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リアクション
第四章
「随分、外じゃ賑やかにやってるらしいな……」
瀬島壮太は大型飛空艇の内部通路を、隠れ身を使いながら歩いていた。
上のほうから発砲音や爆発音が聞こえ、そして、時々酷い揺れが船を襲っている。
壮太はトレジャーセンスを用いて、積み荷の在処を探知しようと試みた。シックスセンスに訴えかけてくる部屋は近くにあった。ピッキングのスキルでドアを開けると、そこは倉庫だった。一面が開閉式になっていて、おそらく搬入口となるのだろう。そして、多くの木箱があった。これが強奪された積み荷に違いない。
「……数が結構あるわね。全部運べる、壮ちゃん?」
壮太の指に輝いたシルバーリング、フリーダ・フォーゲルクロウは口を開いた。
「いや、こいつはちょっと計算違いだな。小型飛空艇にはこんなに積み込めないぞ」
「おい、てめぇ、何してやがる!」
部屋の前を通りかかった空賊が、壮太を見つけ声を荒げた。
しかし、壮太を不敵な態度で空賊を迎えると、目をカッと見開き、壮太は鬼眼を食らわせた。
気圧された空賊は「ひぃー」と怯えた様子で部屋から逃げ出して行った。
「さて……、ミミも寂しがってる頃だろうからな。電話してやるか」
携帯で相棒のミミ・マリー(みみ・まりー)に連絡を入れ、倉庫の壁を展開させた。目の前に真っ白な雲海が広がる。ここは大型飛空艇の底辺部に位置するようだ。
ふと、小型飛空艇が前に止まった。だが、ミミの飛空艇ではなかった。
それは、蒼空寺路々奈(そうくうじ・ろろな)の飛空艇だ。飛空艇の操縦は相棒のヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)が担当する。ヒメナは静かに倉庫内に乗り入れると、着陸させた。
「うわ、すっごい積み荷の数だねー」
所狭しと積み重ねられた木箱が、路々奈を圧倒させた。
「いやあ、あの方法で連絡しておいて、正解だったね。とりあえず、ドンパチやってる間に仕事しちゃおう」
「パラシュート的装置の取り付けですね。ちょうど倉庫ですし、予備の装置があるいいんですけど」
「……おいおい、お前らも積み荷の回収に来たか?」
路々奈は「ん?」と顔を上げて、壮太の姿を発見した。
「そうだけど? 君も暇ならパラシュートを木箱に取り付けるの手伝ってくれない?」
「ああ? そんな事してどうすんだよ?」
「だからー、これをね、こうやって……」
路々奈は取り付けの済んだ木箱を持ち「どーん!」と雲海へ放り投げた。
壮太は眼を丸くして、その雑な処理を見ていた。
「お、おま……、何それ? どう言う事だ?」
「一番安全な場所に送ったのよ」
そう言って、路々奈は微笑む。
出発前に環菜校長に積荷を太平洋上に落とす事を知らせ、回収の手配を頼んでおいたのだ。
ちょうどそこへ、ミミの飛空艇が倉庫へやって来た。
「うう、一人で心細かったよ……!」
小型飛空挺には、大きなサッカーゴール状の網が取り付けてある。
「よう、ミミ。とりあえず運び出すぞ。特に天地無用って書いてあるの中心に!」
「え? どうして?」
慌てる壮太を見つめつつ、ミミは首を傾げた。
◇◇◇
椎名真は大型飛空艇の右舷を飛行していた。
財産管理スキルで風向きや重力加速度の高速計算を行い、攻撃役の東條カガチの攻撃最適距離を導き出す。真が最適の位置取りをした結果、動力部の直線上を同速で飛ぶ事に成功した。
「お膳立ては整ったよ、カガチさん」
「おやおや、動力部が丸出しだねぇ。誘ってるのかい?」
カガチは弓に矢をつがえ、轟雷閃で稲妻の矢を繰り出した。
「見敵必殺! 且つ,一撃必殺!」
一直線に矢は動力部に飛び込み、周囲を飲み込んでバリバリ放電した。
「やったか!?」
「いや、まだプロペラが動いてる。出力、30パーセントダウンと言った所だね」
真は稼働プロペラの枚数から、冷静に状態を推察した。
「そうかそうか……、じゃあ、もう一発かまさないとねぇ」
「……カガチさん、顔がにやけてるよ?」
「気のせいだよ、椎名くん」
そして、カガチは拡声器を取り出し、甲板上の空賊にアナウンスした。
「クルーズをお楽しみの空賊諸君、この度行き先が変更になりましたぁ……、太平洋に、ねえ」
その表情は清々しいくらいに、悪魔的であった。
緋桜遙遠はパートナーの紫桜遥遠(しざくら・ようえん)に飛空艇の操縦を預けて、自分は攻撃に集中する。
「東條さん、右舷で攻撃を展開しています。七枷さん、島村さん、中央を蹂躙しています」
「了解しました。左舷も派手にいきましょう」
紫桜の状況報告を受け、緋桜は機関銃で甲板に一生掃射を掛けた。
迎撃に出ていた空賊が引っ込んで行く中、一人残る人影があった。
スパイ活動を通り越してもはや、本気で戦闘中のライゼ・バンプである。
「そう簡単にはやらせないよっ!」
光条兵器の大傘を広げ、動力部への被弾を防いだ。
「どうもやりづらい相手がいますね。遙遠、もう少し母船に接近してもらえますか?」
「大丈夫ですか? 接近すると被弾の確率が上がりますが……」
「なに、攻撃に勝る防御なんてありませんから」
緋桜は両手に電撃を集中させた。
紫桜が飛空艇を甲板近くまで寄せると、緋桜はサンダーブラスト連射した。
「こういうのって何か言いながら攻撃したほうがいいのですかね?」
「はい?」
「『へそとるぞー』とか『我、雷を制する』とか……」
「好きにすればいいと思いますけど……」
一方、ライゼのほうは朝霧垂に首根っこ掴まれて、物陰に隠れていた。
「さて、そろそろおいとましようぜ、ライゼ?」
「もうスパイはしなくていいの?」
「ブルが勢力を伸ばした理由わかったし、もう用ないじゃん」
そう言って、垂はため息を吐いた。
「ったく、漁夫の利で出世しただけじゃねぇか。しょうもねぇ奴……」
七枷陣とリーズ・ディライドは、大型飛空艇中央部を進む。
「リーズ! 気合い入れて飛ばしたれー!」
「あいあいさー!」
「……でも、前見たく暴走したら粛正な」
陣は冷ややかな眼で、ぐいっとリーズの髪の毛を引っ張った。
「わ、わかってるよぉ! わかったから髪引っ張るのやめてよぉ〜!」
その後を追随するのは、島村幸とガートナ・トライストルだ。
「さて、この辺にあるはずなんですが……」
幸はメインパイプを探していた。
一般的に動力エンジンは動力を最終的に船体へと送り込むパイプが一番弱い。破壊工作&トラッパー&博識の知識を集結して速やかにパイプ位置を探し出そうと試みた。動力部を四方から確認、ひときわ太いメインパイプが白日のものとなった。
「捕捉確認……、さぁさぁさぁ皆さん出番ですよ! 破壊は効率よく的確に速やかに行いましょう!」
幸の合図とともに、動力部から連なるメインパイプに総攻撃が始まった。
右舷からは、カガチの轟雷閃矢。左舷からは、緋桜の連続サンダーブラスト。中央部では陣がスプレーショットを浴びせ、幸も機関銃で攻めまくる。
「くくくっ……あはは!! 今日は出し惜しみはしませんよ!」
思わず身を乗り出した幸を、ガートナは慌てて抱きかかえた。
「さ、さ、さ、幸! 死ぬ気ですか!?」
ガートナは力任せに引き戻し、幸を自分の胸に抱きとめる。
「……はぁ、冷や冷やさせないでください」
「……つい心を奪われてしまいました」
動力部の前にブルが立ちはだかった。
出力はもう20パーセント以下にまで低下。プロペラが止まり、浮力すらも失いかかってる。
「て、て、てめぇら! 俺の船になんて事を! ええと、あの……、その、酷いぞ!!」
ガトリングガンで、上空を飛ぶ飛空艇に対空砲火を浴びせかけた。
下方より飛んで来る銃弾の雨に、陣は顔をしかめた。
「おいおい、こいつはやばいで! リーズ!」
「あいあいさー! ボクに任せといて!」
リーズは強引に操縦桿を切り、バレルロールによる回避運動をした。
だが、小型飛空艇でのバレルロールは大変危険なものである事は、早瀬咲希がすでに確認済みだ。回転の負荷が凄まじく、陣の身体が中空へ投げだされそうになった。
「わわわっ! 陣くん、危ないっ!」
間一髪、リーズが服を掴み、落下を防いだ。
その代償に、陣は飛空艇のヘリに顔面を強打し、どくどくと鼻血が滴った。
「いででで……、へ、ヘタこいたわ」
そして、ここにもヘタこいた奴が一人いた。
「くそっ! ヤベェ! 弾がねぇ!」
とうとうガトリングガンの弾が切れた。
ブルはガトリングガンを投げ捨て、動力部の前に両手を広げて立ちはだかった。身体一つでのし上がった男は、最後は身体一つで勝負するのだ。最後に頼れるものは己の肉体のみ。
「来いや! 撃てるもんなら、撃ってみろ!!」
「馬鹿な……、あいつ自分の身を犠牲にしてまで船を……!」
真は我が眼を疑った。
「もしかしたら、あーゆーのが漢って言うのかもねぇ」
カガチは遠い眼で見つめた。
「その覚悟には見習うべきものがあるかもしれません……!」
緋桜はその姿に敬意を評した。
そして、幸と陣は……。
「こんにちわ初めまして。そして、さ・よ・う・な・ら☆ くくくっ……、あははははははっ!!!!」
幸は機関銃を発射した。その弾丸に轟雷閃が施してある。
「伊達や酔狂で弾丸スコールの異名なんて持ってねぇんだ! 墜ぉちろぉぉ!!」
陣は機関銃の弾に雷術を付加させた。
シャープシューター。スプレーショット。破壊工作。博識による動力部の構造把握。財産管理による破壊効率の計算。称号【弾丸スコール】の計7連コンボ。
残念ながら、特に得るものはなかったそうです。
猛攻を受け、ブルごと動力部は爆発した。
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