これでおあいこだね」
 うっとりと見つめ合う、真とカガチ。
「……今日はいい天気だね、カガチさん。このまま海まで行っちゃおうか」
「ほんと? 嬉しい……、真といっぱい思い出作るんだ……」
 カガチはぐりぐりと真の背中に顔をこすりつけ、甘えた声を出した。
「ねえ、覚えてる……? あの日……」

「……そこのムサムサ男子ーズ。そろそろ、作戦始めてもええか?」
 横を飛ぶ二人の、気持ちの悪いやり取りに顔をしかめ、七枷陣(ななかせ・じん)は言った。
 共に飛空艇に乗り、操縦を担当する相棒のリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は目を丸くしている。
「えー! 二人ってそんな関係だったの!? ボク知らなかったよ!」
 驚くリーズの姿に、カガチは満足そうに口元を緩めた。
「なんだ、今頃気付いたのかい? その通り、俺と椎名くんは身も心も許し合った仲……」
「じゃないから、誤解しないよーに!」
 カガチの顔を押しのけ、真は「やめときゃ良かった」って顔で念を押した。
「ノリノリだったくせに。今さら照れるなよ、椎名くん」
「うう……、こんなボケに乗っかるんじゃなかった……」
 様子を見てた風森巽(かぜもり・たつみ)は、思わずぷっと噴き出した。
「東條先輩にうかつに絡むと、大怪我しますよ、椎名さん」
「ねえ、誰かー、おっきいバンソーコー持ってきてあげてー」
 巽のパートナー、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が楽しそうに声を上げた。

「……ねぇ、ガートナ?」
 島村幸(しまむら・さち)は、ちらりと前の座席を見た。
 飛空艇の操縦を任せたパートナーにして恋人のガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は微笑んだ。
「ふふ……、わかりますぞ、幸。カガチ殿も真殿もまだまだですな」
「ええ、私たちがまずお手本を示さないといけませんよね?」
 肩に乗せられた幸の手に、ガートナはそっと口づけた。 
「私たちを差し置いて、イチャイチャとは片腹痛いですぞ、お二人とも」
 ちちくり合いを始めた二人。

 譲葉大和(ゆずりは・やまと)は「これはこれは……」と隣りに視線を向けた。
「……歌菜さん。これは私たちも参加しろと言うフリじゃないんですかねぇ」
「え……、でも、大和さん。その、人前だとちょっと恥ずかしい……」
 頬を赤く染めて、恋人である遠野歌菜(とおの・かな)は目を伏せた。
 その照れた仕草に、大和の胸にはこみ上げて来るものがあった。
「ああ……、歌菜さん。恥じらうその姿もとても素敵です……」
 大和は飛空艇の電子ジャーのふた開け、炊きたての白米を茶碗によそった。ほこほこと湯気の立つごはんを「いただきます」とカッカッとかっ込んでいく。彼女の恥じらう表情で、ご飯三杯はいける。
 ナニ? 何で電子ジャーが飛空艇にあるのかって? なんか大和のだけ付いてたんだから仕方がない。
「あの、大和さん……、何でごはん食べてるんですか?」
「え、いや……お気になさらず。腹が減っては戦は出来ぬと言うでしょう? つまりそう言う感じです」
 腹ごしらえを始めた大和に、きょとんとした歌菜だったが、ふと思い立って持参したお茶を取り出した。
「ごはんだけじゃ喉につまっちゃいますよ、お茶をどうぞ」
 歌菜はにっこり微笑み、ぽかぽかのお茶を手渡した。

「……七枷さん。そろそろツッコミを差し上げたほうがいいと思いますけど?」
 緋桜遙遠(ひざくら・ようえん)は半ば呆れた様子で、リーダーである陣に促した。
「まずどっから突っ込んだらいいものか……、つか、ツッコミってリーダーの仕事か……?」
「ため息なんて吐かないで下さいよ、ほら、敵船も目の前に迫ってますし」
「それもそうやな。ここはリーダーとして、ビシッと大事な事を言っておかんとな」
 コホンと咳払いをして、陣は仲間を見回した。
「ええ加減にせえよ、バカップル! そう言う事は暗がりでやるもんや!」

 ◇◇◇

 さて、冗談はこの辺にして、そろそろ攻撃開始だ。 
「各機、速やかに敵艦に接近! 打合せ通りに目潰し後は各グループに固まって行動すっぞ!」
 陣の指示と共に、各機、大型飛空艇に向け加速を始めた。
 作戦距離に到達すると、陣はカガチに視線を投げ、行動を促す。
「兄貴、たのんます!」
「了解、リーダー。さあて、派手に舞ってくれよ、俺の可愛いアルミちゃん」
 カガチは和弓を引き絞り、大型飛空艇を目がけて矢を放った。
 矢の尖端部分には、アルミ箔を詰めた大きな袋が重そうにぶら下がっている。
「セット! よっしゃ今や! 全員、撃てーっ!」
 その矢を狙い、陣は両手から雷術を放つ。
「轟く光よ、我が手に……来たれ、閃光!」
 陣の合図に従って、歌菜も雷術を使った。稲光が空を裂く。
 他の仲間も雷術、サンダーブラストを矢に向かって繰り出す。雷属性魔法を使えないカガチと巽は、轟雷閃で雷神の加護を得る。カガチは次矢を稲妻の矢に変え放ち、巽は鎖十手に電撃を纏わせ投げつける。
 攻撃を受けた矢は一瞬で消し炭となり、アルミ箔が大型飛空艇の上空に霧散した。
 帯電したアルミ箔は、チャフの効果を発揮して敵船のレーダーを潰す。
「各機! これで敵の目は潰れた! さぁ皆、パーティタイムの始まりや! 向こうがボケーっとしとる間に、思う存分はっちゃけたるぞー!!」

 ◇◇◇

 しばし、混乱に陥った敵船だったが、すぐに小型飛空艇が出て来た。その数、10機。
 大型飛空艇の破壊は陣たちに任せ、歌菜と大和、そして巽は小型飛空艇の相手を引き受ける。
 大和は雲の中に隠れ、財産管理の技術で素早く状況を分析した。敵機動、風力、自機の揺れを計算し、スナイパーライフルで、陣を先頭に大型飛空艇へ飛ぶ仲間たちの援護を行う。
「さてさて、空賊の皆さん、陣さん達には近づけさせません。自称【島村組の用心棒】としては一宿一飯の恩に応えるべく、粉骨砕身、八面六臂の大活躍といきたいですねぇ」
「そんな事言って〜。大和ちゃん、本当は歌菜お姉ちゃんに良い所見せたいだけだよね!」
 相棒のラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)は「うふふ」と笑った。
「ふふ、思っていても、口には出さないのが紳士と言うものですよ」
 飛空艇の操縦はラキシスに預け、大和はライフルを構えた。
 狙うは、陣たちに近付く敵機だ。
「どうぞ、太平洋を堪能して下さいね」
 シャープシューターで命中精度を上昇させ、敵機を撃ち落とす。
「一機撃墜。しかし、数が多いですねぇ……」
 多勢に無勢、連射の出来ないスナイパーライフルでは、空賊たち全てに対処出来ない。
 その時、三時の方角から一条の閃光が発射された。
 次々と放たれる閃光は鼻先をかすめ、陣たちに近付く空賊の行動を乱していく。
「おや、援軍ですか?」
「大和ちゃん、静麻ちゃんから無線が入ってるよ?」

「よう、大和。手が足りてないんじゃないか?」
「やあ、どうも静麻さん。いやはや、猫の手も借りたいくらいですねぇ」
「残念だが、俺の手に肉球は付いてないな。それでも良ければ手を貸すが?」
「この際、贅沢は言ってられませんね。次までに肉球を移植してくるように」
 無線の向こうで大和の笑う声が聞こえた。
「ま、考えておこう。じゃあ、狙撃はそっちに任せるぜ。俺は相手の動きをかき乱す……!」
 閃崎静麻は光条兵器のバトルライフルを構えた。
 延長バレルを展開したライフルは、長距離、単射、高精度命中のLモード。静麻は無理に命中させようとはせず、相手の機動を予測し、その鼻先をかすめるように数発づつ撃ち込んでいく。
「あ! 静麻お兄ちゃん! こっちに敵が向かって来るよ!」
 操縦を任せてあるパートナーの閃崎魅音(せんざき・みおん)が叫んだ。
「そう慌てるな、そのためにボディガードのお姉さんを付けてるんだ」
 静麻のパートナー、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)の乗った飛空艇が前に出た。クリュティが操縦を担当し、レイナが攻撃を担当する。
 敵機は二機。武器を振り回して、こちらに向かって来る。
「……やれやれ、大人げない連中だな。レイナ、護衛は任せたぞ」
「ええ、善良な商人を襲う悪徳空賊……成敗してみせます。クリュティ、敵との距離を保って下さい」
「了解、防御機動にて目標を迎撃します」
 レイナは火術を発動させ、空賊に火球を発射した。
 だが、すっかり酔いの冷めた空賊は、本来の実力を発揮し容易く攻撃をかわした。
「そんなすっとろい攻撃に当たるかよ! どこ狙ってやがんだ!」
「空戦で空賊に挑もうなんざ、百年早いぜ!」
「その慢心が命取りです……、まだ私の攻撃は終わっていませんよ!」
 レイナの目が見開いた瞬間、外れた火球が爆発を起こした。
 飛び散った炎が背後から空賊を焼き、そして、爆風が飛空艇のコントロールを剥奪する。
「や、やべぇ! 制御が出来ねぇ!」
 爆発に近かったほうの敵機は、ぐるぐると回転しながら雲海へ突っ込んでいった。
「もう一機も逃がしません! 悪徳空賊に炎の裁きを!」
 レイナが指揮を執るように指先を動かすと、飛び散った炎は蛇のように尾を引き、空賊に襲いかかった。
「な、なんだこの火……!? 追ってきやがる!」
「飛空艇の操縦技術は一枚上手だが、能力や装備では俺たちに分があるようだな……」
 静麻は静かに呟くと、延長バレルを折り畳み、ライフルを中距離、連射、低精度命中のSモードに変更。
 炎に気を取られた敵飛空艇に、光の弾丸を連射する。
「どわあああ!」
 動力部を蜂の巣にされた飛空艇は、雲海の波に飲み込まれ、どこかに消えた。

 ◇◇◇

 その頃、大和のほうも弾道から敵に位置を察知されていた。
「大和ちゃん、こっちの位置が見つかったみたい。二機こっちにやってくるよ」
 ラキシスの展開したディティクトエビルが、こちらに敵意を向ける空賊の存在を察知した。
「なーに、心配ご無用。悪漢共に相応しい歓迎を!」
 スナイパーライフルを破棄し、背中に背負った機関銃をドスンと飛空艇の上に設置する。
 スプレーショットで有効範囲を拡張、前方の雲を貫いて弾幕を張った。ラキシスは装備した光精の指輪から光の精霊を召還して光量最大で発光させる。閃光で目を潰された敵機は機関銃の餌食となって燃え上がる。
「あの野郎……調子に乗ってやがるな」
「おい、こうなったら『バッドマックスデスクロス』で追い込みを掛けるぞ!」
 残る五機の空賊は、上下左右正面に散開し、大和に迫った。
 バッドマックスデスクロス……、分散陣形で撃墜されるリスクを減らし、且つ、四方八方から敵を攻撃する
集団殺法。別名、追いつめられた時の苦肉の策である。
「ヒャッハーッ! もらったぜ、メガネ野郎!」
 頭上を取った敵機が大和を捕らえた。
 だが、ちょっと待って欲しい。彼らの敵は大和だけであろうか。
「させないよっ! サンダーフラッシュ!」
「我々の存在を忘れてもらっては困りますね! くらえっ! 電磁マイクロチェーンッ!」
 ティアの放った雷術が敵機の体勢を崩した所を、巽の轟雷閃鎖十手が絡めとった。
「し……、しまった……!」
「覚悟っ!」
 電撃が飛空艇に流し込まれ、敵機は爆散した。乗り手がどこかへ吹っ飛んでいく。
「数の不利は、チームワークでカバーするまでです!」
「こっちは任せて! 巽師匠!」
 そう叫んだ歌菜はハルバートを構え、下から急接近する敵機の攻撃をブロックした。
 飛空艇の操縦を相棒のリヒャルト・ラムゼー(りひゃると・らむぜー)に預け、自身は敵の攻撃に集中。隠れ身のスキルで回避力を上昇させ、リヒャルトのディフェンスシフトで防御力も底上げする。
 空賊の剣を柄で受け止め、歌菜と空賊は睨み合った。
「島村組の鉄砲玉として、皆の邪魔はさせません!!」
「はっ! 女が調子に乗るんじゃねぇ!」
「ば、馬鹿にしないで!」
 歌菜は力任せにハルバートでなぎ払った。
 その一撃は空賊の剣を弾き飛ばし、敵飛空艇を真一文字に切り裂いた。
「な、ナニィ!?」
 目を白黒させながら、空賊は雲海に落下していく。
「お見事、歌菜ちゃん。意外とあっけないものだね」
「うーん、あの人たち、飛空艇の操縦は上手いけど、戦闘技術はそんなに高くないのかも……」
「……おっと! 今度は左右正面から来るよ!」
 三方向から迫る敵機を察知し、リヒャルトは注意を促した。
「王子! 左をお願い!」
「了解。ちょっとだけ揺れるよ、歌菜ちゃん」
 リヒャルトはその場で飛空艇を旋回させ、敵の攻撃軸をずらす。
 二人は目配せし、左右の空賊に同時にヒロイックアサルトを叩き込んだ。
『エルヴィッシュスティンガーッ!』
 二人の武器が閃き、空気が一瞬静止する。
 歌菜のハルバートが右の空賊の脇腹を切り裂き、リヒャルトのブロードソードが左の空賊の肩を貫く。
 エルフの一突きの名を持つ秘技は、激痛と麻痺を与え空賊の表情を険しく歪ませた。
「……島村組の名前、覚えて下さいね?」
 ゆっくりと落下する二人の空賊に、歌菜は静かに笑みを浮かべウインクした。
「ば、馬鹿な……、なんでこんなガキ共に……!」
 正面に残る最後の空賊は戦慄した。まさか少女がここまで出来るとは思わなかったのだろう。
「く、くそっ! てめぇだけでも道連れにしてやる……!」
 だがその瞬間、歌菜の胸から飛び出した一条の閃光が、敵機を貫通した。
 振り返った歌菜の表情がほころんだ。
「私の目が黒い内は、歌菜さんには指一本触れさせませんよ」
 蒼黒の銃身を持つ光条兵器のガンナイフ『葬炎』を構え、大和は歌菜に向かって微笑んだ。